人体改造ウマ娘   作:電動ガン

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日常のこと

トレセン学園に入学して数日経った。そして、俺の子宮と卵巣の摘出手術の日が近づいてきた。俺は明日から入院し、手術に備える事になった。

 

「よっと・・・」

 

「あーミカちゃんご飯行こー」

 

「行こー」

 

「おう。パール、スイ。ネスは?」

 

「ネスちゃんは先輩に呼び出しー」

 

「ネスちゃん遠征支援委員会に入ってるからー」

 

遠征支援委員会・・・?なんだそれは・・・

 

「だからお昼は先輩達と食べると思うから行こー」

 

「ああ。」

 

パールとスイを連れ、食堂へ。今日は何を食べようか・・・なんか看板出てる。

 

「なんだこれ。」

 

「へー!!今日はこの日かー!!」

 

「やったー!」

 

「パールなんだこれは。」

 

「これはねー餃子食べ放題の日の看板だよ!!」

 

餃子食べ放題・・・そういうのもあるのか。だが食堂はいつも食べ放題じゃなかったか?何か制限があるんじゃないのか・・・?

 

「食堂っていつも食べ放題じゃないのか?」

 

「あーミカちゃんは知らないのか。」

 

「食堂の餃子って人気でね。手作りだから全部で500個の数量制限があるの。」

 

「なるほどな。」

 

「大食いの子達には避けてもらってたんだけど・・・今日はその数量制限を取っ払ったって感じだね。」

 

なるほどな。それで看板出して食べてもらおうとしてるのか。知らなくて注文しないで余らせるって言うのは避けたいな。

 

「じゃあ今日は餃子食べよー!!私20個!!」

 

「私も20個!!」

 

「じゃあ・・・俺も。」

 

カウンターで餃子20個を注文し、テーブルへ。すごい・・・手のひらほどある餃子が20個。美味そうだ。

 

「うみゃー!!」

 

「うままま!!!」

 

ガツガツと食べる。これは箸が止まんないな。

 

「あ、そうだ。」

 

「ん?」

 

「どうしたミカちゃん。」

 

「俺、明日から入院でな。1週間ほどいなくなる。」

 

「え?そうなの?」

 

「どうしたの・・・?」

 

「まぁ・・・なんだ。先天的な物でな。ちょっと手術が必要なんだ。」

 

「そっかー」

 

「大変だね。お大事に!」

 

「ああ。帰ってきたらまた遊ぼう。」

 

「うん!!」

 

「私も入院はやだなー」

 

こうして午後の体育は入院前という事で見学で過ごした。俺はちょっと問題あるし。運動はそこそこで済ませた方が良い。この学園でそれは贅沢過ぎるかもしれんが・・・仕方がない。

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・

 

・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

 

夜。寮で明日から入院の準備にキャリーケースに荷物を詰めていた。ロック先輩はまだ戻ってきてない。どうする。先に風呂入りに行くか。

 

「ふぅ・・・」

 

「ただいま。」

 

「おかえりなさい、ロック先輩。」

 

「おう・・・おめー、なんだその荷物。」

 

「ああ・・・これは・・・」

 

「おめー・・・!!出て、行くのか・・・!?」

 

「ああ、いや・・・違います。」

 

「じゃあ・・・!!」

 

「明日から、入院なんですよ。1週間ほどいません。」

 

「入院・・・そうか。」

 

おや・・・ロック先輩の事だから入院で大騒ぎするかと思ったがそうでもないらしい。

 

「アタシも骨肉腫で入院した事がある。入院はしんどいよな・・・」

 

「ええ・・・でも。仕方がないことですので。」

 

「ちなみになんで入院なんだ?」

 

「先天的な問題で・・・子宮と卵巣を摘出するんです。」

 

「はぁ!?!?!?」

 

ロック先輩は顔を青くしてわなわな震え始めた。マズイ・・・『掛かった』適当に濁した方が良かったか・・・やよいから聞かされている。掛かったウマ娘について・・・怒りだったり、情欲を煽られたりして掛かったウマ娘は危険だから逃げろと。今この狭い部屋に『掛かった』ウマ娘と2人きり。逃げても追いかけて来るだろう。ちょっと・・・詰んだかもしれん。

 

