さすらいの鉄薊   作:あぱ

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魔物

「……魔物ですか?」

「ああ、鳥系のやつが出たらしくてな。手がつけられないんで困ってるんだと」

 

 中継に立ち寄った村がなんだか物々しい雰囲気に包まれており、近くにいた男性に事情を伺うと「魔物」という言葉が出てきた。

 

「この辺りまで来るものなのですか?」

「いや珍しいな。大抵は北寄りの土地で確認されるもんだから、ここまで来るって話は聞いたことがない。まあだからこんな風になってるわけだが」

 

 住民たちは家から出て来ず、人気はかなり少ない。いつ襲われるか分からないため警戒しているのだろう。

 

「どうします?ディステルさん。このまま先に進んでも……」

「やめておいた方がいい、騎士団が駆除してくれるまではこの村にいた方がまだ安全さ。魔物とは言っても根っこは普通の獣みたいなもんなんだから」

「でも……」

 

 ルルゥさんの懸念も分かる。騎士団との接触は何よりも避けたいこと、だからたとえ止められようとも先を急いだ方がいい。けれど、魔物ですか……

 

「とりあえず今日はもう日も暮れる、俺の泊まってる宿でよけりゃ案内するが」

「…そうですね、お願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどシアンタではそんなことに……道理で要請出してんのにいつまでも騎士団の奴らが来ないわけだ。これだから妙なもん信じてる奴らは……」

 

 妙なもん信じてる奴ら……というのがミリア教団のことを指しているのだろう。

 勢いよく酒を呑むイガルさん。

 

「あんたらも災難だったな、魔女の次は魔物か」

「足止めくらってばっかりですよほんとに……イガルさん傭兵なんですよね?なんとかならないんですか?」

「出来たらもうやってんの」

 

 気さくな人のようでルルゥさんもすでに自然体で話ができている。

 

「この宿でここ数日ずっと寝泊まりしてるんだぜ?ハスティアの方まで行きたいのに……飛んでさえなけりゃどうとでもしてやれるんだがな」

 

 そもそも魔物がこんな南部にまでやってくること自体がかなり珍しい。飛んでいるとはいえ北部から離れる理由なんて特になさそうなものだけれど……

 

「そっちのアンタは?相当やれんだろ、見りゃわかるぜ」

「……私も飛ばれている相手にはどうにも。やりようはあるでしょうけれど、魔物相手に派手なことはしたくないのが本音です」

「まあそりゃそうかぁ」

 

 私一人なら別に無視して進んでしまってもいいだろうけれど、それだとルルゥさんに危険が及んでしまう。もし目をつけられた場合、守りながら戦うのにも不安が残る。

 

「さっさとどっかに行きゃあいいのに、ここら一帯にずっと居着いてるみたいなんだよなあ。もし住みつかれたら本格的な面倒臭いことになるが……」

「魔物相手に随分と弱腰なんですね、傭兵なのに……」

「俺は対人専門なの。それに嬢ちゃん、お前は魔物の恐ろしさを分っちゃいない。ああいうのはそれこそ騎士団の特務のやることで、俺たちみたいな傭兵がやることじゃない、畑違いってやつだよ」

 

 魔物退治を専門にしている騎士がいたとして、それがいるのは基本的にこの国の北部だろうからこんなところにはいないだろうけれど。特務…騎士団のパージが相手にするのは魔女だ、魔物まで相手をするのだろうか。

 

「最近傭兵になったっていう例の新入りならどうにかするのかもしれんが……」

「……そんなにすごいんですか?その人」

「元々騎士団、それも特務候補だったらしいんだがなんでか辞めて傭兵になっちまったらしい。それが本当なら魔物の1匹くらい余裕だろうさ」

 

 いずれにせよどこに魔物がいるのか分からない以上下手に動きたくはない。けれどあまり足止めを喰らいたくないのも事実で……

 

