8月になるくらいのある日。日中かなり暑いので、俺は先輩からもらったサンバイザーやサングラス、他に冷感タオルや首から下げるドリンクボトル。ハンドカバーなど熱中症対策マシマシでコースに出ていた。俺の熱中症は命に関わるから、なんぼやってもいい。
「暑い・・・」
体感30度以上ある夏日。コースを元気よく周回するマイとバクシンオー先輩だが、例に漏れず大量の汗をかいている。しんどそうだ・・・走ってない俺がこんなにしんどいのに・・・
「はふぅ〜〜〜〜トレーナーさん!!!スポーツドリンクをお願いします!!!」
「トレーナーさんわたくしも〜〜〜」
「はいはい。たっぷり水分摂ってくれ。」
ごくごくと何本も飲んでいく2人。俺はドリンクボトルに入った麦茶を一口。冷えてて美味い。
「ミカ体調悪くないか?」
「ああ、大丈夫だ。」
大丈夫、と言ったが青木は俺のおでこを触ったり首を触ったり。
「ふむ・・・思ったより汗をかいてない。もうトレーナー室で涼んだ方がいいだろう。」
「だが・・・」
「ミカの体調不良は命に関わるんだ。今日はこれまで。」
「・・・わかった。」
トレーナー室へ帰還する様に言われた。まぁ仕方ない。命に関わるとまで言われたら我儘言っても仕方ないだろう。
「・・・。」
⏰
トレーナー室をエアコン付けて涼しくする。24度。人間ならば寒いかもしれんがウマ娘は体温が高い為これくらいじゃないと冷えない。
「タンクに麦茶は・・・まだあるな。」
麦茶のタンクを確認し、自分のドリンクボトルに氷を追加して麦茶をドバーッ。水分補給はなんぼしても良い。
「・・・。」
今は4時。終わるまであと1時間は掛かる。それまでに部屋を冷やして置けば問題無いだろう。俺は冷やし過ぎても問題な為、エアコンの風を避けてサマーストールを羽織る。
「・・・さて、どうするか。」
何もやる事がない。何か指示されてる訳でもないし、涼んでろくらいしか言われてない。
「そうだ・・・昔のレースでも見るか。」
ビデオデッキの電源を入れてVHSを挿入。今日は20年前の有マ記念を見よう。
「・・・。」
知っている名前のウマ娘はいないが・・・迫力はある。レースってのはすごいものだ。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「ふぅ〜〜〜〜ただいま戻りました!!!」
「涼しい〜〜〜〜」
「ミカいるか?」
みんなが戻ってきた。俺はコップに冷たい麦茶を用意して手渡す。
「おかえり。」
「麦茶美味しいですね!」
「スポドリで口の中甘々になってましたのでさっぱりしますわ。」
「ミカ何してたんだ?」
「昔の有マ記念見てた。」
テレビを消して片付けをする。マイとバクシンオー先輩はシューズ等の手入れ、青木はパソコンへ。
「よしみんな。適当な時間には寮に戻るんだぞ。」
「はーい。」
「トレーナーさん消臭剤が無くなりましたわ。替えはありますか?」
「棚に無いか?」
「えーっと・・・」
穏やかな時間が過ぎる。真夏日でも変わらないな。だがそこへピロンと通知音がした。
「・・・俺か。」
見ると・・・シンボリルドルフ、と書いてある。誰だ・・・?
「シンボリ・・・ルドルフ・・・?」
「おや?生徒会長がどうかしたんですかミカさん。」
「あ、いや、今、LANEが来て・・・」
「生徒会長から・・・?」
なるほど生徒会長か。そういえばやよいが言ってた。やよいとたづなと生徒会長の連絡先が入ってるって。だが何の用事だ?
