さすらいの鉄薊   作:あぱ

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照れ隠し

「お見舞ーい」

「はいはい……手に持ってるそれはなに?」

「私お手製の……栄養剤?」

「毒でしょ」

「失礼だなあ!!」

 

 真緑の液体が中に入った小瓶をちらつかせるけれど、すごくイヤそうな顔をラシレアにされる。ディステルさんには効き目は凄いって評判だったんだけどなあ……

 効き目は、凄いって。

 

「身体はどう?」

「無理しちゃいけないからあと数日は安静にしてろって。むしろどんどん体調は良くなっていくばかりなんだけどね」

「調子良くなっても体力はないんだから無理しないのに越したことはないよ。でも多少身体を動かすようには言われてるんじゃない?」

「……そういえば」

 

 こうして見舞いに来るのも3日目、3日この町で足止めを食らってることになるけれど……元気になるのを見届けてからじゃないと不安で見ていられない。

 

「身体伸ばすの手伝おうか?なんちゃって」

「…そうね、お願い」

「え?あっ、おう…」

 

 茶化すつもりで言ったのに素直な反応に少し戸惑いながら、ガチガチに硬い身体のストレッチを手伝う。この前背負った時本当に軽かったから心配で……

 

「彼女は何をしているの?」

「ディステル?まあ……色々派手にやっちゃったから、あんまり人目に触れるところに出たくないみたいで」

「そう……もう一度直接のお礼を言っておきたかったのだけれど……まあ仕方ないか」

 

 あの波はやっぱりミリア教団が起こしたもので、ディステルさんが解決してしまったらしい。本人は被害が出てしまったことを悔いていたけれど……誰も死ななかったって、それだけで凄いことだったと思うんだけど。

 少なくとも町の半分は飲み込みかねなかったものを、その4分の1くらいにとどめたんだから本当に大したものだと思う。どうやったのかは教えてくれなかったけれど……想像はつく。

 

「貴女たちも色々と訳あり、みたいだしね」

「………何のことかなぁ〜?」

「ちょ、痛い痛い押しすぎ押しすぎ」

 

 ば、バレた…?さ、流石にそれは……そんな迂闊なこと……

 ……………

 

「貴女が背負って走ってくれなかったら今こうしていなかったと思う。何度も何度も……感謝してるのよ、本当に」

「……気にしないでいいのに」

 

 何とも言えない空気が流れたまま、ラシレアの体勢を変えさせる。全身硬くて、本当にずっと身体を動かしてこなかったんだろうなと感じさせられる。

 

「……今日中にはここを出ようと思ってるんだ。もう騎士団が来たみたいだし」

「そう……随分長居させてしまったわね」

「なんだかんだ楽しかったし……なんかディステルさんも満足そうだったし。来てよかったって思ってるよ」

「………」

 

 ラシレアの雰囲気が変わったように感じてストレッチを終える。こっちを見ずに、また前みたいに窓の外をじっと見つめて……

 

「………次」

「え?」

「次、いつ会えるんだろう………って」

「………」

 

 今までで1番気まずい沈黙が訪れる。

 私は何も答えられずに黙って、ラシレアは窓の外を見つめて、ずっと私の言葉を待っている。

 

 めちゃくちゃ、それはもう凄く慌てながら頭をフル回転させて、無責任じゃない言葉を考える。

 

「っとぉ…………て、手紙!手紙出すよ!いつ会えるかは分からないけど手紙なら…」

「……言ったわね?」

「う、うん……言ったけど」

「ふぅん……」

 

 窓から目を離してこっちをじっと見つめてくる。それはもう凄いじっと……真っ直ぐに。

 

「もう行っていいわよ」

「……は?」

「この町出るんでしょ?早く行けば?」

「んっえちょっ、なっ……急に冷たすぎない!!?」

 

 なんか惜しむ感じだったじゃん!完全に惜しむ感じだったじゃんか!手紙嫌だったの!?でもいつ会えるかなんて分からないし……私にどうしろって言うんだよ!

