一応、お話は前回から連続しております。
「ふああ……ん? どうした? 漂泊者。そんな険しい顔して」
「アブ? ああ、朝起きたらホテルの人にこんな手紙を渡されてさ」
俺らは記憶を取り戻す旅の道中でリナシータへ行くことになり、そこでとある一件を解決してからは招待状を貰った賓客としてホテルに泊まっていた。
「手紙? どれどれ……『パドリーノ』? ってことはモンテリファミリーか?」
モンテリファミリーとは、ここリナシータに拠点を構える組織で、先のとある一件にも大きく関わることになった団体である。
特に、手紙の送り主である『パドリーノ』はそのモンテリファミリーのトップであり、彼の娘であるカルロッタとも最近はスーツを見繕ってもらうというイベント事があった。
「ああ、そうみたいだな……でも手紙の内容はこれだけみたいだ」
モンテリファミリーの名前に相応しい重厚感ある封蝋を剥がすと、入っていたのは数行しか文字が書かれていないたった一枚の紙だった。
「『漂泊者へ 近頃カルロッタが不機嫌なんだ。頼んだ任務はちゃんとこなしてくれるんだが、何を話しても上の空な様子でね。』……もう寝てもいいか? 大事かと思ってびっくりしたぜ」
「……多分、大丈夫だろう。おやすみ、アブ」
アブが読み上げた部分はどうも思春期の娘を抱えた父親の悩みを打ち明けているような内容で、『パドリーノ』からの言葉とは思えなかったのか堪らずアブが自分の手元に戻ってしまう。
「えっと、『これが事件前なら娘の成長のためと思って余計なお世話はしないんだが、ある程度落ち着いた今、何がカルロッタを悩ませているのか心配でね。』……なんとなく読めてきたぞ」
何事にも動じなさそうな『パドリーノ』らしくない言い草とは裏腹に、『パドリーノ』の不安が手紙の文字の行末に『でね。』が繰り返されていることから窺えた。
「『そこで漂泊者、君がこの間カルロッタと買い物に出かけたと聞いたんだ。そんな君に1つお願いをしたい。カルロッタの悩みをそれとなく探ってくれないか?』」
文字で見ると簡単に聞こえるが中々難しそうな依頼である。
「『もちろん、その過程で発生した金銭のやり取りは全てモンテリファミリーが補填しよう』……なるほど、そうきたか」
つまり具体的には、カルロッタを遊びに誘って雑談を交えながら悩みの種を探し、書かれてはないがあわよくば解決まで図ってほしいというところまで『パドリーノ』のお願いなのだろう。
「スーツの件のお礼、ということで遊びに誘う口実には困らないけど……」
問題はどこへ出かけて何をするかである。
「それに、前に会ったときは不機嫌な様子には見えなかったんだよな……」
その『パドリーノ』の言うカルロッタの不機嫌についても皆目見当もつかない。
「劇を見に行く、は中々話す時間がないし、お茶をする、だとちょっと明け透けか? 難しいな」
体を動かしに出かける、というのもカルロッタの悩みの種は探せそうにないような気がする。
「あ、もしかしてこれなら……いやでも、厳しいか?」
あらゆる可能性を頭の中で浮かべた結果、実行可能かはさておいてある名案が出てきた。
「ここからブラックショア……航路の問題はナビゲートしてもらえれば行けるかな」
思い立ったが吉日、この名案を実行に移すための用意としてブラックショアのメンバーに連絡をとる。
幸い、前回の渡航で起こった霧への対処もできるということなので、厚意に甘えてラグーナ城からブラックショアまでのナビゲートをお願いした。
「よし、あとは……」
最後の壁であるカルロッタがそもそも遊びに行かないと言ったらこの計画はご破算になる。
なんとか上手くいってくれと思いながらカルロッタへメッセージを飛ばした。
「もしもし、カルロッタ? 俺、漂泊者だけど……」