カードゲーム世界の、場違いソウルライク 作:狸より狐派 ハル
それは体の細い人形だ。鉄パイプやらの、金属の部品でできたその体は簡単に折れそうに見える。
少年はいつもの盾と水筒付きのウエストポーチを発現し、そして右手にはもらったメイスを現す。
確認できる鉄人形の数は6体、うち目の前の1体は一歩踏み出してくる。片足だけをだして、もう一本の足を前に出す。動きがぎこちなく、無機物らしさがにじみ出ている。
手には何も持っていない。だが爪のような、手の先端が鋭く見える。
近づいてくるにつれ右腕を上げてきている。なにをしてくるのかが予想しやすい。少年は早めに近づく。
彼も右腕のメイスを上げ、鉄人形がひっつく前に先に振り下ろす。
ガツンッ、と鈍い金属音が大きく響く。相手の頭部がへこみ、体が前のめりになる。そしてそのまメイスをもう一回振るった。
鉄人形が吹き飛ぶ。ガシャンと音を立てて寝たきりになる。周りの鉄人形はそんなのを気にせず少年に近づいてくる。
盾を構えなおし、相手を選ぶ。5体、前に2体、後ろに3体、前列の合間に倒れてる1体、まず彼は自身から見て前の右側にいる鉄人形から狙おうとする。
駆け足で近づき、またメイスを上げて振り下ろす。目前の人形は左腕を上げようとしたが遮られ、彼に殴られた。
また降って先の人形のように吹き飛ばされる。すると左側の鉄人形がすでに少年の近くにおり右腕を上げていた。
それを見えていたのか、彼は盾をその敵に向けそのまま自身の体ごと動かして当たりに行く。
腕を振る前にぶつかられ、ひるむ鉄人形。少年は下からメイスを思いっきり振り上げて、鉄人形の腰あたりにぶつけた。
そして体を時計回りに動かす。一回転しその勢いでメイスで薙ぎ払い、一番の音を立てた。
人形が一気に鉄くずを多めに散らしながら吹き飛び、その最中にほかの鉄人形を見る。
後ろの敵はまだ範囲外、少年は左側に回る。彼から見てやや1~2列の縦並びに見える。先頭の人形と目を合わせた時、ふと視界の右端になにかいるのに気づく。
顔を少しそちらに動かして見てみる。
鉄人形だ。いつの間にか元居た位置におり、少年に向かっている。こいつ等だけではなかった、ということか。
とにかく近くの鉄人形から相手にする。先頭の人形はすでに右腕を上げており、少年は動かずその腕を見る。
鉄人形は一歩足を前に出し、そして腕を振るう。直後その爪は少年の大振りした盾にぶつけられる。
かん高い金属音を出しながら爪を
鉄人形はさらに後ろへ吹き飛び、後ろの人形を巻き込んで倒れた。
少年も右足を前にするほどに身を出している。そのままクルッと右側をみる。目の前に頭部と肩部がへこんだ左腕を上げる鉄人形がいた。
急いで後ろにローリングする少年。その直後に左腕は空をひっかいた。
立って状況を確認する。初めに手を出した人形が目前に1体、左後ろに2番目に倒した人形が無理に起き上がろうとしている。
そして初期位置の人形は4体いる。彼は息を整えるために後ろへゆっくりと下がる。ちらりと粉々にした人形を見る。それは白い煙のようなものを出して消えている最中だ。
完全に無力化するには原型を壊す必要があるらしい。計9体がこの室内におり、前方の敵らは1体除いてじりじりと近づいてくる。
少年は息を吸い、止めると一気に目前の人形に近づき、メイスを振るう。動く前に殴られ、へこみからさらにえぐられてそれは崩壊した。
すかさず起き上がったばかりの人形に近づき、再び下からメイスで殴る。そいつも腰から崩れていった。
初期位置の4体いる人形を見る。まだ距離がある。彼はメイスを左手で持ち、右手をウエストポーチに突っ込む。
そこから取り出したのは、一枚のカードだ。だがその直後、光ったかと思えば原型は変わり、丸く黒光りする
彼は左手の人差し指を立てて、その導線の先端に火を出して引火させた。
