宝蜥りゅうは転生者。 作:りゅーくん
人ならざるもの。
かつては伝説とされ、幻想だった存在。
──しかしそれは、もう昔の話。
始まりは一本の動画だった。
人ならざるもの。
人々は彼らのことを、"幻人"と呼んだ。
多様性の時代とされる現代。
幻人は少しずつ認知されだし、人間社会に交わるようになった。
そしてそれは学校生活も例外ではなく……。
私立景希高等学校。
幻人が最も多く通う学校とされている。
そんな学校に入学した俺、
前世の記憶を持ってこの地に生まれ落ちた俺だが、肉体が変化しただけでやることは何も変わらない。
学校に行って勉強して、家に帰ってご飯を食べて寝て。そして朝が来て目が覚めて、また学校に。
前世では友達と遊ぶ、なんてことはしなかった。いや、できなかった。
両親が禁止していたのだ。
一度だけ理由を問いただしたことがあったが、お前は医者の家系だから。医者になるために遊んでいる暇はない。
その二言だけが返ってくるだけだった。
まぁその後なんやかんやあって、俺は成人することなく死に、今に至る。
ちなみに今世では特に禁止されているものはない。
今世の両親は『自由』をモットーに子育てをしているらしく、両親の子供である俺にも、それは適応しているので、自分のやりたいことを自由にやりなさい、とだけ言われている。
……悪く言えば放任主義なのでは?と疑問に思わなくもないが、前世よりかは遥かにましなので黙っておくことにする。
で、だ。前世で友達のいない人生を歩んだ俺だが、今世では初の友達を作ることができたのか?
答えは、否、だ。
前世をぼっちで一貫させた俺に友達を作る能力は0。
故に、今世の小中で友達を作ることができなかった俺は、現在進行形でぼっちであった。
そして当時中学3年生だった俺は考える。
一度地元を離れ、全然知らない土地の高校に入学してしまおう、と。
思い立ったが吉日という言葉があるように、俺はすぐに県外の高校をいくつかピックアップし、その中で幻人が最も馴染めそうな高校を選んだ結果、
とまぁ、俺のお友達事情はここまでにして、今は新たな学び舎へ登校中だ。
とはいっても、高校はもう目と鼻の先なのだが。
「(まぁ一つ文句があるならば、実家からそれなりに距離があるから早めに起きなきゃならんし、金銭面的にも学生からしたら結構厳しい……。文句二つあったな)」
そんなくだらないことを考えながら門から学校に入り、そのまま下駄箱の前まで来る。
──メギョ
靴を脱いで自分の下駄箱の中に入れていると、俺の右隣から鉄を強引に折り曲げたかのような音が響く。
ドラゴンっていうのは、まぁ人間とは肉体的なあれこれが根本から違う。
それこそ超パワーだったり、火を噴けたり、頭が良ければ魔法を使えたり。
で、ここで何が言いたいのかといえば、ドラゴンの幻人も素のドラゴンの力の大半を引き継いでいるわけで、その中に超人的な聴覚もある。
つまり、先ほどの音は、俺の耳にダイレクトアタックするというわけで……。
「ぐぅおお……っ」
俺は取りかけてた上履きをその場に落として、耳を塞ぐ。
人間でいうところの、耳元で黒板を引っ搔いた音、といえば不快度数の高さが伝わるだろうか。
俺はまだ耳の中に残る不快音を我慢して、落ちた上履きを拾って、音の原因の方へと顔を向ける。
そこにいたのは、特徴的な耳とモフモフの尻尾を拘束具で足に押さえつけている、俺と同じ幻人、
幻人タイプはたしか……
この種族も、身体能力と、聴覚、それと嗅覚がずば抜けて高かったはずだ。
そんな尾守の手には通常の状態からかなり歪められた下駄箱の扉が握られている。
「(いったい何が目的でそんなことを……)」
俺は、何をしているか問いただそうと口を開こうとする。
「お──「いやなんで曲げてるの?」……」
どうやら俺と同じ疑問を持った者がいたらしく、俺より先に問いを投げかける。
俺は疑問の声が出た方へと顔を向ける。
どうやらその声の持ち主は、尾守の右隣──つまり、俺の二個右隣にいた、栗色の髪の人間だった。
俺は口を閉じ、話の行方を見守る。
……どうやら、尾守の靴は人間よりもサイズがでかいらしく、下駄箱に仕舞いきれない。だから扉を折り曲げて少しでも下駄箱に入れる努力をしていた、というわけらしい。
「いやアホか」
思わず口が出てしまう。
俺は慌てて口を閉ざすが、さすがウェアウルフの聴覚。俺の言葉を聞き逃してはいなかったようで、ぐるんと尾守の顔が俺の方へ向く。
俺は少しビビるが、まぁ言ってしまったものは仕方ないと、その先の言葉もついでに言っておく。
「一応、下駄箱は学校の備品だろ?それ最悪弁償になるぞ」
それを聞いた尾守は、あっ、と今気づいたと言わんばかりの表情をして、少し固まった後に、また扉を、次は逆方向に折り曲げて元の形に戻す。
「……セーフ!」
「……まぁ、黙ってたらバレないんじゃね?」
まだ若干曲がっている扉から目を離しながら、それとなくフォローを入れる。
まぁ先生もあんまり下駄箱の方には近づかないだろう、多分。
「うーん……。でもそしたら、靴どうしよ……」
お気に入りの靴らしいそれをどうするか、うんうんと悩む尾守。
すると、反対側にいた人間が口を開く。
「うっ……上に置いておくのは?先生に伝えておけば大丈夫かと……」
「「なるほど!」」
人間のナイスアイディアに、俺と尾守は声を上げる。
確かに扉は学校のものだから細工とかしちゃいけないが、上に置くだけなら多少埃っぽいことを除けば靴のサイズを気にせず置くことができる。
なるほど、賢いな?
「キミ、賢いねぇ!」
尾守も俺と同じことを思ったのか、人間の肩に向かって手のひらを向けて、いわゆる肩パンをしようとするが、人間の方は尾守が何をしたいのかわからないのか、キョトンとした顔をしている。
そのままお互いの間に微妙な空気が流れたのち、尾守は少し残念そうな顔をして手を下ろす。
「あ~、ごめん。けどちゃんと力の調整とかはできるからさ」
そのまま尾守は人間の脇を通りながらお礼を言うと、その場を立ち去ろうとする。
……まぁ、人間と幻人の認識の違いは、まだまだあるもんな、と俺も考え、二人から離れつつ教室へと向かう。
その途中、何かを叩いたような音が廊下に響いたが、多分男子グループのどっかがふざけているのだろうと思い、そのまま教室へと向かうのだった。
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