『稟くん、タダくんの事嫌い?』
忠夫が転校して来て数日、稟は楓にそう聞かれてギョっとする。
幸いにも今の問い掛けは離れた場所でクラスメイトと話をしている忠夫には聞かれなかった。
『べ、べつにそんなワケじゃ…』
言いよどむがその目線はあちらこちらをウロウロしている。
『でも稟くん、タダくんと一度もお話したことないよね?』
そう、稟は未だ忠夫とは直接話をした事がない。
自己紹介の時も名前を言っただけだし、その他の話も楓や桜を跨いだものばかりだ。
忠夫自身も桜とはすぐに仲良くなれたが、稟とは彼が自分と関わろうとするのを避けている為に中々接点を持てないでいた。
『みんなで一緒に遊びたいのになぁ』
そんな風にしょんぼりする楓を見て気まずくなる稟ではあったが、やはり忠夫に対するわだかまりが邪魔をするのであった。
『まあ、そのうちにな』
『約束だよ』
そう言って忠夫の下へかけて行く楓の後姿を眺める稟。
(アイツは何も悪くない、それは分かっているのに。…何で、何が気に入らないんだ?)
稟は自分が何故忠夫を拒絶するのか、その理由には未だ気付けずにいた。
子供ゆえの、小さなプライドが邪魔をして。
第五話
「赤い夕日に想いを寄せて」
屋上で共に昼食をしていた横島とタマモは稟達の友達ならば隠しておく必要は無いと亜沙とカレハ、樹と麻弓に話せる範囲での詳しい説明をするのであった。
「え、忠夫ちゃんとタマモちゃんはこの世界の人間じゃないの?」
「はい。俺とタマモは平行世界を移動して来たんですよ」
「平行世界…、つまり二人は此処とは違う別の人界から来たって事ね」
「結構普通に信じてくれるんすね。平行世界なんて疑われると思ったんすけど」
「まあ、この人界の他に神界や魔界があるんだから別の人界があっても不思議じゃないしね。第一、稟ちゃんや楓達がそんなふざけた嘘を言う人と仲良くするとは思わないし」
行き成り、こんな荒唐無稽な事を言って変な奴だと思われるかなと思った横島だが、幸い亜沙達は少しも疑う事無く受け入れた。
「でも、別の世界から来た横島さんが稟さんや楓さんと知り合いというのはどういう事なんでしょう?」
「説明しようにもややこしいんですけど、俺は元々この世界に住んでたんです。けれどもある事故で向こうの世界に飛ばされてしまい、そして向こうでの事故が原因でタマモと一緒にこっちに帰って来た訳です」
「事故ってどんな?」
「それは、その~、何と言うか……」
「ああ、言いにくい事なら無理に言わなくてもいいのよ」
「すんません」
流石に過激派神魔族に襲われたなどと言えない為に口篭る横島に亜沙は気にしないと笑い返すと樹が聞いて来る。
「それで忠夫達が住んでいたっていうのはどんな世界なんだい?」
「人界自体は基本的には此方側と余り変わりは無いな。違いがあるとすればGS関連かな」
「ゴーストスイーパー?何、それ」
「解り易く訳してみると『退魔師』…でしょうか?」
「そうよ、ヨコシマは正式な国家資格を持つGSなのよ」
そう言って亜沙達には稟達と同じ範囲の説明をしておいた。
「国家資格か。なら給料もかなり貰ってたんじゃ…、どうしたんだい忠夫?」
「よ、横島くん?」
樹が給料の話をしだした途端に俯き、膝を抱えながら肩を震わせている横島の頭撫でつつタマモは説明する。
「GSの資格を持っていると言ってもヨコシマはバイトで見習い扱いだったから。それに雇い主で師匠の美神って女はかなりガメつくて時給も255円しか出さなかったからね」
「にっ、にひゃくご……」
余りにも非常識な時給の低さに樹だけでは無く、稟や桜達も唖然としている。
「何でそんなバイトを?」
「親父が仕事でヘマをしてナルニアに左遷されてな。お袋は俺も一緒に連れて行くつもりだったんだが頑として断った代わりに最低限の仕送りしかしてくれないって言うからバイトを探している時に色香に迷って……」
「そこは自業自得だと思うけど255円って…。よく生きていられたわね、忠夫ちゃん」
