彼女がゾンビになったので、俺は魔神皇に抗議しに彼の精神世界に行くよ 作:XX(旧山川海のすけ)
俺たちの頭の中に、イメージが流れ込んでくる。
薄暗いリビング。
古びたソファに座る少年──ハザマだ。
部屋の雰囲気は冷たく、静寂に包まれている。
彼の目の前には、どこかハザマに似た顔の男……恐らく彼の父親が座っている。
父親の声は冷たく、まるで感情が無かった。
まるで事務的な連絡をしてるみたいだった。
「イデオ、軽子坂高校に転校しろ」
そう、男は確定事項のようにハザマに命じる。
父親と思しきその男は葉巻の煙を吐き出しながら続ける。
「どうしても妹の親権が欲しくなってきたんだ」
ハザマが顔を上げるが、その瞳には怯えと諦めが混じっていた。
父親はハザマの反応を無視し、淡々と続ける。
「レイコがお前の生活に憧れて『親権を母親から父親に変更したい』って言い出すように仕向けろ。俺の会社経営に、支援者とのパイプを強化するために娘を嫁に出す選択肢が欲しい。離婚時に妻から親権を全部取り上げておけば良かった……」
ハザマの顔が曇る。
胸の奥で何かが締め付けられるような感覚があった。
彼の父親の言葉は、彼の存在を自分の道具としてしか見ていないことを突きつけていた。
妹の親権が欲しいということも、親としての情じゃない。
自分の会社経営の隠し玉として娘という存在が欲しいだけなんだ。
ハザマの家のために、お前はなんでもしろと言われているような言葉に、彼の心が重く沈む。
そこに父親はさらに冷たく言い放つ。
「制服は買い換えないぞ。どうせ、レイコの親権変更の道筋がつけば、すぐに再転校だ」
その学校に居場所を作るな。
お前はただの駒で、オレの野心のための道具でしかない。
そう言うも同然の言葉に
ハザマの指が震え、彼はソファの端を握りしめた。
場面が切り替わり、軽子坂高校の廊下。
転校したハザマが一人、教科書を抱えて歩いている。
新しい学校、新しい環境。
だが、彼を待っていたのは冷ややかな視線と嘲笑だった。
生徒たちのヒソヒソ声が耳に刺さる。
「あいつ、前の学校で覗きやって追い出されたらしいぜ……」
その噂はまるで毒のように広がり、ハザマの心を蝕んでいく。
訂正しようと口を開くが、誰も耳を貸さない。
誰も彼を信じようとしない。
クラスメイトの冷たい視線、遠ざかる足音。
彼は教科書を胸に強く抱きしめ、唇を噛む。
こんな噂がどこから来たのか分からない。
彼は孤独だった。
また場面が変わった。
ハザマの視線が、廊下で笑う矢野暁子に向いている。
彼女の輝くような美しさ、綺麗な笑顔。
目を奪われた。
まるで女神のように見えた。
初恋だった。
あんな綺麗な女の子に、僕の気持ちを知って貰いたい……
そして出来ることなら、彼女になって欲しい……
そんな淡い希望を抱き、彼は何日も悩んだ末、ラブレターを書いた。
震える手で、押し付けるように彼女に手渡す瞬間、心臓が破裂しそうなほど高鳴った。
だが彼女が去った直後に、その場所に戻ると。
ゴミ箱に破り捨てられた手紙が落ちていた。
そこに聞こえて来た矢野の冷たい声が、まるで氷の刃のようにハザマの心を突き刺す。
「ネクラなハザマの手紙なんて読むわけないでしょ」
その言葉は、ハザマの心を粉々に砕いた。
彼女のことを女神のように思っていたのに、それは偽りだった。
自分がどれだけ勇気を振り絞ったか、どれだけ彼女に希望を見ていたか。
それを嘲笑うような言葉。
彼はただ立ち尽くし、破れた手紙を見つめていた。
最後の映像は保健室だった。
ハザマが泣きながら香山先生に縋りついている。
香山先生はこの学校で唯一、優しく接してくれた存在だった。
最後の砦だったんだ。
「せ、先生! 僕を抱いてくれよ! 慰めてくれよ! お願いだ!」
だけど
「やっ、やめなさい! ハザマ君やめて!」
そんなハザマの震える声を、救いを求める言葉を。
香山先生は受け入れなかった。
抱き着こうとするハザマを、香山先生ははっきりとした拒絶の意志で振り払ったんだ。
「聞いて、ハザマくん。あなたは生徒、私は教師よ。こんな事しちゃいけないわ……」
そう、諭すように言う香山先生の顔は優しかったが。
自分の口したことを一言も詫びるそぶりは見せなかった。