彼女がゾンビになったので、俺は魔神皇に抗議しに彼の精神世界に行くよ   作:XX(旧山川海のすけ)

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第4章 校長の世界
第26話 次の世界に向けて


「これを持っていきなさい」

 

 鴨志田先生との卒業試験を終え、別れ際に。

 先生はそう言って俺に一振りの刀を手渡した。

 

 木刀ではない。

 漆塗りに見える鞘に納められた、明らかに本物の刀だ。

 

 刀から伝わって来るオーラは、明らかに本物の風格を漂わせている。

 

「これは……なんですか?」

 

 そう思わず訊ねると、先生は少し照れくさそうに笑い

 

「一応、正宗のつもりなんだけどね」

 

「正宗!?」

 

 俺の声が思わず跳ね上がる。

 刀剣に詳しいわけじゃないけど、正宗くらい知ってる。

 伝説的な名刀だろ……?

 

 俺は興奮が抑えきれず、鞘から刀身を少し引き抜いてみる。

 刃の輝きが、まるで静まり返った水面のように感じられた。

 

「まぁ、僕のイメージの、つまり空想の産物だから、正宗ではなく夢想正宗とでも言っておくべきかもしれないね」

 

「夢想正宗……」

 

 その名前に、俺はなんだか胸が高鳴った。

 この刀は、鴨志田先生の精神世界で生まれたもの。

 

 先生の夢や信念が形になったものだ。

 

 なんだか色々託された気がして、俺は深々と頭を下げた。

 

「ありがとうございます、先生。必ず俺は成し遂げてみせます……」

 

 先生は穏やかに頷き、俺とミキを見送ってくれた。

 

 帰還可能エリアまで戻った後。

 イセカイナビの「帰還」ボタンをタップし、俺たちは現実世界に帰還する。

 

 一瞬の眩暈の後、俺たちは学校の階段の踊り場に戻っていた。

 外は相変わらず真っ暗で、まだこの学校が魔界に堕ちたままなのが理解できる。

 

 さて

 

「……ミキ、ちょっと待って」

 

 今のミキの髪は鮮やかな緑色に変わり、耳はエルフのように尖っている。

 まるでファンタジーの世界から飛び出してきたような姿になってしまった。

 

 そして俺の手には、夢想正宗。

 鞘に納められているとはいえ、これは本物の武器だ。

 

「これ、他人に見られたらマズイよな……」

 

 ミキの異様な姿も、俺の持つ本物の刀も、学校内で目立ったらまずい。

 どうするかと一瞬迷ったが、咄嗟に俺はブレザーの上着を脱いでミキの頭に被せた。

 

「……なんだか容疑者みたいだよね」

 

 ミキが冗談交じりにぼやく。

 確かに、ブレザーを頭から被った姿は、まるで怪しい人物みたいだ。

 

 俺は苦笑しながら答えた。

 

「まぁ、これで少しは目立たないだろ。刀は……鞘に納めて堂々と持ってれば、逆に本物と思われないんじゃないか?」

 

 そう言って、夢想正宗を手に持つ。

 この学校のどこに真剣があったんだという話だし。

 

 それにもし、これが本物の刀だと思うなら

 こんな堂々と持ち歩くなんて、ありえないと普通は思うだろ。

 ……多分。

 

「よし、オカ研に報告しに行こう」

 

 ミキの手を握り、俺たちは旧校舎のオカルト研究会に向かった。

 

 旧校舎の部室に着くと、引き戸をガラガラと開ける。

 そこにはジンさんとアヤメさんがいた。

 

 ジンさんは椅子に座って何か本を読んでいて、アヤメさんは机に広げたノートに書き物をしている。

 

「ジンさん、アヤメさん、ただいま」

 

 俺の声に2人が顔を上げる。

 ジンさんが軽く手を振って応えた。

 

「お、ヨータ。速かったな」

 

 ……やっぱ、こっちでは時間が経っていないのか。

 向こうでは体感1か月以上は居た気がしたのに。

 

「そして無事だったか。で、どうだった?」

 

 その言葉を聞きながら。

 ミキと俺は椅子に座り、順番にこれまでの出来事を報告した。

 

 スフィンクスの謎かけ、鴨志田先生からの剣道の修行、そして最後の卒業試験。

 

 ただし、先生の個人的な秘密──先生の実兄の犯罪やそのトラウマ──については、あえて話さなかった。

 

 ジンさんもアヤメさんも、そこには触れてこない。

 きっと、鴨志田先生が隠しておきたいことだから、詮索するのは良くないと思っているんだろう。

 俺も同じ気持ちだった。

 

「で、ミキが……その、ゾンビちゃんから進化したんだ。屍鬼ボディコニアン、って」

 

 俺がそう切り出すと、ミキがブレザーを外して緑色の髪と尖った耳を見せた。

 ジンさんが目を見開き、アヤメさんが興味深そうにミキを見つめる。

 

「ボディコニアンか……何だか派手な名前だな。名前からゾンビが外れたけど、まだ屍鬼なんだよな」

 

 ジンさんが難しい顔をしてそう言う。

 励ましてくれる気持ちが伝わってくる。

 アヤメさんも頷きながら補足した。

 

「でも、単純な動く死体ではなくなったとは思う。さらに進化が進めば、もっと違う存在になるかもしれない」

 

「ありがとうございます、2人とも」

 

 ミキが少し照れくさそうに礼を言う。

 俺もなんだかホッとした。この2人には、いつも助けられてるなぁ。

 

 

 

「次の精神世界は……校長の、だよな」

 

 オカ研を出て。

 暗い校庭を横切りながら。

 

 俺はスマホを取り出し、イセカイナビの画面を確認する。

 鴨志田先生の名前の下……次は「大岡素一郎」

 この学校の校長の名前だ。

 

「校長か……正直、よく分からないな、あの人」

 

 俺は思わず呟いた。

 

 校長の大岡素一郎。

 前に1度、ミキと一緒に何かで校長室に行く用事があって、入ったことが1回だけあるんだけど。

 そのときの印象が強烈すぎる。

 

 校長室の壁に、でっかい額縁に入った「食欲」って書かれた書が飾ってあったんだ。

 

 あれ、なんだったんだよ……?

 食欲って……

 

 飾る意味が理解できない。 

 

「食欲、ねえ……」

 

 ミキが少し笑いながら言う。

 彼女もあの書を思い出したらしい。

 

「まぁ、精神世界に入れば何か分かるだろ。……行くか、ミキ」

 

 俺は夢想正宗を手に、ミキを見た。

 彼女は緑色の髪を風に揺らしながら、力強く頷く。

 

「うん、行くよ。ヨータと一緒なら、絶対大丈夫」

 

 その言葉に、俺の胸が熱くなる。

 夢想正宗を握る手にも、力がこもる。

 

「よし、行こう。次の精神世界──校長の世界に!」

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