 

「手紙、書いてくれるんでしょ」

「へ」

「手紙」

「………」

 

 そう言ってまた窓の外を向いてしまった。自分は言いたい放題言ってすぐ顔を背けるのがなんかムカついて。

 

「バカみたいに長い手紙書いて送りつけてやるからな!!」

 

 そんな意味の分からないことを口走りながら部屋を飛び出して、お別れをしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 町はすぐに復興へと動き出した。以前にも起こった時の経験を活かしているらしく、それも前回よりも被害が少ないためあっという間に。

 まもなくミリア教団の捜査が始まったが、町の外の洞窟の中で壊滅しているのが発見されたらしい。原因は……不明となっているみたい。

 

 魔女の存在が疑われたことからアルコス騎士団もやってきたようだけれど……あの結晶はまだシアンタができる前、ミルバンによる再開発の際に殺された魔女のもの。魔女自体は見つからないだろう。

 数百年に渡り受け継がれてきたけれど……あれは私が壊してしまった。私が腕を切り落としたあのローブの人はもしかすれば騎士団に処刑されてしまうかもしれないけれど……

 

「あんなに身体動かしたの、久しぶりだなぁ……お腹空いた」

 

 元々疲労感とかはルルゥさんのアレで色々なものと一緒に吹っ飛んでしまったけれど……流石にお腹が減ってしまった。

 

 この数日間、ヴェルディ家の屋敷とスタグさんの妹さんの家を行ったり来たりして、ミリア教団の残党が報復に来たりしていないか見張っていた。本拠地にいた戦闘要員らしき人たちは全員戦えないように最低限再起不能にしたけれど、念のため。

 

 あのやりすぎとも思えるくらいの魔法は、アルコス騎士団に教団の存在を知られてしまえば今度こそ完全に解体されると考えたからなのだろう。

 

 

 教団の本拠地にあった本には、ミリア教団設立の経緯が記された本があった。

 元々シアンタの土地には小さな漁村があり、そこでミリアという水を操る奇跡を扱う女性が長い間慕われ、崇められてきた。海を鎮めて船を送り出す、他にも色々な事が奇跡として記されていた。

 

 ミリア教団というのはミルバンによる再開発の際に、危険だとして殺されたミリアを元々慕っていたものたちが作り上げたもの。そこから数百年に渡り密かに活動をし続け、ヴェルデ家からシアンタを取り戻す画策をしていたと。

 

「……魔晶石」

 

 魔女の心臓の代わりにある結晶。

 それを使えば魔法を行使できることに気づいたのは、かなりの年月が経ってからだったらしい。正確に言えば、その力を手にしてからヴェルデ家を乗っ取る計画を立て始めたようだった。

 

 誰にも教団の存在は悟られないように、ゆっくり時間をかけて。ヴェルデ家の中にも教団の人間を忍ばせて。

 

 

「ディステルさーん!」

「あれ……早かったですね」

「あいつ感じ悪くって!あんな奴とのお別れなんか適当でいいんですよ!」

 

 待ち合わせ場所に走ってやってきたルルゥさん。話している内容の割には、表情は楽しそうだ。

 

「そういえば……スタグさんってどうなったんですかね。すっかり聞くの忘れてた」

「……知っている限りで、教団の息のかかった人たちを密告しているらしいですよ。その他にも色々情報提供をしていて……まあヴェルデ家の人たちがどうするかですけれど、きっとそこまで悪いようにはしないと思います」

「へぇ……なんでそんなこと知ってるんですか?」

「…風の噂で」

 

 あの地下牢に忍び込んでスタグさんと何度も話をしていたのは流石に話しにくい。本拠地のある場所も、妹さんの家の場所も直接会って聞いたし……本人もどこか思うところがあるようだった。

 

「こことももうお別れかあ……本当に色々あったけど、楽しかったですね」

「……そうですね」

 

 本拠地の壁には僅かに荊が残ってあった。きっと数十年前にあの方がミリア教団と接触して、適当に魔法を使って()()()のだろう。それを知れただけでも満足だった。

 人助けをするために旅をしているわけではない……そう考えるのは冷たすぎるだろうか。

 

「次はどこに行くんですか?ハスティアから南下してシアンタに来て……次は東ですか?流石に海は超えませんよね」

「はい、次は東に出て……少しずつ大陸の内側に戻りながらいくつか村や町を経由して、アンビルという町に行くつもりです」

「じゃあ結構歩くんですね。まあ随分ここで休んじゃったし、がんばるかあ」

 

 道自体は整備されているみたいだからそう苦労はしないはずだけれど……場合によっては数週間ほど要するかもしれない。旅の準備自体は既に終わらせておいたからすぐにも発てる。

 

「……それにしても、ディステルさんやっぱり凄いですよね!騎士相手でも余裕で勝っちゃうんじゃないですか?」

「敵対はしたくないですけど……修練自体はしてきましたけれど、実戦ってあんまりしてないし……比べた事がないので分かりませんね」

 

