さすらいの鉄薊   作:あぱ

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アンビル

「アンビルって……なんか、普通ですね」

「ハスティアやシアンタと比べれば当然だと思いますが……」

 

 町の印象は……すごく大きい村。

 なんの変哲もなくて……まあ人は結構多いけど、のどかというか、牧歌的というか……前二つの町みたいな熱気というか、活力のようなものはない。

 

 でもなんか落ち着くなあ……生まれた村を思い出して懐かしい気持ち……にはあんまりならなかったけど。

 

「…あ、あそこの大きな建物ってなんだろ」

「あれは……レプニムスの教会ですね」

「ダメじゃないですかっっ!」

「シアンタにもありましたけどね」

 

 そ、そうなの…?

 まあこの町だとそんなに大きな建物っていうのがないから、余計に教会が目立つのかもしれない……魔女なのに、注意しなきゃならない建物に全く気づかないとは……

 

「一度行きましたけれど、修道士の方がいるくらいで他に目立ったところは……魔女狩りをしているのはどちらかと言えば騎士団の方ですから、過剰に警戒する必要はないですよ」

「は、はあ……」

 

 そっか、時々忘れそうになるけどディステルさんって魔女じゃなくて普通の人間だから、そのあたりを気にする必要って別にないのか。

 ……やっぱり、私が一緒にいると迷惑かける気がする……今更だけど。

 

「エシアさんは私たちとは別で散策に行ってるみたいですけど……あ、そういえば!!!」

「な、なんですか?」

「一体いつの間にあの人を呼び捨てするくらい仲良くなったんですか!!?私の方が付き合い長いのに、こっちはずっとルルゥさんなんですよ!!?」

「ち、ちょっと、声が大きい……」

 

 思い出したら腹立ってきた、何なんだあいつ馴れ馴れしいんだよほんとに。距離感がありえないくらい近い、友達とかいなさそう。

 

「あれはただ……エシアにそう呼べと言われて……」

「じゃあ私のことも呼び捨てにしてくださいよ!」

「え、えぇ?えっと……ルルゥ……?」

「ちゃんと私の目を見て!!」

「る、ルルゥ……」

「ん゛っ゛」

 

 急に苦しくなって胸を抑える。嬉しいはずなのに何というかこう、ルルゥさんという呼ばれ方に慣れすぎて拭えない違和感が私の中である。

 というかディステルさんがさん付けして呼ぶのに慣れすぎてるんだ。ラシレアに様をつけてるのなんか正直違和感凄すぎて聞くたびに首を傾げそうになってたもん。

 

「あ、あの…?」

「やっぱり……今まで通りルルゥさんでお願いします」

「え?あ、はい……?」

 

 そもそもあいつはディステルさんに無理やり呼び捨てにさせてるんだ、なんて悪辣なやつ、やっぱり魔女に碌なやつはいないんだ。お師匠様の言ってた通りじゃないか。

 

「おっほん……あ、それでこの町では何が目的なんですか?」

「……人探し、でしょうか」

「人探し…?」

 

 私が聞き返すとディステルさんはいつものようにあの手帳を開く。

 

「どうやらあの方はこの町でおそらく数ヶ月ほど……誰かの家に寝泊まりして生活していたようなのです」

「へぇ……その人を探してるってことなんですか?」

「はい。……まあ見つからなくともある程度情報を得られればそれでいいとは思っていますが」

 

 まあ何十年も前の話だって言うなら、その人が今この町にいるかどうかも結構怪しくはあるだろうし……何の手がかりも得られない可能性だってあるのか。

 

「何か手がかりはあるんですか?」

「街から少し外れた丘の上に住んでいたみたいなので……そこにまず行ってみようかと」

「丘ってぇ言うと……あそこのあたりとかですかね?」

 

 私が指差した先を見てディステルさんも頷く。町外れに住んでるなんてきっと変人なんだろう、ここからだと言えなんて見えないけれど。

 

「行ってみます?」

「はい。何か手がかりがあればいいのですが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜あんたがあの子のメイドさんねぇ」

