泣き声を頼りに空き地までやって来た忠夫は大きな木の下で泣いている女の子を見つけた。
『え~ん、え~ん』
『ねえ、どうして泣いてるの?』
『え?ひっく、ひっく。あ、あのね、あの子…』
忠夫にそう聞かれた女の子が泣きながら木の枝を指差した先を見上げると、おそらく何かの拍子に木に登って降りられなくなったらしい一匹の子猫が木の枝にしがみ付きながら鳴いている。
『ニャ~ン、ニャ~ン』
『助けてあげたいけど、ひっく、わ、私、ひっく、木に登れ、ひっく、登れないから…。ひっく、か、かわいそうだよ~、うええ~~ん』
泣き続けるその女の子を見て、忠夫は両親の最後の言葉を思い出す。
《忠夫、誰かを護れるような男になれ》
《忠夫、周りの人を笑顔に出来る様な人になって》
『(父ちゃん、母ちゃん)わかった、俺が助けてあげる。だから泣かないでいいよ』
『えっ、ほんと?』
『うん。俺、木登り得意なんだ』
忠夫は女の子に笑い掛けると、するすると木を登って行き、子猫に手を差し伸べた。
『さあ、おいで。一緒に降りよう』
『…ニャ~ン…』
トコトコ…
子猫は少し戸惑った様だが、忠夫の所に行くと大人しく頭の上に乗った。
『よし、じゃあ降りるよ』
『だ、だいじょうぶ?』
『だいじょうぶだy…わっ』
『きゃあっ』
忠夫はうっかり足を滑らせてしまったが、あまり高くない所からだったので尻もちをつく程度で済んだようだ。
『いててて……』
『ね、ねえ、だいじょうぶ?ケガしてない?』
『うん、これくらいヘッチャラだよ!』
忠夫が泥の付いたズボンを叩きながら立ち上がると草むらの中から別の猫の鳴き声が聞こえて来た。
『ニャオ、ニャーオ!』
『ニャーン!』
親猫であろう、その猫が子猫を呼ぶように鳴くと子猫もそれに答えた。
そして、忠夫の頭から肩に降りた子猫はそのほっぺたをペロリと一舐めしてそのまま親猫の所に走って行った。
『猫さん、お母さんのところに帰れたんだね。よかった』
『母ちゃんか、いいな……』
『え?』
『俺、母ちゃんも父ちゃんもいないんだ…』
そう言って寂しそうにしている忠夫を見て女の子は何かを思い付いたのか笑顔になって忠夫に話し掛ける。
『だったら私の家にあそびにくる?』
『えっ?』
『私のお母さんの作るお菓子、とってもおいしいの。いっしょに食べてほしいな』
『いいの?』
『うんっ!私のなまえは楓。芙蓉楓』
先程までの泣き顔とは違い、満面の笑みを浮かべる女の子。
その笑顔を見て忠夫の心には両親の言葉が響いた。
『(この子がそうなのかは分からないけど、でも…)俺の名前は忠夫。浜菊忠夫』
『じゃあ…、タダくんって呼んでいい?』
『なら俺は楓って呼ぶよ』
『うん!タダくん。行こう』
そう言い、楓が手を差し出すと忠夫もその手をギュッと握りかえす。
(えへへ、タダくんのお手々あったかい♪)
そうして、手を繋いだ二人は少女の、楓の家へと走り出した。
(父ちゃん、母ちゃん。俺、頑張るよ)
―◇◆◇―
カーテンの隙間から朝日が差し込み、目覚ましの電子音で楓は目を覚ます。
「懐かしい夢、久しぶりに見たな」
楓は「うぅ~~ん」と背伸びをし、ふと机の上を見ると其処には子供の頃の写真が幾つか飾られている。
その中に楓と忠夫と母親である紅葉の三人で写っている写真があった。
作ってもらったお菓子はケーキであったのだろう、口の周りをクリームでべたべたにした忠夫は笑っている紅葉に口を拭かれいて、楓はそんな忠夫の手を笑顔でしっかりと握っていた。
「あれがタダくんと私の初めての出会い……。そして私の初恋……」
