あの後、車に乗せられた俺は、少し移動したらこれまた豪奢な建物に入っていった。なんだここは・・・
「じゃあ、もう連絡は行ってるから着替えと、ご飯。用意してるからね。」
「ああ・・・」
着替えまで用意してくれたのか。まぁ全裸にジャンバーだけとは世間体も悪いし治安にも良くないだろう。ありがたい。
「私はね。マイネルクラウスっていうの。よろしくね。」
「よ・・・?」
マイネル・・・クラウス?なんだそれ、名前か?ウマ娘はそんな名前なのか・・・?
「この部屋で待ってて。今、着替えとご飯持ってくるから。」
これまた立派な部屋に通され、ソファーに座る。俺は、これからどうなるんだ。
「・・・。」
「お待たせ。」
マイネルクラウスが入ってくると手には何やら衣服。スカートらしきもの。そうだよな・・・今俺の体は女だ。そりゃ、衣服も女物になる。
「・・・。」
「はい、これ履いて〜」
下着だ・・・なんかお尻に穴が空いている。尻尾用の穴だろう・・・どうやって履くんだこれ。
「・・・?・・・???」
「・・・なるほど。はい足あげてー」
申し訳ないし情けないし。だがもう仕方ない。まるで子供に教える様にマイネルクラウスはパンツを履くのを手伝ってくれる。尻尾穴を通すのはそうやるのか・・・
「はい。ばんざいしてー」
「・・・。」
スポーツブラ・・・?というのだろうか。伸縮性のある下着を着て、次に、なにやら・・・コスプレ?の様な淡い紫色の制服を見せられた。
「はいこれ着るよー」
「・・・。」
またばんざーい足あげてーと手伝われ、制服を着る。なかなか手こずった。
「うんよし!!」
「・・・。」
不思議な気分だ。今俺は女物の服を女に手伝われてきた。今の俺はまさに少女だが・・・いや、考えるのは辞めよう。恥ずかしさともどかしさと情けなさでもうどうにかなりそう。それよりご飯食べたい。
「・・・。」
「今ご飯用意してるからもうちょっと待ってね。」
「・・・わかった。」
どっかりとソファに座った・・・が足と股がスースーする。スカートだったわ・・・いそいそと足を閉じて座り直すとマイネルクラウスがまたどこかに連絡を取っている。
「はい・・・はい・・・わかりました。はい・・・」
「・・・。」
「もう着替えさせて・・・ご飯を待っています・・・今すぐ?わかりました・・・」
「・・・。」
「はい。失礼します。」
「・・・。」
「あのね。今あなたの保護を名乗り出た人が来るから、ご飯が先に来たら食べながらでいいからお話し聞いてね。」
「・・・わかった。」
「じゃ、私はもう行くから。大人しくしててね。」
「・・・うん。」
そう言ってマイネルクラウスは出て行った。そしてしばらくすると・・・
「お待たせ〜」
「・・・。」
ドンドンドン!とテーブルにご飯・・・はちゃめちゃにデカい皿に盛られたドデカ盛りチャーハンとこれまたデカい丼に注がれた・・・ラーメン。そして餃子が5皿運ばれてきた。え?待て。これ1人分?
「遠慮なく食べてね!お腹空いたでしょ!」
「うん。」
給仕をしてくれた人はさっさと出ていき、1人にしてくれた。じゃあ・・・食べるか。
「これ・・・食べ切れるか・・・?」
物凄い量だ。いくらこの体が燃費が悪いとはいえこの量は・・・少女だぞ?この体。力士じゃない。
「もぐ・・・!」
う、美味い!!!なんだこれ美味すぎる!!!チャーハンはパラパラでゴロゴロ入った具材が食欲を刺激する。ラーメンも・・・美味い。味噌ラーメンだ。餃子も美味い。すごい。
「はふ・・・もぐ・・・むしゃ・・・」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「ぷふぅ・・・げふ・・・」
食べたわ。全部食べたわ。この体のどこに入ったんだこの量。でも全部入ったわ。どうなってるんだ。
「うぶふ・・・」
ちょっと食べ過ぎたかもしれない。苦しい。そうこうしてたらコンコンコンとドアがノックされた。
「誰。」
「失礼する。」
入って来たのは・・・帽子を被った幼女と・・・緑のお姉さん。誰だ。
「食事は・・・食べたようだな。」
「おかげさまで。」
「うむ!重畳!!」
「食器はそのままでいいですからね。」
「わかった。」
2人は向かいのソファーに座ると、書類を幾つかテーブルに出した。
「まず、私は君の保護者になる。秋川やよいだ。」
「私は秘書の駿川たづなです。よろしくお願いしますね。」
「はぁ・・・」
この幼女が保護者?子供じゃないか・・・
「こう見えても君より年上だぞ?」
心が読めるのかこの幼女。
「まぁそれは良い。廃棄物58号。」
「廃棄物58号・・・?」
「君の名前だ。だがこの名前では不都合が多い。まずは君の名前を聞きたいのだ。」
「名前・・・」
名前・・・名前・・・?俺の名前・・・なんだっけ・・・?
