動物愛護施設代表の俺、人間嫌いの神獣たちからドロドロに愛される 〜地位の低い非戦闘系職業だったのに、なぜか『破滅の使徒』なんて物騒な職が生えてきた〜   作:mench

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9話 タマ先生

 

 

 すでに陽は昇ったはずなのに、薄暗い窓の外。

 

 朝からスッキリしない天気だが、それでも俺の仕事は今日も変わらない。

 

 俺は魔獣・動物たちの部屋に入り、朝ごはんをそれぞれ配置していく。

 

 穏やかな子たちは部屋の中で自由に、まだ慣れていない子、喧嘩しやすい子は檻の中だ。まだ眠っている子も多いが、じきに目覚めて腹を空かせるだろうから、こうして早朝に準備をしている。

 

 この後は汚れた室内やトイレを掃除してあげないと。最近はこれまでの仕事に加え、新しくやらなきゃいけないことが幾つかできたから、あまり時間に余裕がない。

 

 でも。自分の身体に、意識を向けると。

 

 湧き上がる魔力が絶え間なく流動し、俺の体表面を覆っているのがわかる。

 

 漲る力で力仕事が楽になり、ちょっとした家事だってもこれまでより遥かに早く終わらせられるのだ。

 

 でも、タマやクレハに言わせるとまだまだ無駄が多いらしいし、他にも身につける技術があるとのこと。

 

 だから、今日このあとも。午前にやることを終わらせたら、あのふたりからのスパルタ指導だ。

 

 厳しいふたりだが、毎日出来ることが増えていく楽しさに、今から胸を踊らせていると。

 

 背後から近づいてくる、小さな魔力の気配。これは……。

 

 そして、そのすぐ後、つん、つん、と。しゃがんで器にご飯を入れていた俺の服が、後ろから控えめに引っ張られる。

 

 後ろを振り返ると、そこにはいたのは――

 

「――おはよう、サヨ」

 

「おあよぅ」

 

 舌足らずな甘い声で、振り向いた俺にひしっと抱きついてくるその人物。

 

 真っ黒な髪からちょこんと出た小さな突起が、その種族を主張している。

 

 ――クレハと一緒に小夜《サヨ》と名付けた、あの小鬼の少女だ。

 

 別の部屋にいたはずのサヨだが、誰かに危害を加えることもない家族は、自由に家の中を移動できるようにしている。

 

 俺はお腹に顔を押し付けてくるサヨに和みながら、優しく話しかける。

 

「まだ朝早いのに、物音で起こしちゃったか? ごめんな」

 

 そう謝って頭を撫でるが、サヨはぷるぷると首を横に振る。どうしたのかと思っていると、サヨは部屋の外を指差して言った。

 

「たま」

 

「タマ? タマが俺を呼んでるのか」

 

 最近サヨには人の言葉を教えているが、まだサヨを引き取ってから一週間ほど。幾つかの単語は話せるが、当然複雑な文章を話すことなどはできない。

 

 それでも、知能は人の子どもと遜色ないから、限られた単語でもこうして簡単な意思疎通くらいには使えるのだ。

 

「まだちょっとだけ朝の用事が残ってるから、それが終わったらすぐ行く。できるなら、タマには了解とだけ伝えておいてくれ」

 

 そう言うと、こくりと頷いたサヨはもう一度だけ俺に頬を擦り付け、すぐに立ち上がって去っていった。

 

 ……かわいい。自分に子どもができたら、こんな感じだろうか。

 

 俺はそんなことを考えながら。

 

 残った用事を急いで終わらせるべく、身体強化に更なる魔力をくべるのであった。

 

 

 

 それから、三十分ほどかけ、朝の用事をすべて済ませた俺は。

 

 タマのもとへ話を聞きに行き、「遅い」と嫌味を言われて、そして。

 

 曇り空の下、言われるがままにこうして庭まで出てきたところだった。

 

 庭の芝生に四つ足をつけた狐のタマが、不満げに口を開く。

 

「――わざわざ呼んであげたのに、すぐ来ないオスカーにも腹は立つけど。それより……ルウは一体、何しに来たの」

 

 タマが鋭い目線を俺の後に向けた先には、俺より頭一つほど小さな人影。人の姿になったルウがそこにいた。

 

 このふたりあんまり相性良くないんだよなと、心配しながら見守っていると。

 

 ルウは一切悪気のなさそうな顔で言った。

 

「オスカーといっしょにいたいから来たよ。ダメ?」

 

