退院した。結局、検査の結果が悪いだのなんだのと2ヶ月も入院してしまった。当初は1週間ほどの入院だった筈なのに。まぁ仕方ない。今は6月。ちょっと暑くなってくる時期だ。
「ふむ・・・よし。」
キャリーケースに荷物を詰めて終わり。やよいが来るのを待とう。するとコンコンコンとノックされた。
「ミカ君。用意出来てるか?」
「やよい。出来てる。」
「そうか。ではもう行こう。」
「わかった。」
受付で挨拶をして、病院を出る。外は雨だ。梅雨だもんな。そうしてたづなの運転する車に乗り、20分ほど。トレセン学園に帰ってきた。
「ではミカ君。寮に戻る様に。」
「ああ。」
「ミカちゃん何かあったらいつでも言ってくださいね。」
「わかった。」
キャリーケースを引っ張りながら寮に戻る。ちょっと雨で濡れたな。
「どれ。」
鍵は・・・掛かってない。ロック先輩はいるようだ。
「ただいまもどりました。」
「!?」
入ると髪型を整えているロック先輩がいた。先輩は俺の姿を見つけると立ち上がり、震えながら近寄ってきた。
「ミカ・・・ミカ!!!」
「はい。」
先輩は俺をゆっくり抱きしめ、また泣き始めた。
「ミカ・・・!!帰って・・・来たんだな・・・!!アタシはもうてっきり・・・!!!」
「大丈夫ですよ。帰ってくるって言ったじゃないですか。」
「そうだよな・・・!!!そうだよな・・・!!!おかえり・・・ミカ・・・!!!」
ぐすぐすと泣きじゃくるロック先輩を宥め、キャリーケースを開いて中身を片付ける。そしてとある荷物を見つけたロック先輩はぎょっとして固まってしまった。
「ミカ・・・!?なんだこりゃあ・・・!?」
「あー・・・注射器ですね。」
「注射器・・・!?」
「はい。今後継続して注射が必要なんですよ。」
「ミカ!!!おめー無事じゃねーじゃねーか!!!」
「いや大丈夫ですよ。注射はしなきゃなりませんが元気です。」
「だけど・・・だけどよ!!!」
先輩はまた男泣きし始めてしまった。そしてまたダン!!!!と床を蹴り付け始めた。それ興奮した時の癖なんだな。
「ちくしょう・・・なんで・・・ミカがこんな目に・・・!!!」
「まぁ・・・大丈夫ですよ。死ぬこと以外擦り傷ってやつです。」
「でもよ・・・でもよ・・・!!!」
ダン!!!!また床を蹴った。そんな事するとまたフェノーメノ先輩が来るぞ・・・ノックがした。ほら来た。
「はーい。」
「うるさいでありま・・・ミカ!?」
「ただいま。フェノーメノ先輩。」
「ミカ!!!無事だったんでありますな!!!」
「ええ。帰ってこられました。」
「そうでありますか・・・!!良かった・・・!!・・・で。ロックはどうしたでありますか。」
「また感極まっちゃって・・・」
「そうでありますか・・・おーいロック。」
「なんだ・・・マメちん・・・」
「マメちんは止めるであります。ロック。ミカが無事に帰ってきたんだから喜んであげるでありますよ。」
「無事じゃ・・・ねぇんだ・・・無事じゃ・・・」
「え?」
そう言ってロック先輩は俺のキャリーケースの大量の注射器を指差した。フェノーメノ先輩はぎょっとして青い顔になった。
「ミカ・・・?大丈夫なんでありますか・・・?」
「一応大丈夫です。ご飯も食べれますし、夜も眠れてます。運動は、ちょっとだめですけど。」
「これは・・・尋常じゃないでありますね・・・」
ロック先輩は男泣きのままで、フェノーメノ先輩はぐぬぬと唸っている。大丈夫じゃないのは2人の方では・・・?
