さすらいの鉄薊   作:あぱ

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泥だらけ

 

「読み終わっちゃった」

 

 暇な時はずっと読んでたら、いつのまにか最後のページ。続きはたくさん出てるらしいからまだ物語は続くんだろうけれど、凄く綺麗に話が纏まってた。

 ……まあこういうの読むの初めてだから何かと比較した感想は私からは出てこないけど。

 

「怪人レムシェルデかぁ…」

「読んでいた本ですか?」

「はい、本当にいたら面白いなあって」

 

 時計の針がまた同じ場所へと戻ってくるように同じような退屈な日々を繰り返す街に、突如として現れた怪人レムシェルデ。彼が現れてから街からは退屈の文字は跡形もなくなり、奇想天外な日常が幕を開ける……

 

「でもなんというか、読んでた感じこの国とはまた違う感じなんですよね。外国の街が舞台なのかも」

 

 作者の素性は不明とか聞いたけど……もしかしたら外国の人が書いたのかもしれない。

 会って話してみたいっていう気持ちもあるけれど……外国の人だったら絶対に無理だろうなあ。

 

「読書も悪くないなあ……ディステルさんって本読むんですか?」

「私はあまり……読まなかったわけではありませんが、読者が好きといぅけではなかったですね」

「ふぅん……」

 

 本読んでる姿も映えそうなのに……

 あれ…というか……ディステルさんって普段何してるんだろう。あの手記?を結構読んでたりするけど……他にしてることはあんまり思いつかない。

 

 今は突然の雨が降ってきて近くの洞窟に雨宿りをしている状態で、とくにする事もないと思うけれど……ずっと遠くの方を見ている。

 

「ディステルさんって……暇な時とか何してるんですか?」

「……特に何もしてませんね、ぼーっと、です」

「その……メイドをしてた時もですか?」

「メイドをしていた頃ですか?うーん……」

 

 どんなことをしていたのかは分からないけれど、流石に休みの時間とか日とかはあっただろうと思うし、そういう時に何をしていのかなあって。気になって聞いてみたけれど……

 なんか、ずっと首を傾けて唸っている。

 

「あまり記憶にないのですが……昔は、本当に暇で何もすることがなかったら暗い部屋にキャンドルを灯して……それをじーっと、見ていましたね」

「……えっ、こわ…」

「こ、怖いですか?」

 

 しまった、つい口から出てしまった。でも暇な時にするのがそれって……いややっぱり怖いけど。

 

「…確かにご主人様から『それ怖いから辞めて』と言われて……それからはナイフの扱いだったりを練習する時間に充てていたような気もしますね」

 

 ちゃんと怖いって言われてる……

 

「でも思い返せば今でも無意識にやっているような気がしますね。なんというかこう……落ち着くんですよ」

「は、はあ……そうなんですか……」

 

 やっぱりちょっと……変なところあるんだなあ、この人。まあ私も人のこと言えないんだけど……頑張って普通の人みたいに振る舞ってるっていうか…

 

「ただまあナイフの練習も今更ですし、趣味……何か探してみてもいいのかもしれませんね」

「読書しましょう読書!絵になりますよ!」

「……絵になるかどうかなんですか?」

「やっべ」

 

 ただ私が静かにディステルさんが本を読んでいる様を見たいだけなのがバレてしまう。

 

「……まあ、旅自体が趣味のようなものですし、今すぐ考えなくても良いのかもしれません」

「それもそうですね!!」

 

 私も旅先で見つけた植物とかの成分を調べたりしてるけれど……趣味というよりそれ自体が一応の旅の目的だし。

 

「……雨、止みましたね」

「ほんとだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから魔力ってほぼほぼ血液みたいなもので、それ無くなっちゃうと割とまずいことになるんですよ」

「そうなんですか……」

「私も完全に無くなったことはないですけど……魔力切れ起こしそうになった時はめちゃくちゃ酷い貧血みたいな症状が出ましたね」

 

 他愛のない話をしながら雨上がりのぬかるみに足を取られないように進んでいると、急にルルゥさんが足を止めた。

 

