Re Take of Evangelion   作:Air1204

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第10話 軌跡の価値は…。

「全く!そうならそうって素直に言えばよかったのよ!それならあんなにツンケンしなくて済んだじゃない!」

 

「式波。スマンこの通りや!」

 

「ったく…脳筋バカね…。それで?マリ?アンタはそれを知ってたってワケね?」

 

「まぁ?諜報部だしね。まさか自分でシンジくんに口を滑らせてるとは思ってなかったけど?」

 

「うぐっ…。」

 

マリさんの痛い視線が深々と突き刺さったようでたじろいでいる。

 

「誰だよ尻に敷かれるなって言ってたの…。」

 

「し、しゃあないやろ!格好つけたかったんや!」

 

全く情けない…。あの空間に居るのが痛々しくて早々に訓練があると全員を僕の権限で連れ出してきてしまったが…はぁ…胃が痛い。

委員長のあの目…。トウジが遠くの存在になってしまったと絶望したようなその目が悲しくて見ていられなかった。

どんなに願えどエヴァに乗ることの無いケンスケの嫉妬、そして羨望の眼差しが僕の心を締め付けた。

 

「あら?今日はみんな早いのね…って…。鈴原…君?」

 

「すいやせん…ミサトさ…。バレてしもうた…。」

 

「はぁ…。」

 

「どういうことか説明してもらおうかな?」

 

「し、シンちゃん…?」

 

「ねぇ?葛城三佐?」

 

 

会議室に場所を移し話し合い?が始まった。

要は事の経緯を含めた状況の説明を求めるために。ね?

 

「彼が志願したのよ…。僕をエヴァに乗せてくれって…。何度もね?」

 

「スマン。シンジ…。ちゃんと相談すべきやったんや。」

 

「…別にいいよ。トウジがそれだけの覚悟を持ってエヴァに乗るって言ったんだったらさ。」

 

「再現データでは有るけれど、彼凄いわよ。4から9の使徒までちゃんと1人で戦い抜いて見せたわ。」

 

「…どうやって…。」

 

「なんやわからんけど…。シンジん戦い見せて貰って自分なりに考えたんや。どうすりゃ街に被害出さんと戦えるか。ワシにできるんは上手く地形を利用した搦手やったんや。」

 

どおりで…。よく動きを見て自分なりに回答を出すのが得意だなとは思ったよ。僕相手には真正面からの殴り合い。アスカ相手には煽るだけ煽って手は出さない。凄いやつだな本当に…。

 

「ま、そんなところね…。黙っててごめんねシンちゃん。」

 

「じゃあ…ワシはここにおってもええってことですかい…?」

 

「勿論。よろしく頼むよ。トウジ。」

 

こうなってしまったら仕方ない。僕が折れるしかない。今更ダメだと言ったところでどうにかなる問題でもないし。ゆくゆくは戦力は必要になってくる。

ゼーレが用意するであろう量産機。そして後に現れるアルマロスを含めた儀式の執行者を止めるには。

 

「んまぁ、そんなところで…。いいかしら?」

 

「はい。」

 

「じゃあ解散。」

 

その一声でアスカや綾波、マリは伸びをして会議室を後にする。

 

「しっかし…ナーンでミサトさん黙ってたの?」

 

「それは…ちょっち…サプライズ的な…?」

 

頬を掻きながら少し照れたような表情を浮かべる。

 

「サプライズって…死地に親友送り込むのにサプライズも何も無いじゃないですか…。」

 

「あー…そうね…。ちょっと楽観的に考えすぎてたかも…。」

 

「まったく…。」

 

「ミサトさんは何も悪くないで、責めるんならワシを責めてくれや。」

 

トウジが会話に割って入る。確かに頼み込んだのはトウジだが、黙っていたのはミサトさんだ。

 

「ワシが無理言って乗せてもらっとるんや、それをとやかく他人を責め立てるんは筋違いやぞシンジ。」

 

責めてるつもりは無いんだけどなぁ…。どう言えばいいのか…。

 

「あぁ、もう…わかったよ…。誰も悪くない。トウジも僕の事を考えてくれてたんだろう?だったら責められないよ…。」

 

「シンちゃん…。ごめんね…。」

 

「ワシも悪かったわ。黙っとって…。」

 

「いやいいよ、これからよろしく頼むよ。トウジ。」

 

「あいや!」

 

「おお、ここにいたか葛城…と碇シンジ君。」

 

懐かしい声が聞こえる。1番会いたくない人の…。

後ろから聞こえた声に恐る恐る振り返る。

そこに立っているのは紛うことなき加持リョウジその人だった。

 

「……。加持アンタがなんでここに居るのよ。ユーロ支部担当のはずでしょ?」

 

「色々とあってな…。暫くは本部付きさ。」

 

心底鬱陶しそうな表情を浮かべるミサトさん。

 

「まぁ、また昔みたいにつるめるな、3人で。」

 

「…昔に戻るつもりなんてないわ、私、今充実してるから。」

 

「釣れないねぇ…。それよりだ。俺は子供達に用事があってな…。」

 

?なんだろう。

 

「これさ。」

 

手に持つパンフレット。それは日本海洋生態系保存研究機構のものだった。

 

「セカンドインパクト前の青い海で暮らしていた魚達を研究、保存している機構だ。社会科見学のつもりで…どうだ?友達も呼ぶといい。」

 

悪い話ではない。セカンドインパクト前の世界に興味を持つのは良い事だ、だが何か裏があるのかと勘ぐってしまうのは僕が悪いのだろうか。

 

「シンちゃん?こいつに関わるとロクなこと無いわよ。」

 

「まぁ悪い話ではないですし…ケンスケや委員長が喜びますよ。ね?トウジ。」

 

「まぁ…ヒカリやケンスケは喜ぶやろなぁ…。」

 

ん?聞き間違いか?今トウジの奴委員長のことヒカリって…。

 

「あらぁ?鈴原君、いつの間にあのソバカスの子と付き合ったのかしら?」

 

「あ゛…。アカン…バレてもうた…。つい先日、ですわ…。僕が正式にエヴァんパイロットに選ばれた時ですわ…。」

 

「…意外だなぁ…。トウジもっと鈍感だと思ってたのに…。」

 

「し、しゃあないやろ!いつ死ぬかわからん言うのに自分の気持ち伝えんでどないせいっちゅうんや!」

 

14歳らしい青春だ。告り告られなどとうの昔にしなくなった。気が付けばズルズルと付き合ってる事の方が多い僕にとっては懐かしい感覚。

 

「なら好都合だ。デート、と洒落込むのも良いんじゃないか?」

 

「うぅ…。シンジどないする?」

 

「行きますよ。」

 

「おぉ、そうかい。葛城は?」

 

「私はパス。どうせ引っ付いて来るんだろうしねアンタ。」

 

「アレ?フリーじゃ無いのか?」

 

害虫でも見るような顔のミサトさん。フリーだとしてもお前には着いていかない、そんな意思が取れる。

 

「ざーんねん。私にはちゃーんと愛する人がいるのよ?ね、シンちゃん?」

 

そこで僕に話を振るのかぁ…。致し方ないか…。

 

「…まぁ、僕とお付き合い?させて頂いてますよ。」

 

「おお、それは結構。アスカやレイちゃんとも…だろう?」

 

「そこまで知ってるんならカマかける必要ないですよ。」

 

キッと睨みつける。どこまで僕のことを調べあげてるんだこの人は…。僕だってただ黙ってるわけにはいかないカマ掛けてやるか…。

 

「じゃあ、パンフレット貰いますね?場所僕たち分かりませんし…。説明する時に資料あった方がしやすいでしょ?」

 

ずいっと近づき資料を手に取る。

 

「ああ、悪いね。最寄りの駅まで来たら迎えを寄越すよ。」

 

小声で囁く。

 

「態々ありがとうございます。特務機関NERV特殊監査部所属加持リョウジさん。いや、日本政府内務省調査部所属と言った方がいいですか?」

 

加持さんの目の色が変わる。

 

「おやぁ…君は一体どこまで知っているのかな?」

 

笑ってはいるが目は笑っていない。

 

「どこまでも、と言えばいいですか?ね?ゼーレの『鈴』さん?」

 

「そこまで知っているとは…お手上げだよ…。だがひとつ勘違いをしているようだね。」

 

「勘違い?貴方がしたいのはセカンドインパクトの真実を知ることだ。そしてNERV、SEELEその全貌を知りたいが為に…ね…?」

 

「こりゃあ、本当にどこまでも知ってるようだ…。この話、葛城は?」

 

「教えちゃいませんよ。貴方と僕だけの秘密だ。」

 

「君とはいい酒が飲めそうだ。」

 

そうニッコリと屈託のない笑みを浮かべる。これで信頼を得たのかどうだかは分からないが…。

 

「最後に忠告ですよ。これ以上、火遊びが続けば貴方は殺される。それだけは理解して欲しい。」

 

「ご忠告ありがとう。気をつけるよ。」

 

その顔に曇りは無い。死んでもいいとでも思っているのだろうか…。愛した女の為に?

