Re Take of Evangelion   作:Air1204

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決戦NERV その④ 終幕

「ここが…マイナス宇宙…。」

 

「ああ、そうだ。人類では認知出来ない裏側の世界。ここに何者かが6本の槍とアダムスを残していった。そして、お前の母ユイが居た場所でもある。」

 

「母さんが…?」

 

「とは言ってもお前が知り得る母ではない。旧世界の遺産、何者かが起こしたこの世界の事象とは異なる人類補完計画、その行く末を見守ったユイの成れの果てだ。」

 

それならきっと僕の知り得る世界。いや寧ろ、僕がいた世界の話だ。やっと腑に落ちた。

この世界は僕のいた世界の遥未来の世界、そして遥かなる過去の世界。そう、未来と過去どちらも存在する、言わば次続きの世界だ。

 

「そうか…だから母さんは初号機に残ってヒトの行く末を見守ることにしたんだね…。」

 

「…。お前は何を知っている。」

 

「大体は…。父さんの知りえない遥かなる未来も過去も。」

 

「まさか、有り得ん。そんな所業をやってのける存在など…。」

 

「何度も話すように僕はこの世界の人間じゃない。この世界に居た母さんも同じだ。」

 

「っ!シンジ…お前は…!」

 

「あれが…ゴルゴダオブジェクト。全ての始まりにして約束の地。ヒトの力ではどうすることも出来ない運命を変えることが出来る唯一の場所…。」

 

「あぁ、そうだ…。だから大人しく初号機を渡せ。そうすればお前もユイに会える。」

 

「嫌だ。と言ったら?」

 

「…。」

 

相変わらず不器用な父親だ。計画は入念に練られたとは言え、僕の感情や思考は存外無視されている。

今に始まった事じゃない、とは言え親としては余りに未熟で稚拙な思慮だと僕は思う。

 

「…嫌だ嫌だと否定するのは良くないね…。僕は父さんと話をする事を望んだ。ねぇ、父さん。父さんはここで何がしたいの?」

 

ゴルゴダオブジェクトに吸い込まれるように落ちる。目を覚ました時には相も変わらず何時もと同じベッドに横たわっていた。

だが、起き上がろうとその身を起こした時には既に第4ケイジにプラグスーツを着た状態で立っていたのだった。

 

「マイナス宇宙は我々の感覚機能では認知出来ない。故にLCLが知覚可能な仮想世界を生み出しているのだ。」

 

「…まぁ難しい話だね…。」

 

場面は目まぐるしく暗転する。

荒廃したNERVに漂白された地上。ヨモツヒラサカ、そして、あの儀式の場面さえも映し出した。

 

「やはりお前は…。いくつの世界を巡ってきた。」

 

「ざっと1900近いかな。その度父さんは僕に吠え面かかされてるけどね。」

 

「ふっ…。シンジ。お前に見せたいものがある。」

 

連れてこられたのはセントラルドグマとよく似た場所。

十字に磔にされた黒いそれは僕の知るアレによく似ていた。

 

「アルマロス!?何故ここに!?」

 

「アルマロス…。やはりお前にはそのように映るのか。エヴァンゲリオン・イマジナリー。葛城博士が予想した。現実には存在しない架空のエヴァだ。虚構と現実を等しく信じる生き物。人類のみがそれを知覚できる。」

 

「エヴァンゲリオン・イマジナリー…。父さんが欲しかったのは…これなの?」

 

「あぁ、希望の槍と絶望の槍、互いにトリガーと贄となり虚構と現実が溶け合い、全てが同一の情報となる。これで、我々の認識、いや世界を書き換えるアディショナルインパクトが始まる。」

 

アルマロスにカシウスとロンギヌスが互いに螺旋を描き吸い込まれていく。黒かった体躯は純白色になり、その磔にされていた手を引き抜く。ゆっくりと足元のLCLへと着水し大きな水飛沫を上げる。父さんは怯むことなくその飛沫を全身に浴びた。