「……まあ、なんとかやってみましょうか」

「なんとか……って、何か算段でもあるのか?」

「魔物と言ってもまあ、要は魔力を持った動物と同じなわけですから。鳥とのことだったので……食べ物でおびき寄せましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、3人がかりで手当たり次第に鳥……といってもどういうものを食す鳥なのかいまいちはっきりしなかったため、木のみから虫、肉まで一通り集めてそれぞれ別の場所に固めて置いておいた。

 罠を仕掛けても破壊されるだろうから、仕留めるのは私のナイフ。

 

 今はイガルさんと別れてルルゥさんと二人、餌を設置したポイントを見れる位置で待機している。

 

「……その、私魔物ってよく分かってないんですけど」

「私も詳しく知っているわけではありませんが……それでもいいですか?」

「もちろん」

 

 あまり音を立てないように静かに話し始める。

 

「そもそもが地脈と呼ばれる……まあ呼び方は色々あるようですけれど。とにかく魔力が大地の地下を川のように流れていると思ってください。そこに流れる魔力の影響を受けた生き物…と言われていますね」

「魔力を持ったケモノだから魔物ってことですか?」

「さあ……名前の由来までは分からないですけれど」

 

 地脈には噴出口のようなものがあり、それがこの国の北側に多くあるため魔物が発生する……という話ではある。

 

「その昔、モノケロスという魔物が各地で暴れ回り甚大な被害を及ぼした……という話もありますね」

「あっそんなのは聞いたことあります。空飛ぶトカゲみたいなのもいるんでしたよね」

 

 物によっては新しい身体の器官を作り出すなど、大きく体を変化させているものあるらしい。

 

「北部ってやっぱり荒れてるって聞きますし、大変なんですかねぇ」

 

 北部に関して普通の国民が知り得る情報は魔物が多く存在していて森であることくらい。実際騎士団や国がどこまで魔物の正体を知っているのかは分からないけれど……

 

「理性を持ってない魔物の方が余程魔女より危険じゃないですか?」

「だから北部の森に防衛線が敷かれているんでしょう」

 

 最も、害意を抱くのは魔物では魔女だろうけれど。北部に固まっている魔物とは違って魔女はどこにでもいるし、対応が違うのは当然のことだとは思う。

 

「まあこの国はそもそも国境が——」

「あっ……来たんじゃないですか?」

 

 話の途中でルルゥさんが指で餌を設置した場所を示す。その上空あたりには確かに鳥のような生き物が羽ばたいているのが見えた。餌に釣られてきたのかたまたまかは分からないけれど……

 

「魔力は感じますか?」

「気のせいかなってくらいには……」

「了解です、ここから狙います」

 

 スタグさんを追っていた時に拾っていた投擲用のナイフを構える。餌は木の下に設置してある、もし餌に気付いたのならその下まで降りてくるだろう。

 

「木の鉄板近くまで降りてきたら教えてください」

「は、はい。もうすぐ………もうちょっと……今っ」

 

 2本、ナイフを投擲した少し後に駆け出す。ルルゥさんの目でタイミングを測ったのもあり命中するはずではあったけれど、寸前で気づかれたのか何か硬いものとぶつかったような音がしてナイフが弾かれる。

 

「氷——」

 

 透明な何かが太陽光を反射して輝いていた。憶測に過ぎないけれどあの魔物のを扱う魔法を氷だと判断して距離を詰め続ける。

 私に気付いた鷲のような魔物が氷の塊をつららのようにして飛ばしてくる。いつものナイフに持ち替えて弾いて避けつつ進む、既に前に出ていたためルルゥさんの方にまで攻撃はいっていないはず。

 

 木々の枝を跳ねて駆け上がり、魔物の首に向かってナイフを突き出したれど氷の壁を作りだされて塞がれる。ナイフを引き抜いて距離を取りながら飛んでくるつららを弾いて、こちらに向かって走っているイガルさんを確認する。

 別の木を掴んでもう一度飛び上がり、今度は魔物よりも上から攻撃する。もう一本だけある投擲用のナイフを投げて氷の壁を作り出させ、突き刺さったナイフを上から勢いそのままに踏みつける。

 

