カードゲーム世界の、場違いソウルライク 作:狸より狐派 ハル
「「フィールド、セットオン!」」
距離をとって対面する2人の学ランを来た男子学生はとある学校の屋上で、同時に声を上げる。
すると彼らの目の前に、水色に光る何かが浮き出てくる。形を
学生らは手に持っていたカードの山札を、光る机に描かれている四角いマークのうち、
「先行はお前からだ!」
「いいのか?なら遠慮なくいかせてもらう!」
おいた山札から1人の学生は5枚とる。そのうち一枚をつまむ。
「俺のターン、手札から《ユキラプトル》を通常召喚!」
つまんだカードを光る机におく学生。すると彼の目の前に丸く描かれた光る模様のようなものが現れる。魔法陣と呼ばれるそれは、そこからさらに下から上がってくるかのように、白い肉食系で細身の恐竜が現れる。
「そいつユキって言うにはそんな白くないよな」
「気にしないでくれ」
そんな光景を目の前にして、当たり前のように話し合う学生たち。事実彼らにとってこれこそ日常の一つである。
――――――――――――
この学校は校舎が二棟あり、先ほどの学生らがいる校舎とは違う隣の校舎の3階廊下。黒髪の少女が窓からそれを眺めていた。
が興味を無くして視線を外し、歩き始める。
彼らがやっているのはこの学校では日常のひとつ。屋上のようなある程度広い場所ならば端末のホログラム機能を使ってカードに描かれているものを発現させることができる。
またそう勝負しなくとも、これらはほとんどの周りが会話のきっかけによく使っている。
「デッキを調整しなおしたんだ。あとでバトルしてくれよ」
「いいよ、一緒にやろ」
「ねーねーこのカードらむっちゃかわいくな~~い!?」
「うわめっちゃかわいい!いいな~!」
「先生~このカードってどうやって対処すればいいんですか?」
「ああ、これかい?これはね・・・」
男女問わずを通り越して、教師と生徒の境目によるハードルを下げて話し合うほどに浸透しきっている。
これがカードゲーム《フィールドマインダー》が世界に広まり切った世界である。
そんななか、ある会話が耳に入る。
「昨日のパックなにかいいのでた?」
「全然、また《ダストマン》とか弱いやつしかでなかった」
「またか~お前よく《ダストマン》出せるな。なにか引き寄せるもん、もってんじゃねーの?」
「しらねぇよ、俺が知りてえよそんなもん」
ダストマン、この単語が出ると黒髪の少女は足を止め先日のことを思い出す。
彼女にとってあれは紛れもない現実だった。浮いてる羽のついた黒い子馬を追い、裏路地に行くと人の
今でも鮮明に覚えている。彼女自身小さなころから不思議な体験をしているが、あそこまで
そんな不安げになっている黒髪の少女に、いつの間にか姿を現した子馬が隣に浮き、彼女の顔を自分の顔でこする。
「うん、大丈夫。ありがとう」
その子馬にしか聞こえない音量で話す少女。
再び歩き出し、子馬も横につく、その光景に気づくものは誰にもいなかった。
――――――――――――
そこは真夜中の校舎内。廊下を3人の学生がライトを頼りに先頭を除いて恐る恐る歩いている。
その先頭にいる学生はメガネをかけている。なにが出てくるかをどこか楽しみにした様子で安定しながら歩いている。
その背後にいる男女。この者らは腰を引きながら先頭の少年に隠れるようにしながらキョロキョロと歩いてる。
もともとこの2人はこの時間帯に行くのをやめようと言っていた。そこをメガネの学生が同行をお願い。もう一人の男子はそれでも断っていたが、メガネの学生が何やら一言いい、するともう一人の男子が逆上、行くことを決意する。
あと1人の女子生徒は2人が不安になったためやむを得ずついていくことになった、という形だった。
「な、なあ。もう帰ろうぜ」
「あとひとつじゃないか、頑張りたまえ」
「どこだよぉ、そこ」
「もう少しさ、この奥。ほら」
メガネの学生が止まり、ライトを当てる位置を上げる。まず教室用の扉が見え、そしてその上の札が見える。
そこには《補習室》と書かれていた。