「な、なん・・・おめー・・・なんで・・・」

 

「あーいや・・・まぁ・・・仕方がない事なんで・・・」

 

「だけど・・・!!!おめー・・・!!!」

 

「ははは・・・」

 

「おい!!!ミカ!!!!」

 

「・・・はい。」

 

ブルブル震えるロック先輩はダンッッッ!!!っと大きく床を蹴飛ばした。ちょっと凹んだ。

 

「おめー!!!なんでそんな涼しい顔してられんだ!!!」

 

「いや・・・まぁ・・・このままだと問題ですからね。」

 

「子宮と・・・卵巣を・・・摘出・・・!!!おめー!!!もう子供作れなくなるんだぞ!!!!」

 

「いや、仕方ないので・・・」

 

「仕方ない・・・!?仕方ないわけあるか!!!!」

 

再びダン!!!!と物凄い勢いで床を蹴るロック先輩。近所迷惑だから・・・

 

「おめー・・・!!!おめー!!!ミカが・・・ミカが何したって言うんだ!!!なんでミカがそんな目に遭わなきゃならねぇ!!!」

 

「先輩・・・」

 

「何か悪い事したのか!?!?そんな・・・子供産めなくなるほど悪い事したってのか!?!?」

 

「そうですね・・・窃盗を少々・・・」

 

「窃盗・・・!?」

 

ロック先輩はへなへなと崩れ落ちた。そして両手で顔を抑えボロボロ泣き始める。

 

「たかが・・・たかが窃盗程度の悪い事で・・・子供を奪われなきゃなんねーのか・・・!?」

 

「いや・・・窃盗も立派な犯罪ですよ・・・まだ謝罪もできてないですし・・・」

 

「でも・・・でもよぉ!!!」

 

「いいんですよ先輩。もう諦めてますから。」

 

「ミカ!!!!おめーは事の重大さが分かってねぇ!!!!自分の未来を・・・自分だけじゃねぇ!!!今後出てくる大好きな人と!!!子供を奪われるんだぞ!!!!これがミカくらいの子供が諦められるなんて事があって良い訳がねぇ!!!!」

 

「せ、先輩・・・」

 

「なんで・・・なんで・・・ッッッ!!!!」

 

顔を真っ青にして、過呼吸気味に泣きじゃくる先輩。たった数日の付き合いでしかないのに、この先輩は俺の為にここまで泣いてくれるのか・・・

 

「ちくしょう・・・ミカは・・・なんでここまで不幸な目に遭わなきゃなんねーんだ!?名前も無い・・・未来も無い・・・!!!三女神ってのはここまで容赦ねぇのか!?!?!」

 

「いや・・・大丈夫・・・大丈夫ですから・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!!!ちくしょう・・・ちくしょう・・・!!!」

 

「大丈夫・・・大丈夫ですよ先輩。俺は、幸せです。俺の事をこんなに想ってくれる先輩がいるんですから。」

 

「ミカ・・・みかぁ・・・!!!」

 

「大丈夫・・・大丈夫・・・」

 

「ひでぇ・・・ひでぇよ・・・世の中ってのはこんなに厳しいもんなのか!?」

 

「そうです・・・世の中ってのは・・・思ったより厳しい世界なんです。でも厳しくても立ち向かって、幸せに生きて行く事は出来ます。」

 

「うう・・・ううう!!!ミカは・・・ミカはこんなに良いやつなのに・・・!!!」

 

「そんな事ないですよ・・・俺は碌でも無いやつです。生きる為には平気で悪事に手を染めてしまう程度のやつなんです。」

 

「ううううう・・・・うおおお・・・」

 

その時、コンコンコンとドアがノックされた。とりあえず泣きじゃくるロック先輩をベッドに座らせ、来客に対応する。

 

「はい。」

 

「フェノーメノであります。夜なのにドンドンとうるさいでありますよ。」

 

「あ、申し訳ない・・・」

 

「君は見たことないでありますね・・・ロックの同室でありますか?」

 

「ええ・・・秋川ミカ・・・といいます。」

 

「・・・?・・・ハッ・・・!!!」

 

フェノーメノと名乗った・・・多分先輩は俺の名前を聞いて何か察した様だった。トレセン学園、察しが良い奴が多くて助かるな。

 

