地獄の轟家の末妹 作:ダンシングダビ
「エンデヴァーを倒すって言ったはいいもののどーするよ」
「倒すじゃない。ぶっ飛ばす。ここ大事」
引き続き瀬古杜岳にて私が持ってきたお菓子をつまみながら作戦会議を行うことにした。燈矢兄は食べながらも体の中で氷結の調整を行なっており、定期的に体の表面に炎を纏ったりしている。
ただやはり同時に使うのは難しいのか、片方を使っている間片方が消えて行ってしまうようだ。
「私がいればエンデヴァーをほぼ無個性状態にできるから、あとはお兄に頑張ってもらうしかないんだけど」
「うーん、無個性になってもお父さんはプロヒーローだぞ?俺だけでなんとかできるかな」
「まああの筋肉だしねぇ。炎にも強いだろうし。でもやりようはあるんじゃない?」
「想像つかねー」
会議は難航しており、お兄はお手上げといった感じで両手を上げ、後ろに倒れ込んでしまった。仕方がないからいくつか例を出してみるか。
「たとえば私がお父さんの炎を全部お父さんの口の周りに集めて酸欠にしてそこをお兄がボコボコにするとか」
「えぇ」
「ズボンだけ焼き切って動揺してるとこを狙うとか」
「ひぇっ」
「逆に温度を上げまくって蒸し焼きにする…とかかな」
「えっぐいなぁおい。ひょっとしなくても陽紅ちゃんだけで完封できるよな」
「当たり前じゃん。炎系個性全員のアンチなんじゃないかな私の個性」
「そんでいて炎系相手じゃなくても別に戦える…あれ最高傑作って陽紅ちゃんなんじゃ…?」
なんか思ってたよりお兄が落ち着いてるっていうか、拗らせが直ってない?何が効いたのやら。
「だから私も焦凍だけにかまってこっちを見てないの結構納得いってないのよね」
「なるほどなぁ」
えほんとにどうしちゃったの燈矢兄?あんなにお父さんに執着してたのが嘘みたいなんだけど?
そんなことを考えていたのがバレたのか、燈矢兄は始末が悪そうに頭をかきながら呟き始めた。
「いや…なんつーかさ、今まで散々俺を見ろって思ってたのに、結局俺も自分のこと見れてなかったっていうか…その部分までちゃんと見てくれてるやつもいるんだなーって思ったらちょっとだけ心が軽くなったっていうか…」
「なるほどねぇ…でもそれはしょうがないよ。人間自分のことは全部わかってるつもりでも気づかないことなんてよくあることだし。自分の癖なんて自分じゃわかんないでしょ?そういうもんだよ」
「お前本当に6歳か!?中に大人とか入ってないよな?」
「失礼な!?プリプリピチピチの6歳児よ!ちょっと早熟なだけなのよ!」
「プリプリとかピチピチとかのワードチョイスが6歳とは思えねーよ。あと早熟で済ませていいもんじゃないだろ」
こう育っちゃったんだからしょうがないじゃないの。大人の余裕がある幼女ってのもギャップがあって魅力的なはず。
「まあお父さんへの執着がなくなったわけじゃないみたいだし、エンデヴァーぶっ飛ばす作戦は進めましょうか」
「作戦名もっとなんとかなんねえのか?」
「まあさっきの物騒な案は置いといて、まともな作戦も用意してるから傾聴しなさい」
「傾聴て。お兄ちゃんだぞ俺は。まあ聞かせてくれ」
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「焦凍ォ!立て!こんなものではNo.1には勝てないぞ!」
「ゲホッ、エホッ、ハァ..ハァ..」
轟家訓練場。そこでは毎日三男焦凍への訓練の形をした虐待が行われていた。他の兄弟と遊ぶことも許されず。ただ毎日個性の訓練をさせられる。
問答無用で期待という形の鞭を入れられ続け、No.1ヒーロー、オールマイトを超える夢という名の毒を6歳の息子に刷り込み続けるその様子は、やはりどう見てもヒーローの所業ではなかった。
