動物愛護施設代表の俺、人間嫌いの神獣たちからドロドロに愛される 〜地位の低い非戦闘系職業だったのに、なぜか『破滅の使徒』なんて物騒な職が生えてきた〜 作:mench
クレハによって、なにやら怪しい儀式を受けたその後。
いったい何をしたのかと問いかけると、「ちょっと力を分けてあげただけだよ」と。そんなよく分からないことを言って、またカラスの姿に戻るクレハ。
確かに、身体に何か熱い力がみなぎっているような気がするが……。
怪訝な顔をしていただろう俺に、クレハが言った。
「いまキミに渡したのは、ボクの魂のカケラだよ。これでも、それなりに格のある八咫烏だからね。魂の一部でも取り込めば、魔力の増加だったり、キミの身体に合った形で力が発現したりするはずだ」
「魂!? そんなもの渡してクレハは大丈夫なのか? というか、八咫烏ってのは……」
衝撃的な説明に、次々と疑問が出てくる。
しかし、そんな俺にクレハは言った。
「もっと詳しいことが知りたいなら、また施設に帰ってからにしよう。そろそろ試験の合格発表もあるだろう」
「……うーん、まあ、そうだな。わかった」
色々釈然としないが……。いまはクレハの言葉に従うことにする。
俺はまたカラスに戻ったクレハを肩に乗せ、先ほどまでいたロビーへ向かって歩を進める。
そして、何人もの冒険者たちを見て、気がつく。
――おお……。なんか、みんなの身体から感じる熱……これが魔力か?
もともと俺には魔力なんて少ししか無かった。だけど、いまは確かに自分の中に大きな力を感じるし、周りの人にも同じ熱があると分かるようになった。
そして。実はこの場において、俺の肩に乗るクレハがダントツで巨大な熱を抱えていると、今なら分かる。
……クレハってもしかして、めちゃくちゃ強い魔獣なのでは。
俺が向ける視線をどう思ったのか。クレハは俺を見つめ返し、「どうかしたかい?」と優しく聞いてくる。
……よし。さっきクレハも言っていたし、とりあえず聞きたいことは帰ってからまとめてだな。
いろんな疑問をとりあえず棚上げした俺は、クレハに「なんでもない」と返し、合格発表待ちの受験者が集まる一角へと向かった。
そうして、先ほどまでいた場所へと帰ってきた俺は。ちょうど、あの試験官がこちらへやって来る姿を目にする。
試験官は手に一枚の紙を持っており、それをロビーの壁にある掲示板の端に貼り付けると、俺たちへ告げた。
「――みなさん。試験の採点が終わりましたので、結果を貼り出させてもらいました。ここに名前がある方は合格ですので、受付で残りの手続きを進めてもらうようお願いします」
にわかにざわつく受験者たち。
そうして、試験官はそれだけ言うと踵を返し、さっさとこの場を去っていった。そしてその直後、受験者たちが掲示板に殺到する。
その波に巻き込まれないよう少し遅れて掲示板へ向かう俺は、前方の受験者たちを見回した。
――あの大柄な男がいない……。トイレにでも行ったかな。
俺はきょろきょろと視線をさまよわせ、首を傾げる。
今度こそあの小鬼のことで話をと思ったのに。やっぱりタイミングが悪い……。
仕方がないので、話をするのはまた彼が戻ってきてからだ。
俺はその前に、と。前に並ぶ受験者たちにならって、自分の試験結果を確認に向かう。
人が集る掲示板前で、空いた隙間に頭を突っ込み、貼り出された紙を眺める。
ざらついた紙の表面には、すこし滲んだ字が書かれている。それは今回の試験を受けたものたちの中で、合格の判を押された者の名前だ。
俺は紙に書かれた名前を上から確認して、そして――。
「あった。俺の名前だ……」
そこに書かれていたのは、オスカー・ウォークの名。すなわち、今回の魔獣使い資格試験で、俺に言い渡された結果は――合格だ。
すかさず、肩の上から祝福が届く。
「合格おめでとう、オスカー。ボクが協力したのだから当然のことだけれどね」
