地獄の轟家の末妹 作:ダンシングダビ
わたしの名前は轟
今ちょうどお父さんが出かけるところをお兄ちゃんが呼び止めてるとこ。
「お父さん今度の休み、瀬古杜岳にきてよ」
その言葉を聞いてからお父さん早かった。燈矢兄の服をめくったかと思うと怒声を響かせ始め、燈矢兄は泣きながらお父さんに何かを訴えかけている。ちょっと見てらんないので夏兄と冬姉の元へスタコラサッサ。
その日の夜は荒れた。またお父さんが怒って、お母さんが怒られて、子供達は泣いて。これで普段はお父さんヒーローなんてやってるって言うけど、とても信じられない。家ではお顔もやってることもヴィランじゃない。
燈矢兄はずっと様子が変だし。よく遊んでくれるけど、それ以外はずっとどこかに出掛けてるし。夜な夜な夏兄にすごい形相で何か話してるし。焦凍はお父さんが連れていっちゃうし。わかんないけど、うちの家族ってちょっと変。
でも燈矢兄がどこ行ってるかわかったから、今度の休みにこっそりついて行ってみようかな。
燈矢兄が出掛けてすぐに追いかけると流石にバレてしまうので少し時間をおいて出かける。瀬古杜岳は我が家の裏の山なので特に迷うこともなく真っ直ぐに辿り着くことができた。個性を使って燈矢兄を探していると、それっぽい温度を感じ取ることができた。
「出るな…!涙なんか…!」
なんかめっちゃ泣いてた。まあお父さん来てないしね。本当あいつまじこれでヒーローってなんなん。ここでわたしが出て行っても期待させて落とすみたいになっちゃうしなぁ…でも帰るのも違う気がするし..
「わぁっ!!」
燈矢兄が驚いた声を出したので目を向けると火だるまになって…目を離した隙に燃えてるんだけど!?
「燈矢兄!大丈夫!?」
「陽紅!?なんでっ!危ないから離れろ!!」
みるみる蒼い炎は広がっていく。一瞬ごとにその勢いを、火力を上げていく。すでに燈矢兄は炎に包まれている。こんなタイミングなのに、兄が命を危険に晒している瞬間なのに、
「綺麗…」
「おまっ、何言って、本当に逃げろって!!」
兄が必死に叫ぶが、わたしの個性をお忘れだろうか。今危ないのは多分燈矢兄だけなのだが。
私が右手をすっとあげて炎に手を向けると、燃え盛っていた蒼い炎は全てわたしの手の中に集まって消えた。
「あっ、消えちゃった」
「…そういやそっか、助かった…っいやなんで陽紅がここに!お父さんは!?」
「きてない!そんなことより燈矢兄!!!」
「なっ、なんだよ」
びっくりするほどテンションが高い私に驚いたのか、困惑の表情を浮かべてはいるものの、燈矢兄は素直に話を聞く姿勢になってくれた。
「さっきの綺麗なのもっかい!もっかいみせて!」
「…一回だけだぞ」
燈矢兄は少しだけ複雑そうな顔で、けれどどこか嬉しそうにそう呟き、さっきより控えめな美しい蒼い炎を出してくれた。
「わぁぁ、ちょっと借りるね!」
「あっコラ!危ないからダメだって」
蒼い炎は兄の手から私の手へ移り、私がそれを周りにくるくると動かす。
「…器用だな」
「でしょー!炎は出せないけど操るのなら上手いんだー私」
周る炎に両手を向ければ、それは蝶々の形に変わる。両手を広げれば蝶々は無数に分裂し、天の川のように空へ流れて行った。
「確かに綺麗だな…」
呆然とそれを見てた兄がそう呟いた。私は満足して兄と帰ろうと手を取ると、ざらりとした感触を感じ取った。
「痛てっ」
「痛て?」
