彼女がゾンビになったので、俺は魔神皇に抗議しに彼の精神世界に行くよ 作:XX(旧山川海のすけ)
因縁の相手の堕天使ムールムールを倒し、湿っぽい地下牢の廊下を進む俺とミキ。
息を整えながら、隣を歩くミキの様子を確認する。
さっきかなり深刻なダメージを受けたのだけど、今はもうすっかり大丈夫みたいだ。
回復魔法を掛けたけど、回復魔法ではダメージを受けたショックまでは治らないからな。
でも俺は。
「ミキ、大丈夫か?」
一応訊ねた。
無理をしているだけなのかもしれないし。
すると彼女は
「大丈夫よ、ヨータ。ハザマくんの精神体に会って、絶対に学校を元に戻して貰おうね」
力強い笑顔を浮かべてそう返して来た。
そんなミキの笑顔に、俺は少しだけ安心した。
彼女の瞳には、ゾンビちゃん、ボディコニアン、マンイーター、サキュバス、オルフェノクと進化してきた中で培った強さが宿っている。
俺たちは互いに頷き合い、地下牢の奥へと進んでいく。
そして、俺たちは牢獄の出口らしき場所に辿り着いた。
そこには古びた石の階段があり、その先には錆びた鉄格子の門があって。
鉄の檻で閉ざされていた。
その門を押し開けると、薄暗い空間に古びた木製の案内板が立っている。
そこの文字は周囲の様子と不釣り合いなほどハッキリ書かれていて。
読むと……
「一般監獄……ここがさっきまでいた場所か」
案内板には、この地下牢が「一般監獄」と記されている。
そして、その他には「特別監獄」という名の監獄が2つある。
この世界の主人であるハザマの精神体がいるなら、きっとこの特別監獄のどちらかだろう。
「多分このどっちかにハザマがいる……どうしよう?」
俺の呟きに
「ヨータ、とりあえず一番近い方に行ってみようよ。そこに何か手がかりがあるかもしれないよ」
ミキはそう言って提案して来た。
俺はそんなミキの提案に頷き
「そうしよう」
そう言って案内板に従って歩き出した。
特別監獄への道は、さらに暗く、湿気が強い通路だった。
この世界はとにかく暗い印象が強い。
解像度は高いけど、華やかな印象が全く無いんだ。
それはやはり、ハザマの精神状態が影響しているんだろうな。
ハザマは世界が明るいものだと思うことができないのか……。
石壁には苔が生え、空気は重く淀んでいる。
これがハザマの心の中なんだな……。
そして俺たちは、特別監獄の入口に辿り着く。
そこには巨大な鉄の扉と。
その扉の前に立っている意外な人物。
それは白衣をまとい、長い髪を優雅に束ねた、軽子坂高校の保険医──香山先生だったんだ。
「香山先生!?」
「先生!?」
俺たちは思わず声を上げた。
こんな場所で、なぜ先生が?
いや、無論この先生が本物じゃ無いのは分かってる。
ハザマの精神世界に、住人として出てくることに驚いたんだ。
そんな俺たちの驚きを他所に
「……あなたたち、何をしに来たの?」
香山先生が声は穏やかだが、鋭い視線で俺たちを貫いた。
彼女の存在感は、現実の保健室で感じる優しさ、親しみやすさとは異なっていて。
厳しさがあった。
返答次第ではただではおかない、という。
俺は一度唾を飲み込み。
「ハザマと話をしに来ました」
正直に俺たちの目的を答えた。
隠す理由なんてない。
俺の言葉を聞き、先生は
「ハザマ君を傷つけに来たの?」
その声には、強い意志が込められている。
俺は慌てて首を振った。
「そんなつもりはないです! 俺たちはハザマの気持ちを知りたいんです! この学校をこんな状況にした理由を聞いて、できれば元に戻したい!」
ミキも頷き、静かに続ける。
「私たち、ただ戦いたいわけじゃない。ハザマ君の心に何があるのか、知りたいだけなんです」
香山先生は俺たちの言葉をじっと聞き、しばらく沈黙する。
そしてゆっくりと頷いた。
「……そう。だったらここを見ていきなさい」
そう言った後、香山先生は道を開けた。
背後の鉄の扉への道を譲ったんだ。
「ここにはハザマ君が封印したい、辛い記憶が仕舞ってある」
「辛い記憶……?」
「そう。この監獄の中には、ハザマ君の過去があるの」
ハザマの過去……
知っておかないといけないだろ。
かつての俺は、ハザマの事情も知らずにアイツが鼻持ちならない高慢ヤローと思ってた。
いじめられて当然だとまでは思わないけど、身を削って庇う価値が無いと思って放置していた。
でも、俺の認識は違ったのかもしれない。
それを俺は、この一連の精神世界での戦いで知るに至った。
……俺たちはこれからハザマを説得にしに行くんだ。
絶対に必要になる。
「お願いします」
だから俺はそう言った。
全く迷わなかった。
これは必要だからだ。
俺のその言葉に、香山先生は頷いて
「分かったわ……さぁ、行きなさい」
そして鉄扉を開き、俺たちを招き入れたんだ。
そこで俺たちは……
ハザマの過去を見た。