必要とされなかった俺、今では周囲に愛されすぎてツライ   作:とっとこ吞太郎

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第4話

朝から姉が様子がおかしい。

 

「ねぇユウト、今日はふたりっきりで出かけましょ?」

「えっ……なんで急に?」

「昨日夢で見たの。ユウトが町の娘たちに囲まれて困ってたの……私のいないところでっ!」

 

姉の目がキラキラしている。いや、ギラギラかもしれない。

 

「兄さんは?」

「レオンには言ってあるわ。“今日は女の勘に従う日”だって」

 

謎の了承取りつけてるし!

結局、僕は姉に手を引かれ、町へ出ることになった。

姉リリアは上機嫌で僕の腕にしがみつき、時折ちらっと周囲を警戒するように見回していた。

 

「今日はね、ユウトの“男としての魅力”を再確認するつもりなの」

「えっ、なにその趣旨……?」

「女ってね、弟を守る本能と、時に支配したくなる本能、どっちもあるのよ。私は後者寄り」

 

怖すぎる。普通にホラー。

 

「それに……最近少し距離ができた気がして……たまには、二人きりで“密着時間”って大事じゃない?」

「えっと、兄妹だよね、僕たち?」

「もちろん。でも兄妹でも、ドキッとする距離って……あるじゃない?」

 

いや、ないです。

 

 

* * *

 

 

街を歩けば、人混みの中でもリリアは僕から一歩も離れない。

というか、むしろ肩が密着してる。

 

「ふふっ、こうしてると恋人同士みたいね」

「全然違うからね!? 街の人に誤解されるよ!」

「むしろ“牽制”になるわ。誰にも渡す気はないってアピール」

 

そんなマーキングあるか。

姉は僕の髪をいじったり、シャツの襟を直したり、まるで恋人のように世話を焼く。

まわりからの視線が、どんどん集まってきてる気がする……

 

「ほら、あの女の子。さっきからこっち見てる。記録、記録……」

 

姉は小さなノートを取り出して、「接触危険度:中」と書き込んだ。

何それ、CIAかよ。

露店で売っていたシャツを手に取ると、リリアは目を輝かせた。

 

「このシャツ、ユウトに着せたら絶対似合うわ!」

「襟元広すぎない? 鎖骨丸出しなんだけど!」

「それがいいのよ。私しか見ないなら、全然OKよね?」

「私“しか”って何!? 勝手に所有権主張しないで!」

 

試着を押し切られ、鎖骨シャツを着せられた僕は、たちまち通行人の注目を集める羽目に。

 

「見ないでください。これは事故です……!」

「ユウト……すごくいい……もう、キスしていい?」

「ダメだよ!!」

「ふふ、うそうそ。まだ昼間だもんね」

 

“まだ”って何? 夜ならOKってこと!?

 

 

* * *

 

 

事件はそのあと起きた。

花屋の前で、一人の町娘が僕に近づいてきた。

 

「あ、あの……坊ちゃま、よかったら……これ……!」

 

差し出されたのは、黄色い花の髪飾り。

 

「あ、ありがとう……」

 

受け取ろうとした瞬間──

 

「まあまあまあ、可愛い髪飾りね〜〜?」

 

後ろから姉の声がした。

ゆっくりとした笑顔。しかし、目が笑っていない。

 

「えっと……リリア姉さん……?」

「それ、“黄色のマーガレット”よね? 花言葉、知ってる?」

「『秘めた恋』よ」

「ひ、ひめたこい……」

「つまり、この子はうちのユウトに“恋心”を伝えたってことね?」

 

町娘の顔が真っ赤になる。

 

「ち、違っ……そんなつもりじゃ……!」

「じゃあ、あなたはユウトの好きなスープは?」

「えっ?」

「くしゃみの回数、眠る時の癖、寝起きの機嫌……どれか答えられる?」

「え、えっと……」

「ふふ、残念。恋する資格、ないわね」

「ひ、ひどいっ!」

 

 

町娘は泣きそうな顔で逃げ出していった。

僕は慌てて後を追おうとするが──

 

「待って」

姉が僕の腕を掴んだ。

 

「恋ってね、弱い人がするものじゃない。ユウトの隣に立つには……私ぐらい、覚悟が要るの」

 

え、姉さん、なんでそこで“ライバル宣言”みたいになってるの……?

