交通事故で楓の母ちゃんと稟の父ちゃんと母ちゃんが死んでしまった。
風邪で寝込んだ楓を心配した紅葉母ちゃんが急いで帰ろうとして事故を起こしたらしい。
稟はひどく落ち込んで泣いている。
楓はまだよく理解してないみたいで、ただボーゼンとしている。
紅葉母ちゃんたちの葬式で母ちゃんが死んだことをやっと理解した楓はそのまま倒れてしまった。
その後はただ寝たまんまで何を言っても答えてくれなかった。
病院のセンセーとおじちゃんとの話を立ち聞きしてたら楓には生きる目的が必要らしい。
一緒に立ち聞きしていた稟が何かを考えてたが俺にはそれが何か分かってしまった。
だから俺が先にすることにした、稟も父ちゃんと母ちゃんが死んだばかりで辛いんだからやらせるわけにはいかない。
俺には父ちゃんと母ちゃんがいないからガマンは慣れてる、大丈夫だ、ガマンできる。
病室に入ると楓はベッドの中で虚ろな目をして横になっていた。
誰が何を言っても反応しない。
大好きなチョコの匂いを嗅がせてもピクリともしない。
でもこれならきっと反応する、楓は帰って来る、笑ってくれるようになる。
たぶん俺はその笑顔は見れない。
それでもいい、約束したんだ紅葉母ちゃんと。
楓を…守るって……
そして俺は楓に最初で最後の嘘をつく………
第八話「二人で奏でる天子の鐘」
『これが今の私の本当の姿』
それは彼の声ではなく、何故か二人の女性の声が重なっているように聞こえた。
「本当の…姿?」
『うん、ネリネちゃんの中にリコリスちゃんが居るように、私の中にも…ルシオラが居る』
「横島さまの…中に?」
そして彼は語り始めた。辛く、哀しい思い出を。
『私は一度死んでいるの、その私を自らの命と引き換えに助けてくれたのが魔族の女性、ルシオラ』
「・・・・」
『私が居た世界は神魔が争ってるって言ったよね。数ヶ月前にある闘いが起こったの、『魔神大戦』と呼ばれる闘いが』
「魔神大戦…ですか、それはどのような?」
『魔界六魔王の一柱が人界に攻め込んで来た。その名はアシュタロス』
その名前に私は愕然とした。
「ソ、ソロモン七十二柱の一柱。でもそれはただの物語で実在したという記録は何処にも…」
『此処では物語かもしれないけど私達の世界には実在したの。アシュタロスはまず108ある冥界のチャンネルを破壊して最上級神魔を人界に来れなくした。その為アシュタロスとは人間と僅かに人界に残っていた神魔が闘わなくてはならなくなった。そんな中で私は出会った、アシュタロスに造られた人造魔族ルシオラ、ベスパ、パピリオの三姉妹に』
話を聞きながら私はさっきまでの怒りが消えている事に気がついた。
たぶん、彼の瞳から流れる悲しいまでに澄んだ涙を見たから。
『最初は唯の敵同士だった、でもスパイとして彼女達の中に潜り込んで行動を共にしているうちにいつの間にか好きあうようになっていた。だから私は決心した、アシュタロスを倒して彼女達を解放すると。…詳しい経緯は省くけど一旦は奴を退けて暫くの間は平穏な日々が続いた、でも結局闘いは再び始まってしまった。彼女を庇って攻撃を受けた私は霊気構造の殆んどを破壊され、ルシオラはそんな私の失われた霊気構造を自分の物で補い、そしてルシオラは消えていった…私の代わりに…』
私と同じ…
『笑い話にもならないわ、助ける為の行動が逆に命を奪う結果になったんだから…』
いえ、私なんかよりずっと…
『助ける方法は一つだけあった、でもそれには途方もない犠牲が必要で彼女もそれを望まなかった。ルシオラは何よりも夕陽が好きだった、昼と夜の間の一瞬の隙間に見れる幻想的な風景が。……約束…したんだよ…、もう一度一緒に見ようって…』
「横島さま…だからあの時…」
『ルシオラの魂は私の中で眠っていた、本当は私の子供として転生するはずだった。でもルシオラから譲り受けた霊気構造に含まれていた魔族因子が暴走して私の体は崩壊し始めた。知り合いの神族から神族因子を注入する事で事なきを得たけど神・魔・人、それぞれの因子を同時に持つ事で私は三界で唯一の存在『神魔人』になった、これがその姿。そしてルシオラと私の魂も融合してしまい、今生でのルシオラの転生は不可能になった、だから今度会えるのは生まれ変わった来世』
「そうなの…ですか…」
