彼女がゾンビになったので、俺は魔神皇に抗議しに彼の精神世界に行くよ 作:XX(旧山川海のすけ)
「まず、スフィンクスの起源はエジプトなのよ」
アヤメさんの説明は、まずそこからはじまった。
「元々は神殿とかお墓の守護獣として作られた存在なのよね。ファラオの魂を守ったり、邪悪なものが入ってこないように見張ったりする、言わば門番みたいな存在」
門番。
アヤメさんの言う通り、鴨志田先生の精神世界で目撃したあの悪魔は、そういう役割を担っていた。
聞きながら、俺は頷いていた。
「だから力強さが求められて、顔がエジプトの王様であるファラオの顔なのよね」
それは知ってる。
有名だもの。
誰だって見たことくらいはあるよな。
エジプトのピラミッドの横の巨大像。
それの顔が思い浮かんだ。
「ファラオの顔を持つことで、その絶大な権力を示した意味合いもあると思う。王様の魂がライオンの力と結びついて、永遠に王国を守る、みたいな意味合いがあったんじゃないかな」
アヤメさんの説明が続き、ファラオの顔……その意味合いを教えてくれた。
彼女の真面目な口調に、つい引き込まれてしまう。
「だけど、時代が進んでエジプトからその伝説がギリシャの方に伝わると、スフィンクスの内容がガラッと変わるのよ」
ギリシャ。
つまり、俺たちが精神世界で目撃した方だな。
俺は少し身を乗り出して、アヤメさんの次の言葉を待った。
「エジプトの守護獣とは真逆で、人を襲う恐ろしい怪物になっちゃうのね」
なるほど。
守護者としてのありがたい存在から、ただの化け物になってしまったのか。
「ギリシャでのスフィンクスは、ライオンの体に女性の顔、それに鳥の翼を持ってるのが特徴の怪物。でね、旅人に謎かけをして、答えられないと襲い掛かって食べてしまったらしいの」
なるほどなぁ。
ただの恐怖の対象で、ありがたさなんて欠片も無いな。
しかし……
「その謎かけってどういうものですか?」
気になったから、確認する。
そこが重大ポイントである予感があったのもあった。
すると
「……朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足の生き物……聞いたこと無い?」
アヤメさんが少し微笑みながら言う。
彼女の目は、まるで俺の反応を楽しんでいるみたいだ。
実際、楽しいんだろうな。
マニアが自分の話を他人に聞かせるのは喜びだろうし。
まぁ、それはそれとして。
朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足の生き物……
「あー」
答えは人間、ってやつだろ?
確かに聞いた覚えがある。
どこかで読んだか、誰かに聞いたか……。
頭の片隅で、ぼんやりとした記憶しかないけど。
「あれ、スフィンクスだったんですね」
俺は思わず口に出してしまった。アヤメさんがクスッと笑う。
「そう、有名だよね」
まあ、そうだろうな。
オカルト関係、まるで興味ない俺でも知ってるくらいだし。
でもさ
「しかし、何でエジプトからギリシャに移動する間に性別と行動が変わったんですか?」
ふと疑問が浮かんだ。
どうしてそんなに変わっちゃったんだろう。
だから訊ねた。
すると
「それは多分、ギリシャ神話の怪物で身体に女性のパーツを持ってるタイプが多いからだと思うわ。メデューサだとか、セイレーンとか有名でしょ?」
メデューサにセイレーンか。
それも名前だけしか知らないけど、確かにあれも女性の姿を持った怪物だった。
「……なるほど」
でも、行動が変わった理由は? 俺はさらに質問を重ねた。
「行動が変わったのは?」
「それは多分、外国が起源だから、元ネタに込められた思いなんて知りようが無いし。脅威でしか無かったから、ってことじゃないかな」
脅威だから、ありがたい守護獣ではなく災厄の象徴に成り下がる……
何だか、理不尽で悲しいな。
そう思う。
スフィンクスだって、元は大事なものを守る存在だったのに。
これが人の世の常なのか。
そんなことを少し考えた。
「まあ、とにかく」
そこに
「それは今はどうでもいいわ」
アヤメさんの声が、俺の感傷をパッと切り裂く。
彼女の目は真剣そのものだ。
「その存在だけど……謎かけをしてくる可能性高いと思う。特に、鴨志田先生の人生に関わるような内容の」
「人生に関わるような内容……ですか?」
俺は思わず繰り返した。
俺の様子に、自分の予想について納得されてないと思ったのか
「だって、精神世界でしょ?」
そう、根拠を提示した。
「なるほど……」
あの世界は鴨志田先生の精神の中で。
その世界でのスフィンクスなんだから。
謎かけをするとしたら、そうなると考えるのが確かに自然かもしれない。
俺が納得したと判断したアヤメさんは、続けて
「そしてその謎を解けば、おそらくクリアできるわ」
そう、俺たちに対して事態を解決する方法を提示してくれた。
「ギリシャ神話のスフィンクスは、謎かけをクリアされると谷底に身を投げて死んでしまったそうだし」
補足するために、その方法を提示する根拠を口にしながら。