「ロック・・・」
「なんだ・・・?」
「私に一案あるであります。」
「一案・・・?」
「このままでは、ミカは走れないのにトレセンにいる事になるであります。それを良く思わない輩が出てくる可能性はゼロじゃない・・・いや大いにある。それからミカを守る為にも私の友人達に助力を乞うであります。」
「ゴルシ達にか・・・!!」
「ちょっと不安ではありますが、守ってくれるとしたらこれ以上無い戦力であります。」
「そうしようマメちん・・・!!ミカを・・・!!ミカが幸せな学園生活を送る為にも・・・必要だ!!!」
「ガッテンであります。」
なにやら2人で話し合いが行われ、何か合致したようだった。俺は片付けしてたので聞いてなかった。
「早速行ってくるであります。」
「ああ!!ゴルシ達が味方になりゃぁトレセンに敵はいねぇも同然だ!!!」
「?」
「ミカ!!!」
「ミカ。」
「あ、はい。」
「アタシ達が、絶対守ってやるからな。」
「任せるであります。」
「・・・ええ?」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
翌日。今日も雨。ちょっともんにょりする天気だ。こう連続雨だと気分が悪くなる。
「みんなただいま。」
「わーーーー!!!」
「ミカちゃーん!!!」
「おかえりーーー!!!」
クラスメイトに出迎えられ、教室に入った。早速取り囲まれたが。
「びっくりしたわよ。急にいなくなるんだもの。」
「いやすまん。アップルシードル。俺もこんな長くなると思わなかったんだ。」
「ミカちゃんもう大丈夫なのー?」
「そうだな。運動はダメだが。もう大丈夫だ。」
「運動はダメかー・・・もう走れないの?」
「そうだな・・・多分そう。」
「そっかー」
こうして授業を受けあっという間にお昼。いつものパール、ネス、スイの4人でご飯を食べに行った。今日はしめ鯖山盛り定食。
「ミカちゃん午後の体育どうするの?」
「見学・・・かな。」
「そうだよねー」
「一緒に走りたかったよ。」
「経過が良ければ、いつか走れるかもしれないな。」
「そっか!じゃあいつか走ろうね!!!」
「ああ。」
ワイワイとご飯を食べる。そして食べ終わり、食器を片付けたところで・・・
「見つけましたわ!!!」
「メジロマイヤー?」
「おーマイちゃん。」
「マイちゃんどした?」
「おほん。ミカさんをお借りしてもいいかしら?」
「いいよー。」
「持ってけー。」
おいなんでお前らが許可出すんだよ。
「ありがとうございます。ミカさん着いてきてくださいまし。」
「わかった・・・みんな後でな。」
またねーと切り返し、メジロマイヤーに着いていく。なんの用事だろう。
「メジロマイヤー、一体なんの用事だ?」
「ミカさんもみんなと同じくマイとお呼びくださいな。良いとこですわ。」
「良いとこ・・・?」
そして着いて行くこと5分。校舎から出て、部室棟と呼ばれる場所に入った。
「トレーナーさん!連れてきましたわ!」
「トレーナー?」
部室棟の一室に入り、マイは声を張り上げた。そして若めの男が出てきた。前の俺よりは年下っぽい。
「やぁ君が・・・フクシマミカンさんだね。」
「あ、いや・・・その・・・」
「どうしたんだい?」
「フクシマミカン・・・という名前は、無くなったんです。」
「・・・?どう言うことだい?」
簡単に名前が無くなった顛末を話す。トレーナーと呼ばれた男は顎に手を当て考え込んでいる。
「なるほど・・・かなりのレアケースか。」
「申し訳ない。」
「いやいいんだ。俺も遭遇した事は無いが聞いたことはある。」
「今の名前は秋川ミカというんだ。」
「そうかじゃあミカさん。俺は青木。そこのメジロマイヤーのトレーナーだ。よろしく。」
「よろしく。」
「トレーナーさん!まず所感はどうですか!」
「うん・・・そうだね・・・」
青木が俺の体を観察する。何してるんだ?時折足を上げて、後向いてなど指示された。
「ふむふむ・・・少々痩せているが・・・トモはこの時期にしてはかなり成長している。これはいいかもしれないな。上半身もそこそこ筋肉がある。」
「ですわよね!!トレーナーさん!!」
「いったいなんの話だ・・・?」
「ミカさん!!!私のトレーナーと契約して!!共にクラシックを走りましょう!!!」
「は?」
「頼むミカさん。良ければ俺の担当になってくれないか?」
あー・・・これはスカウト、ってやつか。どうする。事情を話したら俺の素性を勘取られるかもしれないな・・・やよいに相談したほうがいいか・・・?