 

「いやいや…ありがとう碇シンジくん。」

 

声量が元に戻る。

 

「気にする事はないですよ。」

 

「でも、チェックだ。」

 

「はい!?」

 

ゾロゾロと黒服が会議室に入って来て僕を取り囲む。

 

「ちょ!何してんのよ!アンタたち!」

 

「すみません。葛城三佐。人類補完委員会からの通達で、碇シンジ大佐の事情聴取を行いたいと。」

 

計られた。わざとらしく仰ぐジャケットから見え隠れするのはマイクらしきもの、これで全部筒抜けだった、という事か…。

自分の手のうちを晒してまでSEELEに僕を差し出すとは…。

 

「おいおい、俺を睨むなよ葛城。俺の所属忘れた訳じゃないよな?」

 

ヘラヘラとミサトさんに話す加持さん。いっそう睨みつけるミサトさん。その手はブルブルと震えている。

 

「…ご同行願えますか?」

 

「…どうせ断ることできないんでしょ?別に構いませんよ。」

 

いざとなれば初号機を呼び出すことも厭わない。それを理解した上での強制尋問、そういうことだろう。

 

「トウジ!期日までには帰るから!」

 

「んな!目の前でお前がそいつのせいで拘束されそうになっとんのに黙っとる訳にはいかんやろ!」

 

「気にしなくていいよ。大丈夫だから。」

 

「おお、聞き分けが良くて助かるよ…。なるべく長引かないようには心がけるさ。」

 

ヘラヘラとした表情の中に一瞬苦悶の表情が垣間見えた。

どういう事だ…?

 

「ご同行を。」

 

「ミサトさん!アスカや綾波には出張だと伝えてください 。」

 

「…それ、まかり通る?」

 

まぁ誤魔化すのくらいどうって事ないだろう、なんなら察してくれる可能性だってある。だったらアスカを信じた方がいい。

 

「悪いね…シンジくん。… …。」

 

口パク…?成程…そういう事か…。

そして僕は黒服に手を引かれ部屋から出るとずた袋を頭に被され何処かへと連れ去られた。

 

「ええぇぇ!?シンジが急な出張!?何でよ!」

 

急にミサトから告げられたその言葉が信じられなく再度聞き返す。修学旅行も近々あるから一緒に水着でもかいに行こうと思っていたのに…。

 

「…分からないわ。司令よりも上の命令だったから…。」

 

碇司令より…上?ふぅん…さながらゼーレにでも拉致られたって口かしら?でも態々そんなことに乗るメリットなんてあのシンジには存在しない。なら何で?一応話の流れに沿うように場所だけ聞いてみる。

 

「ふぅん…。場所は?」

 

「…教えてはくれなかったのよ。」

 

ということは…なにかに連れ去られでもした?でも大人しく着いてくってことは…。

 

「…。あぁなるほど…。わかったわミサト。大人しくしてるわ。」

 

「え!?アスカ…?いいの…?」

 

素っ頓狂な声で尋ねるミサト。いいって何がよ。何もいい訳ないじゃない。

 

「良いも悪いも無いわよ。出張でしょ?仕方ないわ。ね?レイ。」

 

私とミサトの部屋でダイニングテーブルに腰掛け黙々とサンドウィッチを貪るレイに声をかける。

 

「んく…。碇くんが行くって言ったんでしょう?なら私達は待つだけだわ。」

 

「レイまで…変だと思わないの!」

 

「「変じゃない!」」

 

アタシとレイの声にビックリしたミサトは項垂れるようにダイニングチェアに腰掛ける。

 

「もう!2人が静かにしてるんってんなら私も静かにしてるわよ…。」

 

この感じ…ミサト一部始終見てたな…。勘繰りを入れてアタシ達を動かそうとしてたんだわ。まったく…。

 

「アスカも料理上手いのね。」

 

そりゃ、1人で生きていけるようにどれだけあの味を再現しようと試みたことか…。

 

「どーんだけシンジの料理食べたと思ってんのよ!」

 

「…2週目は狡い。私ももっと一緒に居たかった。」

 

しゅんと凹むレイ。まったく!なんだか可哀想に思えてきたじゃないの…。

 

「レイ…アンタが嫌じゃなきゃさ。ご飯うちで食べてきなさいよ。みんなで一緒の方が寂しくないでしょ。」

 

「…でも…。」

 

神妙そうに考え込む。洒落臭い、何を考えてるんだか…。

 

「1人で食べるくらいだったらみんなで食べればいいじゃないの!何が不満なわけ!?」

 

「…。あの…私一人じゃないの…。」

 

「「はい?」」

 

ミサトとシンクロする素っ頓狂な声。このレイが?1人で住んでない…?どういう事…?

 

「実は…私。赤木博士と…ううん。お母さんと一緒に住んでるの。」

 

「「ぇぇぇぇぇぇぇ!?」」

 

シンジが拉致られたことよりもそっちの話の方が衝撃が大きかった。あの赤木博士が…レイと…。

 

「しかも…お母さん…て…。」

 

「養子縁組…したから…。」

 

そりゃあ良かったわね…。ママが欲しいって再三言ってたもの…。

 

「リツコ…なんて?」

 

「まだあんまりみんなには言わないでって…。でも2人には話さなきゃって思ってたから…。許して欲しい…。」

 

許すもクソも悪いことした訳じゃないから…。

 

「レイ…。」

 

「ごめんなさい…こういう時…どんな顔をすればいいか分からないの…。」

 

心底困った顔。いやまぁ…アタシでもそれは分かり兼ねるわよ…。でも…。うん…。

ミサトと同時に口を開く。これはシンジがレイに言った言葉。

 

「「笑えば…いいと思うよ…。」」

 

 

「あー!なんやほんまに締まらんのう…。」

 

トウジの気の抜けた声が更衣室に木霊している。

 

「ん?なんかあった?」

 

顔を覗かせたマリはトウジに問いかける。

 

「おお、マリ今上がりかいな…ご苦労さん。」

 

「そそ。トウジもお疲れちゃん。なんか切羽詰まってんね?」

 

「当たり前やろ!パイロットんなったこと打ち明けられたー思とったら目の前でシンジ拉致られてみ、気も沈むわ!」

 

「そりゃご苦労なこったね…。まぁ加持さんなら何とかしてくれるよ…。」

 

「おまん、昔からん知り合いやったな…。どないな人なんや?加持って人は…。」

 

「んー…不器用な人?でもすごく優しいよ。自分を犠牲にしても他人を助けたがる。まるで今のシンジくんみたいなね?」

 

「ほー。やっぱワシには大人っちゅうんはよぅわからんわ…。」

 

「君はまだ子供だ。何も気にする子はないさ、背負うのは大人だけでいい。」

 

「アホやなぁ…。お前もシンジもまだガキやろが…。」

 

NERV購買で買ってきたアイスはもはや溶けだして見る影もなく。アイスの棒には『あたり』の文字が見えている。

 

「つか…。普通にワシがおるところで着替えるんは…おかしないか?」

 

「べっつにー?トウジには見られてもなんとも思わないよ?あ〜?分かった!エッチな気分になるんだ〜。」

 

「んな訳あるかい。ったく…おかしなやっちゃのう…。」

 

 

「座りたまえ。」

 

ずた袋を引き剥がされ放り込まれた明かりひとつない真っ暗な部屋に声が響く。嫌になる、この声も聞きたくない声だ。

 