「ほ、補習室?」
女子が不安そうに言う。
「こんな教室、あったか?」
「この辺りは僕も来ないからね、最近調べてようやく知ったんだ」
メガネの学生が扉に近づき、開こうとする。
しかしそこからグラグラと揺れることはあっても、横にスライドしない。
「うーん鍵がかかってるねぇ。いままでの教室は普通に入れたのだが」
「そっそうか、じゃっじゃあもう帰ろうぜ、な?」
「うんうん!」
「しょうがないなぁ、鍵を探すのも面倒だし、これで引き上げるとするか」
後ろ2人が
パタン、パタン、と学生が履く上履き靴の音が響いてくる。
この時間帯に自分ら以外人はいないはず。だと言うのに誰が。
階段を上るときの音が聞こえなくなり、代わりに床を歩く音が聞こえる。
その直後、曲がり角から姿をそれは現れた。
黒く長い髪を下ろし、その隙間から不気味に光る黄色い瞳が、ギョロっと3人をとらえてきた。
「「ギャーーーー!!!」」
「・・・落ち着きたまえ、うるさいよ2人とも、彼女をよく見るんだ」
えっ、と一気に冷静になる2人。相手の顔を見てみると、彼らにとって確かに知っている女子である。
「あっ、
黒髪の少女がそう呼ばれる。
「ここにいたのですか。みなさん」
「キミだって、どうしてここにいるんだい?」
「たまたま、あなたたちがこの時間帯に行くことを風のうわさで聞いたので。本当はためらったのですけど、やはり危ないと思ったから止めにきたんです」
「そうだったのかい。けど安心したまえ、もう帰るところだったんだよ」
「そうでしたか」
黒髪の少女、松畑はどこか安堵した様子だ。
ひとまず四人でこの校舎から出ようとする。
「・・・ん?」
すると松畑が外を見てなにかに気が付いた。窓に近づき、詳しく見てみる。
「?、どうかしたかい?」
つられてメガネの学生らも外を見てみる。しかし駐車場と植物以外変わったところはなにも見当たらない。
「・・・勘違いのようです」
「そうかい」
彼女たちは階段に向かいなおした。
そうして特に何も起こることなく、校舎をでて駐車場を歩き、正校門までたどり着く。この学校は駐車場を挟んで正門と校舎があり、裏側にあるもう1つの校舎があって、さらに裏に広い運動場がある、といったつくりとなっている。
正門から出て脱力する男女2人。
「はぁ~、やっと出れた。もう帰るわ、オレ」
「あ~怖かったよ~」
「そうだね」
3人はそのまま帰ろうとした。するとメガネの学生は、松畑が校舎を見つめていることに気づく。
「どうしたんだい?」
「いえ、その、調べたいことがあって」
「調べたいこと?特に変わったところは何もなかったよ?」
「念のために」
「ふぅん、まぁ気を付けたまえよ」
メガネの学生は2人の後を追った。ある程度距離ができると、松畑は正門をくぐりなおす。そして今度は校舎ではなく校内の
先ほど校舎内から、見たことのある姿を追うために。
――――――――――――
校内にも地蔵がいくつか配置されている。それは端あたりにもあり、生徒たちを守るためでもあり、悪いことをする者を見つけるためなどの意味がある。
そんな地蔵にお礼をする影が1つ、とくに何か起こることはないが、どことなく和やかな空気になる。
お礼をした少年はそのまま裏の広い運動場に足を運ぶ。校舎の角から覗くように広場を見てみる。夜なのか、どことなく暗かった。
それでも広場の中心にはっきりと見えるものがある。
あの
それはすぐに実態を帯びる。腰には
右手でゆっくりと剣を抜く。その足取りは慎重に、確実に《牛教師 ティーチャウロス》という怪物に近づいている。
怪物が少年に気づく。大きな体を
裏路地の時のように、堅実な始まり方で戦いが起きた。
――――――――――――
あの時に似たような音が聞こえ、松畑は足を止める。おっかなびっくりになり見えないのに離れた校舎の角から運動場の状況を確認しようとする。
となりに浮く子馬がまた不安そうに彼女を見つめる。
決意したのか、角まで進んでみる松畑。そしてそこから覗いた。