「あー・・・すまないが、断る。」
「え?!なんでですの!?ミカさんは技術が無いだけでとても速いんですのよ!!!早くトレーナーの元に付いて鍛えた方がいいですわ!!!もったいないですわ!!!」
「もしかして病み上がりなのを心配しているのかい?大丈夫。俺はこれでも7年目だ。怪我や病気のケアについても・・・」
「いや・・・その・・・」
どうする・・・俺の説明ではあらぬ誤解をされるかもしれない。それどころか正体を勘繰られてトレセンから出て行かなきゃならなくなる場合もあるかもしれない。上手く躱す方法は無いか・・・
「すまないが・・・事情を話していいかどうかも判断出来ない。詳細はやよい・・・理事長に問い合わせてくれないか。」
「理事長に?」
「ああ・・・一応、俺の保護者がやよいなんだ。」
「なるほど・・・じゃあ早速行こうか。」
「え?」
「今から行く。善は急げだ。」
「ええ?」
「マイ。ちょっと行ってくる、今日のトレーニングはいつものメニューを熟しておいてくれ。」
「了解ですわ。」
「ちょ、ちょっと。」
「行こうミカさん。」
なんとも・・・トレーナーというのは・・・行動力の化身か。すごいバイタリティだ。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
理事長室。
「お願いします理事長!!!俺に、ミカさんを担当させてください!!!」
「・・・。」
「・・・。」
青木は早速やよいの元へ直談判しに行った。熱血で人が良いから信用はしても良さそうだが・・・
「ダメだ。」
「な、何故です理事長!!!ミカさんの様な原石をみすみす見逃せというのは・・・!!!」
「青木トレーナー、その目は節穴だ。」
「!?」
「ミカ君は、走れないのだ。」
「何故・・・?!」
「詳細は極秘だ。ミカ君の体は走るのに適していない。故にトゥインクルシリーズを走る事は無い。戻りたまえ。」
「しかし!!」
「ダメだと言ったはずだ。諦めてくれ。」
「・・・納得出来ません!!!」
「はぁ・・・」
「はは・・・」
青木は理事長・・・この学園の最高責任者にも負けじと食ってかかる。その根性は見上げた物だがそういうのって昇進とかの審査に関わるのでは?