 

「私の願いが叶う唯一の方法だ。」

 

 

「くっ…やはり始まったか…。アディショナルインパクト。」

 

「エヴァンゲリオン・イマジナリー。まさか実在するとはね。これでシンジくんがインパクトを止める術は無くなってしまったわね。」

 

「じゃあどうすんのよ!」

 

「私達で新たな槍を作り出し彼に届ける。」

 

「できっこないっしょ!そんなこと!!」

 

ミドリが焦る気持ちも逸る気持ちもわかる。

傍から見ればこの状況、確実に人類は滅びの道を辿っている。

だが、それを見ているアスカも、渚司令も、マリも誰一人として諦めた表情を浮かべていない。

チルドレン達が皆諦めていないというのに艦長である私が真っ先に諦めてしまってはダメだ。

 

「リツコ。出来るでしょ?」

 

「無茶言うわね。データはさっきのサンプルしかないのよ?」

 

「確かに、本艦がヴーセとして乗っ取られていた時、艦隊は黒き月をマテリアルとして、見知らぬ槍を生成していた。ならば、この艦を使って新たな槍を私たちで作り出せるはず。何ともミサトが思いつきそうな手段ね。」

 

「0じゃ無ければ賭けてみる価値はある。そうして私達は何度も使徒に勝ってきたのだから。ヴンダーに人の意志が宿れば、更なる奇跡もありえるわ。リツコの知恵とヴィレとヴンダーの言霊を、私は信じるわ。」

 

「ふっ…。まるで若い頃みたいね。要は脊椎システムに有りそうよ。マヤ、悪いわね。ぶっつけ本番で行くわよ。」

 

「ノープロブレムです。副長先輩!いつもの事ですから!」

 

ふうっと大きく溜息をつく。これが最後の大仕事、何があってもシンジくんにこの槍を届ける。

たとえこの身が尽きようとも。

 

「なーんかまたまともじゃないこと考えてんじゃないの?ミサト?」

 

「アスカ。あなた達も準備が出来たら脱出ポッドに避難して。司令も一緒に。」

 

後ろから、昔のような口調で私を呼ぶ声がした。

振り返ればアスカだった。

アスカにも苦労をかけてしまった、3号機の起動実験あれの事故から始まりずっと迷惑ばかりかけてしまっている。だからこその贖罪、全てが終わればあの村で普通の人として暮らしていけるから。

 

「はい!って素直にアタシが答えるとでも思ってんの?」

 

「…艦長命令よ。」

 

「バカね。その命令は拒否するわ。アンタの『家族』としてね。」

 

「っ!」

 

家族という言葉に心が揺らぐ。これだけの事をして、迷惑をかけて、辛い思いをさせたのに私のことをまだ家族だと言ってくれる彼女。胸が苦しくなる、今にも涙が零れそうな程に。

 

「ったく…。ま、ミサトのこと恨んだ時もあった。でもそれは過去よ。それよりも思い起こされるのはビール飲んで馬鹿みたいに酔っ払ってだらしの無いアンタの姿。身寄りのないアタシたちを育ててくれたアンタ。アンタが馬鹿なこと考えてんならアタシも残る。それだけ。」

 

「…。アスカ、貴方には…。」

 

「でももだっても今更説教じみたもんも聞きたかないわ。アタシだって28よ!?流石に止めて。それにアタシの居場所は今はあそこに居る。だったら生きて帰ってくんのを傍で見守るのもアタシの務めでしょ?」

 

「…。わかったわ。」

 

「そ、れ、に。初号機ほど主機としての能力は無いにしろあれだけの機体。補機ぐらいの活躍くらいはしてくれるでしょうよ。」

 

「だからこそ、僕もここに残るよ。その補機にシンクロして出力を安定させるモノが必要だからね。」

 

「司令!?」

 

