彼女がゾンビになったので、俺は魔神皇に抗議しに彼の精神世界に行くよ   作:XX(旧山川海のすけ)

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第25話 卒業試験の結果は

「卒業試験だけど……勝利条件はこうだ。僕の面か小手、胴のどれかで1本取ること」

 

 鴨志田先生──いや、カモシダ・スサノオ・アタルと名乗る巨大な剣士が、丸太みたいな木刀を構えながらそう告げた。

 3メートルを超えるオレンジ色の逞しい巨体とその長い黒髪が揺れる姿は、まるで武神のように見える。

 道場の空気が一瞬で張り詰める。

 

 俺は木刀を握りしめながらその言葉を反芻する。

 面と胴は分かる。

 どう考えても急所だ。

 

 だけど、小手?

 サービスポイントのつもりなんだろうか?

 死には直結しないだろ……

 

 そんな疑問が頭をよぎり、思わず口に出していた。

 

「小手もOKって、サービスってことですか?」

 

 俺の言葉にカモシダ・スサノオ・アタルは、ニヤリと笑った。

 眼光が鋭く、俺の浅い考えを見透かすように

 

 そして

 

「戦場で手が使えなくなることが、そんなに軽いことに思えるのかな?」

 

 そう、嗜めるように言ってくれたんだ。

 

 その言葉に、俺はハッとした。

 確かに、手が使えなくなれば武器を握れない。

 攻撃も防御もままならなくなる。

 

 剣道の試合ならともかく、実戦なら致命的だ。

 手を守ることの重さ、戦いの厳しさが、急に現実味を帯びて胸に突き刺さる。

 

「……分かりました。気を引き締めます」

 

 俺は木刀を握り直し、教わった通りに構える。

 その様子にカモシダ・スサノオ・アタルは満足げに頷き、こう続けた。

 

「仲魔を呼んでもいいよ。君の力の一部なんだから」

 

 その提案に、俺の心は揺れる。

 確かに、ネコマタやグーラー、ピクシーたちがいれば戦いは楽になるかもしれない。

 

 だけど……

 

 これは俺自身の試練だろ。

 ミキを護るため、俺が強くなるための試練。

 

 誰かに頼ってばかりじゃ、俺はいつまで経っても「借り物の力」に(すが)るだけの男。

 

「いや、1人でやります」

 

 俺の言葉に、カモシダ・スサノオ・アタルは一瞬驚いたような顔をした後、静かに笑った。

 

「いいだろう。さあ、かかってきなさい!」

 

 試練が始まった瞬間、道場に轟く風圧。

 カモシダ・スサノオ・アタルの木刀が俺に向かって振り下ろされる。

 

 その巨体から繰り出される一撃は、まるで熊やライオンのような猛獣の一撃のようだ。

 俺は必死に木刀を構え、横に飛びながらその一撃を避ける。

 

 速い! 重い! こんなの喰らったら一発で終わりだ!

 

 反撃の隙を探そうと目を凝らすが、余裕なんてない。

 次々と振り下ろされる木刀を、ただひたすらに避けるだけで精一杯。

 

 汗が額を流れ、息が上がる。

 心臓が激しく鳴り響く。

 そこに

 

「そんなことで彼女が守れるのかな?」

 

 カモシダ・スサノオ・アタルの声が、挑発とも激励とも取れる口調で響く。

 それで俺の胸に火がついた。

 

 あのとき、俺はミキを護れなかった。

 

 ハザマの精神世界で彼女が悪魔に捕まったとき。

 彼女を助け出すことができずにゾンビにしてしまった。

 

 あれからずっと、俺はいつも誰かの力──ミキの力、仲魔の力──に頼ってばかりだ。

 

 情けない。

 こんなんじゃ彼女を人間にしたいなんて、口だけの絵空事に過ぎないだろ……。

 

 ここで踏ん張る! 俺は成し遂げる男になる!

 

 心でそう叫びながら、俺は木刀を握り直し、カモシダ・スサノオ・アタルに向き合った。

 

 隙を探すんだ。

 この攻撃を掻い潜って一撃を――

 

 そして大振りの薙ぎ払いを身を沈めて躱したとき

 

 その次の瞬間だった。

 

 ──彼の視線が一瞬、俺から外れたんだ。

 その表情は、まるで何か衝撃的なものを見たかのようだった。

 

 これは隙だ!

 

 俺は咄嗟に飛び出し、木刀を振り上げ、彼の右手を狙う。

 カモシダ・スサノオ・アタルの木刀が握る手を、気合を込めて叩く。

 

「タアアアッ!」

 

「うおッ!」

 

 木刀が小手にクリーンヒットした。

 それにカモシダ・スサノオ・アタルが一瞬動きを止め、俺を見据え

 

「勝負ありだな」

 

 その言葉に俺は剣を下ろした。

 勝てた……

 

 だけど。

 この一撃が不意打ちだった自覚はある。

 だから俺は、少し気まずく思いながら、口を開いた。

 

「……不意打ちですけど、それでいいんですか?」

 

 カモシダ・スサノオ・アタルは、巨大な身体を揺らしながら笑った。

 その姿がみるみる縮み、元の鴨志田先生に戻っていく。

 

「……うっかりと目を奪われてしまった。その瞬間を見逃さないのは立派な成長だよ」

 

 先生は穏やかな声でそう言った。

 目を奪われた……?

 

 良く分からなかった。

 そんな俺に鴨志田先生は

 

「キミの彼女に、何かが起きているぞ」

 

「えっ?」

 

 振り返ると、ミキが俺を見つめて嬉しそうに立っている。

 

 だけど……

 彼女の髪が、いつもの明るい色から鮮やかな緑色に変わっていた。

 耳は──まるでエルフのようだ。尖っていた。

 

「ミキ! 髪の色と耳、確かめてみろ!」

 

 俺の言葉にミキは慌てて髪を手に取り、耳に触れる。

 すると彼女は目を見開き

「え、なに!? どういうこと!?」

 

 今、気づいたらしい。

 俺の方も興奮を抑えきれず、スマホを手に取り、悪魔召喚プログラムのアプリを起動した。

 ミキのステータスを確認するためだ。

 

 すると、そこには信じられない文字が

 

 屍鬼ゾンビちゃんは屍鬼ボディコニアンに進化しました。

 

 ……通知が来てた。

 

「進化……したのか!?」

 

 俺の声が道場に響く。

 ミキの身体に起こった変化──それは、彼女がゾンビからそうでないものに変わる可能性……?

 

「……詳しい事情はよく分からないが、良いことだったようだね」

 

 そこに鴨志田先生の優しい声

 先生は続けてこう言ってくれた。

 

 頑張れ、と。

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