「詳細は話せない。極秘だ。」
「ですが・・・これだけの逸材!!!走る為に生まれてきたウマ娘を走らせないというのは冒涜です!!!」
「ミカ君は走れない。」
「理事長!!!」
このトレーナー、察しが悪いな。トレセンでウマ娘は察しがいいのに人間は察しが悪いのか。それはそれで面白いな。
「くどい!!!青木トレーナー!!!これ以上食い下がるなら極秘案件を漏洩しようとする意思があるとし、処罰も可能なのだぞ!!!減給、謹慎では済まされない!!!」
「・・・それでも、ウマ娘の為ならば・・・!!!」
「あー、やよい。」
「なんだミカ君。」
「その、なんだ。俺は全く運動しないのも問題だと思っている。だからレースは出ないにしろ、多少の運動をサポートするトレーナーは必要なんじゃ無いか、とは思う。」
「それに、青木トレーナーが良いと?」
「ああ、まぁな・・・こんなでも俺が良いと言ってくれた人間だ。少しは信用しても良いと思う。」
「・・・わかった。」
「・・・!!」
「青木トレーナー、条件がある。」
「はい!!!」
「一つは、秘密保持契約の研修を受けること。」
「はい。」
「二つ目は、ミカ君を絶対にレースには駆り出さない事。」
「・・・はい。」
「三つ目は・・・必ずミカ君を幸せにする事。」
「はい・・・」
「以上が守れるなら担当にする許可を出そう。」
「わかりました!!!」
「たづな、秘密保持契約研修の案内出してくれ。」
「はい。青木トレーナー、こちらに。」
「わかりました!」
これで・・・トレーナー、決定か。走れないのに、良いのかな。
「大丈夫だ。」
「え?」
「問題があれば私が対処する。ミカ君は、安心して学園生活を送ればいい。」
「そうか・・・」
「うむ。」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
数日後。保健室。
「いて。」
日課の注射。腕に一本目。今日はちょっと痛いとこ刺しちゃったな。
「よしもう一本。」
ちく。よし。終わり。一瞬で終わるのは良いな。
「ふぅ。終わった。」
「はーい。具合悪くないですか?」
「問題無い。」
「はい。じゃあ戻って良いですよ。具合が悪くなったらいつでも来てくださいね。」
「わかった。」
教室に戻る。着替えて、体育だ。青木は・・・まだ研修に掛かるらしい。まだ担当契約は結んでない。
「よし。」
着替えた。体操服、ブルマである。もう慣れた。そして校庭に出ようとしたら・・・
「おう、お前ミカだな。」
「?」
物かげからヌっと3人の陰が現れた。
「だ、誰だ・・・」
「おうおうそう怯えんなよ。アタシはゴールドシップ様だ。」
「私はナカヤマフェスタ。」
「ドリームジャーニーですよ。」
「な、なんの用だ。」
「ちょーっとマメちんに頼られてよ。面倒見てやろうと思って。ちょいと面貸しな。」
「大丈夫だ。食いやしない。」
「おやつもありますよ。」
マメちん?確かフェノーメノ先輩の事だ。
「だ、だが・・・この後体育で・・・」
「それはジャニ姉が連絡しておいた。」
「ぶいぶい。」
「行くぞオラッ!!」
俺はゴールドシップなるウマ娘に俵担ぎされた。俺がいくら小さいからってこれはすごい。ウマ娘やるな。
「ほいほい一名ご案内〜〜〜〜!!!」
「いくぞ〜〜〜」
「テイクオフ。」
「うわあああああああ」
こうして俺はずた袋を被せられ、拉致された。
⏰
「よっと。」
ドサ!!となんか椅子に座らせれた。ここどこ。
「だ、大丈夫でありますか!?」
「え?」
「今助けるであります!!!」
そう言ってずた袋を取られる。場所は・・・どこかの空き教室のようだ。
「フェノーメノ先輩?」
「そうであります。」
「ここは?」
「ここは我々がアジトにしている教室であります。」
俺は、何をされるんだ?ここには俺を連れてきたゴールドシップ達とそのほか数人のウマ娘がいる。何してるんだ・・・?