後ろに居たのはアスカひとりでは無かった。渚司令も黙って話を聞いていたのだ。

 

「僕なりの贖罪さ。艦長を貴方に任せてしまった僕の責任でもある。それに滅びゆく僕の運命を変えてくれたのは彼さ。なら僕の命、最後まで彼に預けるよ。」

 

「…2人ともありがとう。では『これより本艦の脊椎システムの組み換え作業を行います。それが終わり次第速やかに緊急脱出用プロトコルへと移行。非戦闘員、並びに負傷者は優先的に脱出ポッドへ退避して。』」

 

「さて…とアタシ達も持ち場に戻るわよ。カヲル。3+4号機は?」

 

「既に真希波くんが座に運んでくれたみたいだ。」

 

「さすがコネメガネ、仕事が早いわね。」

 

『まぁねん、姫たっての希望だし叶えない訳にはいかんでしょ。』

 

「ありがと、そんじゃミサト、アイツを連れてさっさと帰るわよ。」

 

「えぇ。ありがとう、アスカ、マリ、渚くん。」

 

 

 

「父さんは何を望むの?」

 

「お前が選ばなかったA・T・フィールドの存在しない、全てが等しく単一な人類の心の世界。他人との差異がなく、貧富も差別も争いも虐待も苦痛も悲しみもない、浄化された魂だけの世界。そして、ユイと私が再び会える安らぎの世界だ」

 

そう言った父さんの心、その情景が視覚的に僕に流れ込んでくる。

これがマイナス宇宙。そしてアディショナルインパクト。

 

「ここにいるのは全てレイか? どこだ? どこなんだ? ユイ!」

 

父さんは記憶の断片に残された母さんの面影をずっと追っていた。

場面はいつの間にか母さんの墓の前へと移り変った。

 

「父さん、もうやめよう?」

 

「なぜだ!?なぜこの世界にシンジがいる?」

 

「父さんのことが知りたいから。寂しくても、いつも父さんに近づかないようにしていた。嫌われているのが、はっきりするのが怖かったんだ。でも、今は知りたい。父さんのことを」

 

僕が1歩歩み寄る、だが、僕が近づくのを拒むようにATフィールドが展開される。

 

「何故だ…。とうに人の身など捨てた私がシンジを恐れているというのか!?」

 

いつの間にか握られていたSDATを父さんへと突き出す。

 

「これは捨てるんじゃなく父さんに返すべきだったんだね。」

 

いつもの夕暮れの車窓。だが絶望したかのように座り込み頭を抱える父さんの姿がそこにはあった。

 

「父さんも僕と同じだったんだ。」

 

「ああ、そうだ。ヘッドフォンが外界と私を断ち切ってくれる。無関心を装い、他人のノイズから私を守ってくれた。だが、ユイと出会い、私には必要がなくなった」

 

彼の脳裏に、ある人の面影が揺れる。

 母さんが病院で言ったのだろうか。僕の産まれる前の情景が映し出された。

 

 ――名前、決めてくれた?

 

 ――男だったらシンジ。女だったらレイと名付ける。

 

 父さんは、大きく膨らんだ母さんのお腹に触れる。

 

 ――シンジ。レイ。うふっ。

 

 母さんは優しい笑みを浮かべて自分のお腹をさする。

 そして産声が上がった。

 

「親の愛情を知らない私が親になる。やはり、この世界は不安定で不完全で理不尽だ。世の中は他人の言葉どおりに受け取っても上手くいかない。その時々で人は違うことを言う。どっちが本当で、どっちに合わせていいのか分からない。多分どちらも、その人には本当なんだろう。その時の気持ちが違うだけだ」

 

父さんの過去の姿、きっと僕と同じくらいだろうか?