・・・間違いない、あの時の少年とあの怪物だ。そしてあの怪物は少年を棒で攻撃をしている。少年は
彼女はフィールドマインダーの演出にて確かにそういった争いは見たことがある。そこから性能の差で結果が分かり切ってるのに熱が入って見入る周りのギャラリーを見たことがある。余談だが、攻撃を受けた側が逆転の一手を出して、想定外の演出が出されてより盛り上がることがあるのだが。
しかし今見ているものはそんなものではない。お互いが不規則に動き、そして確かに感じる重力の音、今見ているものが改めて現実のものと実感する。
ティーチャウロスが大きく棒を上げる。少年はじっとその棒を見る。しかしそこからやけに遅くなる。怪物はその状態でじりじりと詰め寄り、少年も用心深く身構える。
少しティーチャウロスが前かがみになった。彼がより身構える。まるで大きく動くの耐えるように。そのあと棒は勢いよく振り落とされた。
そこで少年も横にステップして避けた。大きな音が鳴り響く。学校では本来聞かない音が。
少年はすかさず接近した。そして彼も剣を上にあげて切りつける。1回、そしてそのまま下から切り上げる。その2回ともに傷口から血が出た。
離れた位置から見た少女はそれがまず血だと気が付かなかった。そして見覚えがあるのを思い出してやっと気づく。
ホログラムからは血が出ない。演出のために光るエフェクトならでる。ゆえに少女はやっとあれが正真正銘の殺し合いだということに気が付いた。
なんて恐ろしい。このカードゲームが義務的にまで普及したこの世界で血を見ることは大きく減った。
殺人の代わりに、カードゲームの強要。強盗は金品ではなく紙切れ。なにもかもほぼ必ずカードに関するものだった。
だがあれは、国内でもおこるカード強奪事件をもはるかに上回る暴力そのものである。
なぜこんなことが起こるのか。
もっとも少年と怪物にとってそれどころではないのだが。
――――――――――――
ガァンッ!、と盾と棒の衝突音がすると同時に、少年は後方に立ったま飛んでいく。
ズサァ、と少年が足だけで着地し滑るように後ずさる。
怪物は片足をその場で蹴り始める。あの突進の予兆だ。すると少年は剣を鞘に戻した。
そのあと怪物が前のめりになり、そして走り出した。彼はあの時のようにギリギリで横にローリングする。
壁が周りになかった怪物は自力で止まる。砂をえぐる音が響き、ようやく止まる。
怪物が振り向いてすぐに突進を再開する。少年はすでに準備ができており、首を傾けて上にかち上げる動作を
されている中、またそれをギリギリで
ローリングし、そしてすぐさま怪物のほうを見る。片足と体が浮いた怪物がその足を地面につける。すると腰を落としたような
そしてすかさず怪物は真上に跳躍した。怪物があり得ないほど跳んだ。そして左手の大きな本が蒼く光っている。
一瞬あの怪物の動きが鈍くなり、そしてこちらに向かって落ちてくる。
今度こそ少年は最初から最後まですかさず観察をした、ゆえに落下地点であろうこの位置から真っ先に離れる。
タイミング的に着地直前、少年はローリングをする。そして今までで一番大きな落下音が響き渡る。
それだけではない、我々が普段聞かないような、強いて言葉にするならガラスが割れるような、なにか氷のようなものが鈍く割れるような音も混じっていた。
しかし、少年はお構いなしに膝立ちをする。そしてウエストポーチからあるものを取り出す。
それは垂れた布の
そんなことを気にせず、少年は垂れている布の先端に指を向ける。するとその指先からライターより強く大きな火が出る。
布へ確かに点火したそれを、少年は野球のキャッチャーが盗塁をする走者を止めるため二塁手へ届けるように、瓶を思いっきり投げた。
怪物は激しく動いた反動か、その場に動いていない。ゆえに瓶が頭部にパリンッ、と確かに当たった。
瞬間、砕け散った瓶のかけらと中身の液体が飛び散り、そして一気にそれらが炎となって広がっていく。
怪物は突然の高熱に叫ぶような嘶きを響かせる。暴れるように、体にとりついたものを除くように激しく動く。