「・・・。」
「どうした?」
「名前・・・わからない。」
「わからない・・・とは?」
「思い出せない。」
「・・・そうか。」
やよいは書類に何か書き込む。そして再び俺の顔を見て口を開いた。
「君の状況をすり合わせしよう。まず君の覚えてる範囲で、起きた事を教えて欲しい。」
「・・・気がつけば、手術台の様な場所に、拘束されていて・・・何か注射を打たれた。その後・・・起きたらゴミ捨て場だった。」
「・・・なるほど。」
俺はとりあえず、ここに連れて来られるまでの事を話した。やよいとたづなはうんうん頷きながら聞いていて。時折書類に何か書き込んでいる。
「なるほど・・・わかった。次は、私達が入手してる君の状況を話そう。」
「頼む。」
「君は、異世界から拉致された男の、クローン体58号だ。」
「異世界から・・・拉致・・・?クローン・・・?」
「そう。オリジナルの君は、酷な話だが、クローンを作る為にバラバラにされ、もう存在しない。」
「そん、な・・・」
「君を拉致した研究所のログによると60号までクローン体は存在し、意識を取り戻した個体は1体もいなかったそうだ。」
「は・・・」
目眩がする。なんだそれは・・・じゃあ、俺は、一体・・・誰なんだ・・・?
「はぁ・・・はぁ・・・」
「水を飲んでくれ。」
「・・・ごく。」
「続きを話すぞ。」
「・・・うん。」
「その研究所は既に私の手によって掌握、解体されている。」
「・・・俺は、なんの為に改造されたんだ?」
「研究所の名前は、人類進化学研究所。人間を、ウマ娘にする研究をしていた違法研究所だ。」
「・・・。」
「研究所の、研究レポートを見ると、惨たらしく、とても口には出来ない実験が行われていた。」
「・・・。」
「君は。人間をウマ娘にする改造手術でただ一つの成功例だ。」
「・・・俺は。」
「君は研究所によって面白半分に生み出された存在なんだ。」
「・・・。」
・・・。もう、頭痛がする。俺はなんなんだ。何の為に生まれた。誰が生み出してくれと行った。記憶はまやかしなんだ。前の記憶はただの電気信号に過ぎないのか
「・・・。」
「・・・大丈夫か。」
「俺は・・・」
「なんだ?」
「俺は、どうなる?」
「そうだな・・・」
「・・・。」
「まず、保護は成功した。このまま私の元にいてくれるというなら学園に通わせる。」
「学園?」
「そう、トレセン学園。日本ウマ娘トレーニングセンター学園の生徒にして、君を守る。」
「・・・。」
「レースは・・・まぁ置いといて。ゆっくり体と精神を休めて、今後の事を考えてもらう。」
「・・・。」
「その後は・・・我が秋川家で何か仕事に就くか・・・出来ないなら何か考える。」
「・・・。」
「君は、辛い出自だが幸せになる権利がある。君を幸せにする為に私は、私の家は全力を尽くす。」
「・・・。」
「どうだ?手を取って、くれるか?」
「・・・。」
どうせ・・・行く宛なんて無いんだ。じゃあ。差し伸べてくれた手を・・・取っても良いか。
「・・・よろしく頼む。」
「うむ!!!」
やよいは書類に何か書き込み、書類をしまった。
「では、目下の問題を何とかしよう。」
「問題?」
「君の、名前だ。」
⏰
それから俺の名前を決める会議が始まった。やれ、縁起が、験担ぎがと紛糾したが、決まらない。やよいが言うにはウマ娘の名前は必ずしっくり来るものがあるんだという。だが提示された名前はどれもしっくりくるものではなかった。
「うーん・・・何が良いか・・・」
「いっぱい出ましたねぇ・・・」
「名前を決めるのがこんなに大変だとは・・・」
「やよい。普通ウマ娘の名前っていうのはどう決めるんだ。」
「普通、ウマ娘の名前というのは生まれた時に降りてくるものなのだ。」
「降りてくる?」
「うむ。母親に子供の名前はこれ・・・と神託がある。」