眼鏡はかけているがその姿は僕によく似ていた。

僕と違うのは自分から他者との関わりを断ち切っていた事だろう。裏切られるのが嫌、嫌われるのが嫌。だから一人でいる。

僕は他者との関わりを拒絶しなかった。

この体本来の主であるこの世界の碇シンジがそう言っているから間違いは無いのだろう。

 

 

「一人でいるのが好きだった。孤独が当たり前だった。だから寂しさを感じることもなかった。だが、世間にはそれをよしとせず大きなお節介を焼く者もいる。他者といるのが苦痛で仕方なかった。私は常に1人で居たかったのだ。」

 

「だが、ユイと出会い、私は生きていることが楽しいと感じることを知った。ユイだけが、ありのままの私を受け入れてくれた」

 

「ユイを失った時、私は私一人で生きる自信がなくなっていた。初めて孤独の苦しさを知った。ユイを失うことに耐えることができなかった。ただ、ユイの胸で泣きたかった。ただ、ユイのそばにいることで自分を変えたかった。ただ、その願いを叶えたかった」

 

「父さん…。」

 

「私は私の弱さゆえに、ユイに会えないのか。シンジ」

 

「その弱さを認めないからだと思うよ。ずっとわかってたんだろ?」

 

ふと大きな爆音が響く。その音に気づいた僕と父さんは顔を上げる。

 

「なんだ?」

 

「ミサトさんたちだよ。きっと。」

 

 

「脊椎システムの再構築終わったわよ。」

 

「ありがとう、リツコ。総員退避。」

 

「既に済んでいるわよ。この船にはエヴァパイロットとミサト、後は私だけね。」

 

「そう、ならリツコも早く。子供たちを、人類を頼んだわよ。」

 

「善処する。…貴方死ぬつもりじゃ無いでしょうね?」

 

「…まさか。そんな訳ないでしょ。…とは言えないわね、さっきまでは死ぬつもりだった、でもあの3人にはお見通しだったみたい。死ぬのは許してくれないって、家族だから。」

 

「あら、まだ家族って思ってくれてるんだから良かったじゃない。」

 

「ふふ、そうね。」

 

「じゃまた後で会いましょ、その時はもう。」

 

「わかってる。じゃあねリツコ。」

 

すっと大きく息を吸い込む。

 

「みんなありがとう。最後まで私のわがままに付き合ってくれて、これがきっと最後になる、ここから先は皆が元の生活に戻れるはず、自分の家族に、大切な人たちと過ごせる。もう戦わなくて良いようになる。各々の未来のためにその歩みを進めることが出来るわ。」

 

『あーやだやだ、辛気臭いこと言っちゃって。』

 

「ありがとう、脱出ポッド全艦分離!」

 

脱出ポッドが射出された。残された私達はエヴァンゲリオン・イマジナリーへと舵を切った。

 

『エンディミオン・ユニットとフォーインワンのおかげで推進力もATフィールドも健在。おまけにこっちにはアスカも渚も居る。このまま振り切れればヴンダーもマイナス宇宙へ突っ込める。』

 

切り離されて宙を舞う掌に向けて突っ込む。

行く手を阻まれるが最大出力で舵を取る。

 

 

「馬鹿な聖なる槍は全て失っている。世界を書き換える新たな槍はありえないはずだ。」

 

「神が与えた希望の槍カシウスと絶望の槍ロンギヌス。それを失っても、世界をありのままに戻したいという意志の力で作り上げた槍――ヴィレの槍、いや、ガイウスの槍。知恵と意志を持つ人類は、神の手助けなしにここまで来てるよ。母さん。」

 

「…ユイに会えぬまま、新たな槍が届くか…。残念だ。」

 

「そんなこともないよ父さん。」

 

「…シンジ?言って…!!?」

 

そりゃあそうなる。だって母さんは初号機の中じゃなくて僕の中に眠っていたんだから。

 

「久しぶりね、貴方。」

 

「ユ、ユイなのか…?」

 

