彼女がゾンビになったので、俺は魔神皇に抗議しに彼の精神世界に行くよ 作:XX(旧山川海のすけ)
「えっ、剣道ですか?」
「ああ」
先生はにこやかだ。
完全に善意で言ってくれている。
俺としては「助けてくれ」は便宜上の話で、迷惑は修行させて貰ったこと以上は掛けないつもりだったんだけど
……どうしよう?
一瞬、ミキに視線を送ったけど、俺は彼女に決断を投げるのはしたくなかったんで
「……剣道って一朝一夕には身につかないもんじゃないですか?」
付け焼刃に意味はあるのか?
その意味で、そう返したんだけど
「そこは心配しなくていい。この世界では時間が流れていないから」
君らに分かりやすく言うと、精神と時の部屋だ。
そう先生は言ってくれた。
……いや、分からんのだけど。
そう思い、どうしたもんかと思っていたら
「すみません先生。精神と時の部屋ってなんですか?」
ミキが代わりに訊いてくれた。
助かる……
「つまり、ここで2年修行しても3年修行しても、外の世界では1秒も進んでないんですね?」
「そういうこと。ここは精神の世界だからね。時間が止まってる」
先生は頷きながら、俺の理解を肯定してくれた。
鴨志田先生は学生時代に剣道でインターハイに行った人だし。
そんな人に剣道を教えて貰えるのは正直助かる。
ハッキリ言って、今の俺はロクに戦えないしな。
ワイラをやるときも、仲魔に任せきりだったし。
こんなんじゃ……
ミキを助けるとか、言えないだろ……
助けられているのは俺だ。
嘘吐くな。
そうなる。
なので
「……先生が教えてくださるなら、是非お願いします」
そう言って、頭を下げるしか無かった。
そうして。
木刀を借りて俺は剣道の稽古をはじめた。
まず、剣の握り方を教えてもらい、続いて剣の振り方を。
それができるようになると、素振りの後に打ち合い稽古になった。
面白いことに、この世界ではバテることはあってもお腹が減ることは無かった。
なるほど……精神の世界だから、空腹が無いのか。
「なかなか火宮はスジがいいな」
「ありがとうございます」
剣道着を貸してもらったので、剣道着姿で先生と打ち合いながらそんなことを語り合う。
先生は俺と打ち合いながら
「……こうして生徒相手に剣道を教えるのが夢だったんだ」
そんなことを呟いた。
俺はそれには何も返さなかった。
そうそう、簡単に「良かったですね」とか「気にする必要なんてないじゃ無いですか」なんて。
言えない問題だし。
ヒトには本人にしか理解できない問題ってあるだろ。
そこに土足で上がり込むことはできないよ。
そして
「うん。なかなか良くなってきたよ」
……どのくらい稽古していただろうか?
不眠不休だからよくわからなかった。
だいぶ長いこと、打ち合いをしていた。
その果てにその言葉。
俺は
「……ありがとう先生。これで俺は彼女を護ることが……」
まともに出来るようになりました。
そう返そうとした。
だけど
「それなんだけど」
そこで鴨志田先生は
「……最後に、卒業試験をしていこうか」
そう、少しだけ好戦的な表情で呟くように言った後。
むくむくと、先生の身体が膨張し始める。
それは身長3メートルを超える上半身裸の巨大な男性で。
オレンジ色の肌と、凄まじい筋肉……
そして伸び放題の長い黒髪を持つ……
鴨志田先生……
その鴨志田先生が変身したものは
『この状態の僕はカモシダ・スサノオ・アタル……さあ、存分に掛かってきなさい』
そう、自信満々の声で俺たちにそう呼びかけた。
『ここから送り出しても問題無いか、僕が確認してあげよう!』
何だか、少しワクワクした声で。