Re Take of Evangelion 作:Air1204
突如として記憶を取り戻したアスカ。
そのせいで僕の嫌な過去を思い出し2号機の中で嘔吐。そのまま意識を失った僕は状況終了後にNERV本部にある医務室へと運び込まれた。
2号機のログは既に消去され何があったかは確認がされなかったが、吐瀉物にまみれた僕を優しく抱きしめたまま笑顔のアスカがエントリープラグに座っていたと後からミサトさんに聞いた。意識を取り戻した時、アスカ、ミサトさん、綾波の3人が病室におりとりあえず事情聴取という形になった。
「シンちゃん…体調は…大丈夫そう?」
「…えぇなんとか…。」
「碇くん。無理をしてはダメよ。」
「うん…ありがとう綾波。」
「あらあら…。良いわねぇ?シンジ。ミサトからもレイからも心配されて…。」
冷たい声が耳に突き刺さる。恐る恐る目を向けると冷たい笑みのアスカが立っている。
「聞いたわよぉ?アタシじゃ飽き足らずミサト、そしてレイにも…ですってねぇ?」
「アスカ…何を言って…。」
「でもいいの。シンジはあたしの知ってる時のシンジじゃ無いんでしょ?」
冷たい声が耳を刺す。グルグルとその言葉が反芻され先程と同じく胃の中を掻き回されまた吐く。
「シンちゃん!!アスカもうやめなさい!」
「ミサト…?このシンジは卑怯なのよ、最低なの。」
「何言って…!」
「だってぇ…。アタシのことシンジの介護なしじゃ生きられない身体にしたのにぃ…放ってどこかに行ってしまうんですもの…。」
「な、アスカ…ちが…。」
胃からせりあがってくるもののせいで上手く言葉が紡げない。
「お願い。式波さん。これ以上碇くんを苦しめないで。今はやめて。休ませてあげて…。」
綾波の顔が悲痛に歪む。こんな顔見たくなかったのに!
「良いわよ。止めてあげても。条件次第よ。」
「なに。」
嫌な予感がする。それ以上言葉を紡ぐなアスカ。
「そうねぇ…。」
止めろ。
「貴方がぁ?」
止めろ。
「ううん。ミサトとレイがぁ…。」
辞めろ。
「シンジから手をひ…。」
「アスカ!それ以上止めろ!止めてくれ…。」
思い通りの言葉が紡げなかった苛立ちか眉がぴくりと動く。
「何?止めろって何を?あんたを誑かす女二人を斥けようとしてるだけだけど?」
「だからだ!これ以上2人を傷つけないでくれ!」
「不器用なアンタが?2人の女を同時に…?愛せるなんてバカじゃないの?アタシひとり満足させられないくせに。あぁ、でもこの世界のアタシはまだ誰とも触れ合ってないわ。まわされてもないし。そう考えたらシンジ?貴方でも満足できるかもね…。」
妖艶な表情を浮かべ舌なめずりをするアスカ。僕が悪いんだ全部。
「シン…ちゃん…。」
「…ミサトさん。アスカが言ったでしょう。僕は最低な人間なんだ。それを取り繕うのにいくら世界を守ろうがこうして付いて回る。だったらいっその事…。」
「それ以上言わないで!私たちの気持ちはどうするのよ!」
「僕は…自分の快楽のために2人を弄んだんだよ…。」
「碇くん!嘘だと分かってる!でもそんなことを言ってはダメ!」
心が痛い。これが僕に下った罰だ。散々この世界でいい思いをしてきた僕への罰。そう思えば受け止められる…。
「嘘じゃないよ。僕は器用じゃない。だからこうしてバレたんだよ。ね?アスカ。」
「そうねぇ…。まぁ、そんなアンタを愛してあげられるのはアタシだけだもんね?」
黄色いワンピースの袖口から見える傷跡が生々しく見える。
それが両腕、両太腿と一周するように赤い蚯蚓脹れのようになっている。それを見せつけるかの如く、初めて会った時のこの服装をしているのがよくわかった。
「…分かったわ。碇シンジくん。今から私と貴方は上司で部下、それ以上でもそれ以下でもないわ。」