「青木、ちょっと呼ばれたから俺はもう行く。」
「おう。お疲れ。」
「ああ、お疲れ。」
⏰
生徒会室、何とか着いた。生徒会室なんて行く用事無いから迷ってしまった。まいったな。
「入れ。」
「失礼します。」
中に入ると2人のウマ娘がいた。
「やぁミカ君。初めまして・・・だな。」
「ええ。貴方が生徒会長ですか。」
「そうだ。シンボリルドルフという、高等部2年だ。よろしく頼む。彼女はエアグルーヴだ。」
「エアグルーヴだ。同じく高等部2年。よろしくミカ。」
「よろしく。」
挨拶を済ませたらエアグルーヴ先輩にソファーに座るよう促された。黙って座ったら生徒会長も机からソファーへ来た。
「ミカ君、何か飲むかい?アイスティーくらいしか出せないが・・・」
「いやお構いなく。」
「そうはいかない。茶も無しに話をするなんて寂しいじゃないか。エアグルーヴ、頼む。」
「はい会長。」
そう言ってエアグルーヴ先輩が冷蔵庫からアイスティーを取り出しコップに注ぐ。ありがとうございますと受け取り、ガムシロップも渡されたので2個入れた。
「さてミカ君。君の事情は少しだが聞いている。トレセンに来て大凡4ヶ月になるが、どうだ?」
「どうだ・・・と言われましても・・・」
「まぁなんだ。生徒会でも君の様子を把握しておきたいと思ってね。」
「そうですか・・・まぁそういうなら、普通・・・と言った感じですね。」
「そうか、トレーニングの方はどうかな?」
「トレーニング・・・と言うほどのものはやってませんね。リハビリレベルです。」
「そうか・・・君の体調の事も把握してる。難儀な体になってしまったな。」
「まぁそれも仕方ないと受け入れています。」
「ふむ、走衝動・・・の方はどうかな?ウマ娘ならば悩まされる物だ。熱が出ていても、足が折れていても走りたいという衝動を抑えるのは何とも耐え難い。」
「俺は・・・そういうのは薄いので。」
「そうか・・・」
そうこうしてたら隣の部屋から何やらケーキを持ってきたエアグルーヴ先輩が現れた。生徒会長と俺の前に置くと作業に戻っていく。
「・・・。」
「・・・。」
生徒会長は困った様に笑っている。アイスティーを口に含み、飲み込む。ちょっと緊張して味がわかんないな・・・
「・・・生徒会長は。」
「なんだい?」
「俺を、追い出すつもりで?」
「!?」
「!?」
作業をしていたエアグルーヴまで驚いている。え?違う?
「いや!いやいや!そんな事はしない!」
「だが・・・」
「安心してくれ、生徒会は、そこまで非道な行いをする組織ではないよ。」
「・・・。」
「まぁ・・・なんだ。こう言う事を聞いたのはだな・・・」
「・・・?」
「ミカ君、君は自分の噂を聞いた事はないか?」
「自分の・・・噂?」
自分の噂・・・だと・・・?そういうのは全く聞いた事がない。というか、そういうのには敏感になってなかった。そういうのも調べた方が良いか・・・?
