Re Take of Evangelion 作:Air1204
「分配長!あんたが気に病むことは無い!」
トウジは昨日よりも早く床に就くとすぐにいびきをかき寝始めてしまった。寝言を言いくるりと横を向く。
はだけた布団をかけてやるヒカリは微笑みながら呟く。
「あなた。毎日ご苦労様、おやすみ。」
「お休みって…何?」
襖の影から顔を覗かせヒカリに問いかけるアヤナミ。
ヒカリは、母性的な回答をして見せた。
「おやすみって言うのはね。みんなが安心して眠るためのおまじない。おやすみなさい。そっくりさん。」
「…おやすみなさい…。」
アヤナミの中ではよく分からない感情が犇めいている。
NERVに帰らなければ命令が無い。生きている理由が無いと思う自分。そして、ツバメの成長や今日植えた稲の成長を見届けたいと思う自分。その狭間で自分がどうするべきか頭を悩ませていた。
もう一人これからの自分の在り方に悩む者がいた。それはソウリュウ。夕食を終え後は床に就くだけとなった彼女もまたアヤナミと同じく悩み、外に出て空を眺めていた。
「綺麗な星空…。」
見上げれば満点の星空、人工の光が極端に減ったこの世界では星の光を遮るものが無い。だからこそ綺麗に星が映るのだ。
「あれ…?ソウリュウ…?」
重ねられた土管の上に座るソウリュウは唐突に後ろから声を掛けられ、振り向くとそこには風呂上がりか、髪を濡らしたシンジが立っている。
「どうしたの?こんな時間に…。」
心配そうに此方に近づき隣に腰を下ろす。
「ちょっと…ね?」
「話せるなら話してみて欲しいかな…?」
そう言って顔を覗き込むシンジの顔を見つめる。
「…。色々な人と関わって、なんだか…自己嫌悪とでも言うんでしょうね…。自分がしてきた事が良くないことだってわかったの。」
「仕方ないよ。君も被害者だろう?それにフォースは僕が引き起こした。だから君は関係ないよ。」
そう言ってにっこり笑うシンジ。だが、それでもソウリュウは心が落ち着かない。
「それでも、私はきっとここに居るべきじゃ無いんだわ。」
「そう卑下しないで。誰かが君にそう言ったの?僕は君やアヤナミが人と触れ合ってヒトとして暮らしているだけで嬉しいんだよ。」
ふつふつと胸の中で我慢していた感情が燃え上がる。
誰が悪い訳でもない。ただ優しすぎるが故に…。
センセを信じようとした自分が憎い。元凶でありヴィランの立場である自分さえも優しく迎え入れるこの村がどうしようもなく憎い。
だって、自分は悪だと爪弾きにされていた方がこの世界に未練なんて無かったから。ただ、シンジに従い着いてきて然るべき時に命を捨てるつもりだったから。
それなのにどうして。この世界はこんなにも自分に優しいのか…。こんな自分に…。
「煩い!何でもかんでも知ってるような口振りで!私の気持ちなんて分からないくせに!」
やり場のない怒りでシンジに当たってしまう。それも当然初めての経験で戸惑うソウリュウ。それでも抜いてしまった剣はそう簡単に収めることは出来ない。
「良い!?私はヴィランよ。何も私には守ることは出来ない!血塗られたこの手じゃツバメちゃんも満足に抱いてあげられないッ!この気持ちが貴方にわかる!?」
返す言葉もなく、ただ悲しい表情を浮かべたまま此方を見るシンジを見てハッと我に返る。
だが、もう遅い。吐き出した感情は元には戻せない。
やり場のない感情を吐き出してしまったソウリュウはその身を翻し小走りに何処かに去っていってしまう。
「…君はなんにも悪くなんて無いんだよ…。僕のせいかな…。」
1人、取り残されたシンジはそう呟くしか出来なかった。
「碇くんお帰りなさい。いい湯だったでしょう?」
既にトウジは眠ってしまったようで委員長が1人明日の朝食の準備をしている。
「…うん。」
「どうしたの?何かあった?」
「僕は…ソウリュウを怒らせてしまった。」