「はい…。葛城三佐…。」
「ミサトさん!それはダ…。」
「レイ!良いわね、貴方もよ。今から彼とはクラスメイトで同じエヴァパイロット同士。分かったわね。」
くるりと踵を返し扉へと近づく。
「まぁ、無事で安心したわ。第3の使徒、そして第8の使徒、ご苦労さま。」
そう言い残し自動ドアを潜り病室を出ていく。
心が重い。
「…碇くん。ごめんなさい。力になれなくて。」
「綾波…。」
「さよなら。」
僕が言ってはいけないと教えた言葉を口にする。別れの言葉。
胸が痛い。
「良かったね?シンジ。2人とも聞き分けが良くて。さ、今日はずっとここにいてあげる。ゆっくり休むのよ。」
アスカに頭を撫でられる。こんなアスカでも落ち着いてしまう自分が嫌になる。アスカの膝に頭を預け眠りに落ちる。
「葛城三佐。目に見えて体調悪そうですね…。」
「それはそうよ。だって彼と別れたんだもの。レイも同時にね?」
「えぇ!?シンジくんとですか!?ベタニアベース行く時はあんなに仲良さそうだったのに!しかもレイともなんて!」
「色々とあるみたいよ。あの4人には…。」
「そう…ですか…。シンクロテストも結果も凄いですし…。ずっとトップだったシンジくんが2位ですよ?アスカ、ユーロに居た時よりも40点も増加。全盛期のシンジくんにも勝る勢いですよ。」
「それに加えて…ね?」
「シンジくん30点も落ちてますし…レイなんて起動指数ギリギリ…。マリは…なんて言うか…。」
「平均点ね。」
「何があったんですかね…。」
「私が知りたいくらいよ…。一体何が起きてるって言うの…。」
コンソールに映る数字と2号機の変化、そして初号機、零号機の成長。これが何を語るか今のリツコは知る由もなかった。
「…。」
1人になったミサトの部屋。シンジの部屋だったものの襖を開けては中を確認する。私物も何もかもをそのままにアスカの部屋へと転がり込んでしまった彼。ふと襖を開ければいつもの笑顔でおかえりなさいと言ってくれるような気がして何度も開けてしまう。開けてしまえば居ない現実に打ちのめされ悲しみが込上げる。
何度泣いたのか、シンジの匂いが付いた枕はいつの間にか自分の身につけた香水の匂いに変わってしまった。
「うぅ…シンジくん…。」
そして今日も泣く。風呂に入ることも忘れ、そのままシンジのベッドで寝入ってしまう。あれから2週間こんな生活が続く。
綺麗に整えられていた部屋は荒れ、以前のような大人の女性の部屋、と呼べなくなってしまった。
それはレイも同様であった。あの何も無かった部屋から引越し綺麗なマンションへと移ったと言うのに今やそこに帰ることもなかった、思い出にまみれたその部屋にいてしまえば悲しみが込み上げ自分ではどうすることも出来ないからだ。
「碇くん…。」
その呟きは降りしきる雨音によって掻き消される。それはまるで2人、いや3人の心を現しているような大雨であった。
「なぁトウジ。綾波のやつ最近学校来ないけどどうしたんだろうな?」
「せやなぁ?」
「うーん私も分かり兼ねるにゃあ?」
「お、真希波。おはよう。でさ、横須賀まで元気だったじゃんか。あの式波をぶっ叩くぐらいさ?なのに今や学校にも来やしない…。何があったんだろうな…。」
「ワシは…なんも知らん…。」
嘘。先日最後通達としてリツコより正式にパイロットとしての採用が認められたトウジは秘密裏にNERVに出入りしているのだ。シンジや他のパイロットたちはその情報を知りえない、上層部にのみが認知しているパイロット。有事の際、ジョーカーとして採用された彼はたった数週間でメキメキと成長して見せた。戦闘センスこそアスカやシンジに追いつかないにしろ彼なりに泥臭いやり方ではあるが地形を利用した搦手を得意としているようだ。