「その様子だと聞いた事が無い様だな。」
「あ、ああ・・・」
「簡単に言うと、『祝福されない子が入学してきた』と言うものだ。」
「祝福・・・されない子・・・」
「ミカ君はウマ娘の名前も無く、決まる事もなかった。それだけじゃない。走る為の体も持たず、追い詰められている。」
「まぁ・・・そうなる・・・と思いますね。」
「理事長の息が掛かっているから、裏口入学・・・とも言われている。まぁでもそれはそれほど問題にはされていない。」
「それはありがたいですが・・・」
「祝福されなかった子・・・で、あるが。同時にそんな状況でも走るチャンスを与えられた奇跡の子。と呼ばれているんだよ。君は。」
「・・・はぁ。」
「そんな子に興味が湧くのは自然だと思わないかい?」
まぁなんとなく理解した。生徒会長はわくわくと言った様子で俺の返答を待っている。そんな話が罷り通っていたのか・・・知らなかった。
「生徒会長・・・」
「なんだい?」
「俺は・・・ですね。在学中に走る可能性は・・・限りなく低い・・・と言っておきます。」
「ッ!!・・・そうか・・・」
「俺の体調もそうですが・・・もう一つ理由があります。」
「それは・・・?」
「・・・。」
「ミカ君?」
生徒会長なら・・・良いだろう。俺の判断だが、やよいが最初に連絡先として渡すくらいだ。信用も、信頼も出来て恐ろしく口が硬い筈だ。大丈夫・・・どこまで知っているかはわからないが。
「・・・生徒会長だけなら、お話します。」
「そうか、エアグルーヴ。」
「はい。」
「ちょっと・・・30分ほどどこかで時間を潰してきてくれ。」
「わかりました。ブライアンにも知らせておきます。」
エアグルーヴ先輩がアイスティーのおかわりを淹れて、出ていく。よし。
「・・・。」
「聞かせて、もらえるか?走れない、もう一つの理由を。」
「・・・ええ。」
アイスティーを飲み、口の中をリセットする。大丈夫・・・大丈夫なはずだ。
「俺は・・・体を弄られています。」
「・・・?どういうことだ?」
「改造・・・されてるんですよ。」
「・・・!?」
生徒会長の顔が青褪めた。
「走る能力がどれ程かは、確かめていないからわかりません。走った経験もそれほどないんですが・・・学園に来る前は大人のウマ娘を圧倒した。それだけじゃない。学園に来てからは一度だけ、何も技術を持ってないのに地の力だけでトレーニングを受けたウマ娘に勝っています。」
「・・・なるほど。」
「俺は・・・レースに出られないのでは無く、出てはいけない。フェアな勝負を出来ないんですよ。」
「・・・。」
「・・・。」
「君は・・・どこでそれを?」
「やよい・・・理事長が言うには違法な研究所で・・・」
「なる・・・ほど・・・」
生徒会長は項垂れた。衝撃だろう、ただの不幸なウマ娘だと思っていたのに、そこまで不幸な身だとは思わなかった。そんな感じだ。
「君は・・・それでも走りたいと?」
「いや・・・俺は・・・さっきも言ったがフェアじゃない。走るだけで不幸を撒き散らす存在です。だから走らない。」
「そう・・・か・・・」
「・・・。」
「・・・。」
アイスティーを飲み、ケーキを一口。うん、あまり味わかんない。
「正直・・・初めて3女神を恨んだよ・・・」
「そうですか・・・」
「ただの不幸なウマ娘にするならまだわかる。だが、見捨てて、修羅の道に落とすなど・・・傲慢が過ぎやしないか・・・とな。」
「・・・。」
「君は・・・その様な身で、何を望む?教えてくれ、私に出来る事は限られるが、力になりたいんだ。」
「そう、ですね・・・」
「・・・。」
「美味しいご飯と・・・寝床があれば・・・それでいいです。」
「・・・!!!」
「欲を言えば・・・今いる友人先輩と仲良く出来れば・・・それでいい。」
「そ・・・うか・・・」
生徒会長は何かを堪えるように震えた後、バッと顔をあげた。うお、目力つよ。
「ミカ君。」
「は、はい。」
「我々生徒会は、君が安心して学園生活を送れるよう全力を尽くそう。」
「ありがとう、ございます。」
「君はもっと欲を出していい。叶えられる物は全て叶えてみせる。」
「そ、そこまでは・・・」
「安心してくれ。こう見えて、生徒会の権力は強い。」
「そうですか・・・」
「うむ。」
こうして、俺は生徒会の理解を取り付けた。まぁ・・・話しちゃったけど、大丈夫だろう。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
8月になった。ある日。
「そうだ。害虫駆除にはこれが1番だな。」
「はい。」
俺は花壇の手入れをしていた。先日生徒会に行った時にトレーニングは短く終わるから暇していると言ったらエアグルーヴ先輩から花壇の手入れを手伝ってくれるか?と申し入れがあったからだ。俺は二つ返事で了承し、ウマゾン(ネット通販)で麦わら帽子を買って臨んだ。
「ふぅ・・・」
「良い感じですね。」
花壇で煌々と咲く向日葵。観賞用というか向日葵の種を取るようだそう。どうするのかと聞いたら食べるとのこと。食うのか・・・
「エアグルーヴさん、こっちの花壇耕し終わりました!」
「ああ。フラワー、じゃあこっちには何を植えるか・・・」
花壇の手入れをしているのは俺とエアグルーヴ先輩だけじゃない。ニシノフラワーという子もいる。恐ろしいのがこのニシノフラワー、10歳で俺より学年が上。飛び級なんだそうな。日本で中学校の飛び級ってあったっけ・・・?
