俺は・・・遺伝子調整の為に、大学の研究所を訪れた。マイのメイクデビューを見届けたかったが・・・それは出来なかった。すまないとマイに謝ったが、自分の体を優先して、と言われた。
「それで・・・黄麻。まず、何をすればいい。」
「まずは検査です。ここは大学病院も併設されていまして。検査して、体調を再確認してから遺伝子調整に挑みます。」
「そうか。」
まずは検査らしい。そしてロイヤリアグネス医師の所で受けたような検査を一通りやった。夕方。
「そうですね・・・問題はそのまま。遺伝子調整に入ります。」
「わかった。」
「生体ポッドの準備は出来ています。すぐに始めますか?」
「そうだな。早くやったほうがいいか。」
「わかりました。では明日の朝から始めます。今日はゆっくり休んでください。」
「ああ。」
病室に案内され、食事・・・なんだが、固形物はダメとの事で何やらゼリーのような食事だった。味は・・・お察し。
・・・・・・・・・・・
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・・・・
・・・
・・
・
夢を、見た。嫌にはっきりした夢で、真っ暗な空間で俺は椅子に座っていた。それを幾多もの・・・影?に囲まれ、何故か叱責されている。
「・・・・!!!!」
「!!!」
「・・・!!!!」
何を言っているかはわからない。だが・・・かなりの怒り具合だ。俺が何をしたというのだ。
「お前は生まれてくるべきではなかった。」
「生きている事すら烏滸がましい。」
「全てのウマ娘に対する冒涜。」
「常識破りの存在。」
「生への裏切り。」
「今すぐ息の根を止める。」
急にありとあらゆる暴言が頭に流れ込んできた。すごい圧だ。
「・・・。」
俺はどうすることも出来ない。夢なら覚めてくれと思う。だがそれは許されなかった。
「待った。」
すると、鶴の一声の様に待ったが掛かった。後ろを振り向くと光り輝く3人の・・・ウマ娘。
「彼は生きている事すら許されないのか。」
「彼が望んでこうなった訳ではない。」
「彼は確かに祝福はされないが冒涜ではない。」
急に現れて擁護してくれるのはいいが・・・これはなんなんだ?何を見せられてる。
「彼が彼女になるには時間が掛かる。」
「ウマ娘に害を成す存在ではない。」
「生まれた者は平等だ。」
「・・・。」
3人のウマ娘がそう言うと、影は霧散した。なんだったんだ。3人は俺に近づくと優しく語りかけてきた。
「君はウマ娘じゃない。」
「祝福はあげられない。」
「形だけの生き物は生きづらい。」
「・・・。」
優しく、それでいて厳しく、3人のウマ娘は語った。
「私たちは3女神。」
「ウマ娘を見守る神。」
「君を見守る事は出来ない。」
「・・・そうか。」
「でも。」
「でも。」
「でも。」
「君は。」
「君は。」
「君は。」
「・・・。」
「君は、優しい。」
「君は、強い。」
「君は、逞しい。」
「だから。」
「だから。」
「だから。」
急に頭の中に光が傾れ込んでくる。すごい、飲み込まれそうだ。
「許さない。」
「許さない。」
「許さない。」
「生きて、証明してみせろ。」
「生きて、輝いてみせろ。」
「生きて、到達してみせろ。」
強い光に飲み込まれ、俺は・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「ん・・・」
起きた、病室。なんかよく覚えてないけど変な夢見たな。
「ふわ・・・」
むにゃむにゃと洗面所に行き、顔を洗う。昨日ゼリーご飯だったから腹へったな。
「おはようございまーす。」
「はい。」
看護師がいろいろ持って入ってくる。
「検温しますよー」
「はい。」
ピピっと温度計。37.8度。平熱。
「じゃあ朝ごはんですよー」
「は・・・い。」
差し出されたのは3つのゼリーのパック・・・おにぎり食べたいな。まぁ仕方ない。
「ぢゅ。」
「もう少ししたら先生来ますので。頑張ってくださいね。」
「はい。」
看護師が出ていくのでゼリーを食べる・・・味気ない。おにぎり食べたい。
