1955年 扶桑皇国 何処かの料亭
この料亭では時々政治家や官僚と言った人々がよく利用している。今日も文部省大臣と海軍省のトップ、海軍大臣の二人が談合の為利用していた。
「山本さん、今日は実は他にも頼みがありましての聞いていただけませんかの」
「はぁ、私に出来うる限りの範囲ですが……それでどういった要件で」
「うむ、実は各国共同の南極観測に扶桑が参加することになったんじゃがな、その為の船と人員を海軍から出しては貰えんかとおもうてな」
「南極観測、ですか。確か新聞で盛り上がっている……」
「そうじゃ、民間が推進しておるのじゃがさすがに予算の限界はあっての。砕氷船を新造する余裕もないし、既存の船を改修することになったんじゃが、その船の選定が出来ておらん」
山本は酒を一杯傾ける。世間では南極観測で未知の調査という冒険に盛り上がっていた。
「それで海軍の船ですか」
「そう、船員や船を一手に用意できるのは海軍くらいじゃ、今は民間も何処も船を出してはくれん、さらに砕氷船となると限られる」
「清井さんのことですから、分かっていっておられるとは思いますが、海軍だって不況の予算削減の煽りをうけております。沿岸警備を担う部門の分離も決まっていますし……」
第二次ネウロイ戦役ののち軍事一辺倒だった扶桑の経済は不況に突入していた。
「そこをなんとかして欲しいと頼み込んでるんじゃ、南極観測は扶桑がいまだ列強たる実力を持っていると言うこと示す機会、そうでなければ不況という状況から立ち直る為の希望ともなり得るもの、世間のいまの扶桑を脱却するためには必要なことなんだ」
清井の言葉は山本も感じていることだった。いまの扶桑は不況という呪いの言葉にかかっていた。何をするにもついてまわるその呪いによって何かを成すということを避ける傾向にあった。
故に山本は決断した。杯を一気飲みして置くと
「分かりました、船と人員を用意しましょう、改修の為の手配もオマケです。つけておきましょう」
「助かる」
清井と山本は硬い握手を交わした。
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海軍省の山本の執務室で山本ともう一人の男が机を挟んで話していた。
「と、言うわけでだ、古賀くん丁度良い船を用意して欲しい」
「はっ、砕氷船でありますか。そうなると限られますが大きさはいかほどものをお考えで」
「南極観測に使うそうだから出来れば大きめの船が良いだろう。危険もあるだろうし幸運な船が良いのだが」
「そうなりますと候補は一隻だけですね…こちらの宗谷という船がよろしいかと、特務艦として運用しておりましたが代艦も建造され設立される沿岸警備隊に譲渡する予定だったものです」
古賀は資料の中から一枚取りだして山本に渡す。そこには長い間海軍に徴用されて以降使われ続けた一隻の船、宗谷の戦歴と特徴が書かれていた。
「ほう、なかなかの船じゃないか。よしこれにしよう」
「分かりました直ぐに手配します」
「それと、人員についてだがウィッチを一人参加させようと思う」
「ウィッチでありますか」
「うむ」
山本は一纏めされた資料を取り出すと机に置いた。その表紙には、
南極大陸におけるネウロイの出現の可能性とその脅威、と書かれていた。
「これは、まさかありえるのですか」
「もともと第二次ネウロイ戦役次に北極からの侵攻を想定していたことがあった。その時の調査結果からネウロイが極地において活動が可能だということが分かり、実際氷山を利用したネウロイが現われた」
山本は数枚めくると氷山ネウロイに関する項目を指しながら、一枚の写真を取り出して置いた。
「このことから連合軍では将来南極からネウロイが来る可能性があるとそう結論がでた。そこで南極の調査が行なわれることになった。だが一応の第二次ネウロイ戦役の終結によってそれはなくなった」
「では、山本閣下はネウロイが南極にいるとお考えなのですか」
