《転写者》の黙示録 ―死に捨てられし者の記憶侵食―   作:とっとこ吞太郎

3 / 3
共鳴する記憶

……勝てた。

いや、勝ってしまった、と言うべきか。

目の前で崩れた魔物の骸。それを見下ろす自分の手が、まだわずかに震えている。

 

「……本当に、やったんだな……俺が、俺の手で……」

 

そう呟いた声は、どこか現実味を欠いていた。

けれど、刃の代わりに握り締めた鉄片には、乾ききらない黒い血がこびりついている。これが、俺の"初めて"の証。

だが、感傷に浸っている余裕はなかった。

――気配が、またひとつ。

 

「……来るな。次は、正面から来る気かよ……」

 

気配感知《Lv1》が、土壁の向こうの異質な“鼓動”を捉える。

ギルバートの剣士記憶。そのおかげで、俺は動ける。だが所詮は断片的な模倣だ。過信したら、次こそ本当に死ぬ。

 

「……でもまあ……生きて帰るには、やるしかないか」

 

わずかに笑みを浮かべながら、鉄片を握りなおす。

ふと、右の耳が“風”の鳴る音を捉えた。

(右後方……!)

跳ねるように身を翻すと、刹那、肩の位置を何かが掠めた。見切り《Lv1》――その効果は確かに働いている。だがギリギリすぎる。

 

「こっちも、慣れてきたんだよ……って言いたいとこだけど、まだ怖いもんは怖いんだよなぁ……!」

 

心の中で泣きながら、俺は反撃に転じる。

敵の姿は、四足で這う獣型の魔物。目は赤く、口からは糸のように垂れる唾液が糸を引く。さっきの人型魔物とはまた違うタイプだ。

(ここで退けば、死ぬ。だったら――)

瞬間、地を蹴った。

自分でも驚くようなスピードだった。体が、勝手に最適解を選んで動いている。

 

「はっ!」

 

鉄片を握る手が閃いた。

ズブ、と濡れた肉を裂く感触。狙ったのは魔物の右眼。直前に気配感知で“脆さ”を感じ取っていた箇所。

断末魔を上げて、魔物は崩れ落ちた。

 

「……よし。これで、二体目」

 

ようやく、静寂が戻る。だが、それもすぐに終わるだろう。このダンジョンの魔物たちは、俺が"ただの荷物持ち"じゃないと気づいてきている。

だが、それでいい。

むしろ――

 

「見てろよ……俺を捨てたあの連中」

 

その瞬間――脳内に鋭い“鐘の音”のような共鳴が走った。

 

《第二段階転写進行中──適応率、更新中》

《現在値:23% → 31%へ上昇》

《条件達成:連続戦闘勝利・対象記憶との共鳴》

 

(……また、来た。これ……脳が焼けるみたいな感覚……!)

 

身体の奥底から沸き上がる熱。それは苦痛を伴いながらも、確かに“力”の形をしていた。

 

《新スキル獲得:戦技【間合い管理Lv1】を付与》

《第二段階転写完了。戦闘適応率:31%。身体制御領域の補強を確認》

 

(間合い管理……? 攻防の距離感……ああ、なんとなく、わかる……!)

 

脳裏に、誰かの声が響く。

 

──「剣士にとって、間合いとは“命の境界”だ。それを制す者が、生き残る」

 

ギルバート。おそらくは、かつての剣士の名。

それは記憶の残響でありながら、どこか自分自身の声にも聞こえた。

 

「……成長、してる……俺の中の、“誰か”が教えてくれてる……」

 

転写とは、ただ模倣するだけじゃない。共鳴し、学び、そして変質する。

(まだ……まだ、俺は強くなれる……!)

握った鉄片の重さが、わずかに変わった気がした。それは気のせいかもしれない。

でも今の俺には、その“錯覚”すら、確かな力に思えた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。