「・・・。」
「あれ?ミカさんどうしました?」
「いえ・・・なんでもないですフラワー先輩。」
「もう!先輩じゃなくて良いって言ったじゃないですか!」
「しかし・・・」
「じゃないと泣いて怒ります。」
「わかった・・・」
強過ぎる・・・ようじょ強い・・・こう見えても重賞をいくつも勝ってるウマ娘なんだそうな・・・すご過ぎる・・・
「はい!それでどうしたんですか?」
「いや・・・こいつをどうしたもんかと思ってな・・・」
「こいつ?」
俺のポッケでもぞもぞする生物を取り出す。花壇にいたから捕まえたのはいいがどこから紛れ込んだのだろう。
「もぐらさん!」
「ああ・・・こういうのって・・・レッドデータブック?に載ってるんじゃないか?」
確か戯れに手に入れたレッドデータブックで見た事がある。もぐらはどの種類のもぐらかはわからない。
「うーん・・・とりあえず。トレセンのはじっこの林にはなすのはどうですか?」
「あそこしかないか・・・」
「エアグルーヴさん!ちょっともぐらさんを逃してきますね!」
「ああ。わかった。」
林に向かった。歩いて10分ほど。結構遠い。モグラを逃して立ち去ろうとしたら、視界の端に何か見えた。
「・・・?」
「どうしたんですか?」
「いや・・・ちょっと・・・」
草むらを掻き分けて見えた物を探す。どこにあったか・・・
「・・・これか?」
「?」
拾ったのは・・・なんか、瑠璃色のまん丸の石。なんか気になった。
「わぁ綺麗な石ですね。」
「そうだな・・・」
見れば見るほど綺麗な石。両手で持つくらいのそこそこの大きさ。そういえば子供の頃河原で綺麗な石を集めたのを思い出した。あれは自然物だが、この石は真球でどう見ても人工物。
「どうするんですか?それ。」
「持って帰るか。」
「そうですか!」
とりあえず持って帰った。そして花壇に戻ると・・・
「うえ〜んうえ〜ん。」
「誰かいますよ。」
「なんだ?」
そこに行くと栗毛の髪のウマ娘とエアグルーヴ先輩。なにしてるんだ・・・?
「お願いしますエアグルーヴさん〜〜〜水晶玉返してください〜〜〜」
「ダメだと言っているだろうが!」
「うえ〜ん。」
「何してるんですか?」
「やや!フラワーさん!・・・とどなた?」
「俺か、俺はミカ。中等部1年だ。」
「ミカさんよろしくお願いしま・・・おおお!?!?」
「うわ。」
栗毛のウマ娘はずずいっと俺に近づいてきた。視線は・・・俺の持っている瑠璃色の石。
「わ、私マチカネフクキタルって言います!!!ミカさん!!!その素敵な玉をどこで!?」
「あ、え、いや。ちょっと林で・・・」
「その玉!!!どうか譲ってください!!!この通り!!!」
「え?まぁいいですよ。」
「ありがとうございます!!!」
「ミカ、フクキタルを甘やかすな。」
「え・・・すみません。」
フクキタル・・・多分先輩は瑠璃色の石を繁々と眺めては持ち上げたり撫でたりしている。そんなに良いものなのか・・・?