「まあ、事務所にいる時の食事はタダで食わせてもらえたし」
「おキヌちゃんも時々食事を作りに来てくれたしね」
「そー言うお前は買い置きのカップうどんをよく盗み食いしてたな」
「細かい事はいいじゃない」
そんな言い合いをする二人を稟達三人は自分達の知らない忠夫を知っているタマモを羨ましそうに見つめる。
「そう言えば忠夫は”人界”と言ってたが向こうにも魔界や神界もあるのかい?」
「あるぞ。まあ、こっち側とは全くの別物だけどな」
「別物ってどんな風に?」
樹の疑問に横島が答えると亜沙はどう違うのかと聞いて来る。
「こっちの神界と魔界は人界とは違う世界で神族と魔族も其々の世界の人間なんだろ」
「うん。カレハとシアちゃんは神族でリンちゃんは魔族だし」
「ちなみに私は人族と魔族のハーフなのですよ」
「対して向こう側では文字通りの神族であり魔族だって事だ」
「…それってつまり、神王様や魔王様とは違う本物の神様や悪魔などが本当に居るって事?」
「居るっス」
「居るわね」
平然に答える横島とタマモ、そして事前に聞いている稟達とは違い、樹や麻弓達は唖然としている。
当然であろう、開門以前の御伽噺や神話が向こう側では実在しているというのだから。
「ひょっとして実際に会ったりしてるとか……」
「うん、神族の駐留所であり、修行所でもある妙神山には竜神の少竜姫様が居るし、一応俺は孫悟空の弟子だし」
「「「「孫悟空!?」」」」
「って、あのか~め~は~」
「麻弓ちゃん、そのネタ私がやちゃった…」
例のポーズを取ろうとする麻弓とすでにやったと告白するシア。
周りの視線に晒された二人、どちらも顔が真っ赤なのは言うまでもない。
「で、忠夫。向こう側の神界と魔界の関係はやはりこっちとは違うのかい?」
「まあな。向こうでは神族と魔族は明確に聖と邪に分かれていて対立してるんだ。もっとも今はハルマゲドンを回避するためのデタントが進んでいて表立った対立は少なくなっているがな」
そこまで言うとシアとネリネは辛そうな顔をした。
「そう言えば向こうの神族と魔族は敵対してるんだったよね」
「残念です」
「だ、大丈夫大丈夫。全部が全部対立してるわけじゃないから。実際に俺の友達には神族も魔族も両方いるし」
「敵対勢力同士なのにお互いの友達が忠夫にはいるのかい?」
「ヨコシマは基本的に種族に垣根を作らないのよ。完全な敵じゃない限りは魔族だろうが妖怪だろうが差別せずに同じ目線で接してくれるのよ」
「接して
「あ、そうか。麻弓達には言ってなかったけど私は妖怪なのよ、それも最強の妖狐として名高い金毛白面九尾の妖狐よ」
「えーーっ!? あの九尾の狐なのタマモちゃんは?」
その事に驚く亜沙達だが横島は慌てずに説明をする。
「九尾の狐が邪悪だっていうのはただのでっち上げなんだよ。本当は身を守る為に時の権力者に身を寄せて居ただけなんだ。それを時の陰陽師達が妖怪だというだけで邪悪と決めつけて追いやったんだ」
「そうなんだ、じゃあ何の問題もないね。これからもよろしくね、タマモちゃん」
「私もよろしくお願いしますねタマモさん」
「俺様は美女と美少女の味方だからね、俺様もよろしく」
「私も友達だからね、よろしくなのですよ」
「良かったな、タマモ」
そう言って忠夫はタマモの頭を優しく撫でた。
「うん…ありがとう……」
「「「見つけたぞ!我等が怨敵、横島忠夫!」」」
其処にやって来たのは『KKK』と『PPP』。
増援を募ったのか、更に人数が増えていた。
「ええ~い!しつこい奴らめ」
「「「逃がすなーー!!」」」
横島は残っていた弁当を勢い良く搔き込むとすぐさまその場を逃げ出し、男共もその後を追って屋上から姿を消す。
「懲りない奴らね」
「平和だな~~」
稟はコップに注がれたお茶を飲みながら青空を見上げてそっと呟く。
「土見くん、オヤジ臭~い」
「あはは……」
「無理ないっスね~」
「そういえばシアとネリネは稟の婚約者候補って本当なの?」