「いるかも知れない、というだけだ。ただの直感に過ぎない。だが念には念だ、極地での活動が可能なウィッチと出来れば各国を刺激しない程度の航空ストライカーを手配して欲しい、それに未知への挑戦だ危険に備えるにはウィッチが丁度良いだろう」
「分かりました、そのように手配いたします」
こうして裏では話がトントン拍子で進んでいった。
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1956年1月 扶桑皇国
そして現在、蓮は突然基地司令に呼び出されて大佐の階級章をつけた士官が辞令を読み上げていた。
「よって本日付で貴官、小内蓮海軍少尉を南極観測船宗谷に転属とする。なお宗谷は昨年12月24日付けで新設された海上保安庁所属となるため貴官は海軍省本部附きとなり海上保安庁に出向という形になる」
「え…はっはい命令拝命いたします」
その後直ぐに零式輸送機に乗せられて、基地全員に見送りをされながら関東に飛ぶことになった。
しかし到着してそうそう船はまだドックの中で改修を受けていると知らされる。あまりに唐突、そして出来た時間。しかも行き先は南極。何もかも分からずじまいの蓮は、とりあえず支給されるという新型航空ストライカーを受け取りに、川島航空機の製作場に向った。
到着して直ぐに蓮は格納庫まで案内される。格納庫前に着くと古びたゲートが開けられて中には先端が丸みを帯びた噴流式魔導エンジンじゃない一昔前の宮藤理論に基づいた魔導エンジン搭載の航空戦闘脚のようなものがあった。
「ご紹介しましょう!わが川島航空機が製作した新型練習脚、KAT-1です」
「新型……新型練習脚?」
「ええ、そうです。といっても軍には採用して貰えず扱いに困っていた代物です。ですが南極観測のウィッチ専用ストライカーとして採用して頂けたのはまさに幸運でしょう!」
「あ、うん」
歓喜のあまり川島航空機技術主任の井上は蓮の腕を振り回しては機体の特徴や開発秘話まで話し始め、周りが止めに入るまで蓮は永遠と聴かされる羽目になった。
「ごほん、失礼しました。それで早速ですが出発までに必要なデータの収集がしたいので使ってみては頂けませんでしょうか、慣しも必要でしょう」
「うん、まあレシプロは久しぶりだし」
話が決まるとすぐさまKAT-1は格納庫から運び出され隣接している試験用滑走路まで運ばれる。蓮は普段は野放しにしている黒髪のくせ毛を一房に右側に流すように結び、ニーハイソックを脱ぎ捨てニコニコ顔の井上に渡してKAT-1を履く。
「一つ聞いていい?」
「何でしょう」
「この子の愛称は何」
「愛称ですか、そうですね。おカルさんと呼んでいましたが」
蓮はそっとKAT-1を撫でて少し考えたあと。
「オカル、うん微妙。でも他にはない一点物の名前だね」
撫でる手をオカルと名付けた新しい愛機からそっと手を離すと魔法力を込めて魔導エンジンを始動させる。するとプロペラのようなものが現われ回転し出す。青白い魔法陣が広がりブオオオーとエーテルの排気煙が掃き出される。
固定していたロックが外れると蓮は勢いよく滑走すると空に大きく飛び出した。
蓮はある程度の高度に達するとゆっくりと飛行場の周りを旋回する。旋回性能や加速を確かめながら飛行場2周した頃に耳につけたインカムから井上が話しかけてきた。
「どうです、おカルさんの調子はなかなか良いでしょう?」
「悪くない。安定してる」
「そうでしょう、そうでしょう。設計的には三式戦そのものですからね。魔導エンジンはコスト削減の為リベリオンのものを使ってはいますが三式戦の良いとこは大体引き継いでいますよ」
「そう」
井上は一度話し出すと止まらないらしく再び解説長々と聞かされそうになったので蓮はインカムを切るとゆっくりと大空を翔る。
水平線の向こうにはゆっくりと沈む夕日が、深い紺の空がゆっくりと広がり始めていた。
それからオカルを初めて飛ばしてから数ヶ月後、遂に宗谷の改修が終わり旅立ちの日がやってきた。蓮は集まった見送りの多さに驚きつつもこれから始まる旅にワクワクが止まらなかった。