必要とされなかった俺、今では周囲に愛されすぎてツライ   作:とっとこ吞太郎

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第1話

死ぬって、もっとドラマチックなものかと思ってた。

けれど現実は、深夜のオフィスで書類に囲まれたまま、静かに倒れただけだった。

気づいたときには誰もいなくて、窓の外で朝焼けが始まっていた。

それが、僕の人生の終わりだった。

愛されることも、求められることもなく、ただ働いて壊れて、終わった。

だからせめて次は――誰かに“必要とされる存在”でありたかった。

そんな、叶うはずのない願いを最後に、意識は闇に沈んだ。

そして目を覚ましたとき、そこは見知らぬ天井だった。

 

(この世界では……ちゃんと、愛されるんだろうか)

 

目を覚ましたとき、目の前にあったのは知らない天井。

身体は幼くなっていて、喉は乾いていた。だけどそれよりも、まず先に浮かんだのが――この疑問だった。

 

“ちゃんと”って、なんだろう。

名前を呼ばれること? 微笑みを向けられること?

誕生日にケーキを用意されること?

それとも、ただ、そこにいても許されること?

 

……前の世界では、そんなもの、ひとつもなかった。

僕のことを名前で呼ぶのは、上司と人事だけ。

体調が悪くても気づいてもらえなかったし、何かを求めるのは甘えだと思っていた。

それが社会人ってものだと、自分に言い聞かせながら。

でも――そうやってがんばって、がんばって、

気づいたら誰からも必要とされない場所にいて。

最後は、誰にも看取られず、静かに終わった。

もしあれが“僕の価値”だったとするなら、

この世界でまたやり直したところで、同じ結末しか待っていないんじゃないか。

この小さな身体に、やり直す意味なんてあるんだろうか。

せっかくもらった新しい人生なのに。

目の前にまだ誰もいないだけなのに。

こんなことを考えてしまう自分が、どうしようもなく情けなかった。

でも、止まらない。

(もし……この世界でも、「いらない」って言われたら?)

一度だけで、心は壊れる。

もう二度目なんて、耐えられる自信はなかった。

 

 

そんな不安が胸を締めつけていた矢先だった。

 

「ユウト、起きたのね……! 大丈夫? 体は痛くない? 喉は? お腹すいてない?」

「母さん、落ち着いて! まず息をさせてあげて!」

「もう……本当によかった……!」

「ちょ、ちょっと待って! 包み込み力、すごすぎるんだけど……!」

 

毛布ごと抱きしめられた僕は、ぬくもりの中でむしろ命の危機を感じていた。

鼻先には柔らかな布地、耳元ではしゃくりあげる音。

あ、これ泣いてる。完全に泣いてる。

なんでこんなに感情が爆発してるのか、こっちが混乱してるんだけど!?

ていうか“愛”って物理なんだっけ?

 

「ユウト……お前……! よくぞ帰ってきたな!!」

「い、いや帰ってきたというか……起きただけなんだけど!?」

「父さんはお前のこと、ずっと信じてたぞ!」

 

どっしりした腕にがっしり抱きしめられた瞬間、肋骨が悲鳴を上げた。

筋肉質な父の愛は、物理的にもハード。

いやこれ、抱きしめるというよりレスリングでは?

目が回る……誰か審判を……!

それでも、その顔は心底嬉しそうで、こっちが戸惑うほど真っ直ぐだった。

 

「さあユウト、パンが焼けてるぞ! 今日は特別に三種だ!」

「プレーン、ハチミツ、そして……二層バター仕様!」

「バター二層!? なんかスペシャルすぎてこわい!」

「お母さんのレシピを改良したんだぞ! 寝てる間に!」

「いや、寝てる間にどんだけイベント進行してたの!?」

 

テーブルの上には信じられないほど丁寧に並んだ朝食。

湯気の立つパン、光を反射するジャム、そしてミルクの入った陶器のカップ。

一口かじると、口の中にふわっと広がる甘みと温かさ。

……涙が出そうになった。いや、出た。

味覚だけでこんなに心がほぐれる日が来るとは。

 

「……おいしい」

「よかったぁぁぁぁ!!」

「ユウトに“おいしい”って言わせたぞぉぉぉぉ!!」

「父さん感極まりすぎて叫ぶな!! 朝だから!!」

「母さん、記念に写真撮ろうかしら……! “初おいしい記念日”として!」

 

温かくて、やかましくて、どうしようもないくらい全力な家族。

それは、かつての僕が一度も触れたことのなかった世界だった。

もう逃げられそうにない。……いや、逃げたいとは思わないけど。

この溺愛っぷり、正直、ちょっとだけこわい。

でも今は――少しだけ、笑ってもいい気がしていた。

 

 

(いや、めっちゃ溺愛してくるじゃん……)

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