「シンジ…。」
シンジの席に目をやる。今日もアスカと2人、笑顔で話すシンジを見て腹を立てる。
「ケンスケ、ワシ便所や。」
「んなら私も。」
「なんで真希波まで着いてくるんや。」
「ちぃとばかし話があるからだよ。連れションしようぜ鈴原くん。」
はぁと深くため息を吐く。
「真希波ぃ。顔もスタイルもええんにそないな言動が悪ぅて男どもが近寄らんのや。女が連れションなんて言うもんや無いで。」
「えー。良いじゃん。自分を偽って他人に見せるよりは気持ちは楽だよ?それに私、そんなに友達いらないし?」
「ホンマに変なやっちゃのう…。」
席を立ちトイレに向かうトウジ。
「あ!なんで置いてくのさ!誘ったのに!」
「勝手についてくりゃええやろ!」
授業のチャイムが鳴り響く。それでも微動だにせず屋上にて佇むマリとトウジ。手には缶コーラが握られている。
「…そないワシに着いてこんでもええやろ…。授業始まっとんで。」
「いやいいよ、私大学出てるし…。」
「なんやそれ…初耳やぞ…。」
「ちなみにアスカもシンジくんも博士号持ち。」
今日は生憎の晴天。ジリジリとその陽射しが肌を焼く。溢れ出る汗がじっとりとしていて気持ちが悪い。
「鈴原くん、正式採用だってね。」
「!?秘密や言うとったんになんで真希波は知っとるんや!?」
驚くトウジをよそに目を丸くしたまま答えるマリ。
「だって私諜報部だもん。まだ届いてないけど8号機専属パイロットで諜報部顧問。」
「はぁ…。大層な役職、子供に与えすぎやろ…。」
「それだけ大人はみんな責任逃れしたいのさ…。」
「はぁ…アホくさ…。」
一陣の風が吹く。この風でさえ涼しいと感じるくらいに蒸し暑い日差しの中2人の会話は続く。
「なぁ真希波。」
「ん?何?」
手すりに凭れたまま何かを憂う表情のトウジ。
「ワシはどうしたらええと思う?」
「どうしたらって?」
「あの2人のこっちゃ。ミサトさんと綾波。放っては置けんやろ。」
「君はぶっきらぼうに見えて本当に優しい子だね。ならシンジくんの目覚まさせるのが1番いいと思うよ?」
「シンジの目ぇ覚まさせるちゅーたって…。」
「1発殴っちゃえよ。」
「んなアホな!ワシの拳アイツには届かんて。」
「今のシンジくんになら届くよ。んで思いっきり漢語ってやんな。」
「…。」
自分の拳を見つめるトウジ。
「何が2人まとめて幸せにするじゃあ式波のシリに敷かれよって!しょうもない男じゃのう!?過去に何があったか知らんけどそれ乗り越えられんとウジウジシリに敷かれたお前なんて見てられんわ!ってね?」
「…そうか…あんがとさん。真希波。」
授業が終わるチャイムが響く。
何度も拳を握り感覚を確かめる。
「じゃ私は先戻るよ。」
「あぁ…。おおきに。」
晴れ晴れとした空を見上げ独り言を漏らす。
「1発じゃ済まんかもしれんのう…。」
バシンと言う拳が頬をぶち当たる音。あまりに唐突な拳を受け止めきれずに倒れるシンジ。
「いったぁ!何だよ!いきなり殴ってきて!」
「ツラァ貸せやアホンダラ。」
「何に怒ってんだよ。」
「じゃかしい。着いてこいや言うてるんや。」
「なんなのよアンタ。急にシンジの事ぶん殴ってタダで済むと思ってるんでしょうね!?」
それもそのはず、トウジは感情のあまり教室に戻るなりシンジをぶん殴った。しかもクラスメイトがいる前で。
「あぁ?お前には関係あらへん。こりゃ男同士の話や。女はすっこんどれや。」
「ふぅん…。自分の大切なモン傷つけられて黙ってられるほどお人好しじゃないわよアタシは!」
「ッ!」
胸の痛みに表情を歪めるシンジ。それを見逃さなかったトウジはシンジの首根っこを掴みそのまま引きずるように屋上へと連れて行く。
「待て!待ちなさいよ!」
