ディ・ロイ・リンカーは王を擁する   作:テーヴァミント

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帰刃は勝手に作りました








一話

 

 

袖白雪(そでのしらゆき)は地面を凍らせる刀ではない」

 

 その言葉を、ディ・ロイは遠くに感じていた。

 

 油断していたのは間違いない。帰刃(レスレクシオン)状態であったなら、一撃で身動きがとれないほどまでに追い込まれてはいなかっただろう。

 

 動けず、呼吸できず。この氷柱が砕けると共に、ディ・ロイの体もまた砕け散るだろう。死ぬまでの、一時の静寂。ディ・ロイの胸中にあったのは自らが王と誇るグリムジョー・ジャガージャックへの悔恨の思いだった。

 

 ──折角従属官(フラシオン)にしてくれたってのに……。すまねぇグリムジョー……!!

 

 ──情けねえなディ・ロイ。また諦めるのか?

 

 ──な、なんだこの声は?! こいつはオレの声か?

 

 ディ・ロイは突然頭の中に聞こえる自身とは別の、自身の声に驚愕した。

 

 ──そうだ。オレはお前だよディ・ロイ。詳しく言うなら、崩玉で(ホロウ)と死神の境界を取り払われた時にオレは生まれた。お前の中の死神の力の側面だ。

 

 ──そいつが一体なんだってんだよ?

 

 ──だから言ってんだろ? また諦めるのかってな。

 

 それは心底呆れたようにディ・ロイに言い放つ。

 

 ──ヴァストローデになりてえ、グリムジョーを王にする。それは誰が言いだした? お前らだろ? それをなんだ? ヴァストローデにはなれませんでした。部下も全員死んで裸の王にしてしまいましたって?

 

 ──待てよ……。部下が全員死んだだと……?! シャウロンもかよ?!

 

 シャウロン・クーファンはグリムジョーの一味の中では真に副官と呼べる虚だった。この現世侵攻で倒されるとはディ・ロイは露にも思っておらず、信じられなかった。

 

 ──そうだ。生きてるのはお前だけだぜディ・ロイ。まあお前も死にかけなんだけどよ。

 

 ──本当にオレだけ……だと?

 

 脳裏に浮かんだのはグリムジョーの横顔だった。見慣れた背中に、見慣れた孤独な顔。ディ・ロイの魂が震えた。

 

 ──何度も言わせるなよ。他のやつらも情けねえが特に情けねえのがお前だ。他の連中は帰刃したのに、お前はそれすらできねえときたもんだ。

 

 嘲笑が響き渡る。いつしかディ・ロイの目の前には暗い空が広がり、頭部に噛み傷のないもう一人の自分が立っていた。

 

 ──さぁ、叫べよオレの名を。力はまだ出し切ってねえぞ。お前が言わねえなら、オレが言ってやる。

 

「ふざけんじゃねえぞ……!!」

 

 ディ・ロイの魂は震えていた。自身のあまりの不甲斐なさに。

 

「裂き殺せ! 冠戴く鳥(スピロルニスケエラ)!!」

 

 氷が割れ、中から帰刃したディ・ロイが現れる。

 

「なにっ?!」

 

 グリムジョーによって腹を貫かれた朽木ルキアが、自身の技で倒したと思い込んでいた破面(アランカル)が生きていたことに目を見開いた。

 

 彼女の仲間である黒崎一護は十刃(エスパーダ)を名乗る6番目、No.6刃(セスタエスパーダ)であるグリムジョー・ジャガージャックに苦戦中だ。

 

 突如復活したディ・ロイの相手をしようにも、全く動けない重体であった。

 

「はははは! なんだ生きてたのかよディ・ロイ!」

 

 帰刃して飛び出したは良いものの、全く状況が理解できていないディ・ロイのまぬけな姿を見たグリムジョーは大口を開けて笑った。

 

「すまねぇ、下手こいちまった」

 

 頭を覆う仮面をぽりぽりと指で掻きながら、ディ・ロイは素直に謝っていた。

 

「なんだぁ?! ぴんぴんしてんじゃねーかお前! 涼しさで寝てたのかよ!」

「見た目はな?! 身動きできねぇからまじで死ぬ一歩手前だったんだぜ!?」

 

 まるで上司と部下というよりは同級生のヤンキー同士のような口喧嘩を始める二人を、黒崎一護は眉を顰めて見ていた。

 

 彼は焦っていた。黒崎一護の目が少しずつ黒くなっていく。自身の中の虚の力の増大を抑え付けようとするばかりではあるが、まるで制御できていなかったためだ。

 