「まさか、ご存命だとは…。いつから?」

 

「君と同じく世界を何度も巡っているのだよ。」

 

暗がりから1つずつモノリスが立ち上がりライトを灯す。

目の前にあるのはNo.1 キール・ローレンツのモノリス。

 

「あぁ、そうか、この世界では貴方はこの世界に文明をもたらしたリリンとは異なる生命体、だったかな?」

 

嘲るように言葉を並べる。

 

「よもやそこまで知っているとは…。しかし何故我々の崇高な願いを邪魔するのだ…。」

 

「単純でしょ。人が生きづらいからだよ。それにセカンドによる魂の浄化、サードによる大地の浄化、そしてフォースによる魂の浄化。それによってリリンの原罪は晴れる。だからと言って種の大量絶滅は好ましくないんだよ。」

 

「生命のリセット、そして魂の『コモディティ化』個を捨て1つの生命となる、永遠と生き続けられる生命にな。」

 

呆れた。幾度となく僕に邪魔をされて頓挫したその計画、未だに完遂されると思っているのだろうか。僕が引き金となった旧サードインパクト。それによってコイツらは滅びたと思っていたが…。アルマロスの時もそうだ、態々加持さん、ないしケンスケの身体を乗っ取ってまで世界のリセットを図ったのだ…。

 

「人の命は有限であるからこそ美しい。その一瞬一瞬の煌めきが星となり世界に光を灯す、なぜそうは思わない。」

 

「必要ないからだ。」

 

「ちっ…。さして本日はなぜ呼び出されたのでしょう?」

 

「ああ、そうだ、本日は君の行いを責めるために呼び出したのでは無い。今、NERVの現存するエヴァ、全ての情報を明け渡して貰おうか。」

 

「そういう話ですか。しかし、何度も世界を巡るうえ元より技術者でない僕よりも貴方たちの方が遥かにエヴァシリーズには詳しいのでは?」

 

「以前より気になっては居たのだよ。お前の心臓を幾度も取り込む事で自己進化を果たすエヴァ初号機。そしてそれに感化されるかのように姿を変えたこの世界の零号機並びに2号機。」

 

それに関しては僕は知る由もない。十中八九コアにいるであろう母さん達が何かしら交信を行っていると考えてはいるが…。真相は闇の中…だ。

 

「僕には分かりませんよ、それに今回の初号機の変化は異質過ぎる。貴方たちは何を生み出したんですか…?」

 

「真のエヴァンゲリオン。その晴れ晴れしい1機目だ。」

 

モニターに映るその姿は深い紺色を纏う。その相貌は初号機に酷似している。

 

「…旧世界の初号機でも模したって事ですかね…。」

 

「その口ぶり…。貴様何処までこの世界の事を理解している。」

 

「さぁ?憶測でしかないですし…月が製造プラントというのはそういうことなのでしょう?としか僕からは…。」

 

「…。」

 

「憶測で物を語るのは好きじゃない。だが幾度となく巡った世界の上で得た経験からこの世界、いや、あの出来事から数万年と経過した世界だと仮定するならば…。」

 

「なぜその結論に至った。」

 

「単純ですよ。原初たる初号機、いえ、旧初号機とでも言えばいいでしょうか?それは僕の母の宿った神なるエヴァンゲリオン。まぁあの儀式の際に本物の槍と共にマイナス宇宙へと旅立った筈ですが…。僕が望んだ世界の再建、それが地球でなく、本来の白き月、まぁ地球における衛生である月で起こって主従関係が逆転し月が地球に、地球が月になっていた場合。地下にいる巨人がリリスと偽られたアダムであっても何らおかしくは無い。なにせ旧世界ではアダムと偽られたリリスであった訳だから。そして父に見つかったその神は無理やりこちらの世界に引き戻されることとなる。眠ったままの初号機、それを目覚めさせる為に行った初号機へのダイレクトエントリー。ま、こちらの世界の僕の母が行ったと言えばいいのかな?その結果、共鳴、そして統合され意識体として初号機に取り込まれた。この世界の僕を産み落としてからね。」

 

「ほう…。」

 

「そこからの筋書きは変わらずだ、父が母を取り戻そうとヤッケになり南極の調査隊入り。4本あった槍の内2本を引き上げ帰還。足りぬ槍では儀式の遂行はままならずそれがセカンドインパクト。まぁ海の浄化に繋がったわけだ。本来ならば一度の儀式で終わるはずであったそれを良しとしなかった貴方たちは本物のエヴァを生み出そうとした。それが月に残されたリリスの残骸を用いることだった。既に石碑となったエヴァシリーズを用いてね…。これから先は…。まだ語るべきではないか」

 

深く深呼吸をする。多くを語るのは得意じゃない。

 

「よもやそこまでたどり着いているとはな。」

 

「僕を消しますか?それとも生かしますか?」

 

単刀直入に聞く。答えによってはここを壊滅させることも厭わない。

 

「何故だ。」

 

「この世界の真実に到達し掛けている僕を放っておくとは思えないからだ。理がないだろう?」

 

「ふっ…。もっと聡明だと思っていたが、そうでは無いようだな…。」

 

「何…?」

 

「貴様と取引しよう。我々が差し出すのは情報と貴様の命の保証。お前は今まで通り使徒を倒しさえすれば良い。」

 

どういう事だ…?今までしでかしてきた事を鑑みるにコイツらには余りにハイリスクじゃないか?

 

「我々の願いには何よりも使徒の存在が邪魔だ。」

 

「まぁ、そこは利害の一致ってやつかな?」

 

「それにだ…。碇ゲンドウ、彼奴は未だに君に何かを黙っているようだぞ…?」

 

「…。」

 

「何がかは分からんが…。君の利にはならぬ事だろう…。」

 

「…。」

 

こいつらの言葉をこうも簡単に信じてしまうのは癪だ。だけど、あの場に加持さんが居ることの説明が付かない。あの人は何を運んできた?何を父に渡した?疑問が疑心へと変わる。

もっとしっかり調べるべきだった。

 

「どうする?碇シンジ。」

 

「やるよ。その代わり、僕の好きなように僕のやり方でね…。いずれは袂を分かつ相手たちだ…君らは。」

 

ふっと軽い笑みを零す。嘲笑うかのように言葉を紡ぐ。

 

「アナザーでもフォースでもファイナルでもなんでもいい全部止めてやる。僕の手で。」

 

「…ふっ…。健闘の程を祈っている。あぁ、NERVから出されているエヴァに対する修繕予算だが…。我々の方で上乗せして支給しよう。なに、使徒に負けられては我々にも今後が無い、と言うだけの話だ。」

 

「…ご厚意感謝します。」

 

一つ一つと消えていくモノリス。ふぅ…何とか乗りきったか…。

真っ暗な空間に光が点る。

 

「まったく…嫌な役目だよ…。…さて…。もうここに姿を現すことは無いと思いますよ。そこに居るんでしょ?加持さん。」

 

「おや、俺がいるの分かってたみたいじゃないか…。」

 

物陰から姿を現した加持さん。人の事をこんなところに3日も放り込んでおくなんて…。

 

「白々しい…。そんなんだからミサトさんに愛想つかされるんですよ。」

 

「いやはや…でも幸せそうだからな彼女。俺の代わりに頼むよ。」

 

そう言って拘束された手足を解く。

 

「…見張りは?」

 

「君を放り込んだらそそくさと消えたよ。勝手に動き出す初号機を危惧したんだろうな。」

 

「そうですか…。それで…僕の話はどこまで?」

 

「大体はな…。まさか君もマリと同じだとは思わなかったけどな。」

 

「あぁ…マリさん話してるんですね。」

 

「だからこそ俺はこうやってそんな役回りをしてる訳だ。」

 

ふっと嘲笑の笑みを浮かべる加持さん。それに応えるように僕も同じ顔をする。

 

「まぁ、お互い大変ですね…。すると…ここは何処で…?」

 

「ジオフロントの地下深く。案内しようか。」

 

まさか…。あれだけ長く連れ回されてたかだかNERVの地下だとは思うまい…。ニヒルな笑みを浮かべた男は膝を折り、まるで姫君の手でも取るような仕草をする。

 

「…ふっ。僕男ですよ?」

 