「ミカ、ロックは?」

 

「ちょっと・・・取り込み中で・・・」

 

「ロック!!入るでありますよ!!!」

 

フェノーメノ先輩はずんずんと部屋に入ってくる。そしてベッドで震えながら泣きじゃくるロック先輩を見て戦慄していた。

 

「ロック!!??どうしたでありますか!??!」

 

「マメちん・・・世の中ってのは・・・ぐす・・・なんでこんなひでーことが罷り通ってるんだ・・・」

 

「何を言ってるでありますか!?!?」

 

あーあーあーなんか大変な事になってきたぞ。

 

「ミカ・・・何があったでありますか。ロックは涙脆いやつではありますが・・・尋常ではありません。」

 

「いや・・・あのー」

 

「?」

 

とりあえずあらましを話した。フェノーメノ先輩はふむふむと聞いてくれた。

 

「なるほど・・・情に熱く、涙脆く、身内に甘いロックならそうなってしまうのもうなづけるであります。」

 

「はぁ・・・」

 

「ロック、泣き止むであります。世界は、いつもこんなはずじゃ無かったと思う事でいっぱいでありますよ。」

 

「でも・・・でもよぉ・・・マメちん・・・」

 

「マメちんは止めるであります。」

 

フェノーメノ先輩はよしよしとロック先輩の頭を撫でて慰めている。ロック先輩にとって俺の手術はちょっとショッキング過ぎたな・・・これから話題は慎重に選ぼう。

 

「ロック泣き止むであります。ミカだって、簡単に決断した訳では無いであります。生きる為に、仕方ない決断なのであります。」

 

「う・・・ぐす・・・そうだな・・・」

 

「ロック、我々に出来る事は泣き喚いて引き止める事では無いであります。無事を祈り、送り出してやる事が大事なんでありますよ。」

 

「・・・わかった・・・マメちん・・・」

 

「マメちんは止めるであります。」

 

ロック先輩はキッとこっちを見つめる。まだ目は赤いが。

 

「ミカ・・・すまねぇ・・・取り乱したな。」

 

「いえ・・・」

 

「ミカ。無事に戻ってこいよ。」

 

「はい。」

 

「ミカ、手術頑張るでありますよ。もうミカは私の友達でもあります。」

 

「はい。ありがとうございます。」

 

こうして夜の騒動は収まった・・・

 

・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・

 

・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

翌日。俺は朝にやよいに連れられ病院に出発した。まぁ・・・手術くらいなんともないだろう。

 

「もうすぐだぞ。」

 

「ああ。」

 

病院に到着するとロイヤリアグネス医師が出迎えてくれた。そして病室へ。手術の説明を受け、まずは検査するとの事だった。

 

「はーい。血液取りますよー」

 

「はい。」

 

チクッと注射針が刺され、みるみる血液を採られる。そのほか血圧なども測り、心電図を測る、脳波を測る、CT、なにやらかにやらとどんどん検査した。

 

「とりあえず・・・手術するにおいて問題はありません。」

 

ロイヤリアグネス医師の説明を受ける。その言い方だと普段の生活では問題あるみたいな言い方だな。

 

「そうですね・・・ホルモンバランス・・・これが問題です。」

 

「そうですか。」

 

「運動はごく軽い物に留めておいてください。本気でレースするなどはとりあえず今は絶対に控えてください。」

 

「はい。」

 

「あと・・・食べ物ですね。術後は女性ホルモン・・・それとウマ娘ホルモンが多く不足するので大豆製品だったりカツオ、マグロなどの赤身魚を多く食べるようにしてください。」

 

「わかった。」

 

「それと・・・もう一つ。」

 

「?」

 

ごそ・・・と医師は分厚いファイルを取り出し、書類を一枚見せてきた。なんの書類だ・・・?