「そういや悪ぃーなディ・ロイ。お前の獲物の女はやっちまったぜ」

「そんなもんはオレのヘマだから別に良いけどよ。シャウロン達はみんなやられちまったみたいだがどうするよ?」

「あぁ? そんなもん殺したやつ全員ぶっ殺すに決まってんじゃねーか!」

 

 ──お前はそう言うと思ったぜ。グリムジョー。

 

 何を当たり前のこと言ってんだと、吐き捨てるようにグリムジョーは吠える。グリムジョーは言ったことはやる苛烈な性格の持ち主で、誰かが止めなければきっとそれは達成されるのだろうなとディ・ロイは感じていた。

 

「オレも帰刃したまま棒立ちなのは性に合わねぇ。敵討ちに行くとすっか!」

「おお! 全員ぶっ殺してこい!」

「お前ら好き勝手言いやがって! させるわけねーだろ!」

 

 エスカレートしていく二人の殺気。飛び立とうとするディ・ロイを黒崎一護が阻んだ。

 

「なんだあ? 2対1のほうがいいのかよお前」

「二人まとめて倒してやるまでだ!」

「そりゃ随分となめられたもんだな」

「ぐぁ!」

 

 横合いから殴りつけてきたグリムジョーを躱せない黒崎一護。しかしその目に焦りはあるものの、敗北を予感している色は一切見えなかった。顔の前に手を掲げたかと思えば、仮面が現れた。

 

「仮面?! なんだそりゃ?!」

「もう一度言うぜ。俺はお前らをまとめてぶっ倒す!!」

「オレの空中機動と同等……? いや、それ以上か?!」

 

 ディ・ロイは頭の大きな仮面を後ろに畳んで降下し、上昇する時は広げる。それにより霊子の流れを作り、空中での複雑な機動を可能としていた。しかし、変化した黒崎一護は単純に速く、また強大だった。

 

「ちょこまかと! 月牙天衝!」

「!」

 

 黒い斬撃が飛来する。虚閃(セロ)にも似た威容に、ディ・ロイの生存本能はけたたましく警鐘を鳴らしていた。

 

 ──直撃は外せるが、この威力! 耐えられるか?!

 

 ディ・ロイは全速力で旋回し、黒い月牙天衝の横に逸れたがその余波を全身に受けてバランスを崩した。

 

「そこだ!」

 

 迷いなく全力で詰めてきていた黒崎一護が剣を振り上げる。

 

「月牙──!!」

 

 直撃の月牙天衝。それはディ・ロイの命を容易く奪うだろう。

 

「ナメんなよ! 突貫するぜ! 冠戴く鳥(スピロルニスケエラ)!」

「なにっ!?」

 

 避けられないのならば、逆に向かっていく。崩れた体勢のまま加速し、錐揉み回転しながら空気を切り裂いていく。ディ・ロイの突撃は、彼のギザギザの歯と同様に相手を切り裂くであろう。

 

「天衝!!」

「おおおお!!」

 

 無理矢理に振り下ろされた月牙天衝の力が行き場もなく放出されていく。風が吹き荒れる。お互いに耐えきれず、お互いに吹き飛ばされた。

 

 ディ・ロイは疲弊していた。命を賭した全力の攻防により勝負にはなっていたが、体力を著しく消耗していた。

 

「くそっ! 決めきれなかった!」

 

 黒崎一護は焦っていた。体力も霊力も溢れんばかりなのだが、その力の源泉が表に出てこようとしている。

 

「代われディ・ロイ。もうへとへとじゃねーか。後は俺がやっとくから先に帰っておくんだな」

「そりゃねぇぜ。王を一人残して先に帰る臣下がいるかよ」

「ぜぇぜぇ息切れしながら言われてもな。ま、好きにしろ。お前にしちゃ上出来だったんじゃねーか? こいつは俺が貰うぜ」

 

 グリムジョーがぶっきらぼうにディ・ロイを後ろに下げ、不用意に歩いていく。

 

「よぉ、今楽にしてやるぜ。黒崎一護」

「そこまでだ、グリムジョー」

「東仙……!」

 

 突如現れた東仙要がグリムジョーの腕を掴み、歩みを止めさせた。

 

「無断での現世への侵攻及び従属官4体もの死亡。全て命令違反だ」

「くそがっ。わぁったよ」

 

 悪態を吐いて腕を振り解くグリムジョーだが、それが最後の抵抗だった。

 

「そこの破面も帰刃を解くんだ。帰ろう、我らが虚夜宮(ラスノーチェス)へ」

 

 喚く黒崎一護を尻目に、東仙要に連れられたグリムジョーとディ・ロイはすごすごと帰っていった。

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