暗い声に此方を振り向きシンジの顔を伺う。
「あら…。仕方ないわねぇ…。でも、あの子もわけアリでしょう?仕事から帰ってきてからずぅうっと暗い顔してたから…。トウジも心配してたのよ。」
「うん…ごめん。」
「碇くんが謝ることじゃないのよ。そうねぇ…あの子には一人の時間。必要なのかも。」
「そうだといいかな…。」
「えぇ…。大丈夫よ。さ、明日も早いんでしょう?おやすみなさい、碇くん。」
「おやすみなさい、委員長。」
翌日も変わらぬ日々が過ぎる。アヤナミとシンジは朝から仕事に赴き黄昏時に帰る。
だがシンジは必ずソウリュウの居る。NERV第2支部の跡地に足を運ぶ。ただただそこに座り込み微動だにしないソウリュウを眺め、日が暮れる頃に帰る。そんな生活が3日、4日と続く。
その間アヤナミは様々な人と触れ合い色々な事を学ぶ。それこそ、人として大切なことを。
ある時、少し早く帰ったアヤナミは診療所に足を運んだ。それはソウリュウが最近、公衆浴場に顔を出さないからであった。
心配、などということはまだアヤナミには分からない。それでも気になったから顔を覗かせたのだ。忙しなく働くトウジとヒカリ。だがソウリュウの姿はない。
診療所の引き戸を開けると、子供の声が聞こえた。
「ああ、ママじゃない」
アヤナミは、その子供に続いて出迎えてくれたヒカリの方を見た。
「おかえり、そっくりさん。お仕事ご苦労さま」
アヤナミが返事をする前に別の声が聞こえた。
「遅くなってごめんなさい」
出口へ向かって子供が駆け出した。まだ四歳ぐらいの男の子だ。
「あ、わーい! ママ」
脇目も振らずに直進する子供を避けて、アヤナミはヒカリの元へ歩み寄る。
「いい子にしてた?」
「うん!」
親子の会話が交わされて、母親が男の子の手を取る。
ヒカリは、その様子を遠巻きに見守っていた。レイも振り返り、戯れる二人に目を向けた。
「いつもありがとう、ヒカリ」
じゃれる子供に袖を引っ張られながら、母親がヒカリに礼を言った。
「いいのよ。こういうのはお互いさま」
ヒカリが返すと、母親は温和な表情を息子に向けた。
「さ、家に帰ろう」
「うん! さよなら」
快活に子供が腕を振ると、ヒカリも振り返した。
「はい、さようなら」
アヤナミは、立ち去る親子から視線を外して、ヒカリに尋ねた。
「さよなら、って何?」
ヒカリはレイの顔を瞥見し、再び親子に視線を戻した。
「そうね、また会うためのおまじない」
出口へ向かう親子が、手を取り合い離れていく。
レイは、その光景を見て、もう一度尋ねる。
「あれは、何?」
「そうね、仲良くなるためのおまじない」
そう言うとヒカリは、そっと右手を差し出した。
アヤナミはプラグスーツに包まれた右手を、そこに重ねる。
「いつまでもそっくりさんのままじゃねぇ…。」
農作業を終えたアヤナミは変わらず農婦達と風呂に足を運んでいた。だが、リーダー格の女性がふと呟く。
「センセイの話じゃ自分の名前も知らないみたいだからねぇ…。だったら自分で付けたらどうだい?」
「名前。自分でつけて良いの?」
農婦の1人に言われた言葉にそう返すアヤナミ。ふとアヤナミは考えた。それなら、名前を決めて欲しい人が2人居る…と…。
雨のふりしきる中アヤナミはケンスケのログハウスへと足を運ぶ。そこならきっとソウリュウがいると思って。
コンコンと扉を叩く。
「誰!?」
慌ただしいアスカの声。声は同じでも違う人だとすぐに分かった。
「なんだ…初期ロットか…。」
そういうと緊張の解けたアスカはベッドへと倒れ込み、興味なさげにゲームへと視線を落とした。
室内ではクラシックの音楽が鳴り響き奥ではカヲルが本を読んでいるのが見えた。
「ソウリュウさん…ここにいると思って…。」
「私のオリジナルが?ココには来てないわよ。どうかした?」
「…もう5日も帰ってきてない。」