急にスピリチュアルになった。なんだそれは。
「それじゃあ・・・俺にしっくりくる名前なんてのは、存在しないんじゃないか。」
「え?」
「だって俺は・・・普通に生まれたんじゃない。試験管で生まれ、母親はいない。名前は降りてこない。」
「むむむ・・・」
やよいは腕を組んで唸ってしまう。たづなはお茶を淹れますねと席を立った。
「だが・・・ウマ娘の名前は祝福だ。それを妥協して決めるというのは、到底容認できない。」
「そうか・・・」
「ううむむ・・・まいったな・・・」
紙に書かれた思いついた名前を見る。まぁ。なんというか。少女趣味というかファンタジーでチャーミングな名前達。ちょっと俺がこれを名乗るのは躊躇う。
「・・・まいったな・・・早く決めねばならないというのに・・・」
「なんでだ?」
「君を病院で検査せねばならないんだ。その際名前が無いと言うのはかなり問題になる。」
「なるほど。」
それは確かにマズイ。早く決めないといけないが・・・病院で検査となると後で気に入らないから変えました。というのも出来ない。
「お茶ですよ〜」
「おお、たづなありがとう。」
「ありがとう。」
「ちょっとお茶飲んで落ち着こう。」
お茶を一口飲む。紅茶なんだが・・・ちょっと変わった味だ。俺は紅茶に造詣が深いわけではないが、この味は独特だ。砂糖を入れよう。
「変わった味だな・・・どこの茶葉だ?」
「最近出てきたブランドで、ムラサメ農場の建御雷神という茶葉ですよ。」
「ほう。すごいな。」
「たけみかづち。」
「む?」
「え?」
「たけみかづち。」
なんだ・・・?しっくり来た。タケミカヅチという単語。これ、名前に良いんじゃないか?
「やよい・・・俺の名前は、タケミカヅチだ。」
「ええ・・・いいのか?」
「ああ。なんかすっぽりハマった感じがする。」
「そ、そうか。」
「えええ・・・」
「愛称は・・・タケ?いやミカか。」
「ふんす。」
よし。名前決まった。これでいいだろう。
「よし・・・名前タケミカヅチ・・・これで診断書を作れる。」
「今日はこれからどうするんだ?」
「そうだな・・・たづなと、買い物に行ってもらえるか。」
「買い物。だが俺は所持金は・・・」
「私が用意した。もうたづなに渡してある。日用品や着替え、その他必要な物を買い揃えてくれ。」
「だが・・・お金は・・・」
「私が保護してるのだ。私が出すに決まってるじゃないか。」
「・・・そうか。ありがとう。やよい。」
「うむ。」
「それじゃミカちゃん行きましょうか。」
「ああ。」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
そして新宿に繰り出した。俺は代々木に住んでいたので、もはや懐かしい。そして女の買い物がどれだけ大変か思い知った。
「ダメです!ちゃんとしたものを用意しないと!」
「だが無駄に高い物を買っても・・・」
「無駄じゃありません!こう言うところでちゃんとしておかないと後々困るんですよ!」
まず下着だった。ゴムの伸縮性のある適当な安いのを買おうとしたらたづなから猛反対が発生し、ちゃんとした・・・ブラと、ショーツ(パンツじゃなくて、ショーツらしい)を買った。着回し出来るよう5着ほど。デザインはどうでもいいと言ったがたづなのセンスで可愛い物になった。そしてスキンケア用品。
「まだ肌の調子がわからないのであまり刺激が強いのは・・・むむ・・・」
「まだかたづな。」
「ミカさんこれつけてみてください。」
「わかった。」
化粧水だけで4種、乳液?で3種。その他メイク用品10種ほど。まぁどうせメイクなどしなくなるが。
「これも買います。これも・・・これも・・・」
「まだ買うのか?お金は足りるのか・・・?」
「足りますよ十分もらってるので。」
「そうか・・・」