 

 見つかった、本人が。

 あの方が共に過ごしていたうちの一人が、今もこの家に住んでいた。

 

「あんたは魔女なのかい?」

「いえ私は……こちらのルルゥさんはそうです」

「はぁ〜、まだ子供じゃないか」

 

 エイアム・イリザさん、すでに78歳とのことでかなりのご高齢……あの方がここにいた時は50か60代だろうか。

 腰も曲がっていて杖をついてはいるが、喋り方などはハキハキとしていて活力を感じさせる。

 

「その茶葉、あの子が好きだって言ってたやつなんだけどね」

「…えぇ、確かに覚えがあります。よくお菓子と一緒に飲んでいましたね」

 

 本当にこの人と一緒にいたんだという実感が少しずつ湧いてくる。これまでの旅で一番、私の知らないあの方に触れられそうで少し期待を抱いているのが自分でもわかる。

 

「エイアムさんは……こんなとこで一人で暮らしてるんですか?」

 

 ルルゥさんが気になったようでそう口に出す。私が話す前にエイアムさんが口を開く。

 

「婆さんならそこの寝室でぐっすり寝てるよ」

「……お身体が悪いのですか?」

「悪いっちゃ悪いが、まあ寿命さね」

 

 かなりのご高齢だ、同じ年齢であればエイアムさんほど活発に振る舞える方が珍しいだろう。

 

「それより……あの子の話を聞かせてくれないか?わざわざ訪ねてきてくれたんだし…今はどこで何してるんだ?」

「……ご主人様は……」

「………すまんね、無理して話さなくていい」

「いえそんな……」

 

 少し言い淀んだのと表情を見て、大方を察せられてしまったらしい。話し方からかなりあの方のことを好いていてくれていたのが伝わって、こんなことを伝えなければならないのが心苦しい。

 

「……いばらちゃんがなぁ……」

「…いばらちゃん?」

「あの子、名前なんかないって名乗らなかったもんだから、儂らで勝手にいばらちゃんって呼んでたんだよ」

「………初耳です」

 

 私と出会った時には名前は名乗っていたし……旅をしていた頃は名前がなかった…?そんなことが……

 旅を始めてから私と出会うまでの間に今の名前を自分につけた……ということだろうか。

 

「いばらちゃん……ですか」

 

 あの方が私の知らない名前で呼ばれてるの、なんだか少し……変な感じだ。

 それにしても、荊の魔女であるあの方がいばらちゃんか……

 

「こんな丘の上にたった二人で住んでて……不便じゃないんですか?」

「そりゃあもう不便さ、奥のあいつがくたばったらもっと住みやすいとこに引っ越すつもりだよ」

「それはそれで体力要りそう…」

「儂はまだまだ元気だよ」

 

 ルルゥさんの問いにはきはきと答えるその様子を見ている限りは、本当にまだまだ元気そうに見える。

 丘の上にぽつんとあった民家も、年季は入っているが立派な家だ。私が今座っている椅子も長年使われているだろうにガタついたりとかもないし……立地があまりにもなことを除けばいい家だと思う。

 

「……ディステルちゃんはもしかして、あの子の旅路を追ってるのかい?」

「はい。…この手記に書かれたことを読んで、ここへ辿り着きました」

「それは……」

 

 私が取り出した手記を見て、懐かしそうに目を細めるエイアムさん。……この家で過ごしていたのなら、きっとこの町のページの部分を書いたのもこの家でなんだろう。見覚えがあるのも当然と言える。

 

「……この町にはどれくらい滞在するんだい?」

「特には決めていませんが……」

「ならしばらくの間ここに通っちゃくれないか?話したいことが沢山あるんだ」

「私も……お聞きしたいことがあります」

 

 私の返事にエイアムさんは深く頷く。

 

「会えて良かった。叶うことならもう一度、あの子と会って話したかったんだが……」

「………そうですね」

「…さて、悪いが儂はそろそろ婆さんの面倒見なきゃいかんから……また明日来てくれるか?」

 