「ゴルシ!!!ミカは体が悪いんだから優しくと言ったはずであります!!!」
「なんだよーだから丁寧に連れてきただろー?」
「十分乱暴であります!!!」
「???」
「そこの、ミカ、と言ったか。」
「ああ・・・」
「余はオルフェーヴル。まぁ・・・好きに呼べ。許可する。」
「アタシはオジュウチョウサン。主な勝ちは障害だよ。」
「インディチャンプだ。まぁなんだよろしくな。」
「アドマイヤリードです。よろしくねミカさん。」
「は、はぁ・・・?」
「ミカ、ここに連れて来たのは、我々一味に顔を覚えてもらう為であります。」
「何故?」
「我々の仲間だと認識されておけば、トレセン内外で絡む輩は大幅に減るからでありますよ。」
「・・・不良グループ・・・ってことですか?」
「一応不良グループでは無いであります。ただ幅を利かせているだけであります。」
「インディ、茶。」
「はいはいオル。ミカもお茶飲む?」
「い、いただきます。」
「他にもメンバーはいるでありますが・・・ちょっと奔放なウマ娘なのでまた今度紹介するであります。」
「はぁ・・・」
「はいミカさん。トッピョです。」
「あ、ありがとう・・・?」
ニコニコでお菓子を分けてくれるアドマイヤリード・・・先輩、この人、目の奥で何か渦巻いてる。怖い。
「みんな。ミカは説明した通りであります。学園を安心して、楽しく過ごす為にはみんなの協力が不可欠であります。」
「よい、身体は虚弱なれど顔を見てわかった。なかなか気骨のある者のようだ。」
「オルに気に入られたのなら大丈夫でありますね。」
「はぁ・・・?」
その後お茶が出てきてオヤツタイムになった。和やかだが豪快だ。ゴールドシップなる先輩はジョッキで熱々の紅茶を飲んでいるし。
「あの・・・ゴールドシップ・・・先輩・・・」
「なんだよーかたっ苦しいな。ゴルシちゃんと呼べ。」
「いや・・・そんな・・・」
「いいんでありますよ。ゴルシはこんなんなので。」
「なんだよマメちんこんなって。押し寿司にするぞ。」
「マメちんは止めるであります。」
「あーじゃあ・・・ゴルシ・・・」
「おう!なんだ?」
「その・・・片手に持ってるの・・・?なに・・・?」
そう言ったらおう!これか!?なんて見せてくる。何これ。
「これはなーオホペチャンタスだ。」
「オホ・・・何?」
「オホペチャンタス。」
「・・・?・・・???」
「あー考えたら負けでありますよミカ。」
「ええ・・・?」
「ミカさんトッピョです。」
「ミカさんパイの果実もありますよ。」
「あ、ありがとう・・・?」
アドマイヤリード先輩とドリームジャーニー先輩に餌付けされている。何これ。そうこうしてたら急にゴルシが椅子を蹴飛ばして立ち上がった。
「呼んでる・・・!!」
「どうしたでありますかゴルシ。」
「呼んでるんだ!!!月の石が!!!」
「は?」
「今すぐアフリカのロンドンに渡米しなきゃ!!!!行ってくる!!!!」
そう言ってゴルシは窓から飛び出して行った。慌てて見るとそこは3階。大丈夫か!?と思ったら校庭を全力疾走するゴルシ・・・ああ、なんかゴルシがほんの少しだけわかったかもしれない。
「・・・?」
「気にしたら負けでありますよミカ。」
「そう・・・」
遠い目なった。もうどうにでもなれ。
「ミカさん。」
「あ、はい。なんでしょう。アドマイヤリード先輩。」
「ふふ、リードで良いですよ。ここはずっと誰かしらいるのでいつでも遊びに来てくださいね。」
「ミカ、顔を覚えてもらう為にもちょくちょく来るであります。お友達を連れてきても良いでありますよ。」
「わ、わかりました・・・」
こうしてお茶飲んでおやつ食べて俺は解放された。何が起きたんだ・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
その日の夜。
「ただいま。」
「おかえりなさいロック先輩。」
帰ってきたロック先輩はバッグをベッドに置いて伸びをする。ちらっと見えた腹筋はバキバキ。すごいな。エロさを感じない。
「どうした?」
「あ、いえ。」