またまたお風呂用品など。俺の髪は黒髪だと思っていたのだが、どうやらウマ娘的には青毛、というらしい。首元で切り揃えられた髪(いつの間に?)には毛色事にシャンプーなどがあるんだとか。大変だ。
「よし、大分買えましたね。」
「疲れた・・・」
「まだですよー。次は服を見に行きましょう!」
「ええ・・・」
「だってミカちゃんは制服しか持ってないんですよ?」
「あのジャンバーは。」
「あれは捨てました。」
「そうか・・・」
まぁいい・・・服も・・・私服なんてジャージで良いと思うがたづなはイキイキしている。これを止めるのは無理だ。
「行きますよ!」
「わかった・・・」
⏰
あれから服を数着買った。たづなの趣味に合わせると、大分少女趣味になってしまったので俺は展示してあるファッションに誘導したのだが、たづなの意思は堅く、フリフリしたどうやって着たらいいのかわからない服が4着も手にはいってしまった。どうすりゃいいんだこんなの。
「ふぅ!お買い物終わりです!」
「はぁ・・・やっとか。」
最後に買った物を納めるキャリーケースを買い、詰め込んで、買い物は終了した。長かった・・・もう夜だ。
「俺はこの後どうするんだ?ホテルか?」
「私の家でお泊まりですよ。」
「え?」
「え?」
マズイのでは・・・?今は少女とはいえ・・・
「大丈夫ですよ。」
「だが・・・」
「何も問題ありません。学園に通う段階になれば、寮に入ってもらう事になりますが・・・」
「寮・・・」
嫌な予感しかしない。だが・・・拒否権は無いだろう・・・いやあるか?やっぱ無さそう・・・
「まぁ・・・わかった。」
「では行きましょうね。」
そう言って俺はタクシーに乗った。たづなの家はここ新宿にあるらしい。金持ちだな・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「うわ・・・」
「どうぞ?」
たづなの家は、高層マンションの、高層階だった。すごい、多分家賃すごい。
「お、お邪魔します。」
「は〜い!自分の家だと思ってくださいね。」
「いや、それは・・・」
「いいんですよ。」
「・・・わかった。」
買い物でわかったが、たづなは結構強かで強引な女だ。従った方が良いだろう。
「まずお風呂入りましょうか。お湯沸かしますね。」
「ああ。」
「ご飯は・・・後で出前取りましょう。」
室内はそれほど豪奢な感じはしないな。少々散らかってる感じ。本当に少々。あんまりじろじろ見るものではないな。
「何か飲みますか。アイスコーヒーかアイスティーか。」
「アイスコーヒーをもらえるか?」
「は〜い。」
カーペットの上に座って、アイスコーヒーを待つ。たづなはすぐに持って来てくれて、テレビを付けた。
「何も面白いのはやってませんね〜」
「・・・たづな、ちょっと音大きい。」
「あ、ごめんなさい。」
アイスコーヒーを飲む・・・だが。
「うお・・・」
「どうしました?」
苦い・・・コーヒーってこんな苦かったか?まさかたづなが質の悪いコーヒーを飲むとは思えないし・・・なんだこれは・・・
「苦い・・・」
「ええ・・・コーヒー苦手なんですか?」
「いや・・・記憶ではもっとがぶがぶ飲んでいた・・・」
「ウマ娘になって味覚変わっちゃったんですかね。」
なるほど味覚が変わったのか。それもそうか。今は少女の体。子供だ。子供にコーヒーは苦いだろう。
「ガムシロップどうぞ。」
「ありがとう・・・」
ガムシロップを2個流し込む・・・うん。飲めるようになった。
「あの・・・」
「なんだ?」
「ミカちゃんって男の人だったんですよね。」
「その筈だ。」
「じゃあ・・・ウマ娘のお風呂の入り方、わかります?」
「・・・。」
「・・・。」
ウマ娘のお風呂の入り方・・・?なんだ・・・?もしかしてウマ娘は人間とお風呂の入り方違うのか・・・?どうする・・・?そんなの知らんぞ・・・?