「はぁ・・・」
ベッドでウマホを弄る。今8時。
「ふむ・・・」
するとコンコンコンとノックが。医師か・・・多分黄麻か。
「おはようミカさん。」
「黄麻か。」
「調整始めますよ。」
「わかった。」
ウマホとかを金庫にしまい、てくてく着いていく。そして病院とは明らかに違う施設へ入った。
「地下に降ります。」
「ああ。」
エレベーターで地下へ、地下4階。
「ここです。」
入ると・・・多くの研究員。そして大きなポッド。
「あちらで着替えてきてください。」
「わかった。」
更衣室で病院着を脱ぎ、水着の様な物と薄い服を着る。なるほどな。
「来ましたね。ではポッドに入ります。」
ポッドが開き、中にある小さな椅子に座る。さてどうなることやら。
「ポッドを閉じると調整液が注入されます。呼吸は調整液で肺が満たされれば出来ますので最初はちょっと苦しいです。」
「わかった。」
ポッドが閉じられた。そしてすぐに液体がポッドを満たし始める。本当に呼吸出来るのか?足元を水が迫ってるのはちょっと怖い。
「う・・・」
あっという間に液体が首元まで来て、口に入る。なんだこの味。スポドリのような紅茶のような・・・
「がぼ・・・ごぼぼ・・・」
頭まで液体に浸かる。苦しい・・・でも飲み込むしかない。
「・・・ごぼぼ・・・ん?」
呼吸・・・出来る。液体で満たされているのに。すごい。ポッドの外では黄麻が手を振っている。手を振りかえす。
「・・・。」
そして・・・調整が始まったのだろう。少し肌を指すようなピリリとした刺激がある・・・もしかしてこれ意識があるままやるのか?と思ったら強烈な眠気が来た。
「・・・。」
俺は眠ることにした。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
おや・・・?なんか、目が覚めた。だがそこはポッドの外。あれ?
「・・・?・・・???」
「あ、起きましたか。」
「黄麻?」
「ミカさんは今、ST-4と呼ばれるフルダイブ型ロボットに意識を移しています。見てください。」
指刺された方を見るとポッドに入った俺が。そして自分の手を見る。メカメカしい手だ。なるほど。
「恐らく二日はこのままです。その間、その姿で過ごしてください。」
「わかった。」
そして別室に移った。ベッドや暇つぶしの道具、映画のDVDや本が置いてある。
「二日か。」
だいぶ暇だな。まぁでも二日くらい何とでもなるか。
「どれ・・・」
映画のDVDを取り出す。まぁ適当になんか見よう。
⏰
1日経った。映画は7本見た。ちょっと飽きた。
「出ても良いのか・・・?」
部屋から出るなとは言われてない。だが歩き回って邪魔するのもあれだ。どうしよう。
「ちょっと見にいくくらいなら良いか。」
俺は部屋を出て、ポッドの元まで向かった。ポッドのある部屋では研究員が忙しそうに動いている。
「おや、ミカさん。どうしました。」
「黄麻、いや、暇になってな。」
「そうですか・・・」
黄麻の表情は暗い。どうかしたのか。
「黄麻、何かあったのか。」
「いえ、順調です。順調なんですが・・・」
「何か問題が・・・?」
「こちらを見てください。」
何やら長ーい紙を見せられた。それには数字やアルファベットが羅列してありちょっと何が書いてあるかわからない。
「これは。」
「遺伝子解剖表です。まぁわかりませんよね。ここを見てください。」
「はぁ・・・」
数字とアルファベットの羅列の一部を見る。まぁわかんない。
「ここをですね、調整でこの数値を組み替えたのです。ここを組み替えるとですね、ここの数値が変わります。続いてここ。続いてここ・・・と連鎖するんですよ。」
「なるほど?」
「で、ですね・・・今、ホルモン異常を調整して・・・女性ホルモンを安定化させて、ほっとしたんですが・・・」
「ですが・・・?」
「どう足掻いてもウマ娘ホルモンだけは安定化せず、このままでは筋肉からウマ娘ホルモンを取り出し続けるという問題が出てきました。」
「そうするとどうなる?」