「おおっと!ごめんよぅ?アスカ。」
アスカの行く手を阻むようにわざとらしく前に出るマリ。
柄じゃないんだけどなぁと頬を掻きながらもその目は真剣そのものだった。
「マリ?アンタあたしの邪魔する気?」
「邪魔…邪魔ねぇ…。そういうつもりは無いけれど。まぁ見過ごせないよね。これじゃ使徒が攻めてきたらこの街あじゃぱーだもん。」
「アタシとシンジだけで事足りるわよ。」
「さぁ?どうだか…。」
後方に目をやるマリ。小さな声で呟く。
「あとは任せたよ鈴原くん。」
「喧嘩売ってきてよそ見してんじゃあないわよ!」
アスカが振りかぶった拳はマリの頬に当たる。だがその姿勢を崩さずにメガネを外す。
「くっ!何よアンタ体幹強すぎ!」
「伊達にエヴァ乗ってないしね。それより1発は1発だよ。」
がっと首を掴みそのまま腹を目掛けて膝を蹴り込む。
「ぐぇっ…容赦ないわね…。」
「そりゃ相手がアスカだもん…。手加減してたらこっちがやられちゃうよ。」
「はっ!言ってなさいよ!」
女同士の争いにしてはヤケに格闘技じみたその構えと動き。キャットファイトと称される女々しい争いはこの2人の間では起こることはない。
教室内で慌てふためく委員長、洞木ヒカリは「だ、誰か先生!先生を呼んできて!」と右往左往していた。クラスメイトの誰もがお前が行くべきだろ?と心の中でツッコミながらもアスカとマリの戦いを観戦するのであった。
屋上へ着きトウジに投げられる。
「いった!なんなんだよ!」
「なんも何もあらへんがな。お前綾波とミサトさんはどないしたんや。」
鋭く突き刺さるその言葉。トウジになんて関係ないはずなのに…。
「…。トウジ、お前には関係ないだろ。」
「関係ないもクソもあらへん。見てて胸糞悪ぃんじゃ。シンジお前が幸せにする言うたんやないんか?」
「…できないと悟っただけだ。」
「ならさっきの顔はなんなん?式波が言いよった大事なモン傷つけられて黙っとれんって言葉に反応して眉しかめとったやん。」
痛いところを突かれる。そうだ。確かにあの時僕はあの二人の顔が浮かんだ。大事な人達で傷つけあう姿を見て心が酷く痛んだからだ。
「関係ないだろ!?ましてやNERVの関係者でもない!パイロット同士のいざこざに首を突っ込んで来るなよ!」
「アホンダラァ!歯ぁ食いしばれや!」
トウジの拳を顔面で受け止める。だが以前にも増したその威力に僕はたじろぐ。
「ワシにも関係あるんや!誰にも言っとらん、お前にしか教えん。ワシもエヴァんパイロットに選ばれたんや!」
…嘘だ…。だって3号機の到着はまだ先で…。この世界ではアスカが乗るって…。
「訓練時もなぁ?ミサトさんお前ん事ばかり気にしとる。学校での様子はどうなの?とか色々あるけど仲良くしてあげてとかずっとお前の心配ばかりや!目の下にデッカイ隈作って!夜も寝れんとうたた寝ばかりしとるんぜ!?」
っ…。そんなの…。ぽたぽたと滴る鼻血を拭いトウジを睨む。
「僕は僕のした償いをしなければならない。だからこそ綾波もミサトさんも一緒には居られないんだ。」
「せなら式波とも仲良うしとるんは違うやろ!何がお前にあったかは知らん。でもあいつの言いなりになってシリに敷かれとるお前の事なんか見とうない!ワシが助けたい。力になってやりたいって惚れ込んだんは今のお前やない!目ぇ覚ませやシンジ!」
「っ!このわからず屋!何も知らないくせに!」
助走をつけトウジを殴る。ガードもすることなくそれを受け止めて僕の手首を握る。
「捕まえたで。シンジ。ここならお互いノーガードや。気ぃ済むまで殴り合おうや。」
にっと笑うトウジ。なんでこんなに余裕そうなんだよ!僕に殴られてあんなに吹き飛んで素っ頓狂な顔してたトウジはどこ行ったっだよ!