「わからない・・・」
「じゃあ一緒に入りましょうか。」
「いや、待てたづな。今確認しただろ。元男と一緒に入るのに抵抗無いのか。」
「ありませんよ?だって今は女の子じゃないですか。」
「俺はある!」
「諦めてください。」
「え・・・?」
俺の脳内が困惑でいっぱいになった頃、お風呂が沸きましたとアナウンスが鳴った。マズイ・・・
「行きますよミカちゃん。」
「いや・・・ちょ・・・待って・・・」
「待ってじゃありません。ミカちゃん何日お風呂入ってないんですか?」
「ダメ・・・ダメ・・・」
「ダメじゃないです。行きますよ。」
「うああああ・・・」
こうして俺はみっちりウマ娘のお風呂の作法を仕込まれた。お風呂のシーンは割愛する。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「・・・。」
「ふう。さっぱりしましたね。」
「もうお婿に行けない・・・」
「今は女の子だから行けませんよ。」
お風呂で洗われた・・・いやもうそれはいい。するとピンポンと呼び鈴が鳴った。
「あ、ちょうどいいタイミングです。出前来たみたいですね。」
「え?」
たづなは遠隔モニターで少し会話すると玄関に向かった。そして袋を両手に抱えて戻ってくる。
「さぁご飯食べましょうか。」
「・・・すごい量だな。ウマ娘っていうのはそんなに食べないといけないのか。」
「まぁ個人差はありますが。かなり食べますよウマ娘は。」
「そうか。」
そう言って袋からどんどん料理が出て来た。野菜炒め、焼きそば、お好み焼き、いっぱい。
「何か嫌いな食べ物はありますか?」
「強いて言うならトマト、ナス、豆類が食べられない。」
「うーん・・・今日買ったのは入ってませんね。」
「助かるな。」
「じゃあ食べましょう。」
「いただきます。」
焼きそばパクリ。うん美味い。
「もぐもぐ・・・そういえば。」
「なんですか?」
「たづな・・・ウマ娘だったんだな。」
「・・・ええ、まぁ。」
「なのに人間みたいな名前だ。」
「もちろん私にもウマ娘の名前はありますよ?でも必要無くなったので・・・」
「・・・そうか。」
なにやら複雑な事情がありそう。つっつくのは辞めよう。
「これ、なんだかわからないが美味い。」
「えっと・・・カオマンガイですね。タイの料理です。」
「タイ・・・」
そういえば・・・ここは異世界なんだった。だが俺の住んでいた日本とそう相違ないと思う。パラレルワールドというやつか?そもそも俺を拉致した研究所とやらは遥かに進んだ技術を持っていたんだと戦慄する。
「・・・。」
「どうしたんですか?」
「俺を・・・俺の元を拉致した研究所というのは本当にやばいところだったんだな・・・異世界へ渡る技術を持っていたりとか・・・」
「そうですね・・・私も報告書を読んだだけですが・・・表向きは薬品、治験をする研究所ですが裏では地獄の人体実験をする所です。真っ黒ですよ。」
「そうか・・・」
「どういう基準で拉致する人間を選んでいたかはわかりませんが・・・相当運が悪かったですね・・・」
「・・・。」
「先の事を話すのは今は辞めておきますか。」
「・・・そうだな。まずは今をどうにかしないと。」
食事を続ける。とりあえずお腹いっぱいになった。たづなと一緒にごみを片づけ、食休みのお茶を飲んでいるとたづなは何かメモに書いている。
「何書いてるんだ?」
「これはですね。ミカちゃんの食事のメモです。」
「え。なんで。」
「病院に提出する為ですよ。」
あーなるほど。
「問題無く食べていますが、万が一がありますから。」
「そうだな・・・全然考えてなかった。」
「明日か明後日には病院に行くと思いますが、お通じ事情なんかも教えてください。」
「わかった。」
こうして夕飯を食べ、ちょっと早いが寝ようとなったのだが・・・ベッドにどっちが寝るかというので揉めた。家主はたづななんだからたづながベッドで寝るべきという俺の主張にたづなはさっさと布団を敷いて寝るという強硬手段で返された。仕方なくベッドに入り寝ることにしたのだが・・・たづなの匂いがする。ちょっとモヤモヤしたが無事寝ることが出来た。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
翌日。トレセン学園に向かうとやよいから病院に行くと言われた。たづなにメモをもらってやよいと病院に向かった。そして一日中検査、検査、検査して・・・夕方。
「秋川さん、検査結果出ました。」
「ふむ・・・どうだった。」