「てことでコードネームダビットソン。手筈通りに頼んだよ」
「本当にやるのか!?陽紅ちゃん!普通に勝負を挑むんじゃダメなのか?!」
「陽紅ちゃん違う。私はキャサリンだ。ダビットソン、君はヒーローになるんだろう。幼い弟を救ってヒーローになりたまえ」
今私と燈矢兄は、玩具箱にあった覆面を被りながら訓練場の中を隠れて見ていた。燈矢兄としては焦凍を助けるとかは多分そこまで重要ではないのだろうが、せっかくだし弟を助けてもらうと思い、一芝居打つことにしたのだ。
「ほら行けヒーロー。弟が泣いてるぞ。早く助けに行ってやれ」
「んなこと言ったって心の準備が…」
「ヴィランは準備など待ってはくれないっ!世界は今!この瞬間君を求めているんだダビットソン!」
「俺的にはそのダビットソンってヒーロー名にも物申したいんだが!俺だって色々とヒーロー名考えてるんだけど!」
「いいや君はダビットソンだよダビットソン。なぜならダビットソンはダビットソンであるべきだとダビットソンが頭の中でダビットソンとそう言いダビットソン」
「やめろおかしくなる!!」
「…2人ともここで何をしている」
「「ヒィッ!?」」
気づいたら後ろにエンデヴァーがいた。怒っているというよりは困惑しているようであった。
私は動揺する兄のけつを叩き、エンデヴァーの方へ押すのだった。
「お、……」
お?
「俺の名はダビットソン!!焦凍をいじめるなエンデヴァー!!」
お、吹っ切れたな。
「何をやっているかと思えば…遊びなら向こうでやれ。…燈矢、瀬古杜岳に行かなかったことは悪かった。だがお前のためなんだ。あとで2人で話そう」
困っていた。燈矢兄に対して怒るでもなく、呆れるでもなく。そしてその目には少しだけ、恐怖が混ざっていた。
あぁ、怖いのか。燈矢がではない。自分の過去の行いに、目を逸らしてしまったがために歪んでしまった象徴が怖いのだ。
でもきっと今なら大丈夫。燈矢兄の歪みはなんの偶然か少しだけ緩まった。
そして今の燈矢兄はエンデヴァーの求める最高傑作足り得る存在へと進化している。
「いいや、話なら今してくれよエンデヴァー」
訓練場に戻ろうとするエンデヴァーを兄が呼び止める。真剣な眼差しで。決意の固まった声で。
「俺はそのためにここに来た。俺を見ろよエンデヴァー、そして今まで見てなかったことを後悔しやがれ!」
「いいねかっこいいぜダビットソン!んじゃ私は焦凍保護してくるから」
「待ちなさい陽紅!「私はキャサリン!」燈矢もなんのつもりだ!…お前の個性は体に合っていない!お前のためだと何度言ったらわかる!」
「話してわかんねえからこうやってきてんだよエンデヴァー!一方的に突き放して会話した気になってんじゃねぇ!」
うーん正論。さすが我が一族の長兄であるな。私はやることやりながら焦凍を保護しようかねー。
「無事かい焦凍。よかったな今から休憩だ」
「ハァ..ハァ..君は…?」
おっと?覆面しただけで誰かわかんないとか悲しいぞ私。これでも一緒に生まれてきた双子の妹なんですが??
まあ今までほとんど会話してないししょうがないか?
「私はキャサリン!君を助けにきたお子様ヒーローさっ!そしてあっちはダビットソン」
「ヒーロー…!」
すっごいキラキラした目で見てくる何これ可愛すぎか焦凍お兄ちゃん。そんで天然すぎるな。危ういだろ誰がこう育てたんだおのれエンデヴァー。
「今から父さんをぶっ飛ばす。それができなかったらヒーローなんて諦めて普通に暮らしてやるよ!」
覚悟の決まった目を見て、エンデヴァーもまた覚悟ができたようだ。焦凍が生まれてなお消えなかった燈矢の火を、自分がつけてしまったその火を完全に消してしまう覚悟を。