ナァァーー
ふと聞こえて来た鳴き声に目を向けて見ると其処には一匹の子猫が居た。
うゎあ、可愛いな、撫でたいなと思っていると何処からかもう一つの鳴き声が聞こえて来た。
ニャァーー
少し離れた場所には母親らしき猫が居て、もう一度呼ぶように一鳴きすると子猫はすぐさま駆け寄り、そして共に何処かへと行ってしまった。
私は残念に思いながらもその二匹を見て"あの日"の事を思い出した。
私の名前は楓、「芙蓉楓」
今、私は思い出の場所に立っている。
此処は私と彼が初めて出会った場所、そして彼が消えてしまった場所。
彼の名前はタダくん、「浜菊忠夫」。
そして“向こう”での名前は「横島忠夫」
彼は私の大事な…、私の初恋の人。
彼は今、この世界とは遠く離れた別の世界に居る、私だけが知っている私だけの秘密。
何時の頃からか、此処では無い別の世界で生きているタダくんを夢で見るようになっていた。
そう、一方通行だけど夢の中でだけ彼に会えていた。
でも今はもう見えてはない、もう会えてはいない。
あの、辛く哀しい闘いの終結からは……。
全世界を巻き込んだ闘い。
世界の全てを転覆しようとした魔王アシュタロスとの戦いの最中、タダくんは魔王が昆虫をベースに創り上げた魔族三姉妹の内の一人であるルシオラさんと恋に落ちた。
南極での戦いの後、世界は一時の平穏を迎えタダくんはルシオラさんとのごく普通の生活を送っていた。
ほんの少しの、ほんの細やかな、それでも暖かな幸せな日々。
最初は凄く嫉妬したけど二人の恋は本物だった。
だけど、そんなありふれた日常はあっけなく終わりを告げた。
影に潜んでいたアシュタロスは美神さんから魂の結晶を奪い、コスモプロセッサーを使って最後の戦いを挑んで来た。
結論を言えば世界は救われた、タダくんの……二人の恋と引き換えに。
戦いの中で生まれた恋、戦いの中で育まれた恋、そして戦いの中に消え去った恋。
彼の心の中にはどれ程の傷が刻まれたのだろう?
見る事しか出来なかった、助ける事も出来なかった私には解らない。
―◇◆◇―
―好きだった、ただその男の子の事が好きだった。
私は彼が大好きだった。
優しかった、本当に優しかった。
彼は誰よりも優しかった。
あの男の子も好きだったし、あの女の子も好きだった。
でも私はその男の子が一番好きだった。
あの声が好きで、あの笑顔が好きで…
そして繋いだ手の温もりが私はとても好きだった。
お父さんはいなくて、お母さんもいなかった。
なのに彼はとても強かった。
彼と一緒に皆と遊んで、彼と一緒に皆と笑った。
彼の事なら何でも信じれた。
そう……、だからあの優しい嘘さえも……、私は信じてしまった……。
好きだった…、私はただその男の子が大好きだった…。
だからこそ大嫌いになってしまった…。
何度も叩き、階段の上から突き飛ばし、そしてその額に消える事の無い傷を付けた…。
お父さんも、二人の友達も、辛そうな顔をしてたけど私は無視をして彼を傷付け続けた。
神界・魔界・人界の三世界平和宣言が行なわれた日に魔族の一人が騒ぎを起こし、そしてその日から彼は居なくなった…。
お父さんも、二人の友達も、皆泣いたけど私は泣かなかった。
いえ、泣けなかった…、そんな資格も無かった。
それからちょっとだけ大人になったある日、真実にたどり着いた
今まで泣けなかった分だけ思いっきり泣く事が出来た。
彼の事が好きだから嫌いになった。
彼の事は嫌いだけど好きだった。
そう、やっぱりどうしようもない位彼の事が大好き。
そして思いっきり泣いた後、”私達”は笑う事にした。
その為に吐いてくれた嘘だから。
その優しい嘘で”私達”は今、此処に居るのだから。
笑おう、私は私らしく。
そして高校生になったある日に私は夢を見た。
彼の、タダくんの夢を……。
タダくんは生きていた、別の世界でタダくんは生きていてくれた。
元気そうに笑っていて、友達も沢山いたタダくんはちょっと?エッチになっていた。
大事な
そして霊力に目覚め、戦いに巻き込まれていくタダくんはそんな中でドンドン強くなり、大切な仲間も増えていった。
そして始まった
敵に一度連れさらわれ、情報収集の為に再度スパイとして潜り込まされた。
そんな中で出会った彼が初めて心から愛した
《蛍の少女・ルシオラ》
ルシオラを守る為にアシュタロスに立ち向かうタダくん。
ルシオラを守る為にその身を盾にしたタダくん。
タダくんを守る為にその命を捧げたルシオラ。
そして突きつけられた残酷な選択、それはルシオラか世界かの二者択一。
ルシオラと交わした約束を守る為に世界を選んだタダくん。
《俺に女の子を好きになる資格なんか無かった…。なのにあいつはそんな俺なんかの為に……》
《うわあぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!》
傷ついたタダくんの心は涙を流し、叫び声を上げる。
なのに何故私はあそこに居られないんだろう。
タダくんを慰めてあげたい、タダくんと一緒に泣いてあげたい。
それでも彼は立ち上がり、そして再び笑う。
タダくんがタダくんである為に。
それが彼女との約束だから。
会いたい、やっぱりタダくんに会いたいな。
そして夢なんかじゃなく、現実の世界でタダくんと一緒に笑いたい。
だから私は信じる、信じよう、きっとまた会えると。
「また会おうね、タダくん!」
赤く染まり始めた空を見上げて語り掛け、私は家族が待つ家へと歩き始めた。
「今日の晩御飯は何にしようかな?」
《NEXT・稟》