バチバチと音を立てたそれを振りかぶり、投げる少年。爆弾は円を描いて飛ばされ、地面に落ちた直後転がって中央2体の真ん中あたりに止まる。
盾を構えると同時に、後ろの3体を見る。立ち上がった直後を確認すると。大きな爆発音が発生した。
中央の2体人形は木端微塵に散り、両端2体も吹き飛ぶ。少年はそちらを確認し、急いでそのうちの右側に走った。
十分に近づきジャンプする。そして自重に任せてメイスを振り下ろした。
ガシャンッ、と砕け散る。確認し、即座に左側の人形に向かい、同じようにジャンプして自重で攻撃した。
また粉々になる音が響くと左を向く。弾きで吹き飛ばした人形をみるとあの3体はこちらに向かってこず、その場に止まっている。
そこまではいいが、その背後が問題だった。
5体、鉄人形がいる。その光景をみて少年はたまらず溜息を吐いた。
メイスを持ち直し、状況を確認してみることにする。
後ろの5体はこちらに近づいてくる。前3体の人形も動き始める。しかしそれらはこちらではなく、背後にだ。
前後の距離が近づいていく。そしてその体がくっつく。
1体同士がふれあい、そしてもう1体、もう1体が付き始める。
すると金属同士がめり込みあうというべきか、1体がもう1体に取り込まれているといえばいいか。人形たちが重なり合うことで肥大化していく。
ガシャガシャと形が変わっていく。
動きが止まった時、それはわかった。
姿形はゴリラのように見える。後ろ足は少し短く、腕は長い。いや腕じゃない。爪だ。明らかに鋭く、厚く、長く、
顔は今更だがのっぺらぼう。だが表情もないのにそこには確かな殺意が感じられる。
無機物は嘘をつかない。一度稼働すればできることをするだけであった。
――――――――――――
「・・・・・」
工場の敷地外、深恵は待っていた。あのとき指示通りに動いたとはいえ、心残りがあった。
自身ができることは限りなく少ない。特別なものだと感じていたこの《見える》体質も、今は何の役にも立てていない。
ただ祈ることしかできなかった。少年の無事を。
小さな黒い天馬《クロポニサス》は今日も彼女を不安そうに見る。
「・・・きっと大丈夫。初めて会った時も、彼は戻ってきた」
思い聞かせる。裏路地で会った後、学校の再開までの間はハッキリ言って経っていない。
ならば今回も無事に戻ってくると思う。それしかできないのだから。
「失礼」
それも少し変わった印象だ。
ここまで紹介すると先日の牛教師がどことなく思い浮くが、姿形は全然違う。
まず
耳が髪で隠れており、ウルフカットという髪型に、中性的な顔つき。一見すると女性に見えても全然おかしくはない。
「あそこの建物をずっと見ているようですが、どうかしましたか?」
もっともその声は明らかな男性特有の低いものなのだが。
「えっ、えっと・・・その、あそこには・・・」
まったく知らない相手に突如質問され、しどろもどろになってしまう深恵。どう答えようか悩んでしまう。もし人がいいると言ったら、少年が不審者に扱われかねないし、かと言って曖昧に答えると会話に詰まる。
どうしようかと悩んでいるときに、男性が先に喋った。
「なにやらどこか暗く見えますね。あの建物」
「え・・・」
「キミも暗く見えますか」
カードに描かれているものが実態となって動くとき、そのあたりはどことなく暗く見えるようになる。と、つい最近少年から聞いていた。それは普通の人には見えないそうだ。
それが彼にも見えるらしい。まさかこんなにも早く少年以外に見える人がいたとは。
「あそこには近寄らないようにしてください。危険がいっぱいありますから」
「その、あそこに今、私の友人がいるんです」
「なんだって?それはいけない。僕が連れ戻してきましょう。ですのでキミは絶対にあそこへ近づかないように」
彼は驚いたような顔をしたあと、施設に向かい始める。
まるで吹雪のように