 

「摘出した子宮と卵巣の医学標本化の申請書類です。」

 

「それは?」

 

「つまるところ。稼働しているクローン体はかなり珍しいので・・・標本として残しておきたいと言う物です。」

 

「・・・なるほどな。」

 

「主に幹細胞を取り出し培養するのが目的です。可能性は限りなく低いですが・・・もしかしたら、子宮と卵巣の再生が可能で移植して戻す・・・と言うことが可能です。」

 

「あーいや・・・それはもういいかな。」

 

「ですが・・・」

 

「いいんだ。俺はクローン。子供が生まれたとして普通の子供とは考えづらい、障害が出る可能性が高いんじゃないか?」

 

「それは、そうですが・・・」

 

「ならそういう不幸な子供を生み出すよりは、俺がちょっと大変な思いをするくらいが良い。」

 

「・・・わかりました。」

 

元男だし、出産を経験するのはちょっと・・・

 

「それでは・・・」

 

「これにサインすればいいのか?」

 

「いえ、ミカさんではなく保護者に・・・」

 

「む、私か。」

 

やよいはいいな?と一言聞いて俺は良いと返した。まぁこんな体でも医学の発展に役立つならばいくらでも使ってくれ。

 

「はい・・・それでは、次、手術の同意書です。」

 

「これも私だな。」

 

「はい。」

 

手術の同意書にもサインする。これでよし。

 

「ではあとは手術までゆっくり過ごしてください。病室で筋トレなどしてはだめですよ。」

 

「わかってる。」

 

「じゃあ何かあったらナースコールしてくださいね。」

 

そう言って医師は出て行った。ふぅ。もう夕方だ。疲れたな。

 

「お疲れミカ君。」

 

「いや・・・病院は疲れるな。」

 

「まぁな。」

 

疲れた。まぁそんなに大変な物では無いと聞いているし。気楽に行こう。それにしても・・・何か、暇を潰せる物を用意しておけば良かった。本とか。そう言うものは買ってない。

 

「では私は戻る。何かあったら連絡してくれ。」

 

「ああ。わかった。」

 

そして夜、食事を食べ、寝るだけ。なんだが、暇なのでネットサーフィンをする事にした。パカチューブで動画を見る。特に見入る物はないな・・・ショートを時間つぶしに流し見した。

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・

 

・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

 

翌日。病室、というか、俺の周りは大変な騒ぎになっていた。

 

「・・・。」

 

「・・・間違い、ありません。」

 

「嘘だろ・・・」

 

昨日、時間が時間だったので尿検査をしなかった。それで翌日に持ち越したのだが・・・

 

「・・・妊娠、してます。」

 

「・・・。」

 

俺は、妊娠していた。ありえない、男と致した覚えは無い。そういう乱暴な事件に巻き込まれた覚えも無い。何もしてないのに、妊娠している。

 

「・・・産みますか?」

 

「それが無理なのは先生が分かっているでしょう。」

 

「すみません。私も混乱してて・・・」

 

「先生の見解を聞きたいんですが。」

 

「そう、ですね・・・」

 

医師はうーんと唸って考えを纏めているようだった。さてどんな見解が来るやら・・・

 

「恐らく・・・単為生殖です。」

 

「単為生殖・・・」

 

「人間、ましてやウマ娘で起こるなんて考えた事もなかったですが・・・間違い無いでしょう。」

 

「ですが・・・俺の生殖機能は死んでいるのでは?」

 

「ええもちろん機能していません。このままでは受精卵は定着せず、流産という事になります。私の見解・・・いや、妄想になってしまうんですが・・・」

 

「ええ。」

 

「多分・・・卵巣が最後の力を振り絞って・・・排卵したんでしょう。それで、という可能性です。」

 

「なる・・・ほど?」

 

「人間やウマ娘・・・では単為生殖はありえない・・・とされてきました。でもミカさんは極限環境で生み出され、高ストレスに晒され生きてきた・・・事によって・・・単為生殖を成した・・・というのが。私の予想です。」

 

「はぁ・・・」

 

「正直・・・わかった時点で、手術は延期にするかと考えましたが、手術をしない事によるデメリットも大きくなりました。今後も単為生殖してしまう、と考えた場合体の負担を考えても早急に子宮と卵巣を摘出した方が良いです。」

 

「そうですね。」

 

「申し訳ありませんがやよいさんに連絡します。手術の日程を二日早めましょう。」

 

「わかりました。」

 

そうして医師は戻って行った。看護師にお茶を出してもらって待っているとやよいとたづなが顔を青くして慌ててやってきた。

 

「ミカ君!!!」

 

「ミカちゃん!!!」

 

「ああ。」

 

やよいはそっと俺の手を取り、震え声で語りかけてきた。

 