「筋肉が弱り、歩けなくなってしまいます。」
「それは問題だな・・・」
大変な問題だ。ホルモン異常を解消し、運動出来る体になるつもりだったのに。
「本来ならば・・・ミカさんがウマ娘ならば、細胞内にあるウマムスコンドリアからウマ娘ホルモンが分泌される筈なんです。ですがミカさんは細胞内にウマムスコンドリアが存在しない・・・ミカさんがウマ娘では無いという証左です。」
「ふむ・・・その、ウマムスコンドリア、だったか?を接種すれば良いのではないのか?」
「うーん難しいですね・・・なんと説明したらいいか・・・そう、牛肉を食べても、体が牛にならないのと一緒です。」
「・・・なんとなくわかった。」
難しいな・・・どうしたものか。
「ウマムスコンドリアはウマ娘由来の物です。ウマ娘がウマ娘たらしむもの。それが無いというのは致命的です。」
「・・・何か、対策は?」
「体がウマ娘なのに・・・ウマ娘由来の物が無い・・・正直ミカさんの薬剤耐性から考えて薬は無理・・・そもそも外科手術で解決するような物でもない・・・お手上げなんですが・・・」
「ですが・・・?」
「生きる上では・・・問題無いという事もあります。」
「それは?」
「ウマ娘とレースで競って勝つのは無理、という話ですね。ですがミカさんは体を改造し、ウマ娘に勝てる。ほんと歪です。」
「・・・。」
「とりあえず・・・ウマ娘ホルモンは、度外視します。」
「遺伝子調整はそういうことも出来るんじゃ・・・」
「ちょっと認識に齟齬がありますね。遺伝子調整は、既にある物を組み替えるものでして、新たに物を足して何かするものでは無いんです。」
「そうか・・・」
「でも、安心してください。ウマ娘ホルモンの不足による異常は出てくると思いますが、それは改造された体で何とかなる物です。」
「確か・・・発汗の異常だったり、呼吸の異常だったり、筋肉の発達の異常だったりか?」
「よくご存知ですね。勉強されているようで感心しました。それらはどういう異常かと申しますとレースでの物なのです。」
「レースでのもの?」
「はい。レースで、極限での削り合いでの発汗や、疲労した状態での酸素吸入率、高速で走る場合の筋肉の成長に起因します。」
「なる・・・ほど?」
「ミカさんは、これを改造によって克服しているんですよ。」
「なるほど?」
「なので今回の調整で、間違いなく走れる様になります。公式レースは・・・規則により出られませんが・・・」
「いや、俺は友人と走れる様になればそれでいいんだ。」
「なら、安心してください。」
「わかった。」
ふむふむ。なら、大丈夫か。パールやネス、スイ、マイ達と走れる様になればそれでいいんだ。俺は。頂点とか。最強とか。そういうのには興味は無い。俺は部屋に戻り、映画鑑賞を再開した。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
翌日、調整が終わり、フルダイブ型のロボットから戻った。ポッドから出る。
「おぼ・・・えほ・・・おええ・・・」
びちゃびちゃと肺から液体を吐き出し、苦しさに悩まされる。
「お疲れ様でした。もう大丈夫ですよ。」
「はぁ・・・はぁ・・・大丈夫か・・・?俺は・・・走れるのか・・・?」
「走れます。これで、大丈夫です。」
「そうか・・・!」
「では、まずシャワーを浴びてもらって、検査です。」
「わかった・・・!」
そうして俺は調整後の検査に挑んだ。ちなみに、液体はなかなかしつこく、髪を洗うのにかなり手こずった。
⏰
検査後。病室で、黄麻と医師の報告を聞いた。
「ホルモン異常やその他の異常は解消されました。ウマ娘ホルモンの不足が異常と言ったら異常ですが・・・」
「先生、それは克服出来ている筈です。」
「そうですね・・・ではミカさん。」
「はい。」
「このまま1週間の経過観察。その後トレセンに戻ってもらって、トレーニングを開始してもらって構いませんよ。」
「そうですか・・・!!」
黄麻と医師の太鼓判が押された。走れる・・・走れるんだ!