「ああ、クレハのお陰だよ。ほんとに助かった、ありがとう……!」
「あ、ああ、うん。そう、素直にお礼を言われるとね……」
なにやら肩で照れるクレハ。
しかし、実際この合格の少なくとも半分は、間違いなくクレハのお陰だ。
他の受験者に比べて圧倒的に有利なのだから、合格できるだろうとは思っていたが……。実際こうして結果が出ると嬉しいものだ。
それに。施設の再認可のため失敗はできなかったから、無事資格を取れてホッとした気持ちも大きい。
俺の周りでも、喜びをあらわにする受験者がいる一方で、力なくうなだれる者もいる。
周りを見るついでに、あの小鬼の主が戻っていないか確認するも、どこにもいない……。
仕方ない、先に合格後の手続きを終わらせてしまおう。
俺はまだ合格者が動いていないうちにと、受付口へ向かった。
受験前よりだいぶ人が減った受付で、空いている受付嬢の前に立つ。用向きを問う受付嬢に俺は言った。
「すみません。今日の魔獣使い資格試験に合格したので、手続きをお願いしたいんですが」
「合格されたんですね! おめでとうございます。では、魔獣使い登録と免状の発行ですね。お客様は冒険者登録をお済ませですか?」
「はい」
「では冒険者証をお借りできますか? 資格情報を登録しますので、冒険者証が免状の代わりとなります」
なるほど、そんな仕組みなのか……。
俺は感心しながら、首にかけていた金属のタグを手渡す。受付嬢はそれを板状の魔道具の上に設置すると、何やら細かく指を動かして操作した。
「……はい、あとはこれで天職と魔力量の鑑定を済ませれば、資格情報が冒険者証へ登録されますので! ちなみに、あんまり魔力が少ないと制限付きの資格情報しか発行できませんからね」
受付嬢は板状の魔道具とセットの、ちょうど手で握れる大きさをした棒状の魔道具を渡してくる。
数年前に冒険者として活動していたときもこの魔道具を使っていた。これを用いることで、冒険者の魔力値、そして天職を診断できるという優れものだ。
魔獣使いの資格に関係ないようにも思えるが、実はそんなこともない。基本的に、冒険者の戦闘力の目安には魔力量が使われることが多く、それが低いと魔獣を御しきる力が足りないとされるので、制限なしの資格を手に入れることはできない。たまたま優秀な魔獣と仲良くなれただけの者は、それ以外の魔獣を操りきれずに問題を起こす懸念があるから、そのリスク排除のため仕方のない対応である。
ただ、もとの俺程度の魔力量でも、たしか問題はなかったはず。結局身体強化が発動できるくらい魔力があればいいという、比較的緩い基準なのだ。
それなら、さっさと測定して手続きを終わらそうと。俺はそんな軽い気持ちで、受け取った魔道具を片手で握った。
そして。
――異変が起きたのは、その直後だった。
「え……。――ええ!?」
突如、声を上げる受付嬢。その目は見開き、大きく開けた口に手を当てている。
彼女は診断結果が表示されるあの板状の魔道具を見つめ、驚愕していた。
何かまずいことがあったのか――まさか、制限なしの資格登録ができないほど悪かったのかと、受付嬢へ声をかけた。
「あの、どうかしましたか? 結果になにかおかしいところがありましたか?」
その問いかけに、受付嬢はゆっくりとこちらを見る。そして、魔道具と俺の顔を何度も見比べ、恐る恐るといった感じで口を開いた。
「あの……ウォーク様は、ランカーの方、ですか?」
「え? ランカー?」
思わず聞き返してしまったが、しかしそれも仕方ない。なぜなら、受付嬢が口にしたランカーとは、いわゆる最高位の冒険者――冒険者ギルドにおけるランキングで上位の者を指すからだ。
俺なんて万年ランク5万位台で、最底辺……とまでは言わなくても、中堅になれるかどうかといった程度の冒険者。一般的にランカーとは上位1000位以内を指すので、俺にとっては雲の上の存在だ。