「ミカ君は・・・あられも無い格好で廃棄場から逃げ回っていたと聞いた・・・ま、まさか・・・乱暴・・・されたのか・・・?」

 

「いや・・・?話聞いてなかったのか?単為生殖だそうだ。」

 

「単為生殖!?」

 

「ミカちゃん・・・体調は?」

 

「そうだな・・・妊娠の初期も初期らしい。何も体調には変化は無い。」

 

「そうですか・・・」

 

やよいは椅子を取り出したづなと座る。がっくりと項垂れ、疲れが見える。

 

「まさか・・・ここまで君が祝福されないとは思わなかった・・・」

 

「そうだな。まぁでもそんなに大変じゃないし。」

 

「大事だぞ!!!こんな・・・こんな・・・」

 

「落ち着けやよい。本当に産む訳じゃないんだ。それに産めない。」

 

「それはそうだが・・・」

 

「医師は早急に対処してくれるといった。それを信じよう。」

 

「・・・そうだな。」

 

沈黙が病室を支配する。まいったな・・・俺自身、こんなにトラブルメーカーだとは思ってなかった。

 

「はぁ・・・だが・・・なんだ・・・本当に・・・驚いた・・・」

 

「いやすまない・・・俺も驚いた。」

 

「推定12歳で母はドラマでも見ないぞ・・・」

 

「はは・・・そんなドラマあったのか?」

 

「14歳の母、というテレビドラマがあったんだ。」

 

「なるほどな・・・」

 

「現実は・・・小説寄り奇なりというのを思い知った・・・」

 

「驚かせてすまんな。だが大丈夫だ。」

 

「君は・・・本当に恵まれない・・・本来ならウマ娘というのは運が良い筈なのだ。」

 

「そうなのか?」

 

「そう具体的に例をあげると人間より宝くじに当たる可能性は高いのだ。それが・・・ちょっと生まれが悪かっただけで・・・名前はもらえず・・・不幸な目に遭い続ける事になるとは・・・」

 

「まぁな・・・三女神、だったか?は俺をウマ娘とは認めないらしいな。」

 

「非常に心苦しいが・・・それに納得出来るのが悔しい。」

 

「まぁ生きているだけ万歳だよ。」

 

「このままでは死ぬより辛い目に遭うかもしれないのだぞ?」

 

「その時は笑って誤魔化すさ。」

 

「君は・・・本当に・・・」

 

「・・・。」

 

はぁ・・・俺の人生、めちゃくちゃになっちゃったな。気がつけば異世界。気がつけば改造。気がつけば体ボロボロ。気がつけば妊娠・・・踏んだり蹴ったりも良いところ。踏まれて蹴られてダンプカーに轢かれた気分。

 

「・・・とりあえず、手術の実行短縮の書類はサインしておいた。無事に、無事に帰ってきてくれ。」

 

「ああ。そんな大変なもんじゃないだろ。」

 

「・・・それがそうだといいんだが。」

 

「え?何かあるのか?」

 

「ここまであった君の事だ、何も無いとは言い切れない。」

 

「それが手術を控えた者に言う言葉か・・・?」

 

「それもそうだな・・・すまない。」

 

やよいは謝罪!と書かれた扇子を広げ、そよそよと仰いでいる。それ用意してたのか?

 

「とりあえず休みたまえ。」

 

「ああ・・・だが、暇だな。」

 

「そうか?たづな、何か本でも用意してやってくれ。」

 

「わかりました。」

 

そう言ってたづなは出て行った。そして同時にコンコンコンとノックされる。

 

「あ、やよいさんいらっしゃいましたか。」

 

「先生、どうかしたか?」

 

「ちょっと検査結果で見てもらいたい部分が・・・」

 

「なに・・・?」

 

「まだなんかあるのか・・・」

 

「いえちょっと確認ですね。」

 

「そうか、ミカ君。行ってくる。」

 

「わかった。」

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・

 

・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

数日後、手術の日。

 

「・・・どうか無事に終わってくれ。」

 

手術室の前でやよいとたづなは祈るように待っていた。3時間ほどで終わると言ったが、ミカはトラブルメーカー・・・いや不幸メーカーとして、普通には終わらないと言う確信があった。

 

「大丈夫ですよ理事長・・・」

 

