動物愛護施設代表の俺、人間嫌いの神獣たちからドロドロに愛される 〜地位の低い非戦闘系職業だったのに、なぜか『破滅の使徒』なんて物騒な職が生えてきた〜 作:mench
その後。
受付嬢に魔獣使い資格を取得したいと申し出た俺は、試験会場である講義室に通された。そうして、規定の時間になるまでそこで待たされる。
学校のようにいくつも机が並べられた部屋で、他の受験者たちに混じって適当な机に座る。
――魔獣使い資格。それは、危険な魔獣をきちんと制御できる技能があると公的に証明するための資格だ。
べつに、そんな資格がなくとも魔獣を捕えて使役すること自体はできる。
ではなんの意味があるのかというと、例えば個別の使役獣登録を免除されるだとか、冒険者パーティを組む際の技能証明に使えるだとか……あとは俺のように、魔獣の管理者として国へ届出を出す際の条件になったりだとか。
冒険者には魔獣を扱う者が結構いるため、意外と役に立つ資格なのだ。
実際、今日のこの免許発行のための試験も参加者はそれなりにおり、講義室の机は半分ほど埋まっている。試験は週一回の開催なので、この日を待っていた者がそれなりにいるのだろう。
俺も資格取得が必要と役人に言われ、昨日の今日でやってきたわけだが……実は、かねてよりこの資格はいつか取得しようと考えていた。外縁部はけっこう規制が緩いので、これまで資格がなくともやってこられたが、活動の幅を広げるためにも資格があった方がと考えていたのだ。
だから、ちゃんと勉強もしていたし、いい機会だからと。
そうして、部屋に入ってくる受験者たちを何とはなしに見ていると。
――あれは。さっきの、小鬼を連れた……。
俺は講義室に入ってきた大柄な男に注目する。それは先の列で見た、傷だらけの小鬼を連れた冒険者だ。彼も免許を欲してやってきていたらしい。
男は横柄な態度でのしのし歩き、俺より前のてきとうな椅子に腰を下ろす。
……しかし。やっぱり改めて見ても……まともに扱われているとはとても思えない。
俺の視線の先には、座席に着いた男の隣で、床に腰を下ろす小鬼がいる。どこかおどおどとした様子で、しきりに主である男のことを気にしている。
さらに。
「――さっきからうっとおしいな。ちらちら見てんじゃねえ……!」
「なっ……」
俺の見ている前で。男は急に小鬼に怒り、その拳を振り上げた。そして小さな頭へと振り下ろす。
小鬼は痛みに小さな呻き声を上げ、うずくまってしまった。
机の上に乗っていたクレハが、目を細めて口を開く。
「ふむ。べつに小鬼に仲間意識などないが……あのことさら低俗な人間はひどく不快だね」
「ああ……あれはさすがに。ちょっと、声をかけてくる」
「ふうん? あまり面倒ごとに首を突っ込まないほうがいいと思うが、オスカーだものね。まったく……お人好しとはこのことだ」
やれやれと、クレハが仕方ないことのように首を振る。そうして、立ちあがった俺の肩に飛び乗ると言った。
「ボクも行こう。キミひとりだと心配――頼りないからね」
「ああ、ありがとう。もし俺がぼこぼこにされそうだったら……そのときは頼むよ」
そうして、大柄な男の方へ足を進めようとした、その時だった。
講義室の戸が開き、ひとりの男が入ってくる。彼は魔獣を連れておらず、講義室の一番前、教壇の後ろにまっすぐ向かった後、俺たちに向けて言った。
「――時間になりましたので、これより魔獣使い資格、および免状の支給にかかる試験を始めたいと思います。席についていない方はお座りください」
どうやら、彼は試験官らしい。立ちあがったばかりの俺に目を向けると、試験開始のため着席するよう促してくる。
さっきから、どうもタイミングが悪いなあ。……まあ、この後でも話す機会はあるだろうし、今は試験官の言うことを聞こう。
そう、考え。俺は再び座席へつく。
それを見た試験官は満足そうにうなずくと、講義室に集まった俺たちに告げた。
「では、まずは筆記試験から開始します。これから解答用紙を配るので、合図があるまで裏返したままでお願いします」
試験官は手にしていた紙束を各席に配り始める。そうして、魔獣使い資格の取得試験が幕を開けた。
――筆記試験終了の合図とともに。講義室中から聞こえる、ペンを机に置く音。
試験官が言った。
「これからひとりずつ解答用紙を回収しますので、ペンに触れないよう待機してください」
試験官は各座席を周り、答えの書かれた用紙を手に取っていく。俺の机からも回収され、また別の机へと移っていく。
俺は机の上のクレハに声をかける。
「退屈だったろ。寝ててくれても良かったのに」
「ふふ、べつにいいさ。キミが試験に悪戦苦闘する珍しい姿を見るのも、なかなかに楽しかったからね」
そんなの見てても楽しくなかろうに。
俺が呆れていると、クレハは「それよりも」と続ける。
「問題はちゃんと解けたのかい? 最悪、ボクが他の受験者の答えを盗み見てキミに伝えたって良かったんだけど」
「いや、さすがにそれはダメだろ。それに、そんなことしなくたって十分な点は取れてるはずだよ。……今回のことがなくったって、もともとこの資格は取るつもりだったんだ」
「ふうん?」
「その方が、なにかと施設の運営がやりやすそうだったから。クレハや他のみんなが不自由なく生活できるよう、俺にできることはちゃんとしないと…………なんて思ってた矢先に、こんなことになっちゃったんだけど」
俺は情けないやらなんやらで、つい自嘲するように笑みを見せてしまう。
しかし、クレハそんな俺に優しく言ってくれた。
「何度か言ったけれど、それはオスカーのせいじゃないさ。もとはと言えば、ルウがちゃんと加減してればこんなことにはならなかったんだからね」
「でも、ルウだって力を抑えるためにわざわざ人の姿になってくれたって話だし。緊急時で、もともと人間のことも得意じゃないのに、施設や俺の評判を気にしてくれて。俺がひとりで対処できてれば良かったんだけど……」
もっと俺が強ければなあ……。
つい、ないものねだりでそんなことを思ってしまっていると。
意外そうに目を開けたクレハが、ぼそりと呟く。
「へえ。キミも、強くなりたいなんて思っていたんだね。てっきりそういうことに興味がないのかと思っていたけど。……でもそうか。優しいキミのことだからね。ちょっとタマに念話で相談してみるか……」
最後の方は何を言っているのかよく聞こえなかったが……。
しかし、聞き返そうとしたその時、講義室全体に向かって声がかかる。
「――解答用紙の回収は終わりました。次は実技試験に移ります。部屋を変えるので、みなさん私に着いてきてください」
教壇からそう告げた試験官は、集めた解答用紙を手に、俺たちが席を立つのを待つ。そうして準備が整ったら、部屋の戸を開けて外へと出ていく。
俺たちはみなぞろぞろと続いて、講義室を後にするのであった。