「私以外誰に見えるんですの?しっかり貴方の事もシンジの事も見守っていましたよ。」

 

「あ、あぁ…。」

 

声にならない声を上げて涙を零す父さん。

ま、気持ちは分からなくもない。

14年越しの悲願だ。

 

「人が悪いなぁ母さんも。何かしら残してあげれば良かったのに。」

 

「でも目的の為に手段を選ばないのは良くないわね。少々やりすぎじゃない?シンちゃんもゲンドウさんも。」

 

「それは僕じゃない僕の記憶だからね。母さんには分かってるだろうけど。」

 

「だって〜。むこうのシンちゃん、凛々しくてカッコいいんだもん。そりゃあ呼びたくもなるよね?」

 

「ま、ここからは僕ら家族の贖いの儀式だ。ね、こっちの世界の碇シンジ君?」

 

座席に目線を移す。そこにはもう1人の僕が座っていた。

 

「うん。態々僕の代わりにありがとう。」

 

「もういいのかい?」

 

「うん。あとの償いは僕が、いや、僕達がするよ。君は君の世界に帰った方がいい。」

 

「そうだね、こっちの世界のアスカやミサトさんによろしく。あとは君に引き継ぐよ。」

 

そう言って電車を降りる僕、段々とその意識が遠のく、ヤレヤレ、大変な世界だった。

でも、やり甲斐のある世界でもあった。早く元の世界に戻ろう。歩みを進めようと後ろを向いた時車窓からこの世界の僕に呼び止められる。

 

「別の世界の僕!!ありがとう!餞別になるかは分からないけれど、これを。」

 

投げ渡されたそれを受け取る。

なにやら機械的なものだ。

 

「きっと君の世界では役に立つ。君のエヴァにそれを。」

 

「わかった!ありがとう!」

 

 

 

「ふぅ…。」

 

「ユイを再構成するためのマテリアルとして、シンジが必要か否なのか、最後まで分からなかった。願いを叶えるには、報いが伴う。子供は私への罰だと感じていた。子供に会わない、関わらないことが、私の贖罪だと思い込んでいた。その方が子供のためにもなると信じていた」

 

「何を今更…。親がいない子の気持ちをもう少し考えて欲しかったよ。褒めて欲しかった、父さんと釣りがしたかったよ。親子の時間が必要だったんだよ僕たちには。」

 

「すまなかった。シンジ。」

 

「母さん、父さん、あとは僕が引き継ぐ。丁度迎えがそこまで来てるからね。」

 

頭上を見上げる。届いたのはガイウスだけでは無かった。

エヴァ2機を動力としたヴンダーもまたマイナス宇宙へと手を伸ばしていた。

 

「バカシンジィィ!!」

 

「アスカ。次は君の番だ。」

 

「っは!」

 

目を覚ましたのはいつかの赤い砂浜。

見たことも聞いたこともないはずのこの場所がなんだかとても懐かしく感じた。

 

「さっきまでエヴァの中だったのに…ここは…?」

 

「いつかの砂浜だね。君は覚えていないかもしれないけれど…。」

 

「バカシンジ!?アンタ大丈夫なの!?」

 

「僕は無事だよ。アスカこそ大丈夫?」

 

その声の主が先程まで一緒に戦っていた者と同じなのはわかる、だが、根本が違うのが直ぐに彼女にはわかった。

 

「戻って…来たの?」

 

「あ、やっぱり僕じゃないってバレてたんだ…。ごめんね、嫌なことから逃げてばかりだった。」

 

「そうね、肝心な時に居ないバカタレって事は変わらないわけね…。」

 

「でも…。ありがとう好きって言ってくれて。僕も大好きだった。」

 

「大好きだったって何よ…。今も、でしょ?」

 

「っ!痛いところを突くなぁ…。」

 

「さ、帰るわよ。皆があんたを待ってる。」

 

「そうもいかないよ。僕は僕の家族の落とし前を付ける。」

 