第三話
「いざ、初登校」
あの後、お父さんにタダくんが帰って来た事を伝えるとお父さんは出張先から飛んで帰って来た。
『忠夫君。よく…、よく無事でいてくれたね。……本当に良かった……』
『幹夫おじさん…心配させてすみませんっス。それから、ありがとう』
お父さんはタダくんの肩を抱いて泣いていた、本当にタダくんの事を心配していたから。
タダくんの戸籍は行方不明扱いだった事もあり無事に残っていたけど、タマモちゃんの戸籍をどうするかが問題だった。
だけども神王様達が『何か』をしたらしく僅か数分後にはタダくんの苗字は横島に変更され、タマモちゃんはタダくんの従妹という事で戸籍が用意されていた。
タダくんがどうやったのかを聞いていたけど神王様と魔王様は『いや~、話し合いってのは大事だよな~』と肩を抱き合いながら笑い合っていた。
結局、詳しい事は知らない方が良いいう事で済ます事になったが、タダくんは顔から冷や汗を流していた。
…たぶん、”あのお母さん”の事を思い出してるんだろうなぁ。
そしてタダくんは孤児院を経営していた菊山先生に会いに行った。
孤児院はすでに閉鎖されていたが菊山先生はまるで自分の子供の様にタダくんが帰って来た事を喜んでいた。
『信じていたよ忠夫君。良く、無事に帰って来てくれた』
『先生…有り難うございます』
『そう言えば、今は姓を横島と名乗ってるらしいけど?』
『はい。母ちゃんと父ちゃんには悪いけど今の俺があるのは横島の両親のおかげですからこれからも横島の姓を名乗るつもりです」
『ああ、それでいいだろう。きっと御両親も分かってくれるさ。そうだ、御両親と言えば…』
そう言うと先生はタダくんに通帳と印鑑を差し出した。
『これは?』
『君の御両親が残されていた遺産だよ。君が成人するまではと私が預かっていたんだがもう渡してもいいだろう』
『…母ちゃんと父ちゃんが……』
タダくんのお母さんとお父さん。どんな人だったんだろう?
家に帰るとタダくんはその通帳をお父さんに渡した。
『タダでお世話になるのも何ですからこれを生活費の足しにして下さい』
『そんな事は気にしないでもいいんだがね。分かった、取りあえず預かっておこう』
そう言って通帳を受け取る幹夫だったが……
《ああ、預かっておくよ。君と楓の結婚資金としてね。ふふふふフフフフフフフフフ》
そんな幹夫の呟きは誰の耳にも聞こえなかった。
「ねえ、ヨコシマ」
「どうしたタマモ、何か用でもあるのか?」
漸く編入の準備が整って明日からバーベナ学園へと通う事になった横島が翌日の準備をしていると何やら神妙な表情をしたタマモが横島に宛がわれた部屋に入り、ベッドに腰掛けて話し出す。
「色々あってこの世界で暮らす事になったけど……ヨコシマは向こうの世界の事、どう考えてるの?」
向こうの世界。
言わずと知れたもう一つの故郷、GS世界の事である。
「どうも何も、今の俺達には帰るどころか連絡する手段も無いしな」
準備の手を止め、彼の世界の事を思い起こしながら呟く横島。
「それにこう言い方は何だが、あの世界は俺が居ない方が上手く回る気がする」
「ヨコシマは……、それでいいの?あんな奴等のせいでまるで追い出されたみたいに」
徐に立ち上がったタマモは横島の服を握り締め、その背中にコツンと額を当ててそう呟く。
「俺はあの世界が平穏であればそれでいい、それにな…」
「それに?」
「あの過激派連中には逆に同情してもいる。今頃老師や小竜姫様や……、美神さんの逆鱗に」
「あ~~~」