――――――――――
ガチィンッと。長い爪が盾に当たる音が響く。
反動で少年は後ずさり、踏ん張る。そこにまた反対側の爪がやってくる。
彼は急いで後ろへローリングする。急いで立て直すと。鉄の獣は二足歩行で立っている。
右腕を大きく上げ、ふらついているように見える動きを重ねて、爪を振り下ろしてきた。
また横に回避する。爪がコンクリートの床に突き刺さる。そしてその爪を、手の甲から少年がいる方向に振ってきた。
とっさに盾を構える。衝撃がそれ越しに伝わり、少年は吹き飛ばされた。
背中から倒れ、そのまま受け身をとって立て直す。鉄の獣は前かがみの二足歩行になって狙いを定めてきている。
体格、体質以上に速く、対処が難しい相手だ。動きも無機物特有の不揃いな動きが相まって対処がし辛い。
ズシン、ズシン、と寄ってくる鉄の獣。少年は爪を見る。ある程度近づいてきて、人形の時のようにおもむろに右腕を上げてくる。
そこに彼は前に出た。獣は爪を振り下ろす。少年はスライディングすることで移動しながら姿勢を低くして当たらないようにする。
ガツンッ、と床に爪が建てられた時には彼もすでに立っており、鉄の獣の右脚をメイスで殴った。
獣はひるまない。右爪を無理に抜きまた腕を上げる。そして後ろへもっていくようにしたから床をえぐりつつひっかこうとしてくる。
それをみこした少年はまた右足の外側真横に向かうためそこにローリングする。大量の火花を炊きながら通り過ぎる爪は空を裂いている最中、またメイスで右足を殴った。
鉄の獣が一瞬ひるむ。その直後左爪を軸にしながら後ろへ結構な距離をとった。
また視線が交差する時間がでる。次は一体何するか。
鉄の獣が両爪を床に立てる。そして姿勢を低くし始める。初めて見る姿勢に少年は強く警戒する。
そしてそれは急にやってきた。バッ、と身を乗り出し、左爪を振り下ろしてくる。彼はそれを反射的に獣の内側へローリングする。
すぐに立つが鉄の獣は右爪を上げ、そして下ろし始めた。
盾を構える。上からの攻撃に姿勢は下に行きそうなのを我慢する。
だがまた右爪を上げてすぐさま落とす。
動きこそ最小限に動いているようだが鉄の獣自体、単純なパワーと爪の重さが掛け合わさり、十分な破壊力がでる。
少年の左腕が限界を感じるその時、左爪が横から襲い掛かってきた。
彼は見えた。しかし反応が遅れる。盾がぶつかり、左腕が上にはねのけられそうになる。
そして横に行った左爪の棟がそのまま戻るようにやってきた。
それが盾に当たり今度こそ少年は倒される。地べたにたたきつけられた衝撃は並みのものではない。
それでも彼は我慢をし上を見る。
大きな右爪をゆっくりと上げ、そして勢いよく下ろされた。
身を捻じ曲げてでも離れるようにの寝転がる。そのせいで金属が床に強く打ち付けられる音が鼓膜を傷つけながら視界もまともにならない。
少年は無理やり起き上がる。だがぐらつく視界に写っていたのは左爪を上げ、それを振り下ろす鉄の獣だった。
両腕で盾を前に出す。だがこの一瞬の合間に予想外のことが起きた。
人の胴体並みの大きさがある氷の塊が鉄の獣の顔に勢いよくぶつかった。
完全な不意に大きくのけぞる怪物。突然のことに少年はとっさにその飛んできた方向を見る。
そこには青い服に銀髪の成人が、茶色く上部分は太め、そしてその上にさらに少し大きめの穴空いた青い円盤が付けられた杖を持ちながらいた。
鉄の獣はそんな乱入者を確認する。すこし見つめていると、姿勢をその者に向け、一気に近づいた。
ガシンガシンと金属音を立てながら、そして右爪を上げ、思い切り振り下ろす。
そんな攻撃を紙一重でステップし躱すその者。
さらに左爪で上げては振り下ろす獣、それさえもステップで避けて見せた。
なかなか当たらにことにイラついてきたのか、とにかく爪を振り回し続ける鉄の獣。