「ふふ・・・!」
「あと改造されている箇所の説明をしますね。」
「ああ。」
そういえば・・・俺の改造箇所の話を聞くのは初めてかもしれない。どんななんだろうな・・・
「まず、心肺機能。これが1番強く強化されています。より深く、より大きく呼吸出来ます。具体的に言うと肺の大きさが7パーセント、心臓の大きさが16パーセント。通常のウマ娘より大きいです。つまりミカさんの胸の中は内臓でパンパンです。」
「そうか。」
「次に脚力。どのような適正があるかどうか不明ですが、筋力が34パーセント強いです。ウマ娘の最高速度は大凡最高時速70キロメートル。ミカさんは推定79キロメートルから80キロメートルで走れると思います。」
「それは・・・すごくないか?」
「はい。すごいです。驚くべき事は速度ではなく足の頑強性です。これだけの速度で走れば足への負担は未知数。通常ならば足は千切れ飛びます。あのハリボテエレジーは最高速度時速76キロメートルですが彼女は衝撃的で痛ましい事故を起こした。それを超える足を持っていることになります。」
「そ、そうか・・・」
「まぁですがそれは順当にトレーニングを積み重ね、自分の実力を発揮出来る様になったらの速度ですので。普通に走れば少し速い程度でしょう。」
「そうなのか。」
「ええ。最後に消化器官。内臓の大きさ等はウマ娘と変わりありませんが消化酵素等の成分が多く胃酸も強力。ウマ娘が通常食べないもの、具体的に言うと家畜の餌のようなものでも消化しパフォーマンスを発揮出来ます。」
「それは・・・」
「まぁそんなものは食べないと思いますが。おそらく違法研究所が栄養接種を目的としただけの流動食を叩き込む上での処置だったんでしょう。」
「なるほど・・・」
「他にも改造された箇所はありますが大きいところはこんな感じです。詳細はやよいさんに送っておきます。」
「頼む。」
「はい。あと・・・そうですね・・・病院から処方されたホルモン注射は続けてください。安定したと言ってもホルモン量は少ないので。」
「わかった。」
「他の注意事項に関してはこちらにまとめたので確認をお願いします。」
「わかった。」
書類を受け取る。後で読もう。
「長々と説明しましたが以上です。お疲れ様でした。」
「ああ。ありがとう。」
「まずはゆっくり休んでください。」
黄麻と医師が出ていく。よし。あと1週間か。まぁそれくらい耐えよう。
「あ、そうだ。」
テレビを付けた確か、今日はマイの新バ戦、メイクデビューだったはず。テレビでやってるか?
「・・・。」
チャンネルを回す。お、あった。確かマイは・・・
「確か・・・15時36分発走・・・だったはず。」
今は14時。まだ時間あった。
「まぁ他のメイクデビュー見るのも良いだろう。」
ぼちぼち見よ。
⏰
3時30分。パドックを見て、ゲートイン。さて、がんばれマイ。
「出走・・・!」
マイ達が走り出す。マイは逃げ。土を巻き上げながら走っている。
「いけ・・・!マイ・・・!」
ドドドっとレースが進む。だがしかし、マイは徐々に差を詰められ、残り200のところで抜かされてしまう。
「ああ・・・マイ・・・」
そのままゴール、マイは2着。残念だったな・・・
「まぁ初戦だし、帰ったら励ましてやろう。」
そうしよう。しかし腹減ったな。
「ナースコールでお昼ご飯もらえないか聞いてみるか。」
ぴ。
「はーい。」
すぐ来た。もしかして見張ってた?