「アンタが贄になるってぇの?そんなのあたしが許さないわ。アンタがいない世界に帰ったってどうせいい事なんてない。」

 

大人になったアスカにはそのプラグスーツは小さい。ところどころが裂けあられもない姿になっている。その姿のままパンパンと臀を叩いて立ち上がると手を僕に差し出す。

 

「だから一緒に帰る。何があってもアンタと一緒にね。」

 

「強情だなぁ…アスカも。」

 

「ミサトと約束したからね。『家族』は連れて帰るって」

 

「家族…か。わかった。もう少し耐えられる?」

 

「上等よ。アタシに任せなさい!」

 

 

「っ!」

 

意識が引き戻された。そこはエントリープラグの中だった。

 

「エヴァの呪縛から解き放たれたようだね。」

 

ボロボロになったプラグスーツを見たカヲルが言う。

まぁなんともあられもない姿だがなりふり構ってるわけにはいかない。

 

「シンジがもう少し耐えろって。全部終わらせるから。」

 

「シンジくんらしいね。分かった、何とかしてみよう。」

 

「でも多分次はあんたの番。待っててやるからさっさとシンジと話して来なさい。」

 

 

あの日のあの場所、シンジくんと初めて出会ったあの湖畔。昔のように佇む彼といつものように腰掛ける僕の姿。

 

「次は君の番だね、カヲルくん。」

 

「この世界では初めまして、だねシンジくん。」

 

先程までの彼と雰囲気が違うことからも彼は元の世界に帰ったのだと理解できた。

 

「この世界を救う為だけに現れた来訪者。か。そんな役回りだね。」

 

「僕が彼が来ることを望んでしまったからね。でも、それは間違いじゃなかった。」

 

「そうだね。君はこうしてリアリティの中で立ち直った。君も彼の中で成長していたんだね。」

 

「うん。だからこそこうして君のことを思い出せた。僕たちはここで何度も出会っている。」

 

「生命の書に名前を書き連ねているからね。何度でもめぐり逢うさ。僕は君だ。僕も君と同じだった、だから君に惹かれた。幸せにしたかったんだ。」

 

場面が移り変りあの日のピアノを弾いた風景へと変わる。

空には満点の星が煌びやかに散りばめられている。

 

「そう、君は父さんに似ているんだ。だから同じエヴァに乗っていたんだよね?」

 

「君も成長していたんだね。なんだか悲しいな。シンジくん、もう泣かないのかい?」

 

「涙で救えるのは自分だけだ。僕が泣いたところで誰かが救われるわけじゃない、だからもう泣かないよ。」

 

そういった彼の眼差しは強く僕を見据えている。

 

「カヲル君、君の第13号機も処分しようと思う。」

 

「エヴァを捨てる、か。それもいいね。僕は君の幸せを勘違いしていたよ。」

 

「えぇ、それはあなたの幸せだったんですよ渚司令。」

 

ふっと現れた幻影は僕にそう語り掛ける。リョウちゃん、なんだか懐かしいね。

 

「貴方はシンジくんを幸せにしたいんじゃない。それによって自分が幸せになりたかっただけだ。」

 

そう言われ、ハッとする。確かに、そうだったのかもしれない。

今まで向き合ってこなかった自分の感情が深々と自分自身の心に刺さる。

 

「僕の存在を消せるのは真空崩壊だけだ。だから僕は、定められた円環の物語の中で、演じることを永遠に繰り返さなければならない」

 

一人で佇むMark6の建造地。横から小さな手が差し出されて僕の手を取る。

 

「仲良くなるためのおまじないだよ。」

 

「相補性のある世界を望む。変わらないね、シンジくんは。」

 

「だからこそ貴方は彼を選んで生命の書にその名を書き連ねた。」

 