「僕だって一緒に居たい!皆と!」
ノーガードでの殴り合い。僕が殴っている間トウジは反撃しない。
「なら一緒に居たれや!あないな顔のミサトさんもお前も見てられんわ!」
2発、3発と顔を殴られる。
「僕だって見たくない!見たくないよ!」
いつしか流れた涙で視界が歪む。それでも殴るのは止めない。
「そない式波が大事か?誰よりも大事なんか!?」
「あぁ!そうだあの子の怪我は僕がさせた怪我だ!歪んだ心も僕がそうさせた!だから責任を取らなきゃならないんだよ!」
「あぁ、なら3人とも愛したれや!ワシには出来ん。そないな器用なこと。でもお前ならやれるやろ!平等に愛を捧げて皆を笑顔にする!それが出来るんはお前だけやろ!」
溢れる涙で的が定まらない。1発、1発とからぶる回数も増えた。
「それが…出来たら苦労しないんだよ…。僕は弱い。弱いんだ…。」
最後の1発。空振り勢いのまま前に転びそうになる。だがトウジが手首を掴んで転ばぬように助けてくれる。
「やれや。ワシがサポートしたる。とやかく言うやつは全員はっ倒す。それでええやろ。お前は1人やない。1人で全部背負い込まんと吐き出せるもんは吐き出せや。ドアホウ。」
「はぁ…はぁ…。んく…。」
そういえば最近何も口に入れていなかった。水分だけは撮らねば死ぬと思い水だけは啜っていた。そのせいか…体が重い。
「あぁ…ミサトさんのご飯が…恋しいな…。」
「せなら今から行ってこいや。今日はミサトさん非番や。家におるやろ。」
「行っていいかな?怒らないかな?」
「怒らんよ。優しくおかえりって言ってくれるやろ。ワシが保証したる。」
「ありがとう…。トウジ。」
「でもまぁ?その顔はなんか言われるかもしれんな。」
「まぁその通りだね。はは」
2人して笑い合う。そうだ。何を馬鹿なことをしていたんだ。
ミサトさんも綾波もアスカも救う。そう決めたんだろう?だったらしっかりしろよ碇シンジ。
パシンと両頬を叩く。切れた口の中が痛む。でもその清々しい痛みがかえって僕を冷静に引き戻させる。
「はよ行ってやれや。綾波も忘れんようにな…。」
「マリィィィ!」
「アスカァァ!」
壮絶な殴り合い。辺りに飛び散った血は上の比ではない。
よもや警察沙汰、救急車沙汰、それ程の出血をしていながら2人は殴り合うのを止めない。
「いい加減見苦しいよ!2人に嫉妬して陥れるような真似をして!」
「そうでもしないとシンジはアタシだけを見てくれないじゃないの!」
「自分だけ見てもらってれば満足ぅ!?誰よりもガキだよ今のアスカは!」
「煩いわね!何も知らないくせに!」
「何も知らないからこそ見える世界もある!客観的に見たら本当にヤバいやつなんだよ今のアスカは!」
「黙りなさいよ!」
この戦いにおける禁忌。それは武器の使用。誰のイタズラか足元に投げ込まれた竹製のホウキ。それを手に取ったアスカは半分にへし折りあまつさえそれを構えた。
「ヤバっ!避けな…。」
マリは気づく。自分が避けてしまえば人に当たると。避けることは出来ない。咄嗟に腕を上に掲げ骨が折れる覚悟でそれを受け止めようとする。
バシン。
竹の柄が砕け何かにあたる音が響く。だがマリには当たっていない。その痛みがないからだ。恐る恐る目を開くとシンジが片腕でそれを防いでいる。腕には砕けた竹が突き刺さりダラダラと血を流している。
「…シンジ?あぁ、シンジ。ごめんなさい。痛かったわよね。ごめんなさい。ごめんなさい…。」
「…すか」
声にならない声。
「ごめんなさい。ごめんなさい!嫌いにならないで。嫌わないで!1人にしないで!ごめんなさい…。」
「アスカ!」
響く怒号。しんと静まりかえる観衆とアスカ。そこに佇む少年は笑顔でアスカの頭を撫でる。
「もう終わりにしようよ。これ以上はダメだ。ね?」
「シ…ンジ…。」
借りてきた猫のように大人しくなるアスカ。
「やっぱり僕は君一人だけの隣にいるのは出来ない。」
ザワザワと沸き立つ観衆たち。シンジの後に続き降りてきたトウジによって制される。
「じゃかしいわ!ボケェ!黙っとれんのか貴様らは!誰が箒を投げよったんか知らんけもしワシが見つけてみぃ。ぶっ殺したるけぇ!」