「……どうしました?」

「なんか……魔力全開でこっちの方に向かってくるのが…」

「魔物ですか?」

「いや…多分人……というか魔女……」

 

 ルルゥさんの向いている方向に出てナイフを抜いて構える。確かに泥を踏み散らしながら走ってくるような音がする。

 たまたまこっちへ走ってきているのか、それとも何か理由があるのか……同じ魔女であるルルゥさんがいる以上それを探知して来た可能性もある。

 

「いつでも動けるように」

「は、はいっ」

 

 ナイフを握る力を強める。

 もし魔女と戦闘する羽目になれば……あまり考えたくはないが。

 

 泥を踏む足音がどんどん近づいてくる、木々の間からその影が鮮明になっていき、私たちのいる道へ飛び出した途端。

 

「へゔあっっ!!」

 

 盛大に顔を下にしてこけた。

 

「………」

「………」

「ゔぁああああ!顔面泥だらけあああああ!!」

 

 体の前面が泥で覆われていているが悲しみの叫びはよく聞こえる。ひとしきり叫んだ後、目をぱちぱちさせて私たちの方を認識したと思えば…

 

「あ、どうも」

「……ど、どうも」

 

 軽い挨拶が飛んできて……ナイフを収めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ、ごめんな。色々やってもらっちゃって」

「いえ……」

 

 近くの川で服と身体を洗ってもらって、焚き火の近くで温まってもらう。とりあえずは毛布にくるまってこの場は凌いでもらう。

 

「ずっと雨に降られて荷物とか大体ダメになって、遠くの方に人影が見えたから走って来たらこれで……」

「あー分かります、私も一人の頃はずぶ濡れになっちゃって…」

 

 川で必死に服の汚れを落としている私と、鍋をぐるぐるとかき混ぜているルルゥさん、

 

「そういや名前まだ言ってなかったっけ。あたしはエシア、二人は……」

「私はルルゥで、この人はディステルさんです」

「ルルゥとディステルね、覚えた」

 

 青みがかった長髪で、背丈は私と同じか……少し低いくらいだろうか。出会った時は確かに魔力が放出されていたけれど、今はルルゥさんと同じようにほぼ感知できない程度に収まっている。

 

「ディステルは……その白い髪って地毛?」

「はい、そうですが…」

「ふぅん…?」

 

 物珍しそうに私の髪を見つめてくる。

 ……正直、あまりジロジロ見られるといい気はしないけれど。

 

「いいね、大切にしなよ」

「え、えぇ……」

 

 なんだろう、この感じ……

 この白い髪について何か知っているのだろうか。

 

「いやでも、出会えたのが魔女で良かったよ」

「へっ…」

「………」

「隠すの面倒くさいし、こうやって自然体でいられるの楽でいいや」

 

 ……まあ、魔力を持たない私でもここまで近づけば、ルルゥさんとエシアさんの魔力を微かに感じる事ができる。ルルゥさんはもっとはっきり感じ取っているだろうし、それはエシアさんにとっても同じことだろう。

 あまりにも軽くて、呆気に取られてしまったが。

 

「ディステルは……魔女じゃないの?魔力はなんか感じるんだけど」

「いえ私は……これのことでしょうか」

 

 いつも使っているのは違う方のナイフを見せてみる。すると合点があったように手をぽんと鳴らした。

 

「なるほどそれが……面白い組み合わせだね」

 

 もしルルゥさんが魔女であることを隠して私と旅をしていたら、なかなか大変なことになっていたけれど……

 私の持っているナイフの魔力を感じて、二人とも魔女だと思って近づいて来たのだろうか。私自身は人間なのだけれど。

 

「二人はどういう関係?」

「た、ただの旅仲間ですけど……偶然出会った」

「そうなの?人間と魔女が?」

 

 何というか、ぐいぐい来る。あんまり接したことのないタイプの人というか……

 出会いに関しては本当に偶然でしかないから、疑いをかけられても困ることしかできない。

 

「……私たちと貴女が出会ったのも、偶然ではありませんか?」

「…言われてみれば、それもそっか」

「はい、えぇと……エシアさん、スープどうぞ」

「ありがと、あったか〜……」

 