「あ!!!すみません!!!もらうばっかりじゃ申し訳無いです!!!ミカさん!!!これを!!!」
「ああ・・・はぁ。」
「これは私が念を込めて作ったアミュレットです!!これを枕元に置いて寝れば大吉!!!ハッピーカムカムです!!!」
「こら!フクキタル!後輩に怪しい道具を渡すな!」
「怪しくないですよ〜」
そう言ってフクキタル先輩はドドドっと退散した。して、もらったアミュレット、なんかカラフルで可愛い感じだ。ふーん。
「わぁ!可愛いです!あむ・・・あみ・・・」
「アミュレット。」
「あむれっと!」
「アミュレット。」
「あみれっと!」
「アミュレット。」
「あみゆ・・・?」
フラワー言えてないぞ。まぁ良いか。
「それじゃエアグルーヴ先輩。もう行きます。」
「ああ、そうか。助かった。ありがとう。」
「いえ。」
「ミカさんカフェテリアにジュース飲みに行きませんか?」
「いいぞ。」
カフェテリアに向かう。カフェテリアとは、食堂の他にある飲食施設で、流石にタダとは行かないが格安でスイーツやコーヒーを飲む事が出来る場所だ。
「カフェテリアのオレンジジュースって100パーセントなのか?」
「いえ確か70パーセントで・・・」
「ふむ・・・」
話しながら歩いていたら角でなんかとんがり帽子を被った生徒とぶつかった。いてて・・・
「いたたた・・・なんなのよ!!!」
「大丈夫ですか?」
「ああ・・・大丈夫。すまない。」
「・・・こっちこそ、ごめん。ミカ。」
「ああ・・・スイープか。」
ぶつかったのは同じ学年の別なクラスのスイープトウショウだった。教官の指導を受けていた時。イヤイヤしていたのをみんなで宥めたのは懐かしい。
「くんくん・・・」
「どうしたんですかスイープさん。」
「感じる・・・」
「え?」
「は?」
「ミカ、あんた魔法の道具持ってない?」
なんだそれ。魔法の道具?そんなもの心当たりは無い。
「無いぞそんなの。」
「嘘。確かに感じる・・・右のポケット?」
「右・・・」
右のポケットにあるのは・・・さっきもらったアミュレット。これか。
「これか?」
「そう!それ!どこで手に入れたのよ。」
「さっきフクキタル先輩にもらってな。」
「フクキタルに・・・?」
「ああ。」
「ねぇミカそれちょうだい。」
「ええ・・・?」
「タダとは言わないわ。これあげるから。」
そう言ってスイープが取り出したのはガラス細工の小瓶。なにそれ。
「これは魔法薬よ。私が作ったの。」
「うわぁすごい甘い匂いします。」
「ええ・・・?」
「これはね。暑さを和らげる魔法の薬よ!!キタサンに作ったのを余ったから持ってたの。」
「暑さを和らげる・・・薬?」
きゅぽっと蓋を開けて匂いを嗅ぐそして舐める・・・ああこれスポドリだわ。多分粉のスポドリを濃いめで作ったやつ。それにクエン酸か何か・・・を追加したのか。
「まぁ・・・いいぞ。」
「ありがとう!!ふふっ!これは本物よ・・・!!」
そう言ってスイープは立ち去ってしまった。あのアミュレット・・・本物なの・・・?