 魔女だと目をつけられた時点で、たとえその場で騎士団を凌げたとしてもそこから追跡が来るわけで。誰にも見つからない場所で暮らしていく以外に対処法はないだろう。

 ……それなら自分の姿を隠せるものとか持っておいた方がいいのだろうか。

 

「町の東まで行きましょうか。出るなら早いうちに」

「はいっ」

 

 やっぱりどこか上機嫌だ。ラシレアさんと仲良くなったのは知っているけれど…最初は相当険悪だったのに、よく友人になれたなと思う。

 

 ……友人。

 

「ラシレアさんは……どんな感じでしたか?」

「どんな感じ、とは?」

「えっと、その……体調というか」

「元気は元気ですけど、まあこれからどうするかじゃないですか?私はお医者さんじゃないのでよく分かんないですけど」

「そう…ですか」

「……?」

 

 自分でも何でそんなことを聞いたのかがイマイチ分からずに不思議な気分になる。まあ……良くなっているならそれに越したことはないか。

 

 他愛のない話をしつつ町の東へと向かっていく。旅に出始めたころはまだまだ涼しかったけれど、流石に日光を浴び続けるとしっかりとした暑さを感じるようになってきた。

 暑いのは好きじゃないけれど……凍えてしまうほど寒いよりはいい。

 

 あまり整備されていない道が門の向こうに見える。整備されていないとはいってもこのルートは交易路としては使われていないというだけで、歩くのに支障が出るというほどではない。むしろハスティアからやってきた時に比べれば平坦な道が続く。

 

「あ……」

「目を合わせないように」

 

 門が見えてきたあたりで騎士団の装いをした人間が集まっているのを見た。鎧の右胸あたりには三日月を斜めに切ったような紋章が施されている。

 魔女狩り部隊【パージ】

 騎士団の中でもレプニムスに直属していると言われ、魔女……つまり異端勢力に対して投入される部隊。

 

 ただ魔女がいるというだけならともかく、それを信仰している集団までいるという情報を得たのなら、相当数のパージが動員されていたとしてもおかしくはない。

 出来る限り自然にわき道に逸れる。見たところ何か話し合いのようなものをしていたけれど、視界に入らないに越したことはない。

 

「はぁ〜〜緊張したぁ……」

「私達みたいなのは疑われやすいですから……私、こんな髪なので人より目につきますし…」

 

 普通の人間には魔力を感じ取ることはできない。ルルゥさんも余程鋭くなければ魔力を感じ取れないくらいには上手く押さえ込んでいる。魔女が魔女だと分かるのは魔法を使っているのを見られた時だ。

 それでも疑いはかけられるし……騎士団にも魔力を感じ取れる人間はいるだろう。

 

「このまま迂回していきましょう」

「うぅ……路地裏はもう勘弁なんですけど…」

 

 あれだけの大津波が多くの人の目に晒されたのだから、むしろ彼らが町に来るのは遅すぎるくらいだった。

 怖がるルルゥさんを落ち着かせながら、静かに門の外へと出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……手紙って、どういう風なの書けばいいと思います?」

「…手紙?」

 

 シアンタを出た日の夜、焚き火を囲みながらナイフの手入れをしていると本を読んでいたルルゥさんがそう聞いてきた。

 

「ラシレアに出すんです。あいつぅ、私とお別れするのが寂しかったらしくってぇ」

「そうですね……まあ単に近況報告しか出来ないと思いますけれど……私たちは旅をしているわけですから向こうから手紙が送られてくるということはないんでしょう?」

「……あそっか!なんか文通みたいなこと考えてたけどそういえばそうだ」

 

 朧げな記憶の中にはご主人様が手紙を誰かに宛てて書いていたような記憶があるような、ないような……少なくとも滅多に送ることはなかったはず。

 

「書きたいことが出来れば書く、それでいいんじゃないですか?」

「……それもそうですね。すぐに書いたらこっちも別れを惜しんでるみたいに思われそうだし!」

「ふふっ……」

 

 色々あったけれど、シアンタでの活動は終わり、旅は次へと進む。あの方の手記のページはまだまだ残っている。

 

「……三日月」

 

 空に浮かぶ月を見て、少しの不安が過ぎる。

 

 ルルゥさんの鼻歌とパチパチと音のなる焚き火も次第になくなっていき、やがて夜が明けた。

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