手をみればそこには火傷の跡があった。それにお兄の体を見てみると全身にうっすらと火傷の跡ができていた。確かにお父さんもそんなことを言って怒鳴っていたような気がする。だけど…
「なんで?」
「は?なんでってなんだよ」
「お兄、氷は?」
途端、お兄の表情が変わる。先日のお父さんと話す時のように、私の手を振り払いながら顔を歪めた。
「ないよ!お前…何も知らないのか?俺に氷の個性があったら、お前は生まれてないんだぞ!夏くんも冬美ちゃんもいないんだよ!!」
癇癪を起こしたように、泣きそうになりながらそう叫ぶ兄の目を見て、私は続ける。
「違うよ。気づいてないだけ。お兄は氷を持ってる。」
「…は?」
「もしくは、今覚醒した?」
「さっきから何言って…」
あまりに予想外の言葉だったのか、キョトンとした顔でこちらを見つめる燈矢兄に私はさらに続ける。
「私は個性の性質上、温度を感じ取れるんだけど、お兄の体の中、小さいけどすごく冷たい。わかんない?…ちょっときて」
立ち尽くすお兄の手を引き、手を当て意識する。お兄の体の核の部分。そこを引っ張る。
「あっ…これ、か?」
お兄が意識してからは早かった。燻っていた小さな小さな氷結が一気に表に出てきた。氷結はお兄の体を内側から満たしていく…
「お兄、逆に凍っちゃうから火出して」
「やばっ、」
お兄は慌てて炎を出して温度を保っていく。実際にはお母さんの体質を引いてるらしいのでそんな簡単には凍らないのだが、これ以上温度が下がる前に自分で調整してもらったほうがいいと思ったのだ。お兄の体温が平熱に近づいたところで私はお兄の火を消した。
「これでもう火傷の心配はないね。あとはうまく同時に使えるようにしていけば完璧じゃない?」
未だ状況を理解できていないのか、どこかうわの空な燈矢兄だったが少しずつその表情が晴れていき私の両手を掴んだかと思うと、勢いよく上下に振り始めた。
「あぁ!ありがとう陽紅ちゃん、これで父さんも俺を…」
「…お兄、本当にそれでいいの?」
明るくなった顔が今度はムスッとなった。結構表情は豊からしい。
「まだなんかあんのかよ陽紅ちゃん。すごく感謝はしてるけどそれとこれは別だよ。俺にとっては譲れないことなんだ」
「うーん、そうじゃなくて…」
やはりだ。お父さんは最初兄にどんな教育をしたのか、きっと今焦凍に行なっているあれに近いものなのだろうが、その影響でエンデヴァーという存在は兄の中で膨張してしまっている。それに加えて、焦凍にお熱なお父さんを見てきたことで嫉妬の感情や劣等感を募らせてきたのだろう。ほんまにあの親父家族が下手すぎる。何かの機会に説教するべきだろうか。
「お父さん、今日来なかったんだよ?」
改めて告げられた事実に、兄の表情は暗くなる。
「今日まで燈矢兄のこと見て見ぬふりを続けてきたんだよ?」
兄は何かを言い返そうとして、しかし黙り込んでしまった。
「燈矢兄は悔しくないの?」
燈矢兄は拳を握りしめ、その手からは血が垂れてきている。
「お兄を見てなかったツケじゃないけどさ、ギャフンと言わせたくない?」
驚いたような顔で、目で、私の方を向いた。私はそれをじっと見つめ返す。
「私、手伝うよ?お父さん、いや、エンデヴァー。一緒にぶっ飛ばそうぜ?」
「遅くなったねお兄ちゃん。私が来たよ。」
私は兄を見つめたまま、いたずらっ子のような顔で兄に手を差し出す
兄は少しだけ笑って、その手を取った
個性:操炎
炎を思うがままに操ることが出来るぞ!自分で炎は出せないが、小さな火種さえあれば大きく燃やし操ることが可能だ!