少年は盾を背負う。それにロープもなければホルスターも身に着けていないのに、盾は背負っているようにひっつく。
そして剣を取り出す。右手だけでなく両手で力強く持ち、一気に怪物へ距離を詰めた。
相手は少年どころではなかった。しかし偶然か、左手の本は寝た状態で彼を横から殴るように飛んでいく。
だかそれをわかっていたかのように少年は上体を大きく下げた。彼の肩の位置に飛んできた寝た状態の本が空を打つ。
そして両手に持った剣を下から全力の力を込めて突き上げた。
ドグシャアッ。
怪物の左膝から身の毛がよだつ音が出た。怪物は叫ぶ。無事な方の膝から地面につく。
少年はとっさに離れ、剣を構えなおす。そしてちょうどいい位置に頭部を置いた怪物が目につく。
彼はなんも
――――――――――――
それは松畑がいる位置からも見えた。少年の剣が燃えてるティーチャウロスの頭に突き刺すのを。
お互いの動きが止まる。そして少しすると少年が乱暴に剣を抜いた。
牛の嘶きが、いや断末魔が響き渡りながら、その巨体は左手に
そしてまた止まる。すると白い煙のようなものが出てくる。切り崩したダストマンが勝手に消えるときのように。
ティーチャウロスの体が徐々に白くなり、その巨体は後ろへ倒れていく。
背中が地面に叩きつけられると同時に、それは爆発のようなものを起こした。
爆風が少年にあたり、少年は盾で防ぐ。
余韻はそこまで長く残らなかった。白い煙は消えていき、そこには大きな本だけが残っていた。
構えを解いた少年。剣を鞘に戻し、本に歩いていく。
「終わった・・・?」
少女は理解が追い付いてなかった。しかし少年が怪物がティーチャウロスが持っていた本のそばに行き、そして膝をついてそれを開くのをみると、もう危険はないとわかり、子馬と一緒に彼に近づいていく。
サク、サク、と静かになった運動場に小さな足音が出る。ある程度近くなると。少年が彼女に気が付いた。
「その、終わったんですか?」
彼は松畑の顔を見ているが、なにも答えない。そのかわり本を閉じ、両手で本を下から抱えるように持つ。
「・・・大きい、ですね」
ふと、その本が透けるよう見えてくる。そして次第に見えなくなり、そして消えていった。
「・・・本が、消えた・・・?どこに?」
その質問に少年はやっと彼女に口で伝えた。
「・・・はあ」
松畑は理解があまりできてないようだ。まあ無理もないだろう。
「その、ひとまずもう大丈夫、なんですよね?」
少年が頷く。それをみてようやく彼女も確信して安心できた。だが先ほどの光景を思い出し、運動場を眺める。
激しい争いの跡が残っていた。とても生き物同士が作ったとは思えない状態が、ましてやホログラムがこれを造るのも仕様上無理である。無いものを上げれば、血だろうか。ティーチャウロスと共に消えたのだろう。
「・・・とても現実味がありません。私はこの子のような存在は昔から何度か見たことがあります」
子馬のほうに首を向ける松畑。
「しかし、今回のように人や地面など、直接干渉するものは初めてです。そしてそんな恐ろしいものをあなたは倒した」
少年のほうを見つめなおす黒髪の少女。彼女の満月の様な瞳が彼をとらえる。
「改めて聞きます。あなたは、何者なんですか?」
そんな光景を、空の月だけ見ていた。その日はちょうど彼女の瞳の様な丸い状態であった。
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《牛教師の魔術本》
牛教師ティーチャウロスが持っていた大きな本。人が持つには大きすぎる。
治安の悪い街に住みながら真面目に育ったその者は、従軍しその町の改変を決意する。
しかしあらゆる環境に恵まれなかった彼は、次第に不満を
ご愛読ありがとうございます。
昨日と今日が休日なため小説制作に集中できましたが、明日からまた仕事なので、更新が遅れる可能性が非常に高いです。
それでも待って頂けたら幸いです。
改めまして、ありがとうございました。