しかし、受付嬢がそんなことを聞いてきた理由……心当たりは、ある。
俺は先ほど謎の力を託してきた、肩の上のクレハへ視線を向ける。すると、彼女はすかさずぱちりとウインクを寄越してきた。――いや、これ完全にクロだろ。
なんとなく事情が読めた俺だが、しかしこんどはいったいどんな測定結果だったのかと気になる。幾人もの鑑定をこなしてきたであろう百戦錬磨の受付嬢が、これほど狼狽えるほどの……。
ちょっと、早く俺にも見せてはくれないか、と。ランカーのステータスを想像もできない俺がお願いすると。
受付嬢は少々顔を引きつらせながら、魔道具の画面を俺に向けてくれた。
そして、それを見て。
俺も、思わず目を剥いた。
「ま、魔力量のランク826位……? 嘘だろ!?」
そこに表示されていたのは、冒険者ギルドに登録されている全冒険者――10万人と少しの中で、俺が魔力量で順番をつけた際どこに位置するかという数字。
それが826位。文句なしでランカーの値である。
確かに、クレハのおかげでこれまでとは比較にならない魔力を手にした実感はあったものの、まさかこれほどとは思っていなかった。
冒険者ランクは魔力量だけではなく、依頼達成の実績なども加味して総合に算出されるので、魔力量が1000位以内でもランカーというわけではない。だが、だいたいは魔力量のランクと強い相関があるので、受付嬢のこの反応も理解ができた。
しかし。問題は、魔力量だけではない。
魔力量と合わせ、もうひとつ鑑定されるもの――天職。その人物の能力適性がどんな職業か。どんな系統の魔法や技能を身に着けやすいか。その大きな指標である天職は、魔力量と合わせて、戦闘力や冒険者としての格を判断する重要なものだった。
そんな天職だが。もともと、俺の天職は『ブリーダー』というもので、いわゆるあまり世間の受けは良くない非戦闘職だ。内容としては、生き物の飼育や繁殖を行う際の技能を身に着けやすくなるという天職で、俺にとっては役に立つが、世間からの評価はけして高くなかった。
そんな、俺の天職なのだが……いま、魔道具に表示されているのは全く別のもの。ブリーダーの面影もなければ、いったいどんなことに適性があるのかも良く分からないその天職の名は――
――『破滅の使徒』。
ちょっと、あまりにも物騒すぎる。これギルドに知られちゃって大丈夫なやつなんだろうか。
俺は不安になって、恐る恐るこちらを見る受付嬢ににこりと微笑む。返ってきたのは引きつった愛想笑いで、これは魔力量だけの反応じゃないなと、思わずげんなりしてしまう。
冒険者ギルドに目をつけられると面倒そうなのだが、まあ天職の名前だけでどうにかなることはあるまい。
問題は、この天職で何ができるか俺も全く分からないことだ。おそらく過去前例がいないだろう天職で、もしかするとクレハに聞くと何か分かるかも……と、そう考え、また後で話を聞こうと心に決める。
そうして、とにかくこれ以上悪目立ちしないうちに、さっさと手続きを終えようと、そう思った時だった。
俺の背後――ロビーの一角にて。
男の激しい怒声が聞えて、俺は後ろを振り返った。そして、視線の先にいたのは……。
「――ふざけやがって! お前のせいだろうが!」
その声の主は、先ほど俺が探していた人物。あの傷だらけの小鬼を連れた男だ。
彼は試験の合否が書かれた掲示板の前で、顔を赤くして怒鳴り散らし、そしてその拳を振り上げた。
「――この……役立たずが!」
振り下ろされる先には、身体を縮こまらせて怯える小鬼。ぼぐ、と鈍い音を発して、小鬼の頬に拳が刺さる。
――その光景を見て思い出すのは。かつて俺が子どもだった頃、一緒に暮らしていた魔獣が俺をかばって傷を受けたこと。その痛そうな、苦しそうな表情が、視界の中の小鬼のそれとリンクしたその時。
俺の足はもう、勝手に動き出していた。