「そういやゴルシ達に会ってきたんだってな。マメちんから聞いたぞ。」
「ええ・・・はい。」
あれは不思議な会合だった・・・
「ゴルシはあんな奇想天外なやつだけど。人情に厚くて良いやつだ。仲良くしてやってくれ。」
「わか・・・わかりました。」
「おう。じゃあ飯行くか。」
それからご飯を食べてお風呂入って・・・深夜。
「・・・。」
ロック先輩は大いびきをかいて寝ている。俺はなんとなく寝付けなくて、ウマホを取り出した。
「・・・。」
そして・・・ブラウザで。異世界と検索をかける。
「・・・おお。」
出るわ出るわ異世界のページ。どうやらこの世界では異世界というのは馴染み深く、意外と近い存在らしい。異世界に渡る方法もあるみたいだが。公開されてない。だがこちらにやってくる異世界人・・・神隠しにあった異世界人も割といるようで。直近では去年冬に異世界人を保護したという記事が出ている。なるほどな。
「ふむふむ・・・」
面白い。異世界の事は結構公開されている。観測する手段、渡る手段等は公開こそされてないものの様々な異世界からの来訪者の情報がある。少なくとも年間2000人にも及ぶ異世界人が来ていることになる。すごい。もしかしたらやよいに頼めば異世界に渡る手段を調べて帰れるのではないか。そう思い始めた所で・・・
「まぁ・・・無理か・・・」
今の俺は少女。それもウマの。元の世界に帰ったところで異物、捕まって実験場送りという最悪のシナリオになる可能性が高い。どう考えても辞めた方が賢明だ。
「・・・。」
ここで、ネットの掲示板に辿り付いた。信憑性は皆無だが。異世界から来た、獣人がいる、技術が遥かに進んでいる、髪がカラフル、等と驚きを隠せないでいる。俺も思った。
「うう・・・むむ・・・」
「おっと・・・」
眩しかっただろうか。ロック先輩を起こしてしまうのは可哀想だ。ウマホに充電ケーブルを刺して机に置く。もう寝よう。
「・・・。」
前の世界に未練が無いわけではない。働いていたから貯金だってあったし、家族もいた。もう会えない。それは辛いことだ・・・
「う・・・ぐす・・・」
家族や友人に会えない。それだけで胸が苦しくなる。男の時だったならば泣くことも無いがこの体だと容易く涙が出てくる。そんなぐすぐすしていると急に肩を揺さぶられた。
「・・・?」
「ミカ。」
「ロック先輩。」
「大丈夫か?どっか辛いのか?」
「あ、大丈夫です・・・」
「そうか・・・怖い夢でも見たか?」
「そうですね・・・」
「そうか・・・ちょっと枕を高くして寝ろ。悪夢にはそうした方が良いってのを何かで見た。」
「そうなんですか・・・」
ちょっと起き上がって、タンスからタオルケットを出して枕の下に敷く。これでよし。
「じゃあ・・・起こしてすみません。」
「いや、いいんだ。なんかあったらいつでも起こせ。」
「ありがとうございます。」
ロック先輩は布団に包まるとすぐに寝息を立て始めた。すぐ寝れるの良いな。俺もその能力欲しい。
「・・・。」
まぁ・・・もう考えるのはよそう。寝なくては。明日も学校だぞ。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
1週間後。青木が研修を終えて帰ってきた。みっちりやられたらしい。そしてやよいから極秘と書かれた分厚いファイルを渡されて戦々恐々としている。
「・・・。」
「いや見ろよ。」
「だ、だが。」
「今になって怖気付いたのか?」
「・・・ちょっとだけね。」
てへと舌を出す青木。それは少女だから許される仕草だ。罷り間違っても青木や俺がやるものではない。あ、ちなみにマイは席を外している。理事長謹製の極秘ファイルを見ると告げたら顔を青くして逃げていった。そこまでしなくても。
「よ、よし。」
そして意を決した青木は中から書類を取り出した。俺はのほほんとコーヒーを淹れて砂糖をドバドバ。前はブラックで飲めたんだけどなぁ。
「・・・。」
「・・・。」
青木は書類を捲る度に顔を青くして時折ヒッ・・・と悲鳴を上げている。そんなにやばい事書いてある?
