動物愛護施設代表の俺、人間嫌いの神獣たちからドロドロに愛される 〜地位の低い非戦闘系職業だったのに、なぜか『破滅の使徒』なんて物騒な職が生えてきた〜   作:mench

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2話 人語を解する魔獣たち

 

 ――動物愛護施設『希望の庭』。

 

 王都の外縁部に居を構えるここは、かねてより俺が創設を目論んでいた、動物や魔獣を保護するための施設だ。

 

 この世界には、人間と家族同然に生きる動物・魔獣がいる中で、粗雑に扱われ命を落とすものも数え消えれないほど多い。たしかに人に害をもたらす魔獣なんかの駆除は仕方ない面もあるが、基本的には必要最小限であるべきだと俺は思う。

 

 だけど、実際は人に比べてその権利はなんら守られておらず、私利私欲のために安全を脅かされる動物・魔獣のなんと多いことか。

 

 そんな現状を憂いて、幼いころから魔獣と家族として過ごした経験を持つ俺が、彼ら彼女らを守り、権利の向上を目指すために作った施設。

 

 ――その建物の、応接室の中で。

 

 不審者がやってきて、ルウに撃退された明くる日の今日。

 

 俺はいま、四体の魔獣を前に口を開く。

 

「――ルウの言葉を信じるなら。お前たちはみんな、人と同じか、それ以上の知性を持った存在ってことだけど……」

 

 俺は四体へ順番に視線を向ける。

 

 まず始め。俺の目の前にお座りして、足に頭をこすりつけてくるふわふわの塊。今回の問題の発端である、嵐狼《フェンリル》のルウ。

 

「あおおおぉぉぉん」

 

「あ、こら! 遠吠えは周りの迷惑だからやめなさい! というかルウ、お前人語喋れるだろ!」

 

「しゃべれるよ? でも、こっちのほうが楽。わおん」

 

 俺は未だに慣れないルウの言葉に、一瞬びくっとしてしまう。

 

 ……狼の姿で急に人の声を発するものだからどうも落ち着かない。しかも、鈴の鳴るような少女の声だというのだから、まだあの人の姿の方が違和感も少ない。

 

 俺はべたべたとくっついてくるルウに思わず和みながら、まだまだ話は続くと気を引き締めた。

 

 そして、絡みついてくるルウを無視して、他の三体へと視線を向けた。

 

「それで」

 

 ――俺の視線の先には、いずれも普通の動物とは異なる特徴を持つ魔獣たちがいる。

 

 一体は、ソファの背もたれにとまる一羽のカラス。その身体はまるで濡れたように艶々した漆黒で、上質なビロードのように滑らかだ。大きさも普通のカラスより一回りは大きく、貫禄を感じる仕草で毛づくろいしている。

 

 そして、その一番の特徴は。ソファについた足の数が――三本あるということ。

 

 俺はそのカラス、クレハに向かって問いかける。

 

「クレハ。お前も……喋れるのか?」

 

 そして、返ってきたのは。

 

「――もちろん、喋れるとも」

 

「――!」

 

 俺は思わず息を呑む。たしかにクレハはここの魔獣の中でも人一倍賢いと。それこそ、そこらの人間よりはるかにものを理解していると、そう思っていたけれど。

 

 こうして、カラスの姿から流暢な女性の声を聞くと、思わず狼狽えてしまう。

 

 そんな僕を見て、クレハは少し不快そうに目を細めた。

 

「そうあからさまな顔をされては、ね。ボクはこれまでのボクと何も変わっていないつもりだし、オスカーにもこれまで通りにいてもらいたいものだけれど」

 

「あ、ああ。たしかに、そうだな。悪かったよ……」

 

 俺はクレハに頭を下げる。その高い知性の宿った瞳に、わずかに悲しみの色があることに気づかないはずもない。

 

 そうだ。言葉を喋ったって、これまでとそう変わるわけじゃない。クレハはもともと俺の言葉を理解して、喋りはしないものの意思疎通を取っていたじゃないか。

 

 それに……一羽でいるのを好むくせに、ときおりわざわざ俺の視界に入るところへ来て羽を休める――そんな、どこか素直じゃなくて可愛い俺の家族だ。

 

 俺は改めてクレハに向かって口を開く。

 

「その、ごめんな。急に言葉を喋ったからびっくりしちゃったけど、それでこれまでよりひどい扱いをなんて、そんなことは絶対にしないから。……ただ。人の言葉を喋れるなら、早く言って欲しかったって思いはあるけど」

 

 俺の苦笑いを見て、クレハはむむむと唸る。

 

「……それは、こちらも悪かったよ。ずっと普通のカラスの真似をしていたものだから、どうにも話し出すきっかけが無くてね」

 

 ふむ、そんなものか、と。俺はそう納得して、今度は残りの二体へと目を向ける。

 

「タマとサラも同じような感じなのか?」

 

 俺の言葉に、床の上の二体――白金の毛皮をもつ九尾の狐のタマと、熱くない炎を身にまとったトカゲのサラが反応する。

 

 タマは優美な流し目を寄越して答えた。

 