「だが・・・」

 

「まぁ・・・私も不安ではありますが・・・」

 

「だろう・・・ミカ君は・・・少々・・・いや、大分普通ではない。」

 

「それは・・・そうですが・・・」

 

「まるで不幸の星の元生まれてきたような・・・いやよそう。ここで不安視しても不幸を呼び寄せることになる。」

 

「・・・。」

 

「どうか・・・無事に終わりますように・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手術室のランプが消え、手術が終わった。出てきたロイヤリアグネス医師はマスクを外しながら、やよいとたづなの前に立った。

 

「先生・・・!ミカ君は・・・?」

 

「大丈夫、無事に終わりましたよ。」

 

「そ、そうですか!」

 

「良かった・・・!」

 

「ええ・・・ですが・・・」

 

「え?」

 

「何か・・・あったんですか?」

 

「腫瘍を何箇所か発見しました。がんです。検査では見つからなかったんですが・・・それを切除したので・・・これから念の為放射線治療の使用に入ります。」

 

「放射線治療・・・!?」

 

「はい。ミカさんは強靭な薬物耐性があるので抗がん剤は効きません・・・ですが・・・やらないわけには行きません。退院も・・・1ヶ月ほど伸びます。」

 

「わ、わかりました。」

 

「やっぱり・・・ただでは終わりませんでしたね。」

 

「命に関わる程では無い・・・というのが安心材料になりませんか。」

 

「そうか・・・それなら・・・私達も回復を待とう。」

 

「必ず、必ず無事に、返して見せます。どうかもう暫くお待ちください。」

 

「はい・・・」

 

「お願いします・・・」

 

・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・

 

・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

 

今何月何日だ?この部屋、カレンダーくらい置いてくれないのか。

 

「むぅ・・・」

 

子宮と卵巣の摘出手術後、俺に極初期の複数のがんが見つかったらしい。それを治療するから入院が伸びるとも。まぁ・・・普通に終われんのかと神に怒りを示した。届くはずもなく。

 

「・・・。」

 

もうそれは良い。俺の体だ。付き合って行くしかない。

 

「・・・。」

 

しかし・・・みんなには、特にロック先輩には多大な心配をさせてしまうだろう。1週間程の入院と豪語したのに1ヶ月以上とは。また男泣きされてしまう。

 

「ふぅ・・・」

 

諦めて・・・甘んじる事にしよう。

 

「・・・。」

 

そして暇つぶししてるんだが。たづなは本を持ってきてくれた。小説かと思ったんだが、持ってきたのは漫画。全58巻の緑のシバノオーというスポ根漫画だった。

 

「・・・。」

 

レースに付いてわかりやすく載ってる漫画だというから読んでいるがなかなか面白い。シバノオーと呼ばれる少女が勝ったり負けたり、賞金額やファン数。レースのグレード、シューズやスポーツ用品の蘊蓄。様々な要素が面白おかしくわかりやすく載っている。結構古い漫画だそうだがトゥインクルシリーズの勉強にと教材に使われる事もあるらしい。

 

「・・・。」

 

今読んでいる所は・・・シバノオーがとうとう最高グレード、G1の舞台のレースに出走する所だ。紆余曲折、切磋琢磨、波乱万丈のレース人生を賭けてやっと出走出来るG1。物凄いな。

 

「ふむ・・・」

 

まぁ・・・俺はレースには出ないから関係は無い事だ。そもそも、弄られているこの体では、健全とは言えない。だがレースで競うというのは面白そうだ。

 

「・・・。」

 

この面白そう、と言うところはウマ娘の本能なのだろうか。俺にそういう本能があるとは思えないが。

 

「まぁ・・・いいか。」

 

ちょっと読むの疲れたので休憩。水を飲み、一息吐く。

 

「ふわぁ・・・」

 

食事まで時間あるし。ちょっと寝ておくか・・・

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・

 

・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

数日後。

 

「むぅ・・・」

 

がんとは厄介な病気だ。非常に苦しく、治りづらく、大変。そんな病気、年取ってからでしかならないと思っていた。

 

「・・・。」

 

まぁそれでも比較的軽い方だ。俺は。放射線治療というのは名前だけ知っていたからなにやらビームの様な物で患部を焼くとは思わなかった。前の世界でもそうなのか?この世界独特な物か?もうそれはわからない。