 砕かれた氷の壁、逃げようとする鷲の魔物の翼をナイフで突き刺して、そのまま地面へと落下して叩きつける。

 落下の衝撃が私と魔物に襲いかかるが、僅かに怯んだだけでそれでもなお氷を使って私に攻撃をしようとしてくる。

 

「おおおっ!!」

 

 そこへイガルさんがやってきて、魔物の頭へと剣を振り下ろした。

 

「……ふぅ」

 

 魔法で生み出された氷が消えたのを確認してようやく息をつける。最近はよく跳ぶけれど、落ちるのはいつだって怖いものだ。

 

「あんた……凄いな。派手なことしたくないってのはなんだったんだよ」

「別に……派手ではなくないですか?」

「そうかぁ?…まあなんでもいいか。っていきなり解体すんのかよ…」

 

 魔物の胸を切り裂く。胸あたりに大きく硬い骨があったがナイフの柄の部分でヒビを入れて、そのまま心臓あたりにナイフを突き刺した。

 

「…!」

「どうかしたか?」

「いえ……戻りましょう」

「お、おう……もういいのな」

 

 心臓のあたりは柔らかかった。それはつまり魔晶石が魔物には存在しないということ。魔女とは別の位置にあるのか、それとも……

 

「……関係ないか」

 

 ただの興味本位でやったことだし、答えが出なくても別に問題はない。イガルさんにも突拍子のない行動を怪しまれてしまったし……もし魔晶石があるなら処分しなければならないと思っていたけれど。

 もしかすると魔物にも色々種類があるのかもしれない。

 

「ん………」

 

 ふと、何かに見られているような気がして振り返る。特におかしなことは見つけられず、獣でもこちらを見ているのかと考えてルルゥさんの方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お礼だ、一杯奢らせてくれ」

「……すみません、私お酒呑まなくて」

「…マジか」

 

 両手に持ったお酒を困ったように見つめながら席についたイガルさん。一度宿に戻って、色々準備してまた明日ここを立つということで、その日の夜にお礼をさせてくれた言われたけれど……

 

「じゃあじゃあ私に何か食べさせてください!」

「お前何もしてないじゃん」

「最初に魔物見つけたの私ですよ!?」

「えー?ほんとかあ?」

 

 ルルゥさん、結構こうやってフランクに誰かと接している方が素のように見える。別に私と距離を感じるというわけではないけれど……

 

「いやしかし、あんた本当にただの旅人か?傭兵になれば食うに困らんだろうに」

「戦うのは好きじゃないですし…」

「俺も好きってわけじゃあないが……じゃあ曲芸師とかどうだ?」

「その、別に何か新しいことを始めたいわけではなくて」

「あぁそれもそうか、悪かった」

 

 魔物を倒したことの報告とか諸々はイガルさんにやってもらった。傭兵をやっていて場数を踏んでいるということもあり滞りもなく次の目的地へと迎えそうだ。

 自分をトドメを刺しただけなのだからと、私に村民に報告をさせようとしてきたけれど、あまり目立ちたくないと伝えると納得してくれた。

 

「あんたらはどこへ向かってるんだ?」

「アンビルというところです」

「アンビルか……まあ立地上人は多いんだが、特にこれと言った特色はない町だなあそこは。穏やかでいいんだけども」

 

 事前に調べた情報とイガルさんの口から発せられた情報に大きな相違はなかった。ハスティアやシアンタほど発展はしていないが、周囲の農村などから人や物が集まる場所のようらしい。

 言ってしまえば小さなハスティア……だろうか。

 

「俺はシアンタの方に行くから、もうあんたらと会うことはないかもしれないが……あんたのことは覚えておくよ、ディステル」

「……はい、そうしていただければ」

「ちょっ…私は?」

「やかましいガキって覚えとくよ」

「は〜!?」

 

 

 その日は解散してそのまま別々の時間に旅立ったため、イガルさんと顔を合わせることはなかった。

 少し関わっただけの相手だったとしても……その先でふと、私のことを思い出すことがあったなら、それは嬉しいことなんだと思う。

 

「……ん?私の顔になんかついてます?」

「いえ…そういうわけでは」

「……?」

 

 

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