必要とされなかった俺、今では周囲に愛されすぎてツライ   作:とっとこ吞太郎

2 / 4
第2話

朝食を終えたあと、僕が椅子に背を預けたその瞬間――左右からふわりと気配が迫った。

振り返る前に、頬にそっと触れる手と、耳元に柔らかな声が降ってくる。

 

「ユウト、ちょっと動かないでね。髪が乱れてるの、私が整えてあげる」

「姉さん、待って。それは俺の担当だろ。今日は俺が身支度を見る番だって、昨夜話したじゃないか」

「でも“了承”は得てないわよね? 私、譲った覚えはないもの」

 

僕を巡る姉と兄の静かな戦火が、今朝も例外なく始まった。

姉・リリアは白銀騎士学舎の首席剣士。端整な顔立ちに深紅の髪、そして優雅な物腰――まるで貴族そのものの気品をまとっている。

でも弟の前ではその仮面が時々、ほんの少しだけ剥がれる。

 

兄・レオンは魔導学院の主席候補。空間魔法と防御魔法の天才で、基本的に理性的。

ただし、僕に対しては例外だ。すぐに甘やかしてくるし、どこか嬉しそうに僕のことを観察してくる。

その観察眼はたぶん、勉強とか研究とか、そういう努力の結晶なんだと思うけど――兄の熱量、ちょっとずれてる。

 

「ユウトの髪は、後ろがふわっと跳ねる癖があるの。昨日もそうだったわ。……それがまた可愛いのだけれど」

「知ってる。だから俺は、今日の風の流れと湿度に合わせて整えるつもりだったんだよ」

「……弟の髪型に気象データ使うの、どうなの?」

 

リリアは櫛を手に、髪を梳くたびに僕の額にふっと息を吹きかけてくる。

指先がやさしくて、微笑みは穏やかで――でもどこか、目が笑っていない。

一方、レオンは僕の襟を直しながら、マントの留め具を少しだけ締め直す。

 

「今日の気温なら、これくらいの防風性能が最適だ」

「ダメ。今日は私が仕立てたケープを着せるって決めてたの。内側にユウトの体温だけに反応する魔繊布を縫い込んであるの」

「また妙な素材使ったな……呪具かよ、それ」

 

リリアが差し出したケープは、優雅な銀の刺繍とふわふわの白い襟付き。

レオンのマントは黒を基調にした、いかにも“防御最優先”なデザイン。

両方とも僕を想って作ってくれたのは分かる……けど、ぶっちゃけ重い。物理的に。

 

「ユウト、どっちがいい?」

「……どっちも、着てみたいかも」

「……ああ……それって、選べないってこと……」

「ユウト、ほんと可愛い……」

 

僕のひと言で場がしん……と静まり返る。

そして気づけば、ふたりとも僕の方にそっと身を寄せてきていた。

優しい微笑みの中に、かすかに競り合う気配がある。

 

「……ありがと、ふたりとも。すごく、あったかいよ」

 

それだけで、リリアの顔がぱあっと花のようにほころぶ。

けれど、次の瞬間――耳元に顔を寄せて、彼女は甘く囁いた。

 

「ねえ、ユウト。……その言葉、ほかの誰かにも言ったら……私、どうなるか分からないわよ?」

 

笑ってるのに、背中にうすら寒い何かが走った。

それを打ち消すように、レオンが僕の肩を優しくぽんと叩く。

 

「大丈夫。ユウトが笑ってさえいれば、俺はそれでいいよ」

 

ふたりとも――

強くて、優しくて、僕にとっては世界で一番の家族。

でも、なんで朝から命の危機を感じてるんだろう、僕。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。