 エイアムさんの言葉に頷く。本人は軽く言っているが、お婆さんの容態はあまりよくないんだということが想像できる。

 邪魔にならないようにと、今日は引き返すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……会えて良かったですね」

「えぇ、本当に」

 

 穏やかな風が道を吹き抜ける。宿へと戻ってもやることもないしと、町の中心の方へルルゥさんと一緒に足を運んできた。

 

「ディステルさんの大切な人って、どんな魔………ここじゃダメか、ごめんなさい」

「いえ……エイアムさんが呼んでいた名前の通りですよ」

 

 こうやって人の多い場所にいると魔女や魔法に関する話はできない。宿にいる時も、近くに人気がないか確かめてからでないと話さないようにしている。

 

「……町の真ん中の方まで来たら流石に賑やかですね、あっちとか色々ありますよ。服とか薬とか……鍛冶屋まである」

「珍しいですね」

 

 アンビルの街並みはハスティアやシアンタに比べれば質素かと、そう思っていたけれど……案外、町の至る所に何やら装飾のようなものが施されている。店の看板やベンチなど……

 

 特に目を引くのは中央広場の噴水だろうか。この町には似つかわしくないほどの豪華な噴水、水の勢いはさほど強くはないけれど、この空間の象徴的な存在となっている。

 

「あ、これって作った人の名前ですかね?えーっと………」

 

 噴水の近くまで駆け寄るルルゥさん。

 これのデザインも町の各所の装飾も似通ったものを感じる、もしかすると同じ作者の作品だろうか。

 

「で、ディステルさんこれ、エイアムって……書いてあります」

 

 ルルゥさんが指差した、噴水に彫られた文字を読むと確かにそこにはエイアム・イリザ……丘の上のあのお爺さんの名前が書いてある。

 

「あの人、ゲイジュツカってやつだったんですか!?」

「……まあ、ある意味納得というか」

 

 家の中にもしばらく使われていないようだったけれど、広い空間があったように思う。あれは恐らく作業場のようなもので……町に同じ意匠のものが彼の作品なのなら、あんな場所にそれなりの家を建てることができた理由も納得がいく。

 ……手記には、そんなことは書かれていなかったけれど。

 

「じゃああのおじいさんめちゃくちゃ凄い人じゃないですか!」

「今度行ったら話を聞いてみましょうか」

「お、お金どのくらい持ってるんだろう……」

 

 気になるところ、そこなんだ……

 

 少し意外に思っていると視界にエシアが映った。目が合うとこちらに大きく手を振りながら近づいてくる。

 

「やっほ、何してんの?」

「時間が出来たので、暗くなるまでルルゥさんと町を見て回ろうかと」

「へぇ、あたしはもう一通り見てきたけど……教会の前とか人でごった返してたけど、何かあるのかな」

「教会ですか?」

 

 中央広場からは少し離れた場所だから人混みは分からなかったけれど……一人でまた行ってみようか。

 

「それじゃ私は戻るよ。……ああ、あとそれと。私の用事、少しの間保留っていうことになったから……ディステルたちの方、着いて行ってもいいかな」

「えぇ、良いですよ」

「おっけありがと。じゃ、また後で」

 

 そう言って中央広場からは立ち去ったエシアを、ルルゥさんがじっと見つめていた。

 

「保留って……町を見てる間に何かあったんですかね」

「さあ……まあ私たちにはあまり関係のないことでしょう」

「…それもそっか。ディステルさん私あそこの本屋行きたいです!」

 

 ルルゥさんがお店を指さして、先に駆け足で向かってしまう。人混みをするすると抜けて、あっという間に本屋の方へ着いてしまった。

 

「………教会か」

 

 騎士団と直接繋がっているわけではないとはいえ、教義で魔女の存在に否定的な集団だ。もし何か大きな動きがあるのなら、すぐにこの町を出発できる用意はしておいた方がいいだろう。

 買い出しとか、今日のうちにある程度済ませておこうかな。

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