「あぁ…家出ってワケ…。ココには1回も来てない。でもシンジならいつもNERV第2支部109棟跡地に足を運んでる。」
「そう。ありがとう。」
画面から目を逸らさずに説明を続けていたアスカだがアヤナミのありがとうという言葉に反応し顔を上げる。
「教えといてあげる。私たちエヴァパイロットはエヴァ同様、人の枠を超えないよう、設計時に抑制されてる。非効率な感情があるのもそう。人の認知行動に合わせてデザインされてるだけ。あんたたち綾波シリーズは、第三の少年に好意を持つように調整されてる。今の感情は、最初からネルフに仕組まれたものよ」
「それでもいい。」
「あっそ…。勝手にすれば?」
そう言うとアスカは携帯ゲームへと目線を戻す。
だが次にアヤナミに絡んだのはカヲルであった。
「リリス。君、変わったね。なんというか…人に近くなった。」
「違う、私はリリスじゃない。」
「そういう否定こそ人間の醍醐味だよ。」
「そう…。」
会話を終え出口に向かうアヤナミ、だが何か思い出したかのようにアスカに問いかける。
「アナタは、この村にいて『仕事』しないの?」
「あんたバカぁ?ここはアタシのいる所じゃなくて守るところよ。」
アスカは姿勢を崩さず、視線も送らずそう言い放つ。
雨も上がり虹が空に架かる。それでもなお、姿勢を崩さず座り込んだままのソウリュウ。
ふっとなにかに気づいたように顔を上げる。
だが、そこには何も無く、ただ白い鳥が空に羽ばたいて行くのであった。
「ソウリュウさん…?」
アヤナミはソウリュウの真後ろに立ち話しかける。
だが、ソウリュウはその声が聞こえると視線を下に移しまた黙りこくってしまった。
それを傍から覗くシンジ。
「アヤナミ…なんでここに…?」
誰にも聞こえぬように呟く。
「ソウリュウさんはなんで村に戻らないの?アナタもあの人と同じで村を守る人?」
膝を抱えたまま動かないソウリュウに対して言葉をかける。
「違う!私はこの村を守る人なんかじゃないッ!ヒトの言いなりになってそれが正しいと思い込んで!全てを壊そうとしたのよ!もう誰とも話したくないッ!誰にも来て欲しくないッ!もう放っておいてよ…。」
ソウリュウは涙を流し胸の内をぶちまける。心の内から悲痛な叫び。ソウリュウが1人悩む理由だ。
君のせいじゃないと言われてもきっと自分は後ろ指を差され笑われる。大罪人だと罵られている。そう思っている彼女の悲痛な叫び。
「なのに…なのになんで…。こんなにみんな優しいのよ…。」
嗚咽を漏らし泣きじゃくるソウリュウ。それを見たアヤナミは今まで感じたこともない感情に駆られ後ろからそっとソウリュウを抱きしめる。
「それは…皆、ソウリュウさんを好きだから。」
はっとした表情になり後ろから抱きつくアヤナミの顔を見る。
今まででは感じられなかった程の優しい笑みに胸から込み上げてくるものを抑えきれず声を上げて泣きじゃくった。
「お帰りなさい。ソウリュウ。」
一番最初に出迎えたのはシンジだった。一部始終を見ていた彼は最後まで見まいと途中で立ち去りトウジの家にて待機していたのだ。アヤナミに手を引かれ帰ってきたソウリュウの目は腫れ、涙のあとが頬に残っていた。
「た、ただいま…。」
申し訳なさそうに挨拶をするソウリュウの頭を撫でる。
「うん。良かった。君が帰ってきてくれて…。今日は台所を借りて僕が食事を作ったんだ。」
最初こそ気づかなかったがいい匂いが立ち込めている。
奥ではなんだか騒々しく騒がしい声が響いている。
「帰ってきて早々人混みは嫌だと思うけど…。少し我慢してくれないかな…?」
「うん…大丈夫。ここにはシンジさんもアヤナミさんも居るから。」
そう言う彼女の目にはもう不安は残されていないようだ。
ほっと胸を撫で下ろすシンジ。
「先、居間に行っててくれないかな?今日は凄いものが取れたんだ。」
そう言ってニコニコと微笑むシンジに背中を押され居間へと押し込まれる。