「ノンプロブレム。愛に性別は関係ないさ。」

 

相変わらずな人だ。手を取り立ち上がる。

 

「このバイト代高くつきますね?」

 

「まぁな、君に見せたいものがある。碇司令がお呼びだ。」

 

 

「しかしまぁリリスの下にこんなに広い空間が有るなんて…。」

 

「本来であれば85%は埋まっているからな…」

 

合流した父さんが淡々と説明する。

 

「父さん、気づいてたんなら助けてくれても良かったんじゃない?」

 

「…済まない。加持君に任せていたものでな。私が先立って行動するのは今後に影響を及ぼしかねない。」

 

「言えてるねぇ…。どこまでSEELEの手の内だか…。」

 

「そのためにお前をここに連れてきたのだ…。」

 

天井のスポットライトが灯る。

 

「エヴァ!?」

 

「あぁ。」

 

それは紛うことなきエヴァ。僕の乗る初号機に酷似した何か。

 

「ユイがこの世界に残した最後のエヴァンゲリオン。初号機と対をなす機体。エヴァンゲリオン第13号機だ。」

 

「第13号機…。」

 

「私の元いた世界でも存在していた。その時は…。希望の初号機、絶望の第13号機と謳われたモノだ。」

 

「…。」

 

「最も神に等しい存在。アダムスの生き残り。時が来たらお前はこれに乗れ。」

 

はい?僕の心臓…初号機に取り込まれたままなんですけど…?

 

「初号機が大破した場合…。お前も共に死に至る。」

 

「それは理解しているよ。僕とあれは一心同体だ。」

 

「次に来たる使徒より初号機は…永久凍結とする。」

 

「はァ!?ならどうやって他の使徒を倒すんだよ!僕なら上手くやれる!」

 

その一言にカチンときてしまった僕は声を荒らげ柄にもなく言い返してしまう。

 

「許してくれ…。ユイもお前も…今失うべきでは無いのだ…。」

 

「それは…今後の父さんの計画に関わるから?」

 

「!?何故…。」

 

カマをかけるつもりは無かったが…。この驚きよう、僕にまだ隠している事が有るのだろう。

 

「さぁね…。父さんが何をしようとしているかは僕には分からない。それにまだ何か僕に黙っているようだからね…。」

 

「っ!誰だ!誰にそのような事を!」

 

まるで図星とも取れるような態度にやっぱりか…と項垂れる。

 

「…父さんには関係ない…。」

 

やっぱりだ。父さんは変わらない。どんなに僕を思ってくれていようが、父さんの幸せが僕の幸せだと思っているのだろうか。

 

「…シンジ…。」

 

「…僕はそこまでして母さんに会いたいとは思わない…。綾波もアスカもミサトさんも大事だから…。前を向いて進まなくちゃいけないから。」

 

「…。」

 

「これ以上、僕を失望させないでよ。それに…。第13号機の事は考えておく。きっと僕が言ったところで初号機の凍結は変わらないからね…。」

 

そう言い残して僕はエレベーターに乗り込む。

 

「ガッカリだよ…。」

 

その時の父は…。何か言いたげででも何も言えない、そんな表情で絶望しているのが見て取れた。

 

 

「碇司令。シンジくんには全て話すべきでは無いでしょうか?」

 

「加持君…。」

 

「彼は今、言われもないことをSEELEによって吹き込まれている。自分の世界では起きなかった事柄を持ち出されて、疑心暗鬼になってる。」

 

「…。」

 

「あなたの口から説明してあげるべきですよ。貴方が碇ユイに会いたい理由、そして…。貴方たち両親を贄としてネオンジェネシスを起こそうとしていること…。」

 

 

日本海洋生態系保存研究機構

 

「しっかし良かったわね。シンジすぐ帰って来れて!」

 

「…1週間は長かったけどね。」

 

「…。帰ってきてからずっとその調子…一体何があったのよ…。」

 

アスカが小声で耳打ちをしてくる。

 

「ん?何でもないよ。みんなも居るし楽しもうよ。」

 

「…あんたがそういうなら…。」

 

「凄い! 凄すぎる! 失われた海洋生物の永久保存と、赤く染まった海を元に戻すという、まさに神のごとき大実験計画を担う禁断の聖地! その形相の一部だけでも見学できるとは! まさに持つべきものは友達ってカンジ!」

 

まるで幼子のようにはしゃぎ回るケンスケ。それに続くように委員長、トウジ。

 

「ありがとう。鈴原。碇くん、こんなところなかなか来れないわ!」

 

「せやなぁ?委員長今日は楽しまんとな?」

 

この2人…。能天気だなぁ…。この期に及んでまだ隠そうとするなんて…。

 

「はぁ…。いつまで隠すつもりだよ…トウジ…。」

 

「げ、せ、センセ…。き、今日だけは黙っとってくれんかい。ヒカリもシャイやし!事ぉ荒立てんのも変やろ…?」

 

はぁ…仕方ない…黙っててやろう…と思った時には既に遅かった。アスカが聞き耳を立てていたようで…。トウジに詰め寄る。

 

「なぁに?鈴原。ヒカリって呼んでなかった?今!まっさかー付き合ってるんじゃないでしょうねぇ?」

 

無言。そして赤面。耳まで真っ赤じゃないか。

 

「えぇ…。嘘でしょ…。」

 

そりゃアスカもビビるよ。

 

「あ、あの…黙ってるつもりは無かったのよ!?ただ…言うタイミングが…!」

 

「せやせや!訓練やらなんやらで忙しゅうてのう?」

 

「「はぁ…。」」

 

皆揃ってのため息。やましいことした訳じゃあるまいし…。

 

「ああ!神よ!どうして俺以外は皆リア充になっていくんだ!」

 

非リアの嘆きか1人天を仰ぐケンスケ。知らんがな…。

 

「ま、独り身同士仲良くやろうよケンちゃん。」

 

絡むように肩に手をかけるマリ。一瞬乳見た癖に顔見直してゲンナリするのはちょっと違うんじゃないかな…。

 

「あ、真希波はパス。」

 

ほれみろ!余計なこと言うなよ!

 

「あぁん?そんなこと言ってるからモテないんだゾ!」

 

「真希波は無理だろ!どんなにスタイル良くったって中身がババくさい!」

 

「バッ…。言ったなぁこの野郎!ぜぇーったい寂しいって言ったって一緒に回ってやんないぞ!」

 

「ああああ!それは堪忍を!!マリ様ぁ!」

 

…男のプライドというものが無いのか…。コイツには…。

 

「やぁやぁ皆さん揃い踏みで。最もここからがちとばかし大変だがな…。」

 

嫌な予感がする。

 

 

長波放射線照射式滅菌処理室。

下着までひっぺがされて白無地の新しいものに。それに加えてレントゲンのようなフラッシュを焚かれ滅菌。その後熱蒸気滅菌室へ。

 

有機物電離分解型浄化浴槽式滅菌処理室 LEVEL-01。

巨大な消毒層へぶち込まれる。その後過冷却滅菌室へ通される。

 

有機物電離分解型再々浄化浴槽式滅菌処理室 LEVEL-03。

再度消毒層へ。

 

全工程を終えてようやく入館許可が下りた。

 

「おえ…。あないにぐるぐる回されると流石に気持ち悪うなるわ…。」

 

「…まぁ海洋生態系を守るための組織だからね。何かあっちゃ遅いんだよ…。」

 

一同ぐったりとしてゲートをくぐる。

その疲れも吹き飛ぶような全面ガラス張りの水槽。色とりどりの魚が泳ぎまわっている。

 

「うひゃあ!すっごいのう…。のう?ヒカリ!」

 

「凄い…。」

 

はしゃぐ友人達。ケンスケは早々にカメラを回しアスカと綾波は仲良く並んでアザラシのいる水槽を眺めている。

僕には…その気持ちがよく分からなかった。僕のいた世界の海は青かったし生き物も住んでいたから…。

 

「シンジくんにはさして珍しくは無いよね…。」

 

マリさんが話し掛けてくる。

 

「あぁ、マリさん…。眼鏡変えたんですね…。」

 

そうそうと言わんばかりににっこりと笑っているマリさん。話を元に戻す。

 

「そう…ですね。でもみんなが楽しいなら僕は…。」

 