「どうします?それ。」
「まぁあとで飲めばいいだろう。」
そしてカフェテリアで2人でメロンソーダを飲み、解散した。さてこの魔法薬、どうしよう。
⏰
生徒会長から呼ばれたので生徒会室に行った。どうしたんだろう。
「む、来たかミカ君。」
「ええ、どうしましたか?」
「ちょっと確認して欲しい事があってね・・・」
「なるほど。」
そう言って一枚の書類を見せられる。何これ。
「これはトレーナーから提出される報告書の一部だ。主にプールを利用した時のだな。」
「はぁ。」
「今日はプールのトレーニングをしたというんだが・・・君もプールに入ったとある。大丈夫なのか?」
「ええ、まぁ大丈夫ですよ。そんなガチで泳ぐ訳ではなく、浮き輪を付けての立ち泳ぎ100メートルしかしてないので。」
「そうか・・・」
そう言って生徒会長は眉間を揉んだ。
「いやなに・・・こないだ君の体の事を聞いたからな・・・少々不安で・・・」
「大丈夫ですよ。病院とも協議してますし。」
「そうか・・・」
そう言って生徒会長はティーカップのお茶を飲んだ。というか少々顔色が悪い。
「生徒会長大丈夫ですか?」
「え?ああ、大丈夫だよ。ただ少々夏バテ気味でね。」
「夏バテ・・・あ、そうだ。」
「?」
ポッケから魔法薬を出す、クエン酸入りだと思うから夏バテに効くだろう。
「生徒会長、これあげますよ。」
「それは?」
「スイープが作った魔法薬という名の濃いめのクエン酸入りスポドリです。」
「おお。」
「これなら夏バテに効くのでは?」
「そうか、ならいただこう。」
生徒会長は隣の部屋に行き、透明なコップに氷を入れて戻ってきた。魔法薬の蓋をきゅぽと開けてコップに注ぐ・・・かなりネットリしてるな。
「よし。」
ちょうどコップ一杯分あった魔法薬を一気飲みした生徒会長。
「くぅ〜〜〜酸っぱい!」
「だ、大丈夫ですか。」
「ああ。だが飲んだだけでかなり頭がスッキリした。ありがとうミカ君。」
「いえ。良かったです。」
「そうだ。お礼にこれをあげよう。」
そういって生徒会長が取り出したのは丸くて大きい缶。
「これはクッキーアソートだ。同じ物を三つもらってな。良ければ受け取ってくれ。」
「あ、ありがとうございます。」
「ふふ。かなり効いたぞ、魔法薬。」
「はは・・・」
「それじゃ用はこれだけだ。手間を掛けたな。」
「いえ。」
生徒会室を後にする。なんか瑠璃色の石がクッキーアソートになったな。まぁ収穫だ。あとでマイ達と食べよう。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
8月の後半になった。マイのメイクデビューが近くなったので青木が注力している。そしてなんだが俺はまたまた呼び出しにあった。やよいだ。
「やよい来たぞ。」
「入ってくれ。」
理事長室に入る・・・そこには、白衣を着た男達。俺は瞬時に警戒態勢を取った。
「待て!ミカ君!彼らは!彼らは大丈夫だ!」
「・・・え?」
「彼らはちゃんとした研究所の職員だ。後ろ暗さは全く無い。」
「・・・本当か?」
「本当だ。」
「・・・。」
とりあえず、ソファーに座った。大丈夫と言われたがどうしても警戒してしまう。
「とりあえず何故彼らが来たかを話そう。頼む。」
「はい。秋川ミカさん。国立ウマ跳大学研究所所長の黄麻と申します。よろしくお願いします。」
「・・・よろしく。」
「私は第一研究主任の阿部です。」
「同じく第二研究主任の阿笠です。」
「・・・よろしく。」
「我々はウマ娘の遺伝子研究をしています。そして秋川やよいさんから、クローン改造ウマ娘の調査を依頼されています。」
「調査?」
「はい。秋川ミカさんの体調を調整できないかと言われまして。」
「・・・!!」
「うむ。ミカ君。病院で検査をした時遺伝子検査をしただろう?その検査をした研究所だ。」
「・・・なるほど。」