この検査を担当してくれた医師、ウマ娘のロイヤリアグネス医師は俺の様に何か複雑な事情がある患者が現れた時に対応する特別な医師のようで、医師免許こそあるものの公式には存在しないのだとか。なんかすごい。
「まず、体について言わせてもらうと・・・かなり弄られてます。」
「・・・そうか。」
「筋密度、神経、循環器、リンパ系、ありとあらゆる器官が強化、または改造されています。かなり奇跡的なバランスで均衡を保ってますね。」
「どんな問題がある?」
「そうですね・・・薬が非常に効きづらいので病気や怪我をした時にかなり大変でしょう。そしてなんですが・・・」
「?」
「非常に申し上げにくいのですが・・・子供が作れません。子宮も卵巣も、存在してるだけで機能してません。それに伴ってホルモンバランスが崩れています。ホルモン剤などを摂取して調整する必要があるでしょう。」
「それは一生か・・・?」
「そうですね・・・一生です。」
「そうか・・・」
俺の体は割とやばいらしい。
「どうしますか。今後の不安を取り除く案として、子宮と卵巣の摘出を進めます。」
「タケミカヅチ君・・・良いか?」
「その方が安心出来るならその方がいいだろう。」
「わかった。先生、たのむ。」
「わかりました手術の日程は・・・早くて2週間後。遅くて来月後半です。」
「早い方が良いか?タケミカヅチ君。」
「ですね。」
「では最速で。」
「わかりました。」
こうして病院の検査は終わった。細々とした話も終わり、食事等はなるべく高カロリーな物を摂った方が良いと言われた。なるほどな。
「さて!タケミカヅチ君。疲れただろう。ご飯を食べて帰ろうか。」
「良いのか?」
「構わない。美味しい物を食べよう。」
「じゃあ、任せる。」
「うむ。」
そうしてやよいの家の車に乗り、ご飯を食べるところに連れて行かれた。俺は・・・どこかレストランだと思っていた。
「・・・。」
「ではこれでおまかせで頼む。量はウマ娘だから多めに。」
「かしこまりました。」
入ったのはなんと料亭みたいなところ。物凄い高級そうだ。元は小市民だから肩身が狭い。
「緊張する事ないぞタケミカヅチ君。」
「だが・・・」
「ここは私のお気に入りだが君が思ってるよりリーズナブルだ。安心したまえ。」
「・・・。」
いや・・・リーズナブルって言っても・・・元の俺の給料どれくらいだ・・・?
「ほら料理が来たぞ。」
「ああ・・・」
運ばれてきた料理は美しく、それでいて大変美味しかった。量も申し分無い。やよいはいつの間にか酒を飲んでいる。え?
「お、おい!」
「む?」
「酒は・・・!」
「問題無い。これでも飲める年齢だ。」
「本当か・・・?」
「無論君は元がどんな年齢であろうと今は少女だからダメだぞ?」
「見た目の問題ならやよいもダメだろ。」
「私は身分証あるし。」
「・・・。」
まぁ・・・いいか。俺の気にする問題じゃないだろう。
「あ、身分証で思い出した。」
「なんだ?」
「これ。」
「?」
渡されたのは小さな手帳。トレセン学園・・・学生証?
「学生証を作った。これでタケミカヅチ君は我が校の生徒だ。」
「仕事が早いな。」
「まぁな。この学生証は学園の食堂に入場する時など使うことが多いから無くさない様に。」
「わかった。」
「よし。」
学生証をポケットにしまい、煮物をパクリ。美味い。
「あ、忘れてた。」
「今度はなんだ。」
「これ。」
「?」
渡されたのはスマホ。ああ、確かに持ってなかった。持ってないと不便だろう。
「ウマホだ。」
「は?」
ウマホ?スマホじゃなくて?
「連絡先は私とたづな、それと生徒会長の物が入っている。好きにしてくれて良いが売ったり無くしたりしないように。」
「わかった。」
早速起動。セキュリティの設定をしよう。指紋を登録しておいた。
「あと・・・そう、教科書とかは寮に入る時渡す。」
「そうか・・・まさかまた学生生活するとは・・・」
「そうだな。まぁ稀な経験だと思ってくれ。」
「ああ。あ、そうだ。学年はどうなる。」
「中等部だが。」
「・・・中学生か。」
「不満が?」
「いや・・・まぁ・・・この体の様子をみれば、納得はする。理解が追いつかなくてな・・・」
「まぁ慣れて欲しい。」
「わかった。」
これで準備は整ったか?まぁ細々としたのはやよいに任せればいいか。しかし。2度目の学生生活、どうなることやら。まぁ俺を守る為の物らしいからな。やよいは理事長だと言っていたし、目の届く範囲にいれば大丈夫と言うものだろう。衣食住与えられて何も文句は出ない。それに、俺は違法改造されたクローン人間。元に戻る云々以前の問題だ。吹聴しなければ生活には困らないな・・・