だがどれも当たらない。その者の動きに無駄はなかった。
しかしいいことばかりではない。後ろに下がり続けるせいか、右端あたりまで追い詰められていく。
だがその者に焦りは見えなかった。鉄の獣は一旦暴れるのをやめる。
状況が見え、追いつめているのを理解したのか、今度はじりじりと歩いていく。
確実に仕留めるために、その者に集中していた。ゆえに後ろの者に気づかぬほどに。
全力で近づくものがいる。少年は盾を背負い、両手でメイスを持って鉄の獣に近づきつつ、壁に向かう。そこに大きく跳ぶとそこに足場にする。
その壁を強く蹴り今度こそ鉄の獣へ山なりに向かって行く。
派手に持ち上げたメイスの先端は、大きな背中に向かってたたきつけられた。
死角からの衝撃は、先ほどの氷よりも強いものだった。鉄の獣は意識が飛んだかのように前へ倒れる。
背中に亀裂が出来上がった。そしてそこから紫の光が煙のように漏れている。
少年は構え直し、野球のバッターに近い持ち方をして亀裂へぶつけていく。
また金属同士がぶつかる音が響く。メイスはその亀裂を広くしへこましたのかそこで泊まっている。
すぐに少年は引き抜く。さらに構え直し、気持ち多めに追い打ちを一発放った。
背中がよりひどくなる鉄の獣は叫ぶように体が前に出る。動きから見て苦しんでいるのが良く分かる。
そんな体をむりやり彼の方へと向けようとする。爪で強引に動かし、もう片方の爪を上げそして振り下ろす。
速さこそ十分なはずなのに、あっさりと後ろにステップで躱された。
鉄の獣はそれでも爪を当てようと彼の方に完全に体を向ける。
そしてその紫の光が漏れている亀裂の背中は、その者にしっかりと見られた。
当のその者はすでに青い光を杖の円盤に集めて、何かを放とうとしていた。
杖の先端は一層光り、一瞬さらに強く光る。
「
白く流れる柱がその背中に立った。そのおかげか雹と紫の爆発、金属が破裂する音が起こる。
鉄の獣が両腕をもがかせる。だがなにかに当たることなく、途中で止まったかと思えば、そのまま前に倒れていった。
ズシン・・・うつ伏せになったそれはもう動くことはなかった。そして他の鉄くずのように、徐々に崩壊していった。
先ほどの鉄がバラバラになりながら粉上に、そして光となって消えていく。その光景を確かめ、彼はやっと倒したと安堵し、メイスを腰に掛けた。
「失礼、大丈夫でしたか?」
優しくその者が声を掛けてくる。少年もそちらに向く。
「外で待っているレディのお友だちでしょうか?あなたを心配しておりましたよ」
少年はことの経緯を説明する。その者はひとまず理解する。
「ふむ、あなたは近頃おこるカードの魔物たちの実体化、および暴走を直接止めるためにこのようなことを・・・そういうことをしている《マインダー》は初めて会いました」
ここで言うマインダーは、フィールドマインダーでカードゲームを行うプレイヤーを指すのだが、少年は首を横にふる。
「おや?マインダーではない?ですが・・・普通の人ですよね・・・?」
その者は開いてる手で自身の
「ああ、つまりあなたも魔物だと思っていたのですが・・・ちょっと勘違いしていました。どうやら特別な事情があるのですね。・・・よろしければ、こちらの事情も聴いてくれないでしょうか?ある人物、正確には人ではないのですが・・・」
そのまま話は進んでいった。
この話の内容は、また違う機会に教えよう・・・
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《鉄の獣 クロリラ》
複数の鉄くずが無理にでも絡み合ってできた怪物。にもかかわらず特に問題なく稼働する安定性がある。
前足の長い爪は刃物として鈍いが、生き物を裂くには裂傷もかねて充分である。
鉄は硬い。それだけで脅威にも役にも立つ。
フロムテキストフレーバーほんと好き。俺のテキスト?その場で考えたヤツです。