「少しお腹が空いてしまって・・・お昼食べてないので・・・」
「あーそうですか。ちょっと先生に聞いてみますね。」
「はい。」
そして幾分待つ。医師が来た、何度も申し訳ない。
「ご飯が食べたいとの事ですが・・・すみませんまだ待ってください。」
「ええ・・・」
「調整液が体内に残っているので、排出されないと消化不良を起こすんです。申し訳ない。」
「なるほど・・・」
「今日明日は絶食です。」
「あ、明日も・・・」
「申し訳ない・・・水は飲んでいいので。でも大量に飲んじゃだめですよ。」
「はい・・・」
まいったな・・・絶食か・・・つらい・・・
「はぁ・・・」
仕方ない。だが眠くもないので暇だ。
「ウマホで動画見るか。」
そして時間を潰しを開始した。入院って大変。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
1週間後。退院。
「ふぅーーー・・・」
入院・・・退屈だった・・・まぁでもこれで終わりだと思う。もう走れるっていうし。
「おーいミカ君ー」
「やよいー」
やよいが迎えに来てくれた。忙しいのに申し訳ない。
「研究所から報告書を受け取った。もう・・・大丈夫だな!」
「ああ!」
「では帰ろう。みんな待っているぞ。」
「わかった。」
トレセンまで1時間。たづなの運転する車で帰った。そして寮に荷物を置き、青木の元へ。
「青木、ただいま。」
「あ!ミカさん!」
「ミカさん!」
「マイ、バクシンオー先輩、ただいま。」
「おまちしていましたわー!!」
マイが飛び込んできてハグする。ちょっと汗の匂いする。それとシャンプーの匂いも。今日のトレーニングは終わったのか。
「マイ・・・メイクデビュー、残念だったな・・・」
「もう本当に悔しかったですわ。次こそ絶対勝ちます。」
「その意気だ。」
「ミカ。」
「青木。」
「おかえり、大丈夫かい?」
「ああ・・・もう大丈夫。走れる。」
「!!」
走れると言った瞬間、マイとバクシンオー先輩の雰囲気が変わった。どうした?
「ミカさん・・・それ、本当ですの?」
「ああ。俺は、走れる。」
「わーっはっはっはっは!!!ミカさん!!!ならば早速併走です!!!トレーナーさん!!!」
「バクシンオー今日のトレーニングは終わっただろ。」
「もう一回行けばいいのです!」
「ばかもん。」
青木のチョップを受けバクシンオー先輩はうおーと唸っている。
「そうか。ミカ。走れるのか。」
「ああ。医師にも確認を取った。大丈夫。」
「そうか・・・じゃあまず通過儀礼がある。」
「通過儀礼?」
「ああ・・・距離適正を測るんだ。」
「・・・なるほど。」
「まず担当契約したウマ娘はトレーナーと距離適正を測る。ミカはこれをやるぞ!!」
「わかった。」
「とりあえず今日は終わりだから。明日からね。みんな解散。」
「はーい!」
「お疲れ様でしたわ。」
「ミカも帰りな。」
「ああ。」
そして寮に戻ろう・・・とした時、ピロンと通知が。生徒会長だ。
「なんだ・・・?」
見ると、退院したと聞いた。良ければ生徒会に顔を出してくれないか?とのこと。まぁいいか。行こう。
⏰
生徒会室。
「入れ。」
「失礼します。」
いつもと変わらない生徒会室。生徒会長は仕事が一段落したのかマグカップで何か飲んでくつろいでいる。
「やぁミカ君。退院おめでとう。」
「ありがとうございます。」
「まぁ座ってくれ。」
「はい。」
ソファーに座る。今日はエアグルーヴ先輩はいないらしい。
「アイスコーヒーでいいかな?」
「ああ、いえ、お構いなく。」
「そう遠慮するな。ガムシロップは2個でミルクはいらないんだったな?」
「あ、はい。」
生徒会長が隣の部屋からアイスコーヒーを持ってきてくれる。ありがとうございますと一口。今日は味わかる。
「それで・・・聞くべきか迷ったが・・・今回はどういう入院だったんだ?」
「あー・・・」
生徒会長には改造されてるって話してるし。まぁ話してもいいか。
「遺伝子調整です。」
「なに・・・!?」
「まぁ終わったんで。走れる様になりました。」
「遺伝子調整・・・そうか・・・」
生徒会長はふんぞり返って大きくため息を吐く。
「ハリボテエレジーを思い出すな・・・」
「生徒会長も知ってましたか。」
「ああ・・・痛ましい・・・本当に・・・衝撃的な事故だった。」