町娘の件のあとも、姉の暴走は止まらなかった。

 

「ユウト、こっち来て。……はい、ストール巻いてあげる」

「え、なにこれ?」

「視線遮断用。あなたの魅力を40%カットできる布よ。通行人対策」

「何その需要に応えた布!? 魅力をカットしないでよ!」

「しょうがないでしょ。今日はもう3人からガン見されたんだから」

 

確かに、姉の行動で逆に目立ってる気がする。

昼下がり、カフェに入って一息つこうとしたときのことだった。

 

「いらっしゃいませ〜! お兄さん、これサービスですっ!」

 

若いウェイトレスの笑顔とともに、スイーツが差し出される。

 

「うわぁ、ありがとう。すごく美味しそう……」

 

その瞬間。

 

「全部、買います」

「……え?」

「そのスイーツ、今ある分ぜんぶ。だから“特別扱い”はもう結構です」

 

姉は財布を取り出し、無表情で高額の硬貨を並べはじめた。

 

「姉さん、何して……」

「ユウトに向けた“メスの視線”は、すべて事前に排除するのが愛よ」

 

いやいや、どんな愛情表現?

姉の言動により、店員は目を白黒させながら「し、失礼しました……」と去っていった。

僕はカフェの隅で小さくなりながら、姉の対人スキルが心配になる。

 

「……っていうか姉さん、それ、嫉妬じゃない?」

「嫉妬よ? 当たり前でしょ? あなたは私のものなんだから」

「いや、だからさっきから“所有”やめて?」

「じゃあ、仮に誰かに取られたら、どう思う?」

「……嫌だけど、でもそれは、兄妹としての愛情であって──」

「ユウト」

 

姉の声が低くなる。

 

「私ね。もしユウトが他の誰かにとられるなら、剣術学舎も全部やめてもいいって思ってる」

「それ、人生壊れてない!? もっと自分のために生きてよ!」

「ユウトの隣が、私の人生の真ん中なの」

 

さらっと言わないで!? 胸にズキンとくるから!!

 

 

* * *

 

 

夕方、買い物帰りの馬車の中。

姉は僕の肩にそっと頭を預けてきた。

 

「ねえ、ユウト……今日、ちょっとは“ドキッ”とした?」

「えっ」

「たとえば、服屋のキスとか。あれ、ほんとはしたかったんじゃない?」

「し、してないし、したくもないし!!」

「ふふ、でも目が泳いでる。……やっぱり男の子なんだね」

「姉さんが色仕掛けしてくる方がおかしいの!!」

「だって……ユウトって、たまに私の胸いやらしい目で見てるときあるよね?」

「いや見てない! というかそういう視線、むしろそっちが向けてきてるよね!?」

「……じゃあ、もし他の子にキスされそうになったら、どうする?」

「全力で逃げる!」

「よし、合格。……でも逃げられなかったら?」

「姉さんが絶対に現れるから問題ないんでしょ……」

「その通り♪」

 

……なんかもう、言い返すのも疲れてきた。

 

 

* * *

 

 

家に戻ると、そこには腕を組んだ兄・レオンが待っていた。

 

「ユウト……無事でよかった。姉さん、また暴走してないか?」

「暴走なんてしてないわよ。少し“過保護”だっただけよ」

「過保護ってレベル超えてるよ……ユウト、鎖骨出てるし、視線避けストール巻かれてるし……」

「どれも必要な防衛策だったわ」

「この子は防衛しなくてもいい子だよ……!」

「じゃあ、もし町娘がユウトに再アタックしてきたら、どうするの?」

「黙って見守るしかないだろ」

「だからあなたは独り身なのよレオン!」

 

兄妹でケンカ始めないで!

結局、ふたりの“ユウトを巡る小競り合い”は夕飯時まで続き、僕はご飯3杯目を食べる頃には完全に思考が停止していた。

 

 

* * *

 

 

夜、ベッドに入った僕は、天井を見つめながらため息をつく。

 

「……なんか、いろいろ疲れたな……」

 

でも、姉の言葉を思い出す。

 

『ユウトの隣が、私の人生の真ん中なの』

 

あんなに真っ直ぐに、想われたことなんて、前世では一度もなかった。

ちょっとヤバいけど。

少し重いけど。

たまに色気で攻めてくるけど。

でもそれでも──

 

「……悪くないな、って思っちゃう自分がいるのが悔しい……」

 

枕を被っても、顔の熱さはごまかせなかった。

 

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