しんと静まる観衆たち。シンジの腕から滴る血を見て呆然とするマリ。
「また1人にするつもりなのね…。」
「そんなわけないだろ。君も一緒さ。」
「っ!私だけを見てくれないなら嫌!」
「なら一緒に行こう。」
血に濡れた手でアスカの手を握る。
「っ!…。」
そのぬめりとした感触がアスカに過去を思い出させる。強がってはいるもののトラウマ、というものは深く根付いている。
ふるふると震え足に力が入らなくなる。
「血…か…。ごめんよアスカ。」
「シンジが謝る必要は無いの。アタシが怪我をさせたんだから…。」
「それでもだよ。背中乗れる?」
「うん…。」
よいしょと掛け声を出しアスカをおぶるシンジ。
「重くない?」
「軽いくらいだよ。ミサトさんに謝りに行こう。僕も一緒に謝るからさ。」
「…うん。」
とぼとぼと階段を降りるシンジ自身、手から滴る血はさほど気にしてないのだろう。
「…怪我の手当くらいしてから行けばいいのに。」
「男の勲章ってもんなんや。野暮なこと言っちゃあかん。」
それもそうだねと笑い合うマリとトウジ。遅れてやってきた先生達は状況を伺うが誰1人マトモに答えることは無い。
トウジとマリが牽制したからだ。それに
「ワシら2人があの二人を焚き付けて喧嘩したまでや。」
と自分達のせいにしたからだった。不器用な男と女ここに極まれりとは正にこの事か。
合鍵で部屋を開ける。アスカをおぶっているせいで上手くキーが回せない。それに血で手が滑る。
背中で寝息を立ていつの間にか眠ってしまったアスカ。彼女も彼女なりの葛藤があったのだろう。しきりにごめんなさい。ごめんさいと寝言を呟き涙を流していた。
何度もガチャガチャとやるせいでミサトさんに気づかれてしまったようでリビングから足音が聞こえる。
開いた扉の先には休みだと言うのに執務服を着たままのミサトさんだった。
「おかえりなさい。」
笑顔で迎え入れてくれる。
「ただいま。」
照れくさくてちゃんと顔が見れない。それに、ミサトさんの笑顔を見て安心してしまった僕の意識はそこで事切れてしまう。
そりゃそうだ、顔面はぼこぼこ。オマケに腕からは絶えず血が流れ出ている。そんな状況の僕を笑顔で迎え入れたミサトさんの度量がほんとに伺い知れるよ…。
目を覚ました時にはもう日は沈み辺りを夕日が照らしていた。隣の部屋では話し声が聞こえる。アスカとミサトさんだろう。重い体を起こす。
手は縫い合わされており、顔は消毒液の香りがした。
襖を開けリビングに出る。真面目な顔をしたふたりが座っている。僕に気づいたのか2人とも目線を此方へ送る。
「シンちゃん。おはよう。」
「あ、おはよう…ございます。」
「いつも通りフランクにして頂戴よ。怒ってないわ。寧ろ帰ってきてくれて嬉しいくらいなのよ?」
「ミサトさん…。」
「あ、あの…シンジ…?怪我…。」
小さく縮こまったアスカが怯えたように傷の心配をしてくる。
頭を撫でようと手を伸ばす。だがぶたれるとでも思ったのか目を瞑り小さく震えている。
「結構…重症なのね?」
「僕のせいですけどね…。」
構わず頭を撫でてやると少し安心したのか震えは無くなった。
「何があったか聞いてもいいのよね?その為に来てくれたんでしょう?」
「…うん。その前に…言わなくちゃならないことがあるの。」
ミサトさんの顔色を伺うように覗き込みながら発する言葉は震えている。
「なぁに?アスカ。」
「その…。ごめんなさい。変な態度をとってしまって…。無くしてた記憶を取り戻したのも目の前のシンジが私の知ってるシンジだって分かったら…。怖くなってしまって…。」
「良いのよ。こうしてここに来てくれた。それだけでいいの。ね?シンちゃん。」
「いえ、僕も謝らなくてはならないので…。僕もこのアスカが目の前に現れた時怖くて仕方なかった。また孤立して1人で戦うしか無いのかと。でもアスカを見殺しにすることは出来ないし…。皆を守る為に変なことを言ってしまった。本当にごめんなさい。」
「全くもう…。2人して…抱え込みすぎなのよ。」