「・・・ハリボテエレジーの最後・・・ですか。」
「ああ・・・正直今でもトラウマになってる者は少なくない。レースに恐怖を抱き、学園を去った者もいたそうだ。」
「そんなに。」
「ああ・・・」」
「・・・どんな事件だったんですか。」
「・・・東京レース場・・・G2、青葉賞でそれは起きた。」
「・・・。」
「快晴で・・・絶賛のレース日和。それにハリボテエレジーは出走した。」
「・・・。」
「走り出してすぐは何も異常は無かった・・・だが・・・第三コーナーで、それは起こった。」
「・・・ごくり。」
「ハリボテエレジーは・・・曲がりきれず、体を千切り飛ばしたんだ・・・」
「・・・!?」
「芝の上に溢れる鮮血・・・テレビでもそれを映していた・・・お茶の間に、衝撃映像なんてレベルじゃない映像を流した・・・正直、私もトラウマだ・・・あまり思い出したくない・・・」
「・・・すみません。」
「うぷ・・・」
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫・・・今でもハッキリ思い出せる・・・観客の歓声が悲鳴に変わり・・・阿鼻叫喚の渦に落とされた・・・それからだ。ハリボテエレジーの事が調べられ、人間だった事。体を極限まで改造していた事。そして・・・違法研究所の事。世間は大騒ぎになった。漫画の世界のような違法研究所が実際に存在していたのだから。」
「・・・そうですか。」
「ああ・・・その時捜索され大分摘発されたと思っていたが・・・まだ残っていて、君を生み出すとは・・・」
「ですね・・・」
「まぁ、君はそんなことには絶対させない。」
「ええ。俺も御免です。」
アイスコーヒーを飲む。すごいな・・・ハリボテエレジーは・・・
「君は走れると言ったな。ハリボテエレジーの事もあるから君はなるべく走らせたくないんだが・・・」
「え・・・まぁ友人と走るくらいなら許可してくれますよね。」
「そうだな。真剣なレースは止めさせてもらう。」
「それは・・・まぁ・・・仕方ない・・・か・・・」
「頼んだよ。ほんとに。」
まぁガチンコレースになる様なことはないだろ。ちょっと和気藹々と走るだけだ。
「アイスコーヒー、ご馳走様でした。」
「ああ。困った事があったらいつでも来たまえ。」
「はい。」
こうして生徒会室を後にし、寮に戻った。ご飯まではまだ時間あるな。ロック先輩も戻って来てないし。何しようかな。
「あ。」
ホルモン注射!してない!俺は急いで引き出しから注射器を取り出し1発。ちく。
「よし。」
もう一本。間違えないように。今のは女性ホルモンの注射だった次はウマ娘ホルモンの注射。ちく。
「・・・ふぅ。」
危なかった。必ずお昼にやる様にと言われてたんだった。大分遅いが忘れるよりは良い。
「ただいまー。」
「あ、ロック先輩。お帰りなさい。」
「ミカ!!!!!」
「声でか・・・」
ロック先輩はキマッたリーゼントを振り乱しながら俺に抱きついた。苦しい。
「ミカ!!!おかえり!!!おかえり!!!!」
「ぐぅう・・・」
「おっと、大丈夫か?」
「ああ。はい。」
「ミカは大変だな・・・また入院なんてよ。」
「ええ、でも今回の入院ですごく良くなりました。走れますよ!」
「何!?走れるのか!?」
ロック先輩は目を見開いた。
「で、でもだ・・・まだ心配だ・・・ミカは・・・普通じゃねぇ・・・」
「ええ、でも今回は医師のお墨付きもありますよ。」
「だけどよ・・・アタシは反対だ。トレセンにいる以上走らねーのも問題だと思うが走ってミカになんかあった時の方がこえぇ。」
「ですが・・・ロック先輩とも走れると思ったんですが・・・」
「そりゃ。おめー。そりゃ嬉しいが。アタシは走れるってなってすぐ走るのは不安がつえーよ。楽しめねぇよ。」
「そうですか・・・」
「もうちょっと落ち着いたらだな。」
「・・・はい。」
「じゃ、飯行くか。」
「はい。」
そうしてロック先輩とご飯に行った。いつも通り風呂に行き、おしゃべりしてベッドに入る。明日は距離適正を測るのか。楽しみだ。
「示せ。」
「示せ。」
「示せ。」
「ウマ娘にあらぬ者よ。」
「ウマ娘になりたい者よ。」
「ウマ娘でありたい者よ。」
「示せ。在り方を。」
「示せ。本来の力を。」
「示せ。願いを。」
「その時は。」
「その時は。」
「その時は。」
「力をやろう。」
「体をやろう。」
「心をやろう。」