「はい、本当ですよ」
「えへへ、照れるっス」
そんな風に照れる二人を横目に
(私もいつかは)
と、桜は呟き
「世の中間違っている」
と樹は不貞腐れていた。
「ひがまないひがまない」
「そうか、良かった。とりあえず二人は恋敵にはならないのね」
「忠夫ちゃんはモテてたの?」
亜沙のそんな疑問にタマモは溜息を付きながら遠い眼をして応えた。
「ヨコシマに想いを寄せているのは人・神・魔・妖、種族に関係なく沢山いたわ。ただ、ヨコシマは基本女好きのスケベなクセに女性から自分に純粋に向けられる好意にはとことん鈍感なのよ」
「へ~忠夫がね。でもせっかくの好意に気付かないなんて、何だかその娘達が可哀想だな」
稟はそう言うのだが……
《お前がそれを言うな!》
タマモを除いた皆の心が一つになった瞬間であった。
「横島くんに恋人は居なかったの?」
(( !! ))
麻弓がそう聞くと、タマモと楓はまるで心臓を握り締められたかの様な衝撃を胸に受ける。
「さ、さあ。居るには居たらしいんだけど皆そのへんは詳しく教えてくれなかったのよ。(悪いけど今はあなた達に教える事は出来ないわ)」
(タダくんには……ルシオラさんが。…たぶん今も心の中に…)
「な、何か変な事聞いちゃったかな?」
麻弓がそう言った瞬間、校舎の外から横島の声が響き渡った。
『平安京エイリアンの術ーー!』
『あ、秋葉掘りだとーーっ!?』
「「「………はぁ~…」」」
彼等の周りにひゅ~~と風が舞い、空には「アホー、アホー」とカラスが鳴いていた。
【※秋葉掘り>十字路の四方向に穴を掘ってエイリアンを待ち受ける技】
―◇◆◇―
そして放課後、せっかくだから皆で帰ろうという事になり横島達は亜沙達の部活が終わるのを屋上で待っていた。
「お待たせーー」
「お疲れ様です」
「う~~ん、いい風」
外を眺めると空は夕焼けに染まっていて、そんな夕焼けを女性陣は手すりに掴まりながら眺めている。
「うわ~~、空が真っ赤っか。すごい夕焼け」
「何で夕焼けってこんなに綺麗なのかな?」
「……昼と夜の間の一瞬の隙間、短い間しか見れないから余計に綺麗…なんだってさ…」
シアのそんな疑問に横島の口からは“あの言葉”が零れていた。
「ひゃ~~、忠夫ちゃんてばロマンチストなんだかr……、忠夫ちゃん?」
「ど、どうしたの、忠夫くん?」
「えっ、何が?」
「忠夫、泣いてる」
プリムラにそう言われ、横島は頬に手をやると自分が涙を流している事に気付いた。
「あれ、ははは…いや、何でも……何でもないんだ…」
「また紅葉さんの事思い出したのか?」
「いや、違うんだ…ただ、ううう」
「ヨコシマ…」
(タダくん、やっぱり傷は癒えてないんですね。そこまでルシオラさんの事が……)
亜沙は涙を堪えている横島の肩を優しく抱いてそっと言った。
「ねえ、忠夫ちゃん。何がそんなに悲しいのかは分からないし聞く気もないよ。けど泣きたいんだったら思い切り泣いちゃいなよ。大丈夫、此処に居る皆は笑ったりなんかしないから。…だから安心して泣いていいんだよ」
「うう、お、俺は…うわああ……、うわあああああーー!」
堪え切れなくなったのか、横島は優しく抱いてくれる亜沙の肩に顔を埋め、声を上げて泣き出した。
(ルシオラ、この世界の夕日も優しくて綺麗だ。俺はもう一度お前と夕日が見たい……もう一度、お前と見たかった。でもそれはもう…叶わない……)
横島は恋人を想って泣いた。
今生ではもう会えない、会う事が叶わなくなった……蛍の少女を想って……
《続く》
次回予告
ちゃらっちゃー←北斗な予告のノリ。
「横島の前に立ちはだかる漢達、彼らは闘う、己が信念の為に。
たとえ報われぬ想いだとしても誓いを共にした仲間達が居る限り。
次回「さぁらぶぁTTT、うぉとぅくぉたちのぬぁみだはいちどだくぇええ!(CV・千葉繁)
親衛隊の掟は俺達が守る」
(`・ω・)と、言う訳で次回は閑話的なノリです。