WHITE ALBUM2 ~永遠に続く幸せを~   作:藤原久四郎

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いきなりのスタートですが、短編なのでまきまきです。

あまりにも見切り発車ですので……すみません……


届かない恋

「避けても、いいんだよ?」

「……ッ」

 

 目の前には学園のアイドル、ついさっきまで講堂で一緒に最高の時間を過ごしていた、かけがえのない三人のウチの一人の、俺なんかには決して釣り合わないはずの、小木曽雪菜の顔――しかも目を閉じて男なら一撃で沈みそうな、魅惑的で、蠱惑的で、現在俺を惑わしている唇がこちらに向けている。

 

「雪菜……俺……」

「んっ……」

 

 雪菜の瞳が光を映さなくなる。瞼が覆い隠してしまったからだ。

 

「い、いいのか……?」

 

 駄目なのか?

 

「本当に、俺で……」

 

 ずっと今のままじゃいけないのか? 三人で、ずっと一緒にいてはいけないのか? そりゃあきっと、三人で居られない時が必ず来るだろう。だけど、それでも俺たちが三人で居たいって、ずっと三人とも友達だって思っていればまたきっと、絶対に三人で居られるはずだろ? なのに――。

 

「……春希くん――」

 

 それなのに、俺に決めろって言うのか? 三人で居られるはずなのに、そんな冗談みたいに重い決断を。しかも、三人で決めるんじゃなく、俺だけでなんて。

 

「雪菜……」

 

 だったら俺は、自分で決断して、自分で動いて、自分で結果を受け入れて。まだほんの十数年だけど、それでも自分の意思を持ってこれまで、そうやってずっと生きていたんだから。俺は……自分の意思で、雪菜に唇を――

 

『北原』

 

「はっ……!」

「きゃっ……」

 

 雪菜に唇を合わせる直前、俺はついさっき決断したはずの意思を無視して、いや、心は馬鹿正直に受け入れていたが、体はその意思に反して大袈裟にも飛びのいていた。おかげで目の前にいた雪菜は予想していなかったのだろう、体勢を崩してよたよたと倒れかけた体のバランスを立て直していた。

 

『おい北原――』

『北原ぁ……』

 

 頭の中で、この場にいない三人目、冬馬かずさの言葉が、記憶が次々と思い返される。なんでだ? 今俺は確かに、目の前の小木……雪菜を受け入れる覚悟をしたはず。……あぁ……言いかけてあれだけど、小木曽ってなんか懐かしい響きだ。いつだっけ、呼び方変えたの……確か、雪菜に黙って冬馬の家に泊まり込みで特訓した時の……それがばれたときだったか? その時の雪菜はとんでもなく悲しんで、また一人にされるんじゃないかって。その後のフォローも大変だったな。俺が記憶に思いを馳せているその間、雪菜はその時の表情と似た表情を浮かべて、こちらの言葉を待っている様だ。

 

『なんで北原はいつもそうなんだ?』

『傍にいてやれよ』

『雪菜を泣かせるなよ?』

 

 二度と悲しませないって誓った、ずっと三人で居るって誓った、そんな約束を思い出しながら目の前の雪菜に出した答えは……。

 

『……ごめんな北原』

 

 俺は……ッ!

 

「ごめん……」

「春希くん!?」

 

 俺は、言い切るとすぐに教室から飛び出していた。ごめん、雪菜。雪菜の気持ちには答えられない……いや、自分の気持ちに嘘はつけなかったんだ。ずっとわかっていたことじゃないか。届かない恋、あれはなんで書いたんだよ。なんで拒まれてもあいつの世話焼きをしてたんだよ。なんで俺は……一瞬でも自分に……いや、三人に嘘をつこうとしたんだよ! 俺の本当の気持ちを隠して、三人で居られるはずがないのに! 自信満々に間違った答えを選ぼうとして、何が北原春希だ! そんな事で真面目で、誰からも信頼される人であろうとした、誰にでも誠実な北原春希なわけがあるか! 今はだから、三人のこれからのためにも、二人に誠実であるために、冬馬かずさと小木曽雪菜の友人で、かけがえのない存在であるための北原春希でいるために!