 

「ふぅ・・・」

 

1日4時間。患部を焼き続け、検査、検査のまた検査。物凄い入念だ。まぁ。少女を死なせたくないと言う思いはあるか。中身はおっさんだが。

 

「ミカ君。」

 

「ミカちゃん。」

 

「やよい、たづな。」

 

今日はやよいとたづながお見舞いに来てくれた。学園の理事長とその秘書というかなり忙しい立場でありながらお見舞いの時間を捻出するとは、ありがたいと同時にあっぱれである。

 

「何、ミカ君は私の娘の様なものだ。なにも心配しなくて良い。」

 

「だが・・・やよい、俺には返せるものが何もない。」

 

「損得で考えてる訳ではない。君は感謝だけしてくれればそれでいい。」

 

図々しいが・・・俺には感謝以外出来る事がない。それで良いならば五体投地で感謝しよう。ベッドから降りようとしたら止められた。

 

「経過はどうだ?」

 

「順調だと言われているが・・・正直わからんな。」

 

「自覚症状があった訳ではないからな。」

 

「自覚症状があったら怖くて眠れなくなっていたな。」

 

「ふふ。まぁそこは良かったと喜ぼう。」

 

「ああ。」

 

全くもって・・・不幸な体だ。改造、逃亡、内臓機能不全、妊娠、がんとたて続きに起これば自覚症状は無くとも堪える。

 

「あ、そうだ。やよい。」

 

「なんだ?」

 

「先生がこんなものを持ってきた。」

 

「どれどれ・・・」

 

やよいに先生が持ってきた書類を見せる。書類は俺の摘出した子宮と卵巣を医学標本にする予定だったのを、がん細胞に侵され使えないので廃棄するという書類だ。

 

「ふむ・・・うまくいかないな。」

 

「全くだ。あともう一つ。」

 

「なんだ。」

 

「これはちょっと俺には専門的過ぎてわからない。やよいもわかるかどうか・・・」

 

「どれ・・・遺伝子解剖図?」

 

「そうらしい。大雑把に言うと、俺はウマ娘では無いと言うことがわかったそうだ。」

 

「え・・・では、ミカちゃんはいったい・・・」

 

「先生が言うには、人間とチンパンジーみたいな関係だそうだ。」

 

「ふむむ・・・わからん!!あとで先生に聞いてみよう。」

 

「それがいい。」

 

人間以上ウマ娘未満な俺。新生物。そこへ看護師がノックをして入ってきた。

 

「秋川さん注射のお時間ですよ。」

 

「わかった。」

 

俺は1日一回極々微量のホルモン注射をしている。本来なら1ヶ月に一回、数ヶ月に一回の注射なんだが、俺はそれじゃ間に合わないと毎日する事になった。これは退院しても続くらしい。

 

「はぁいまずは女性ホルモンの注射ですよー」

 

「はい。」

 

ちく。まぁ言うほど痛みは無い。

 

「じゃあ次はウマ娘ホルモンの注射ですよー」

 

「はい。」

 

ちく。これもまた同上。

 

「ふむ・・・これは退院しても続くのか・・・」

 

「そうだな。一生だそうだ。」

 

「そうか・・・」

 

「まぁ糖尿病のインスリン注射みたいなものだ。そんな苦じゃない。」

 

「こんな、若いうちにそんな事になろうとは・・・」

 

「言っておくが中身はアラフォーになるアラサーだからな?」

 

「だがもう君は10代の少女だ。」

 

「ぐぅ・・・」

 

ぐぅの音が出た。確かにいくら中身アラサーと言ってもこの体では鼻であしらわれるだけ。少女として生きる他ない。

 

「どれ、じゃあお見舞いの品にケーキを持ってきた。チーズケーキだ。」

 

「ベリーソースはかかってないやつか?」

 

「大丈夫。ちゃんと無いやつを選んできた。」

 

「ありがたい。」

 

チーズケーキを食べた。甘くて美味い。そうこうして面会時間は終わり、やよいとたづなは帰っていった。だが翌日。検査結果がよろしくない、と。入院期間が延ばされてしまうのであった。こりゃ帰ったら・・・友人達にしこたまどやされるであろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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