「そうね。私はべつに……ただ、わざわざ話す必要を感じなかっただけかな。オスカーとは、ただの飼い主と飼い狐の関係だし」

 

「それは……どういう意味だ?」

 

 クールなタマに首を傾げる俺へ、ソファの上からクレハが答える。

 

「さしずめ……言葉を越えた主従の関係、ってところかな? タマは人一倍キミのことを気に入っているからね」

 

「……違いますけど!? そうじゃなくって、もっとこう……義務的な関係ってコト! あ、オスカーも、主人だからって私を好きにできるとは思わないようにね。わたしそんな安い女じゃないから」

 

「と、顔を赤くしていってもね」

 

 クレハの突っ込みに、機嫌悪そうに睨み返すタマ。

 

 うん、うん。たしかに、さっきのクレハの言う通りだ。言葉を話したって、これまで俺たちが培ってきた関係が消えたわけじゃない。

 

 人一倍優雅で自由なタマだが、その実どこか寂しがりなところもあって……。とにかく、俺の知っているタマそのものだ。満足して頷く俺を嫌そうに見るタマだが、そんなところもかわいいものだった。

 

 そして。最後に残ったのが……。

 

「サラはどうだ?」

 

 俺がそう問いかけたのは、部屋の中で穏やかに燃えるトカゲ。どう見ても普通じゃない見た目のサラだった。

 

 もはやここまでくれば、ルウの言葉を嘘だと疑う余地はない。他のみんながそうだったように、当然サラも人の言葉を話せるのだろう、と。

 

 そう、覚悟していたからだろう。

 

 俺はサラが発した声を聞いても、先ほどまでよりずっと落ち着いていた。

 

「――わたしは……話すの、得意じゃない」

 

 そんな、ほわほわとした少女の声。クレハやタマと違って、どこかおっとりとした感じ。

 

 なるほど、やっぱりサラはそんな感じか。普段からけっこうのんびりした感じだもんな。

 

 彼女も俺が想像していたのとそう変わらない、と。俺はいつもみたいに笑ってサラに言った。

 

「そっか。べつに、得意じゃなかったらこれまで通りでもいいからな。無理に話そうとしなくたって、俺たちは家族なんだから」

 

「……ん。ありがと」

 

 ほわっと、柔らかく礼を言って。またサラはいつものように、静かにこちらを見つめる。

 

 ――そんな、四体を見て。

 

 俺は改めて、全員に向かって告げる。

 

「みんなも。わざわざこれまでと接し方を変えたりなんて、しなくてもいいからな」

 

 そう、親切心から伝えてあげたのだけれど。

 

 何か気に食わなかったのか……足元でじゃれついていたルウが、おもむろに俺の足をはなして立ちあがる。さらに、にわかに淡い青色の光を放ち、その身体がぐぐっと縦に伸びた。

 

 そうして現れたのは――。

 

「おお……。またその人間形態か。どうかしたか? ルウ」

 

「……」

 

 耳と尻尾を生やした、ふわふわな灰色の髪の女の子。不審者を見事凍結させたときの姿に変わったルウが、不満げに俺を見上げる。そして、言った。

 

「――これまで通りは、ヤダ」

 

「え? そりゃまた……なんで?」

 

「せっかくオスカーにほんとのこと言えたんだから。これまではできなかったことしたい」

 

「ええ? これまでできなかったことって――うわ!」

 

 俺は思わず驚きに声を上げた。なぜなら。

 

 突然、少女の姿をしたルウが、俺に突っ込んできたのだ。

 

「っと……!」

 

 ぎゅうっと抱き着いてくるルウを抱き留め、勢いあまってたたらを踏む。俺は腕の中の、普段とは少し違うやわらかな感触にすこしどぎまぎしてしまう。

 

 ルウが俺を見上げて言った。

 

「人間同士は、こうやって親愛を深める! ――だよね? わたし、ずっとこうしてみたかったの」

 

 ルウは目を細め、気持ちよさそうに俺に胸に頬をこすりつける。

 

 これまで通りじゃなくってのがどういう意味かと思ったら。狼のときと、やってることそんな変わらん気もするが……。

 

 幸福そうな表情のルウを見て、思わずこちらも頬が緩んでしまう。俺の胸に温かな気持ちが満ちる。

 

 だから。俺は、こんなことでいいのならと。

 

 腕の中の少女へ笑いかけ、口を開いた。

 

「――ルウがそうしたいなら。遠慮せず、いつでもおいで」

 

 「家族なんだから」と。俺はそう言って、ぎゅうっと抱き着いてくるルウを、強く抱きしめ返すのだった。

 

 

 

 そうして。

 

 昨日から引き続き、驚きだらけの時間だったけれど。

 

 希望の家の家族とこれまで以上に仲良くなれそうだと、俺はそんな前向きで明るい気持ちを抱きながら。

 

 ――施設の扉を叩く来客の報せを聞き、先の四体と連れたって応接室を出る。

 

 そして、扉の先に待っていた、王国役人から聞かされるのだ。

 

 

 ――――この動物愛護施設『希望の庭』が……非営利団体の認可を一時取消にされたという、その言葉を。

 

 

 

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