「渚、それは海と陸の狭間、第一の使徒であり第13の使徒でもある、リリンの狭間を紡ぐカヲル君らしい名前だね。もう気張らずに自分の為に生きて構わない。これからそうなるように僕が書き換えるよ。」

 

「うん。わかったよ。それまでこの狭間は僕と式波君、真希波くんで繋ぐ。だから必ず。」

 

「ありがとう、カヲル君。必ず。」

 

 

「ふぅ…。あとは君だけだ、綾波。」

 

「私はここで構わない。」

 

「もう1人の君は別の場所で新しい生き方を見つけたよ。今の君にならわかるはずだ、綾波でありアヤナミである君なら。」

 

「うん。ありがとう、碇くん。」

 

「僕が何かをしたんじゃない。君が君自身が選んだ生き方だ。」

 

「エヴァに乗らないのが碇くんの幸せ。そう思ってた。だからそうして欲しかった。」

 

「うん。ありがとう。だからこそここじゃない君の生き方だって見つかるはずだ。」

 

「そう…?」

 

「そうだ。僕もエヴァに乗らない生き方を選ぶよ。時間も世界も戻さない。ただ、〝エヴァがなくてもいい世界〟に書き換えるだけだ。新しい、人が生きていける世界に」

 

「ネオン・ジェネシス。」

 

「それに、アスカやマリさん、カヲル君が僕を迎えに来てる。だから大丈夫だよ。」

 

「うん。わかった。ありがとう、碇くん。」

 

そう言った彼女もまたあるべき所へと帰って行った。

 

「もう、いいの?」

 

「良いのって…何が?」

 

「お別れ?」

 

「なんで疑問形なんだよ…。でも、やっぱり少し寂しいかな?」

 

「ふふっ。でもこうして親子3人で話すことが出来るじゃない?」

 

「勘弁してよ。さっさと地獄の門閉じないと全部パァだよ?」

 

「すまなかったな、シンジ。」

 

「謝って済むことじゃないからね!?ったく…。よし、じゃあ行ってくる。」

 

これが最後のエントリーになる。寂しいし悲しい、でもこれで全てが終わるなら。僕はどうなったって構わない。

 

「ネオン・ジェネシス。」

 

ガイウスの槍が姿を変え螺旋を描く。自分の命を贄として最後のインパクトを起こす。

だが、切先が喉元を穿つ瞬間横から差し出された手によってそれは阻まれた。

 

「…母さん?」

 

「生き急がなくてもいいのよ?後はお父さんとお母さんが引き継ぐわ。」

 

「でも!!」

 

「ありがとう。シンジ。貴方が生まれてきてくれて良かった。こうして未来を見ることが出来てよかった。貴方のおかげで人類は、リリンはこれからも生きていけるのよ。きっと争いは絶えない。それでも相補性のある世界だもの。人間、生きていればどこだって天国になるわ。だって生きているんですもの、それだけで幸せなのよ。」

 

「母さん…。」

 

「行って。みんな待ってるわよ。最後くらい親らしくさせて頂戴。ね?ゲンドウさん。」

 

離れゆく初号機、切り離された僕は赤い海を漂い海面へと上る。最中初号機がぶれ、残像が第13号機へと描き変わる。その手には喉元に切っ先が届くまいとガイウスを掴んでいた。

 

「やっとわかった。父さんは母さんを見送りたかったんだ。それが神殺し。」

 

咆哮を上げた2機は自らの胸部目掛けて槍を振り下ろす。その切っ先は零号機が、2号機が、ネーメズィスシリーズが同時に貫かれていった。

 

 

「まずい!エヴァンゲリオン・イマジナリーの形象崩壊が始まった!これ以上は!!」

 

「ミサト!もう少し耐えて!!シンジがまだ!!」

 

「分かったわ!マリ!?シンジくん見つけられる!?」

 

「既に!!捕捉してる!!でも!マイナス宇宙に今から飛び込むのは流石に無茶がすぎる!!」

 