横島にそう言われ、タマモも想像してみた。
今までは全面戦争になる事を恐れて襲い掛かって来た時のみの反撃で済ませていたが横島があの世界から消された事で神魔の正規軍も本腰を入れるだろうし、何よりも神をも恐れぬ美神を本気で怒らせる事になったのだから。
「…自業自得だけど確かに可愛そうね」
「だろ?自業自得だけどな…」
余談ではあるが、正規軍が過激派の本拠地に乗り込もうとした際、既に美神達が先に乗り込んでいたらしく過激派連中は抵抗する所か逆に泣きながら投降して来たらしい。
その時の怒りの覇気を纏った美神はまるでドラゴンでさえも跨いで通る程であったとか……。
ー◇◆◇ー
「しっかし、魔法学園ねぇ」
「向こうの世界にはその手の学校は無かったのか?オカルトが浸透している世界なら魔法があってもおかしくは無いと思うが」
晩飯を食べながら呟く横島に稟は聞き返す。
「ああ、魔法はずっと昔に消え去った技術でな、今じゃ世界中に散らばっていた伝承などを掻き集めて復活させた魔鈴さんっていう女性しか使えないんだ」
「逆にこっちじゃ霊力なんて力は眉唾物だし、分からない物だな」
「霊力の使い方を教える学校は無かったの?」
「あったわよ。六道女学園っていう女性GSの養成学校が」
プリムラの疑問にはタマモが答える。
「今更だが、魔法も使えないのにそんな学校に通っても大丈夫なのか?」
「問題はないさ、魔法云々より三種族の交流が主目的な学校だからな。現に俺だって魔力は人並み以下で大した魔法は使えないからな」
「なら心配ないか」
「はい、タダくん。お茶」
「お、サンキュー」
横島の隣には楓が座り、ご飯のお代わりお茶の継ぎ足しなど絶妙のタイミングで行っていた。
ちなみにタマモは楓が作った稲荷寿司がご満悦らしく、ニコニコと舌鼓をうっていて気付いていない様だ。
(作戦通りってやつか。楓、恐ろしい奴)
「ん、稟くん。何か言った?」
「い、いや、別に何も」
稟は慌てて残りの飯をかき込み、決して目線を合わせ様とはしなかった。
何故なら眼が笑っていなかったから……、と言うより寧ろ嗤っていた。
ー◇◆◇ー
~翌日、楓目線~
「よし、準備完了」
出来上がった朝食をテーブルに並べると私はまだ眠っているタダくんを起こす為に彼の部屋に足を運ぶ。
コンコンッ
タダくんの部屋の扉をノックして部屋に入るとタダくんはまだ布団をかぶって寝ていた。
「タダくん、朝ですよ。起きて下さい」
ユサユサッ
私はそう言いながら布団に包まったタダくんを軽くゆする。
えへへ、何だか新婚さんみたいだな♪
「うう~ん」
「タダくん、起きて。タダ……」
モコッ
あれ?何だかお布団が盛り上がっている場所がある。
…え?あれって、もしかして…
「……え~と…」
モコッ
「…………(-_-;)」
モゾモゾ
「動いた!」
モコモコ
「あわわ。お、お布団から出ちゃう…」
ヒョコッ
「はうあっ!」
慌てて両手で目を覆い隠したけど、好奇心に負けてチラッと指の隙間から覗いて見たら……
布団の裾から狐の姿のタマモちゃんが顔を出していた。
『………』
「………」
『…おはよう…』
「…お、おはようございました……」
『何だと思った?』
「はわわ……」
「…エッチ……」
タマモちゃんは布団から出て人型になると私の傍に近づい来て、耳元でそう呟いて部屋を出て行った。
「うう~~。タ、タダくん!今日から学校です。早く起きてください!」
そう言って布団を剥ぎ取ると……
モコッ
「ひゃあああ~~~~~!」
パアアアーーーーーーーンッ!