「シンジくんらしいね。SEELEに何か言われた?」

 

「…。」

 

「ここは大丈夫だよ。録音されたりしてないから。」

 

「父さんが…僕を裏切っているって。」

 

「それはなぁ…確かに…君のことは裏切っているかもしれないよ。でもね。私が協力してるってことは…少なからずそういうことは起こらないって考えて欲しいかな…。ゲンドウくん変わったよ?」

 

「うん…でも…。僕には信用することが出来なかった…。マリさんが言ったようにアスカを使徒として贄にするんだって…本気でそう思ってしまって…。父さんには…怖くて聞けなかったけど…。」

 

「不安になる気持ちも分かるよ、でも決めつけちゃダメさ。3号機の起動実験、誰が乗るか決まってないんだから…ね?」

 

「うん…。」

 

「シンジィ!マリィ!何コソコソ話してんのよ!」

 

アスカの怒号が響く。

 

「いやいや、浮かない顔したまんまだからさ…心配になって声掛けただけだよん!なぁに?嫉妬??ならチューしちゃおーっと!」

 

「ぎゃー!!!こっち来ないで!アンタには昔っから組手でも勝ったことないんだから!このゴリラ女!」

 

「ひどーい!きずつくにゃあ!癒してもらうにはもうチューしかないにゃ!」

 

「なんでそうなんのよ!アタシはシンジとしかしないの!こっち来んな!いやー!!!」

 

走って逃げ出すアスカ。その手はしっかりと綾波の手を握っていた。

 

「ふぅ…こうも嫉妬深いと大変でしょ?」

 

「そんなことないよ、アスカのいい所さ。」

 

「君は本当に良い奴だなぁ…。」

 

「おーい!真希波!やっぱり1人は寂しいわ!俺と回ろうぜ!」

 

ケンスケの泣きそうな声が響く。カメラ回してれば寂しくないと思っていたけどそうでは無いみたいだ。

 

「モテる女は辛いねぇ…。んじゃまた後で。お姉さん相談には乗るよ?」

 

「ありがとう…。」

 

独り言をつぶやく。

 

「父さんを…信じろ…か。」

 

色々とカタが付いた時に父さんと話せばいいか…。1人、クラゲの漂う水槽を眺める。

 

「こんな狭いところで生きてるなんて…。可哀想だな…。」

 

「無理。この子達はここでしか生きられない。」

 

さっき、アスカと一緒に走って行った綾波が戻ってきていた。

背後から声をかけられびっくりしてしまう。

 

「あ、綾波。体は…大丈夫?」

 

「うん、お母さんが今日は行ってきなさいって…。」

 

お母さん…?…!?リツコさん!?

 

「…お母さんってリツコさん…?」

 

「そう。私が頼み込んだの。」

 

なるほどなぁ…。養子縁組して親子になったか…。それなら良かった。

 

「あー…あのバカ…やっと巻いたわよ…。何見てんの?」

 

アスカが息を切らしながら戻ってきた。額には大量の汗をかいている。

 

「おかえりアスカ。クラゲだって。昔よく食べたよね?でも…。狭い水槽で可哀想だねって話してたんだ。」

 

汗を拭ってあげる。満更でもない表情を浮かべ嬉々としている。

 

「今はここでしか生きられないわ。でもそれをどうにかするのにこの研究所がある。それに私たちもいる。でしょ?」

 

「その通りだ。僕達はその為に頑張ってる。」

 

「誰かの為では無いわ。自分自身の願いの為に…ね?」

 

ニコッと笑うアスカ。ああ、そうだ、僕はアスカの、みんなの笑顔を守りたいから、みんなが笑えるように頑張るって決めたんだ。

 

「シンジの幸せはアタシの幸せ。貴方が笑えるならアタシも笑えるのよ。」

 

「うん…ありがとうアスカ。」

 

涙腺が緩む、いつからこんなに涙脆くなったのか。

 

「ごめん、アスカ、綾波。僕外の風に当たってくるよ。」

 

「えぇ、行ってらっしゃい。」

 

「構わないわよ。ずっと悩んでたみたいだしたまには1人で考えてもいいんじゃないかしら?」

 

「ありがとう。」

 

 

屋外へと出た僕は潮風に当たりながら一人考える。鼻腔をくすぐる潮の香り。それと同時に海の生き物が腐った匂いも混ざっている。

 

「潮風…懐かしいなぁ。」

 

「シンジくん。ここに居たか。」

 

「あぁ、加持さん…。」

 

後ろからひょっこりと顔を出したのは加持さんだ。あの事件で僕を連れ出して以来久々の顔合わせだ。

 

「あの時はどうも。」

 

「例には及ばないさ。何せ拘束したのも俺だしな。」

 

「言えてますね…。」

 

暫し沈黙が流れる。流れる潮風は心地よく夏の陽気も忘れる程だ。

 

「君の話はお父さんから聞いたよ。」

 

口を開いたのは加持さんだ。

 

「大変だったようだな。」

 

「まぁ。でも良いんです、それが僕の経験になりましたから。」

 

「そうだな…。俺なんかが君にアドバイス出来ることは無い。でもお父さんの話を聞いてあげて欲しいんだ。あの性格だろう?聞いてやらないと塞ぎ込んでしまうからな。」

 

「知ってますよ。」

 

知っててまくし立てて勝手に怒って拒絶したんだよ僕は。

 

「なら尚更だ。唯一の肉親だちゃんと話した方がいい。あの人の考えも君の考えもぶつけ合って蟠りを解消した方が…。」

 

「はい…。マリさんにも言われましたよ。」

 

「アイツらしいな…。」

 

「親しいんですか?」

 

「俺とマリか?まぁな…。もう10年になるか…。」

 

そんなに長いのか。

 

「アイツはな。シンジくん、君のお母さんと同じ研究室に居たんだよ。」

 

えぇ…にしては若すぎないか?どうやったら女子中学生のふりしてられるんだよ…。

 

「君のお母さんと同じくエヴァの起動実験の最初の被験者さ。取り込まれることは無かったものの、プラグ深度をオーバーし過ぎたせいで歳を取らなくなったみたいでな…。」

 

「…だから言動があんなにババくさいんですか?」

 

「…まぁ俺より年上だからな…。」

 

「はぁ…そっか…なら父さんのこと僕より良く知ってるよな…。」

 

「あれ?聞いてないのかい?君が生まれる時彼女もそれに立ち合ってるんだよ。」

 

「はァ!?初耳ですけど!?」

 

だからなのか…あの人の顔を見たことある気がした理由は…。

 

「だからユイさん亡き今彼女は君の親代わりのつもりなんだろうな。」

 

そういうことだったのか…。目線を感じると思ったり、マリさんがやけに僕を気にかけている理由がよくわかった気がする。

天を仰ぎタバコを蒸す加持さん。その香りがなんだか心地いい。

 

「SEELEに何を言われたかは俺は知らない。でもそれが真実だとは限らない。その過程ではあるかもしれない、だが真実では無いんだよシンジ君。」

 

「ありがとうございます。父さんともっと話してみようと思います。」

 

「あぁ、そうだそれがいい。」

 

ニヒルな笑み。本当にこの人には敵わない。幾度となくこの人の言葉に助けられてきた。時には殴り殴られ、父よりも父らしく僕に接してくれてきていたのは彼だ。何度も助けようと試みたそれでも網の目を掻い潜るように僕の保護虚しく世界の深淵に足を踏み入れて殺されてしまうのが悔しい限りだが…。

 

「さ、昼食にしようか。君が作ってきてくれたんだろう?楽しみだ。」

 

男に対しても向けられるこの屈託のない笑み。すごいよこの人は…。

 

「いただきまーす!」

 

「ん!」

 

「わっ…」

 

「「う、美味ぁ…。」」

 

そんなに驚くことか…?