「それでですね。秋川ミカさんは目下の問題としてホルモンの異常があります。これを遺伝子の調整で改善出来ないかと思いまして・・・」
「・・・!?そ、そんな事が出来るのか?!」
「ええ。可能です。」
す、すごい・・・前の世界じゃ遺伝子をどうこうするなんていうのは考えられなかったことだ。
「だが問題がない訳じゃないぞ。」
「え・・・?やよい・・・?」
「この治療・・・いや改造を施すと人体のみならず、遺伝子の改造があると認められ、如何なる理由があろうともトゥインクルシリーズへの参加は認められなくなる。君は、永久にレース界から締め出される事になるのだ。」
「・・・?それが何か問題が・・・?今と変わらない気が・・・」
「今はまだ。トゥインクルシリーズに参加出来る余地が残っているのだ。斤量・・・というのを知っているか?今ではその制度は形骸化しているがこの斤量、事前に調査した身体能力を加味して施す重りを背負う事で改造した体でもレースに参加が可能なのだ。これを人体、遺伝子両方に改造を施すと平等安全に配慮したレースへの参加意思無しとされる。」
「・・・そうか。」
まぁ・・・でも、レースには出られないだけで、みんなとは走れるだろう。公式にはいなくなるだけだ・・・待てよ。
「・・・なぁやよい。」
「なんだ?」
「そういう制度があるって事は・・・前例があるのか?」
「・・・ある。」
そう言ってやよいは苦しげに話し始めた。
「トゥインクルシリーズを取り仕切るURAを3年も。そしてトレセンを5年も騙し続けて走り続けた、人間がいるのだ。」
「人間・・・?」
「ああ・・・名を、ハリボテエレジー。人体と遺伝子、双方に改造を施しウマ娘相当の身体能力を獲得して走り続けた脅威の人間だ。」
「・・・とんでもないやつだな。」
「このハリボテエレジーも、違法研究所のモルモットだったのだ。」
「・・・そうか、俺の先輩だな。」
「・・・そうなるな。」
まぁ・・・俺は、走らないと決めているが・・・友人達とは走りたいとは思っている。それは公式レースじゃなく、野良でもいい。いや、野良でいいんだ。
「人体の改造はまだハンデを背負わせる事が出来る。だが遺伝子の改造は負わせられるハンデが無いという判断だな。」
「・・・なぁ。」
「どうした?」
「ハリボテエレジーは・・・どうなった?」
「・・・。」
重苦しい空気が包む。みんな・・・知っているのか?
「ハリボテエレジーは・・・度重なる改造に耐えきれず、レース中に、死亡した。」
「・・・そうか。」
「我々はあの過ちを繰り返さないようにしているのだ。」
「・・・そうだな。」
「・・・だから、ミカ君を何とかしたい。」
「・・・わかった。」
とりあえず、どうするのか、何をするのか聞かなければ。この白衣の男達を信用しよう。
「さて・・・黄麻さん・・・だったか?」
「ええ。」
「俺はどうすればいい。」
「説明致しましょう。」
それから大学の研究所の男達が語った内容というのが・・・これまた難しくてさっぱりわからない。つまりどういうことなんだ?
「・・・おほん!まぁミカさんがする事は薬を飲んで生体ポッドに入ることです。」
「それだけか?」
「ええ。後は私達でやりますので。」
よくわからないからその都度説明してもらうか。そうしよう。
「ミカ君。行ってくれるか。」
「ああ。せめて、友人と走れる体にはなりたいからな。」
「それでは日程の調整が済みましたら。また来ます。」
「ああ、頼む。」
研究所の男たちは帰っていった。そうか・・・走れるようになるか。そうか!
「・・・ふふ。」
「良かったな。ミカ君。」
「ああ。やよいも、ありがとう。」
「良いのだ。君からは何もいらないぞ。」
「だがな・・・」
「良いんだ。」
「・・・そうか。」
とりあえず、光明が見えた。俺の未来に、光が差した。だが、この時は、俺が3女神にどれだけ見放されていたかなんて、全く想像出来ていなかった。