立ち上がり僕たち2人の後ろに回り込み抱きしめられる。
「良いのよ。あなた達がどれだけ同じ世界を繰り返してどんな過ちをしていようが今の私達には関係ない。なんならシンちゃんなんて自分を犠牲にしてまで私達を守るって言うくらいなんだもの。」
「ミサト…。」
アスカの目頭に涙が溜まる。我慢していたのだろう。この世界に辿り着いて、母の死を目の当たりにして、その記憶を深く閉ざして自分を偽り強く見せようと必死だった分、泣くのを我慢し独りでここまで来たのだろう…。
「アスカ、もうひとりじゃないよ。僕もそばに居るしミサトさんもそばに居る。」
「1人になんてしないわよ。もし使徒が攻めてきてあなた達が死ぬようなことになったら私達も死ぬ。どこに行っても1人にはしないわ。」
「う、うわぁん…ごめんなさい…。ごめんなさいぃ…。」
泣きじゃくるアスカの頭を撫で2人で抱きしめる。これでいいんだ。
蜩が泣く夕日を背にし電気をつけることも忘れて3人で抱き締め合った。それで充分だ。
「あの…レイ…?」
「何?2号機の人。」
「えっと…その…。ごめんなさい。」
「いいわ。」
「えっ?それは謝っても許してくれないってこと…?」
パシンと軽くデコピンをする綾波。後方で見守る僕とミサトさんを見て事情を察したのだろう。何も無い薄暗いマンションで独りで泣いていたであろう綾波。僕もちゃんと謝らなくちゃ。
「馬鹿ね。許すってこと。ちゃんと謝ったから。いい。」
「でも!アタシ貴方に酷いことを…。助けて貰ったのに…。悪態付いて…シンジを貴方から遠ざけたのに。」
「良いのよ。もう。こうして貴方も謝ってくれた。そして碇くんも来てくれた。」
「綾波…。」
「もう謝らなくていいわ2人とも。」
優しい笑みを浮かべてアスカの頭を撫でている。
「分かっていたの。貴方が強がっているって。でもそこで私が貴方を責め立てたら。貴方はもっとおかしくなってしまう。そう思ったのよ。」
ふっと、優しい笑みを浮かべる綾波。敵わず唸ることしか出来ないアスカ
さすがと言うべきか、誰よりも優しく慈愛に満ちた綾波は僕達よりしっかりと周りが見えているだからこそこうしてアスカのことも言い当てられるのだろう…。
「うぅ…。」
「だから碇くんに任せた。正解だったわ。」
詳しく言うなら僕は何もしていないし寧ろトウジに殴られてようやく正気を取り戻したんだけどね。
「碇くん。鈴原くんの拳は効いた?」
なんだよ…バレてるじゃんか。
「…。僕が殴ってもビクともしないくらい強くなってたよ。」
「ふふ。それなら良かった。」
ニコニコと微笑む姿は眩しく、はにかむ事しか出来なかった。
僕とアスカの手を取り階段の方に足を伸ばす。
「ち、ちょっ!綾波!?どこに連れていくのさ!?」
「何処って…食事に。」
素っ頓狂な表情を浮かべ僕の問いに答える。意味が分からない僕は状況を整理しようと促そうとするが先にレイの口が開く。
「碇くんもアスカもロクに食べてないじゃない。だから食事。いいですか?ミサトさん。」
「んー。そうね…じゃあぱーっとみんなでご飯でも食べましょうか!マリや鈴原くん達も呼んでね?」
かくして僕とアスカによる随分と人を巻き込んだ些細なないざこざは幕を下ろし平穏な日々がまた顔を覗かせた。
はい。不穏な雰囲気を出していたアスカさん。
それでもシンジに、ミサトさんに。綾波に…。3人の包容力に勝てなかったアスカは次第に心を開きましたとさ…。ちゃんちゃん。
と一筋縄ではいかないのがエヴァンゲリオン。
鈴原トウジ君。やっぱり君が5人目なんだね…。
でも4号機って…。3号機誰が乗るんだろう…?楽しみです。
旧劇、マグマダイバーはカット。理由はそのうち明かします。
これで現れるのはやっぱり…シンジとアスカにとっては大切なこの使徒です。
でもこの2人にユニゾンの特訓て必要なのかなぁ?
では次回の更新を暫しお待ちください。
あぁタイトルの暫し、空に祈りて。いいタイトルが思いつかないから曲の名前引っ張ってきただけです。でもトウジが空を見上げてるし良いかって思ってます。
ではノシノシ