 

「レイちゃんも碇くんもいつもすごいお弁当を持っていると思っていたけど…碇くんが作ってたのね…。」

 

「まぁそんな凄いもんじゃないよ。」

 

「でも今日も朝から詰めたんやろ?この重箱に。」

 

「そんなに大変じゃなかったよ。サンドウィッチだし。」

 

「にしても9割人造肉がここまで美味くなるとは…。」

 

「調理次第って所か…。」

 

「んん〜!シンジのご飯久々。腕上げたのね?」

 

「ありがとうアスカ。」

 

この世界に来てから食事を作る回数は減ったもののそれでも腕を鈍らせないように弁当だけは僕が作るようにしているからだ。

 

「しかしまあ、見事な味と焼き色だな。台所に立つ男はモテるぞ。」

 

「せやてケンスケ。」

 

「うぐっ…俺だって少しくらいは出来るよ!ほら…キャンプ飯とかさ?」

 

「ほぉん?そこまで言うんなら今度連れてきなよ。」

 

マリさんが意地悪げにケンスケに絡む。

 

「んな!良いぜ!?最高のキャンプ飯食わせてやるよ!真希波!」

 

「ほんとバカね…。」

 

「でも、みんなとの食事は楽しいわ。アスカもでしょ頬緩んでる。」

 

「んな!そんなとこ見てなくて良いのよ!それに…その。あれよ!シンジのご飯が美味しいから笑ってたのよ!」

 

それ弁明になってるのかなぁ…。ふふっと微笑む綾波にしてやられた顔をするアスカ。ま、微笑ましいから良いんだけどね。

 

「んん!この味噌汁めっちゃ美味いやんけ!」

 

「あぁ…。それはエビと昆布出汁だね。こっちはあご出汁。んで…これが…。」

 

「ち、ちょっと!?粉末よね?」

 

びっくりした委員長が声を荒らげる。

 

「いや?僕あの粉末の味苦手なんだよ…。」

 

「でも家にあるじゃない。」

 

アスカがツッコむ。

 

「あれは時間がない時用。ミサトさんが使うのもあれだから。」

 

「おや?葛城料理するのか?」

 

「はい、加持さんと別れてからですかね。するようにしてるみたいです。」

 

「変わったなぁ…。」

 

「ち、ちょっと!?碇くん!私の話終わってないわよ!一体何時から起きてるのよ!しかもいくら養殖とはいえ…幾らかかって…。」

 

「今日は早かったから…3時くらいかな?それにお金に関しては大丈夫。ミサトさんがいいもの食べた方がいいって買ってくるものだから。余すことなくその材料を使ってるだけだよ。」

 

「「3時ィ!?」」

 

もとよりぶっちゃけ寝なくても余り変わらないのだが隣に人が居ると安心して眠ってしまうのだ。何せ、綾波、アスカ、ミサトさんとローテーションを組んでやってくる人達との営みもある訳だしね。

 

「3時っておま…。昨日は何時に床に着いたんや!?」

 

「うーん…。1時過ぎかな?」

 

「「はァァァ!?」」

 

「碇くん。もう何もしなくていいわ座っていて。」

 

「いや、大丈夫だって…。」

 

「大丈夫もクソもないのよ!こっちにもプライドってもんが有るでしょ!?」

 

「アスカまで…。トウジなんとか言ってやってくれよ…トウジ?」

 

「これ以上、シンジ、いやシンジさんに迷惑かけたらアカンで!食い終わったらワシらで片付けや!ヒカリィ!車椅子持ってきぃ!」

 

「う、うん!」

 

「それはいくらなんでもやりすぎだってぇ…。」

 

こうして楽しい社会科見学は幕を降ろした。全てが終わりミサトさんが迎えに来た時、すごい形相をしていたが「子供達のことありがとう。」とだけ加持さんに伝えると早々に車へと戻ってしまった。

 

「加持さん、今日は本当にありがとうございました。」

 

「なに。礼を言われることではないさ。しっかりやるんだぞシンジくん。」

 

「はい。」

 

そそくさともどる友人達を置いて加持さんと話をする。

 

「この間の忠告は真面目に受け取って欲しいです。」

 

「ちゃんと聞いているさ。それでも俺には成さねばならない事が有るんだよ。それが男の矜恃ってもんなのさ。」

 

「…僕には男の矜恃がなにか分かりませんけどね…。」

 

「いや?君にも有るさ。他人にこれだけは譲れないっていうことがね?」

 

「…。」

 

「シンジー!置いてくわよ!」

 

「わかった!今行くよ!」

 

「さ、今日は帰って休んだ方がいい。態々こんな辺鄙な所にまで足を運んでもらって悪かったね。」

 

「いい勉強になりましたよ。それじゃ。」

 

 

帰りの車中子供たちが眠ってしまったのを確認したのかミサトさんが声を振りしぼる

 

「この間の…拉致…大丈夫だったの?あれから何も言ってこないから…。」

 

「モーマンタイですよ。やるべき事とそれへの決意は固まりましたから…。」

 

「それならいいのだけれど。シンちゃん最近思い詰めてたから…。」

 

あんまり表に出さないようにしてたつもりだけど…バレるもんなんだなぁ…。

 

「そんなに思い詰めてました?僕。」

 

「硬さが違うのよ。」

 

あー…そう来たか…。心の不調は体に影響を及ぼすとは言うけれど…。それでバレるとは…。

 

「…すみません。」

 

「いつもより5分早いしね…。何かあったんじゃないかってそりゃあ勘ぐるわよ。」

 

「そんなにわかりやすいんですか?」

 

「男の不調と浮気は女はすぐにわかるのよん?」

 

「こりゃあ1本取られましたね…。」

 

助手席からミサトさんの手を握る。今日は何故だか甘えたい気分だ。

 

「今日は…家に帰りたくないです。」

 

「ワガママ言っちゃって…。ってワガママは私もか。アスカにはなんて説明するの?」

 

「たまにはミサトさんと2人でデートって事でいいんじゃないですか?」

 

「んー。そうね。あんまり最近二人の時間って作れなかったし丁度いいか。」

 

「ありがとうございます。」

 

 

翌日の昼過ぎ、遅い起床となった僕とミサトさん。公休を取ってくれたのは助かるが、嫌なアラームで目を覚ました。重い腰を擦りながら体を起こした僕とミサトさんは急いで着替え本部へとその足を運んだ。

 

「3分前にマウナケア観測所の補足。現在、軌道要素を入力中」

 

日向さんが声を荒らげる。

 

「目標を第3監視衛星が光学で捉えました。分析パターンは青。最大望遠で出します」

 

青葉さんがモニターにそれを映す。以前とは明らかに異なる異形の姿。

 

「…。以前より…デカくなってる…。」

 

マリさんが呟く。やっぱり僕達に合わせて進化しているんだ…使徒たちも。コチラにエヴァが5機もあるから…。

 

「光を歪めるほどのA・T・フィールドとは、恐れ入るわね。で、落下予測地点は? ……当然、ここよね」

 

はいはい。といった辟易とした表情で問いかける。

 

「MAGIの再計算。ネルフ本部への命中確率、〝99.9999%シックスナイン〟です」

 

「全く。スケベな数字だ事…。状況は?」

 

「N2航空爆雷まるで効いてません。」

 

体表に届く前に全て爆散し傷一つ付いて居ない。

 

「軌道修正は無理ね。オマケにATフィールドは1極集中で押し出してる。これに落下エネルギーとなると…。使徒そのものが爆弾か…。」

 

「第三新東京市は蒸発。ジオフロントどころかセントラルドグマまで丸裸ですね。」

 

やれやれと言った表情でモニターを見やる。

 

「父さんはなんて?」

 

「それが…。使徒の影響で大気の電波が不安定で…連絡取れないのよ。」

 

「あとは現場の判断…か。よし…。」

 

意を決して父さんの威を借る。

 

「父、碇司令より、有事の際、不在の場合伝えて欲しいと。本作戦より余程のことがない限り…エヴァ初号機の永久凍結。他の4機にてこの作戦に当たるように…との事です。」

 

「…。致し方無しか…。シンジくん…それで浮かない顔してたのね。」

 

「…僕が戦場に立てませんから…。ごめん、皆。」

 

「…この4人でどうにかカバー出来るっていう勝算は?」

 

アスカが訝しむ。当然、見たこともない使徒相手に何処までやり合えるか分からないって言うのも有るのだろう。

 

「空間の歪みが酷くてあらゆるポイントからの狙撃も無理。ならやることは1つよ。」

 

「手で受け止める。よね?」

 

「そ。アスカ大正解。」

 

「最もMAGIが1番勝算が高いと踏んだ作戦がこれ。」

 