「・・・。」
「・・・。」
「コーヒーうんま。」
コーヒー美味い。砂糖ドバドバでクソ甘いけど。青木は震える手でファイルに書類をしまい。物凄い勢いで金庫にしまって三重に鍵を掛けた。
「・・・。」
「・・・どうだった。」
「・・・。」
「・・・おい。」
「・・・。」
「・・・どうした。」
青木は膝から崩れ落ちた。
「・・・。」
「大丈夫か。」
「・・・ミカ・・・すまない・・・」
「ん?」
「俺には・・・君を走らせられない・・・」
「だろうな。」
青木は顔をくしゃくしゃにして泣き始めた。
「君は・・・君は・・・どうして・・・」
「ちなみになんて書いてあった。」
「違法研究所で廃棄されたのを発見した少女だと・・・」
「ふむ・・・」
異世界のなんたらと言うのは避けたか。それもそうか。昨日調べた感じでは異世界人はかなり手厚く保護されており、なんとかして住んでいた世界を特定し、帰す事を重視している。その異世界人をバラバラに解剖して、クローンにし、バリバリに改造したなんて言うのがバレたらとんでもない事になる。
「まぁ。俺はそんな感じだ。厄介だろ。」
「この世の地獄は正に身近にあったんだと痛感した・・・」
「そうか。知らなければ良かったか?」
「正直そう言う思いは80パーセントを占めてる。」
「正直だな。」
「だが、それでも君を支え、安心して楽しい学園生活を送らせるという意思は硬くなった。」
「・・・そうか。」
「なんとしてでも君を無事に卒業させて見せる。」
「ありがとう。」
「うん。」
「それで俺のトレーニングはどうなる?」
「そうだな・・・まず体内の状況が落ち着くまでは柔軟体操くらいしか出来る事が無い。」
「そうだろうな・・・」
「罷り間違っても全力疾走なんてしたらすぐに病院送りだ。そんなこと絶対にさせない。」
「そうか。助かる。」
「だがウマ娘の本能を抑えるのは本当に、本当の本当の本当の本当に大変だ。マイを見ればわかる。」
「マイが?そんな大変なのか?」
「ああ・・・マイは・・・強烈でな・・・」
「そんなにか?そんな様子は微塵も・・・」
「恐らく、メジロ家で何不自由無く生活してきた弊害もある。物凄く我儘だよ彼女は・・・」
「・・・そんなに。」
「ああ。まぁでもそれくらい我儘な方がウマ娘は強い。基本的にウマ娘の強さというのは我の強さだから。」
「そうなんだな。」
「ああ。ミカはどうだ?」
「うーんそうだな・・・」
俺はどうだ?我儘か?そういえばウマ娘の我儘なところは気性難というらしい。そんな直球で表現しなくてもと思った。
「聞き分けは良い方だとは・・・思う。やれと言われた事はやるし、やるなと言われたことはやらない分別はある・・・と思う。」
「そうか。まぁそれは本人が思っていても実際にやってみると違う可能性は高い。これも検証してみよう。」
「わかった。」
「とりあえず、トレーニングメニューというよりリハビリ計画書を作るよ。まずはそこから。」
「ああ。頼む。」
「トレーナーさーーーん終わりましたかーーーー?」
「おーマイ。終わったぞー。」
「良かったですわ・・・」
「それじゃいつものお茶にするか?」
「はいですわ!」
「どれ・・・あ、いつもの茶葉が無い。」
「ウー・・・」
「すまんティーバッグで我慢してくれ。」
「今回だけですわよ・・・」
なるほど。確かにマイは気性難だわ。それにしても俺のトレーニングか。どうなることやら。レースは走らんから良いが運動はしたい。前はそんな事なかったのにな。僅かに出てきたウマ娘の本能か、若い体に入れられた事による欲求かは分からないが、さっぱりしたいな。