 

 今度こそ絶対に間違えないと決意を固めた俺は、全速力で冬馬かずさの後を追いかけて走っていった。雪菜が言っていた事と合わせて推測するに、まだ冬馬と別れてからは一時間しかたっていないはず。もしも冬馬も、俺と同じ気持ちで、待っていてくれるなら……。

 

 

 

「はぁ……」

 

 冬馬かずさは溜息を吐く。それはこの『WHITE ALBUM』の季節の寒さのせいなのか。それともつい一時間ほど前の事のせいなのか。実に簡潔に説明するのならば、彼女は思いを抱えていた彼に唇と唇を合わせる行為をしてしまった。実にわかりやすく、実に込み入った事情である。彼女なりにしてしまったことの重大さを理解かつ悩んでいたために、おかげでこの駅のホームにたどり着くのにも一時間を要しているのだ。

 なんだよ、ずっと前からわかってたじゃないか。私は北原春希という男に、以前から好意を抱いていたという事を。その時期は明確ではないが、少なくともこの学園祭に向けて活動していた時期からはっきりと意識していた。最初は好意だとかそういうものじゃなくて、以前から思っていた『私に構ってくる』男程度であったのだ。それでも気が付けば、徐々に徐々にはっきりと『好意』という形で私の心に浮かび上がっていた。

 

「だからって……」

 

 時間の割に人がまばらしかいない、ほぼ無人に近い駅で言葉を漏らす。確かにいきなり……キスなんかするべきじゃなかった。私は雪菜や春希と三人でずっと居ようって、そう決めていたはずじゃないか。それなのに一人だけ抜け駆けして、春希とくっつこうとして。

 ……なんだよ、最低の女じゃないか。自分可愛さに約束を破ろうとするなんて。これじゃ雪菜に顔向けができないな。まぁ雪菜なら笑って流してくれるだろう。そんな予想できる好意に甘えてる自分がちょっと悔しい。

 

『電車が参ります。白線の内側で――』

 

 そうこう一人で考えている内に、電車の到来を知らせるアナウンスが駅に響き渡る。今日は帰ってシャワー浴びて……そういえば北原に見られたっけ。ってそうじゃなくて……やっぱり早く寝よう……。

 

 不用意な思考を打ち切り、目の前で止まった電車の扉が開くのを待つ。独特の扉が開く音と共に電車が中に人を受け入れだす。

……北原。やっぱりしっかり言うべきだったな。もう私は決めてたんだよ。とっくに諦めてたはずの夢を、冬馬曜子の娘としてじゃなく冬馬かずさとして再びピアノを頑張ろうって。今日はただ間違えてしまっただけなんだ。お前に告白するつもりも、キスするつもりもなかったんだよ。本当だ、信じてくれ。私は笑って言うつもりだったよ。もう一度ピアノやるって。だから見ていてくれって、いつだって雪菜と一緒に私の一番のファンで居てくれって。

お前たちが悪いんだぞ? 一度は諦めた夢をもう一度目指す気持ちにさせた。だから、私の初恋のような気持ちはもういらないんだ。だってそれは、お前たち二人とずっと、三人だけの『友達』でいるためには不要なものなんだから。

 

『扉が閉まります。ご注意ください』

 

 なぁそうだろ? 雪菜――

 

「冬馬!」

「え……?」

 

 私の体は、グッと強い力で電車の扉が閉まる直前に外に放り出される――事はなく声の主に受け止められた。その体から伝わる温かさは、ずっと求めて焦がれていた、もう諦めたはずの――

 

「北……原……?」

 

 毒の様な甘い甘い、恋の熱だった。

 




原作勢の方はキャラ崩壊などが気になることと思います。
ですが、どうしても、どうしてもこうなってしまいました。

続きも頑張って書いております!
後編と未来のお話(予定の予定)も一応予定しております。
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