バックモニターにデカデカと地形図が現れ各地点には各EVAの印が施されている。

 

「成程ね…。配置の根拠は?」

 

「女の勘よ。」

 

「はっ!なんったるアバウト!でもそれが気に入った!やるわ!」

 

「え、良いの?」

 

「3機でやるより4機でやる方が勝てる確率上がるんでしょ?だったらやるわよ。やってやる。シンジが居ないからって泣きべそかいて逃げるアタシじゃないもの。」

 

ふんっと鼻を鳴らし高らかに腰に手を当てるアスカ。

 

「ありがとうアスカ。それで、僕からコレを。」

 

すっとEVAの装備概要を記した資料をテーブルに出す。

先日の使徒戦及び僕達の関係の変化。周囲の変化がもたらした影響は大きかった。先ず零号機。試作機として生み出された零号機は初号機や2号機に比べその出力自体が低かったのがネックであった。だが、機体のヘイフリックを含め著しく機体が変化し始めているのだ。単眼だったその相貌は双眼に改められ口腔の存在も確認された。元より新型として新造されていた4号機と8号機は差程変化していないが装甲が新しく、従来の装備をマウントする事が困難なようで、リツコさんが頭を抱えていた。まぁどうにか形にはしてくれたようだけど…。

1番厄介なのが2号機とアスカ。2号機から微弱ながらも鼓動が確認され蓋を開けてみるとまだ小さいながらも心臓の生成が確認された。初号機に比べるとやや小さいもののそれでもそれより生み出されるエネルギーは外部からの電力供給を極限まで抑えてくれるまでには到達しているようだ。その事を含め、2号機は初号機のみがもつステージΩに続くステージ∑と認定されることになった。

それを事細かに記す資料、だが、それで終わりなわけが無い。

 

「全く…こんなにこの兵装がドンピシャな使徒が現れるとは思っても居なかったわ…。でも間に合わせて良かったみたい。」

 

ピラリと次のページを捲った4人は固まる。

装備の概要を記した資料、これは各々渡した資料によって最後の項目が異なっている。

 

『対落下型使徒用決戦装備ガラハッド』

これは綾波の駆る零号機のための装備。落ちてくる使徒を捉え使徒の落下位置を的確に把握するためにMAGIとの通信をより強固にする為に取り付けられたブレードアンテナ。これは各機共通で、さらに、走力を強化するための脚部から腰部にかけたスカート状のスラスター。これはアスカ、マリ、綾波のエヴァは共通。だが零号機には肩のウェポンラックより下に伸びる補助脚。先端はアンカー状になっており上からの重圧に幾らか耐えられるように設計してある。更に、各関節に強化用のフレームを付け加え守ることに特化した零号機専用の装備となっている。

 

「碇くん…。これ…1人で考えたの…?」

 

「まぁ…でも形にしてくれたのはリツコさんだよ。」

 

目を輝かせた綾波がうずうずして聞いてくる。変わったなぁ…綾波…。

 

そして2号機の

『対大型使徒用決戦兵装モルドレッド』

アスカの意向に合わせた赤のカラーリングを施したスラスターに両肩に備え付けられた可変式合体剣。それらはマウントされている時は翼としての機能を有しており地上を滑るように移動可能となっている。受け止めるのが柄では無いアスカの為の装備。アスカのところに落ちてきたらどうするんだって?その為の後述の2機じゃないか。

 

「きれーいに2号機として纏めたわね。褒めたげるわ!」

 

「お褒めに与り光栄ですよ。」

 

気に入ったのか何度も資料に目をやるアスカ。昔っから変わらず戦闘狂だなぁ…。

 

「ごめん。マリ、トウジ。2人のは暫定仕様になっちゃうんだけど…。」

 

「かまへんかまへん!式波ん装備見たらわしら2人はその補助機としての役割やろ。快く引き受けさせてもらうわ!」

 

「その通り。私らのエヴァはちと特殊だからね…。」

 

「ありがとう。」

 

補助機である4号機と8号機

『対決戦兵器モルドレッド支援用暫定装備トリスタンver0.8』並びに『対決戦兵器ガラハッド支援用暫定装備ガウェインver08』

4号機と8号機共に腰部のスラスターは健在で、8号機はより女性らしい、2号機や零号機によく似たデザインに。4号機のものはヴォルテクス翼に近い物へとリデザインされている。

ウェポンラックに装備された補助脚のアンカーは零号機と変わらず、異なるのは8号機には盾を、4号機には2号機の追加武装がマウントされ片翼のようになっていることくらいだろうか。

 

「丁寧に色まで揃えてくれてるなんて、仕事がていねいだねぇ…。」

 

「士気に関わることだと思っているからね。」

 

「ま、初戦闘、シンジくんの頑張りも含めて私も頑張らせてもらうよ。」

 

マリさんのイタズラな笑み。何故だか信用出来る。アスカや綾波と違った安心感。だが、トウジは何も喋らずじっと資料を見据えている。

 

「…トウジ?変…だったかな?」

 

「!へんもクソもあらへん!見とれてたんや!ワシらと同じ中学生でここまでの装備を考えるなんて…。ワシには到底できん!この装備お前じゃのうてワシらが背負うんでええんか?」

 

「もちろん。君たちの為に考えた兵装だ。好きに使って欲しい。」

 

「おおきに!必ず勝って帰ってくるわ!」

 

トウジの俺に任せろと言わんばかりの真剣な眼差し、初めての実戦で怖いはずなのにそれを押し殺してまでも強がる男の意地を感じた。

 

「4人ともありがとう…。本作戦の指揮は僕、碇シンジが取ります。では各パイロットは持ち場へ。スタート位置にて待機。」

 

「「はい!」」

 

作戦課長として表立った初めての作戦。この戦い無事に乗りきって必ず父さんと話をしなければならない。その為には今目の前の使徒を殲滅しなければならない。

 

 

胸元に輝く十字のペンダントを握りしめる。ミサトさんの胸元にも同じものがぶら下がっている。

 

「…緊張するわよね…。今まで現場に立っていたのに急に指揮に回るなんて…。」

 

「緊張…。そう…ですね…。」

 

足が震える。手が震える。いつでも出撃出来るようにとプラグスーツには着替えているからか余計に発令所の冷房が体に刺さる。

 

「大丈夫。失敗しても貴方の、貴方たちの責任じゃない。死ぬ時はみんな一緒よ。」

 

暖かな手が震える手をそっと握りしめられる。

大きく深呼吸をして目を瞑る。たかが一瞬、されど一瞬。その一瞬が長く感じる。

 

『現在、目標の軌道を補足中。重力要素を入力』

 

瞑った目を開きモニターを睨む。

 

「…ありがとう4人とも。では全機スタート位置へ。」

 

クラウチングスタートの構えを取り各々駆け出す姿勢をとる。

 

「二次的データが当てにならない以上、以降は各自の判断に任せるよ。」

 

ネックレスを握りしめる手に力が篭もる。

 

「エヴァと皆に全てを託すよ。」

 

「仰々しいのよ!どーせ!アタシらが失敗するってわかった瞬間初号機に駆け込むんだから…。それまでの時間は死んでも稼ぐわよ。この街は無くさせやしないんだから!」

 

「力みすぎだよシンジくん。私達は負けないって〜。ま、普通の作戦じゃないから不安になる気持ちは分からなくもないけれど…。私らに任せな。」

 

「シンジ!ワシも不安でいっぱいや!初めての実機であんなデッカイんと戦うとは思っとらんかったわ!ワシらはワシらで出来ることをやる。シンジは気張り過ぎんなや!」

 

「碇くん。帰ったらまた味噌汁が食べたいわ。必ず作ってね。」

 

うん…。この4人になら任せても大丈夫だ。僕が思っているよりも相当強い。下手したら僕単騎よりも遥かに…。

 

「目標接近! 距離およそ2万」

 

再度の深呼吸。大丈夫。大丈夫。何度もその言葉を繰り返す。

 

「では…作戦開始。エヴァ全機発進。」

 

この1度の出撃がしくじれば後は無い。張り付くようにモニターと地形データを交互に見る。

 

各々上空の使徒を目視、MAGIによる修正されたルートを全速力で駆け抜ける。

 