「私がオスカーに用事があって呼んだの。ルウがいたら、またどうせ話の途中で訳わからないことを言って乱入してくるでしょ……!」

 

「うーん。じゃあ、しずかにする。それならいい?」

 

「ほんとにできる!? けっこう大事な用なんだから、邪魔はしないでね!」

 

 そう。だいたいいつもこうなるのだ。

 

 基本自分がしたいようにするルウが、悪気なくタマを刺激する。

 

 タマもタマで、普段は落ち着いて気品のある様子なのに、変に優しいからいちいち全部拾ってしまうのだ。

 

 それが彼女の良いところではあるのだが、もうちょっと上手く受け流すことを覚えるといい気がする。

 

 しかし、そんなことを俺から言えるはずもなく……。

 

 結局ぴいぴいと騒ぎ立てるタマを落ち着かせ、俺は問いかける。

 

「――それで、タマ。俺を呼んだ用ってのは、結局何なんだ?」

 

「ふうううぅ……。――用、用ね。……うん、分かってる。私はオスカーに忠告と助言をあげるために、わざわざこんな朝早くから動いてあげたの」

 

「忠告と、助言……?」

 

 タマの言葉に、首を傾げる。

 

 俺は無言で絡みついてくるルウを撫でながら、「どういうことだ?」と続きを促す。

 

「……その狼、ベタベタ鬱陶しくないの? オスカーもオスカーだよね。まあ、いいけど……。で、詳細ね」

 

 タマはつとめてルウを気にしないよう視線を逸らす。しかしやっぱり気になるようで、ちらちらと目を向けては苛ついた表情をしている。

 

 そんな、態度はきつくともどこか憎めないタマだったが。

 

 一度深くため息を吐いて、その直後。まるで別人のように真剣な顔になったタマが、真っ直ぐ俺を見据えて口を開いた。

 

「結論から言うと。――近く、オスカーに危機が迫る」

 

「俺に……? 危機って、いったいどんな? それに、なんでそんなことがわかるんだ?」

 

「ちょっと待って、順番に説明するから。まず私がこのことを知ったのは、そういう能力を持ってるから。言ってみれば『予知』みたいなものかな」

 

 ――予知! さらっと言ってのけたが、とんでもない能力じゃないか。

 

 確かにそういう未来を覗き見るような能力を持つ者がいると、そう聞いたことはある。例えば、教会にいると言う預言者……。

 

 しかし、そんな能力――未来予知に関する天職を持つような者は、見つかればすぐどこかの組織に拾い上げられ、俺のような一般人が接する機会はないと思っていた。

 

 そんな貴重な力を、タマが……!

 

 驚く俺に気分を良くしたらしいタマは、言葉を続ける。

 

「そういう、私の言うことを一片も疑わないようなところ……嫌いじゃないから。だから、教えてあげるの。このままじゃオスカー、近いうちにかなりの実力者と剣を交えることになるから」

 

「それは……いったいどんな状況で? 相手は誰なんだ?」

 

「そこまでは、わからない……。私の予知はそんなに便利じゃないの。ぼんやりとしたイメージが浮かぶくらいで。もともとそこらの一個人のために使うようなものじゃないし、今回だってかなり無理して…………はいないけどね! べつに!」

 

 ハッとした顔でそう取り繕うタマだが、今はそんなことより気になることがある。

 

 俺が誰かと戦う、その理由。思い当たることはそれほど多くなく、だからこそ心配になった。

 

 慰めるように背をさすってくるルウに、ありがとうと笑みを向け、俺はタマに問いかけた。

 

「――その危機ってのは、タマやルウ……他にも俺の家族たちに危険が及ぶのか?」

 

「それも……はっきりとはわからないけど。たぶんそうかも……」

 

 そのタマの返答を聞いて。俺は決めた。

 

 俺自身が助かるためにというのももちろんだが……何より、希望の庭の大切なみんなのためにも。

 

 その危機とやらを避ける――あるいは乗り越えられるほどに、備えなければならない。

 

 そのために俺ができることは――

 

「――タマ。今日から、もうちょっと訓練の時間を増やせないか? 早く力を使いこなせるようにならないと……」

 

 そう、お願いした俺に対して。

 

 タマは薄っすらと笑みを浮かべて言った。

 

「話は最後まで聞いて。初めに言ったでしょ。オスカーに忠告と、助言があるって」

 

 そういえばと思い出して、続く言葉を待つ俺に。

 

 タマは不敵に笑みを浮かべて言った。

 

「これから、オスカーに叩き込んであげる。魔法と天職の使い方ってものを」

 

 

 

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