「ぬあーーーーーーーーーーっ!」
―◇◆◇―
柔らかな日差しの中、一向は学園に行く為に歩いているが只一人、横島の頬には真っ赤な紅葉が刻まれていた。
「朝なんだからしょうがないじゃないか……」
「ううう~~、知りません!」
補完された世界の三人目の様に呟く横島を楓は頬を赤く染め、涙ぐみながら睨んでいた。
「稟様、お二人に何があったんですか?」
「聞かないでやってくれ」
「そ、そうですか……」
「はぁ…」
ネリネの疑問に答えながらも、力無く溜息を付く稟にシアが話しかける。
「どうしたの、稟くん?」
「いやな、これから学園で"樹が二人になる"かと思うと頭が痛くなって…」
「あはは……」
そう言われ、シアも横島と樹のツーショットを思い浮かべてみたが、やはり乾いた笑いしか出て来なかった。
「何、その樹って奴はそういう奴なの?」
神王達が手を回したらしく、プリムラと同じ学年に編入して一緒に通う事が出来たタマモが稟に尋ねる。
「ああ、そういうy…「稟ちゃん、おっはろーーー!」」
スパァーーーンッ!
「あ痛----っ!」
背後から走って来た亜沙が稟の背中を思いっきり平手で叩くと、小気味いい音が辺りに響いた。
「いたたたた…あ、亜沙先輩、おはようございます」
「なーに、稟ちゃん。朝からため息なんかついちゃって、幸せが逃げて行くよ?」
「今の背中への一撃で三割ほど飛んで行っちゃいましたがね…」
「まあまあ。細かい事は気にしな~い、気にしない。ところで見慣れない顔があるみt…「僕の名は横島忠夫。お美しい貴女のお名前は?」」
「わっ!ビ、ビックリした~。え~と、キミは誰?」
横島は何時もの如く亜沙の手を取って彼女を口説きを始めた。
タマモは何時もの事かと溜息を吐き、シアとネリネは(前は私の事)とでも思っているのか少しばかり剥れていた。
稟は「ははは」と笑いながら亜沙に横島達を紹介する。
「俺と楓と桜の幼馴染で浜菊…じゃ無かった、横島忠夫といいます。詳しい説明は後でしますけどこれからはこのタマモという娘と一緒に俺達と暮らす事になりました」
「一緒って、楓とも?」
「は、はい。タダくんと一緒です」
「ふ~ん、へ~え。"タダくん"か~~。稟ちゃんとそういう雰囲気じゃなかったと思ったらそういう事だったんだ」
「は、はい…」
亜沙は頬を赤らめた楓を横目で見ながらニヤニヤと笑い、横島に向き直ると笑顔で自己紹介する。
「よろしく、忠夫ちゃん。ボクは時雨亜沙、三年生だよ。そしてこっちが……」
「まままあ♪亜沙ちゃんてば稟さんという人が居るのにその方とそんな事を、まままあ♪」
「あ~、また始まった。とにかく、この娘はカレハ。ボクと同じ三年生、ちょっと…かなり妄想壁が強いけど、とてもいい子だから」
「は、はあ……」
「まままあ♪そんな、三人でだなんて。亜沙ちゃんてば、まままあ♪」
「どこまで行く気なの!いい加減帰って来なさーい!」
「ともかく急ぎましょう亜沙先輩。このままだと遅刻してしまいます」
「そうね、行くわよカレハ」
「はい、まいりましょう」
「……つかめない人ね…」
(横島忠夫……、忠夫。あれ?どっかで聞いた事がある様な…)
亜沙はそっと呟いた。
《続く》
次回予告
事件です事件です、事件なのですよ!
なんとあの、バーベナアイドルの頂点に君臨している楓に遂に恋人が?
激怒する「K K K」に狙われるその恋人とやらは生き残れるのか?
そしてその恋人はなんと私をナンパしてきた!?
おおお、遂に貧乳の時代が!!
《NEXT・第四話「激震!嵐のバーベナ学園!!」》
さあ、お祭りの始まりなのですよ!
(`・ω・)旧版、リメイク版を読み返して見ると、横島がGS世界の事をどう思っているのかという説明が何にも無い事に気付き、書き足しました。