扉を開くとそこには、ケンスケにトウジ、ヒカリ、ツバメ、オマケにアスカとカヲルの姿もあった。
「おうおう、ようやっと帰ってきよったか。ささ、ここ座れ。」
ポンポンと座布団を叩くトウジ。それを尻目にツーンとした態度を崩さないアスカはぶっきらぼうにソウリュウに言う。
「泣くだけ泣いて満足した?」
「えぇ…。」
「そりゃ大層なこって!良かったわね初期ロットもシンジも優しくて。」
「えぇ…。」
アスカのいびりにも屈することの無いその瞳。アスカはふんっと鼻を鳴らすとゲーム機に視線を戻してしまった。
「お父さん、今日は外泊してくるって。なんか友達と飲み会があるからとか何とか…。」
そういうヒカリを尻目にニヤリとするケンスケ。彼がそう仕組んだからであった。
「ま、まぁ…お義父さんもたまには羽ぇ伸ばさんとツバメん夜泣きで起こしてしまってるしのう…。」
バツの悪そうにトウジが言う。どんなんでも孫は可愛いものだよとケンスケは言う。
「お待たせ!遅くなった!」
台所から顔を覗かせたシンジが両手に皿を持ち現れる。
その皿にはこのご時世似合わぬもの達が並んでいる。
「に…肉ぅ!?シンジィ!?お前!!」
「何も悪いことなんてしてないよ!!今日たまたま止まっちゃった浄化装置を直しに行く途中に居たんだよ。」
「居たって…何が?」
「何って…。イノシシ。」
「「ぇぇぇ!?」」
突拍子もないシンジの発言に一同が驚く。
「大丈夫。最後の1頭とかじゃ無かったから。申し訳ないけど…。結構繁殖してるね…。だからその一頭を貰ってきたんだよ。」
大皿に並ぶのは生姜焼きとソーセージ。そしてスペアリブを使った角煮だ。
「まだ、結構余ってるから…。残りは配ってもいいかなって…思うんだけど…戦争になったりする?」
シャレにならない冗談を言うシンジ。だが、確かに貴重なものである肉、それを奪い合う争いが起きてもしまうかもしれないという懸念はあった。
「いや、やめよう。それならうちで預かるよ。何せ冷凍庫もあるしな。」
「…それこそこの世界じゃオーバーテクノロジーすぎやしないか…?」
ケンスケの言葉にシンジがツッコむ。ケラケラとそれを見て笑うトウジとヒカリ。なんだか懐かしくてつい、アスカも微笑んでしまう。
「あ、アスカ笑った!久々に笑った顔見たわ。」
見逃さなかったヒカリが言う。すぐにバツの悪そうな顔に戻るアスカ。
「…たまには人を守ることとか忘れてもいいと思うよ僕は…。」
「…ならそうする…。」
ムスッとした顔でそう告げるアスカだが会話の波に飲まれ口数も増え次第に笑顔も増えていった。
ソウリュウやアヤナミも交えて。みなの記憶に刻まれる会食。
「シンジくん。僕は君と一緒にここに来られて良かったよ。」
渚カヲルは言う。
「僕もだよ。君と、いや君たちとここに来て良かった。」
ケラケラと笑い合いながら食餌を囲む。
シンジには過去のミサトのリビングでの光景が重なって見える。それこそ、アヤナミやソウリュウは居なくとも、仲良く皆で食事をした風景が思い出されるのだ。
「やっぱり、僕がケリをつけないとね…この世界の為にも…。」
ツバメとじゃれるアヤナミとソウリュウを見て心に決めるシンジ。だが現実は無情である…。
翌日、アヤナミは台所に置かれている瓶を覗き込む。
「それは梅干し。夫が毎年食べるのを楽しみにしてるの。生きることは楽しいことと辛いことの繰り返し。毎日が同じでいいのよ。そういうものでしょう?」
カラカラと笑いながらいうヒカリ。アヤナミの背中には抱っこ紐によって括り付けられたツバメの姿がある。
「ほんとに不思議。アタシより懐いてる…。そっくりさんもずっとここに居たらいいのに…。」
その言葉に頬を緩ませるアヤナミ。心の中で思う。
私はここにいてもいいのだと。
いよいよ次で第3村堂々完結です。
いっとき、3桁を切る97位でした。
大変ありがとうございます。