 ……飲まずにずっと手に持っている。このあたりは別に寒い気候というわけでもないのでそこまで冷えているわけじゃないと思うのだけれど…

 

「…こんなものかな」

 

 あらかた汚れの落ちた服を焚き火のそばに近くの木の枝の方に吊るして置く。雨上がりだけれど乾燥した緩やかな風が吹いているから、乾くのにそう時間はかからないだろう。

 まあ、先に干している換えの服を着ることになるのだろうけれど。

 

「どうしても取れない汚れもありましたし、ところどころ破けていましたし……買い換えた方がいいかもしれませんね」

「じゃあそうしよっかなぁ……スープ美味しいよ、ありがと」

「ど、どうも……調味料の力かな……」

 

 ルルゥさんから私もスープを受け取る。採取した野草などが入っていて、なんというかルルゥさんらしい。

 

「二人は何で旅してるの?このご時世女ばかりだと怪しまれるでしょ、その髪は特に」

「えぇまあ……このところは穏便に済んでいますけど、確かに大事になりそうな時もありましたね」

「私は…むしろ子供一人で大丈夫かって心配されることの方が多かったような…」

 

 魔女狩りにも地域差がある。基本的には国の西側に寄っていて、私たちはそれを避けるように東に向かって移動している。もし西にまた行くことがあれば……髪を隠す工夫くらいは必要になるかもしれない。

 

「何で旅を、と聞かれると少し説明が難しいのですが、そうですね……大切な人と同じ道筋で旅をしていると思っていただければ」

「私はディステルさんについて回ってるだけです」

 

 ……各地で薬の勉強をするのでは?

 ………喋るのが面倒くさいという顔をしている。

 

「なるほど……あたしはとりあえずアンビルが目的なんだけど………」

「では私たちと同じですね」

「あっ」

 

 ルルゥさんが何かに反応する。

 

「じゃあさ!そこまで一緒に行かない?一人だとやっぱり心細くてさ」

「そうですね、折角ですし」

「あー…」

 

 やってしまった、という反応をされる。さっきからいったい何なのだろうか……

 

「とりあえず今日はここで野営しましょう、準備をして来ますね」

「あっ私もいきます!」

「よろしくー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディステルさん、ちょっと軽率ですよ…?」

「何がですか?」

「さっきのですよ!」

 

 川辺から離れたところに野営地を設営する。その最中に何やらさっきから様子の変なルルゥさんが話しかけてくる。

 

「相手は魔女なんですよ?そんな簡単に同行を許しちゃダメじゃないですか」

「……ルルゥさんも、魔女なのでは?」

「ちがっ……私はいいんです私は!」

 

 違いがよく分からないけれど……

 

「魔女なんてのは全員普通の人間とはどっか違った異常者しかいないんだってお師匠様も言ってましたし」

「……ルルゥさんも魔女ですよね?」

「だぁから!私はいいんですって!」

 

 分からない……

 

「見かけは普通でもどこかしらズレたところがあって……そのズレがわからない以上関わるのは危険だってお師匠様が」

 

 随分と魔女に詳しい方らしい。

 思えばルルゥさんの身の回りに魔女とかはいなかったろうし……彼女に魔女がどういう存在が教えたのも、きっとその方なのだろう。会って話してみたいものだけれど……

 

 ……まあ、確かにご主人様もミクェラ様もズレたところは今思えばあったのだろうとは思う。

 

「けれどまあアンビルまでですし……」

「シアンタの時もそうやって厄介なことに巻き込まれたじゃないですかっ」

「それは……そうなんですが」

 

 ちょっと心配しすぎではないだろうか、そこまでの警戒心は私には向けてこなかった気がするけれど。

 

「……まあ言っちゃったもんは仕方ないです。でもアンビルまでですからね?約束ですよ?」

「は、はあ……」

 

 まあ簡単に人を信じるよりはこのくらいの警戒心があったほうが、危険に巻き込まれずに生きていける……だろうか。

 

「……ありがとうございます、心配してくれて」

「へ?…い、いや別にそういうわけじゃ……ぅん……」

 

 不思議な巡り合わせだと思う。

 ルルゥさんも含めて、出会った人との関わりを大事にしたいと……そう思う。

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