「関係ない!!コネメガネ!!手ぇ伸ばせ!!」

 

人型へと変形しているヴンダーの手を掴み8号機が手を伸ばす。その手を掴みまた3+4号機が手を伸ばす。マイナス宇宙が故かはたまた人の願いのおかげか3+4号機の四肢は再生された。

 

「届けぇぇえ!!!」

 

「バカシンジ!!聞こえてんなら手ぇのばせ!!」

 

「アス…カ…?」

 

「ええい!!しゃらくさい!!ハッチ開けて!手まで登る!」

 

「無茶よ!アスカ!!」

 

「無茶でもなんでもやるしかないのよ!!カヲル!早く!!」

 

「うん。シンジくんを任せたよ!!」

 

色を失いつつあるマイナス宇宙。必死の思い出這い上がり腕へと下りシンジに向け手を伸ばす。

 

「掴まれぇ!バカシンジ!!」

 

「アスカ…。アスカ!!」

 

必死に手を伸ばす。シンジもアタシも、あと少しで届くのに届かない、この距離がもどかしい。

 

「どうにかならないの!?あと少しなのに!!」

 

「届け!届け!届けぇぇえ!!」

 

「アスカ!!」

 

必死に伸ばした手がようやくシンジの掌を捕まえた。必死で引き上げ抱きしめる。

バカガキ…無理しちゃって…。

 

「アスカ…苦しいよ…。」

 

「構うもんか。当分離してやんないわよ。」

 

「こっちは2人をしっかり掴んでる!!葛城艦長思いっきり引き上げて!!」

 

「りょうかい!!うぉぉりやぁぁあ!!!!」

 

マイナス宇宙からズルズルと引き抜かれ間一髪のところで間に合う。

 

既に空は青さを取り戻し、大地も元の色に戻っている。インフィニティの群れは消失し世界には元の色彩が戻り始めていた。

 

「生き…てる?」

 

「必ず連れて帰るって約束したでしょ。生きてるわよ。」

 

強く強く抱きしめられたその身体が生きているのを実感させた。

 

こうして僕達の長い戦いは幕を閉じた。

 

 

 

「ふぅ…この世界を救えたようなら良かった。」

 

―ウォン!―

 

「あれ、君もこっちに来てたのか…。まぁ僕の匂いを追って次元すらも越えてきてるんだから当たり前か…。」

 

「しかしまぁ…。僕の方の世界はどうなってる事やら…。」

 

―ウォウ!―

 

「えぇ!?一緒に来るって!?仕方ないなぁ…。にしてもこの部品は何に使うものなんだろうか…。」

 

―ワウワウ!―

 

「え、ああ!!なんで食べちゃうのさ!!ん…?えぇ!?そういう事なのか!?っつ!!」

 

急な頭痛が襲う。フラッシュバックで見えたのは悪戦苦闘するアスカやカヲルくんたちの姿。そして、アルマロスともまた違う漆黒に染まったエヴァンゲリオン初号機のような何か。

 

「いっつつ…。何がどうなってんだよ…。でも…ピンチだって言うんだったら戻らない訳にはいかないね。」

 

白い空間にエントリープラグのインテリアが現れる。

安直すぎる。これに乗りゃ戻れるって事なんだろうけどね…。

 

「まぁやって見る他ないか…。エヴァンゲリオンー号機withウルフパック。起動!!」

 

こうして僕の短いようで長い夢は終わりを告げた。早く帰ってミサトさんとHがしたい!!流石に若い子ばかりで飽きたよ!!しかもアスカだけだよ!?

あ、いやミサトさんが老けてるとか言いたいわけじゃ…。おっと…背筋に寒気が…。

 




とにかく早く走り抜けたかった感満載ですが、何とか書き終えました。後はAIRですね。更新楽しみにしていらっしゃった方お待たせしてしまいすみません。
ぼちぼち書いていくのでよろしくお願いします。
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