「目標のA・T・フィールド変質! 軌道が変わります!」

 

黒い球体だった使徒はそのATフィールドを変質させ姿を変えた。更にそのエネルギーを持ってして軌道をここまでずらすとは…。

 

「ぐっ…。」

 

コンソール横を強めに殴る。想像以上にスピードが速い。

 

「落下予測地点、修正205へ!」

 

「目標さらに増殖!」

 

噛み締めた奥歯が軋む。あとは祈るしかないのだ。

 

「あちゃー!私じゃ間に合わない!」

 

「アスカ!ごめんなさい!」

 

「しゃあない!ワシが何とかしちゃる!」

 

トウジの眼光が鋭く前を見据える

 

「緊急コース形成!605から675!」

 

指示と共に立ち上がる装甲板が斜面を作り出し緩やかなカーブを生み出す。そこへ突っ込む4号機は速度を落とすことなくカーブに差し掛かる。

 

「次!1072から1078スタンバイ!」

 

ビルが立ち上がり階段のような足場を作り出す。ソレに跳躍して飛び乗り最後は迫り上がるビルの反動を利用したジャンプによって距離を伸ばす。

 

「ぐっ!」

 

力いっぱい操縦系を握りしめ押し込むトウジ。辺りのビルをなぎ倒してその速度はソニックブームが起こるほどの速度へと到達する。

 

「エヴァ4号機!目標落下地点へ!会敵します!」

 

「ATフィールド!全開!」

 

「目標変形!距離12000!」

 

使徒は球体の姿からまるで蛾のような姿へとその形を変えた。

その輪郭にはワラワラと人の形をした何かが蠢いている。

 

「鈴原ァ!すぐ着く!耐えろ!」

 

アスカの怒号が響く。スラスターは全開に滑るように地表を駆け回る。

 

ATフィールドを展開し補助脚を下ろしアンカーを大地に突き刺す。巻き上がる砂埃がその使徒の速度と威力の証明となる。

だが、その中心部から人型の物が降りてきて4号機の腕を掴む、と同時に槍状へと変化し掌に深々と突き刺さる。

 

「ぐぁああああ!」

 

苦痛に歪むトウジの顔。だが絶対に落とさんと歯を食いしばり使徒を睨みつけている。

 

「何がなんでも絶対落とさへんで!」

 

「鈴原ぁ!」

 

「式波ィ!遅いわ!早う仕留めんかい!」

 

トウジが捲し立てる。

 

「分かってるわよ!命令しないで!」

 

両翼を二対のブレードへと、変化させ飛びかかる。

一刀はATフィールドを切り裂き、もう一刀でコアを狙う。

 

「どぉぉりゃぁあ!せいっ!」

 

だが虚しくも切っ先はコアを捉えず。反発し合う磁石の様に円周をグルグルと周回し出すコア。

 

「外した!あぁん!もう!狙えないじゃないの!」

 

「あ、アカン式波ィ!もたん!」

 

メリメリと山肌に脚がめり込んでいく4号機。足場も崩れ始め間一髪。

 

「鈴原くんッ!」

 

綾波が間に合い4号機と並び使徒を支える。

 

「あ、綾波ィ…。死ぬ思ったで…。おおきに。」

 

中心を捉えている4号機、依然槍は腕を貫いたままだが使徒の自重を零号機と分担し支えたため幾らか余裕が出来たように見える。

 

「式波!はよせいや!」

 

「狙いたくても狙えないのよ!あぁもう!焦れったいぃー!」

 

グルグルと回るコア、それの捉えることが出来ず目が回る。

 

「やっとこ辿り着いた!セーフだよねぇ!?」

 

ガシッとコアに掴みかかる8号機。その腕は侵食され赤みを帯びている。

 

使徒も最後の〆に取り掛かる。ゆらゆらと蠢く人の形を成した何かがビンと張り速度をさらに強める。

 

「がぁ!うせやろ!?まだ強んなんのかいな!」

 

顎部の装甲が外れ口腔が剥き出しになる4号機。次第に腕の筋肉は裂け始め血飛沫がまう。零号機も同じく腕はもう限界のようだ…。司令室から駆け出そうと後ろを振り返るがミサトさんに静止される。

 

「シンちゃん。大丈夫。まだ、信じてあげて…。」

 

その顔に不安は無い。あの4人を信じてる。その決意が灯った表情。僕の手をしっかりと握り締められている。

 

「アスカァ!早く!」

 

「分かってる…分かってる!わかってるっちゅーのぉぉぉ!」

 

二対のブレードを一つに束ねる、両刃から展開された2種のATフィールドが反発し合い強烈な振動を起こす。

無我夢中でそれを大きく振りかざす。ピシッとヒビが入りコアは大量の血飛沫を巻き上げ離散、S2機関を失った使徒は力なく崩れ山と街を覆う。中心から血の噴水を巻き上げながら形象崩壊してゆく。勝った…。勝ったんだ。僕なしでもあの4人はあの使徒を退けて見せたんだ…。

 

「目標は完全に沈黙。形象崩壊を確認!やりましたよ!シンジくん!葛城さん!」

 

マヤさんの嬉々とした声にホッと胸を撫で下ろす。力なくへたり込むミサトさん。僕を見上げて

 

「ね、言ったでしょう?あの4人なら大丈夫よ。」

 

ニッコリと満面の笑みでそう呟く。

 

「電波システム回復!碇司令より通信が入っています。」

 

…僕にとってはこれからが本番だ。

 

「繋いでください。」

 

「申し訳ありません。僕の独断で4機の破損、パイロットも負傷。責任は全て僕に。」

 

「おや…碇の息子か…?君は死地に立たなかったのかな?」

 

「はい。父さんの言いつけ通り初号機の凍結を最優先しました。」

 

「成程な…。構いやせんよ、むしろこの程度の被害なら幸運と言っても差し支えないだろう。」

 

「あぁ、よくやったな…シンジ。」

 

「父さん…。」

 

「先日はすまなかった…。今度ゆっくり食事でもしながら話をしよう…。」

 

突然の謝罪に言葉を失う。あまつさえ食事の予定まで…。定まらぬ頭のままに軽く返事を返してしまう。

 

「…分かりました。」

 

「葛城三佐。あとの処理は任せる。皆ご苦労であった。」

 

あの父が…労いの言葉を…。やっぱりマリさんの言う通り信じてみても良いのかもしれない…そう思った。

 

 

「はぁ…。はぁ…。何とか倒せたわ…。こんなドギツイんと戦っとるんか…式波達は…。」

 

「はぁ…。はぁ…。でも鈴原よく耐えたわ…。アンタが…間に合わなかったら全員もれなく共倒れだったわ…。」

 

「はぁ…んく…。トウジ良くやったね。お姉さんが褒めてあげようね。」

 

「じゃかしいわ…。同い年やろが…。あー…腕こない痛なるんか…もう指の1本も動かせんわ…。」

 

「レイもよくやったわ。ナイスタイミング。あと数秒遅かったら鈴原ぺしゃんこだったもの。」

 

「よく耐えたよ。レイちゃんも。」

 

「…。」

 

「あ、綾波さ?」

 

「すぅ…。すぅ…。」

 

「「ね、寝てる…。」」

 

それから回収班が来るまで相当な時間がかかった。

斜面から流れ落ちた血液は排水管を通り回収。研究に回されるそうだ。

本作戦に当たった4機のうち重篤な被害を受けたのは4号機と8号機。

4号機はその両の腕がヘイフリックスの限界を超えているようで。取り替えになるようだった。

8号機も両腕のコア化が酷いようで肩から全て交換。軽微な2号機と零号機は自機での修復が可能な範囲とかねがね被害は最小限に抑えられた。

 




はい、第11の使徒まで乗り切りました。
難しい小話を挟んだせいで頭がパンクしそうです。

それを見返して書き換えて、見返して書き換えて…。
労力がこの話にはかかっています。

オリジナルの装備、出してみたけど…今後活躍するのかねぇ?
でも、とりあえず書けるだけ書いて、出せそうなら出していこうと思います。

次回は佳境に入ります。あと2話で破編は終わりを使えます。故に頑張って書いてます。良かったらマダマダお付き合い下さい。
感想と次回予告は随時受け付けてます。
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