『最初はただ泣いてばかりだった。一人で後悔ばかりして、心配してくれてる皆の事なんか考えもしなかった』
「私も、そうでした」
『でも気付いた、ルシオラはそんな事望んでないって、ルシオラが望んでたのは私が私で居ることだって。ねえネリネちゃん、リコリスちゃんもそうだったんじゃない?』
私は雷に打たれた様な気がした。その通りだ、リコリスは…あの娘は…
「リコリス、リコリス…私は…」
私はただ泣いた、瞳からは熱い涙が止めどなく流れていた。
横島さまはそんな私の肩を優しく抱いてくれた。
『もう大丈夫だね』
そう言うと彼は【封】と刻まれている緑色の珠を取りだし、先程と同じ様にブレスレットの窪みにはめ込むと光と共に元の姿に戻っていた。
「横島さま…あの…」
「この事はお互いに内緒にしとこうね」
「はい、ありがとうございます横島さま。私はもう迷いません」
「うん、じゃあ俺は先に帰るから」
横島さまは背を向け手を振りながら帰って行った。
あの人はどれだけ悲しかったのだろう。愛する人を失い、その命で生き長らえた事が。
あの人はどれだけ辛かったのだろう。愛する人と会えなくなった事が。
それでもあの人は笑っている。それでもあの人は歩いている、前に向かって。
なら私も笑おう、そして私も歩こう、皆と。
そしてあの人と一緒に…いいよね、リコリス。
そう心の中で思うと何処からか懐かしい声が聞こえて来た。
クスッ、いいよ
「…えっ?」
リンが幸せなら私も幸せなんだから
「リコ……リス?」
なぁに、リン?
「あ、ああ、居たんだ、こんな所に、こんなに近くに…」
やっと気付いた?
「ごめんね…ごめんね、リコリス、私」
いいってば、稟くんへの想いは私の想い
そしてリンの想いはリンの想い、だったら大事にしなくちゃ
「ありがとう、リコリス」
それより歌おうよリン、久しぶりに!
「うん、歌おうリコリス。思いっきり!」
~♪』
「ん?」
~~♪~~♪~~♪』
横島が石段を下りていると再び聞こえて来たネリネの歌声に耳を傾けているとタマモが抱き付いて来た。
「おつかれさま、ヨコシマ」
「覗きとは悪趣味だな」
「何言ってるのよ。自分だって散々美神のシャワーを覗いていたくせに」
「そ、それは…」
「はいはい、さあ帰りましょ」
タマモは横島の腕にしがみつき、引っ張るように歩いて行く。
(ネリネが元気になったのはいいけど…まずいわね、おそらく…多分…絶対…)
魔王邸
「パパ、ネリネちゃんが」
「ああ、聞こえるね」
神王邸
「お父さん!」
「ネリっこの歌か。何年ぶりかな」
芙蓉邸
「ネリネ…リコリスお姉ちゃん……」
「綺麗な歌声」
(やったな、忠夫)
その日、久しぶりに鐘は鳴り響いた。
夕陽に染まる街に、二人が奏でる天使の鐘が…
-◇◆◇-
そして翌日。
約束などはしてなかったが、芙蓉邸の前には仲間達が集まっていた。
「お早う、稟くん、みんな」
「ああ、お早う」
「お早う、シアちゃん」
「お早うございます」
「お早う」
「お早う、どうでもいいけど私達はついでっぽいわね」
「あはは…」
そんな風に朝の挨拶を交わしていると後ろから声が聞こえて来た。
「お、お早う、ございます…」
みんなが振り向くと其処にはネリネが申し訳なさそうな顔をして立っていた。
「ネリネさん、お早うございます。もう具合は良いんですか?」
「はい、心配をおかけしてすみません」
「リンちゃーーーーーーーーん!!」
ネリネの顔を見たシアは涙を浮かべながらネリネに抱きついた。
「シ、シアちゃん」
「心配したんだよ、とぉーーっても心配したんだよ」
「御免なさい、もう大丈夫です」
「ネリネ」
プリムラがネリネの服を引っ張る。
「リムちゃん?」
「リコリスお姉ちゃんとの歌、綺麗だった」
「ありがとう、リムちゃん」
ネリネが笑顔でプリムラの頭を撫でていると近づいて来た横島がネリネに挨拶をする。
「お早う、ネリネちゃん」
「はい、おはy・・・・・・・
「ネリネちゃん?」
何やら固まってしまったネリネの顔を横島が覗き込むと…
ボフンッ!!
横島を見たとたん固まっていたネリネだが、覗き込んでいるその顔に気付くとすぐに顔は耳まで真っ赤になり頭からは湯気を出していた。
「ピクッ」
と、楓は反応し、
「えっ?」
と、シアは何があったのかと首を傾げ、
「おお」ポンッ
とプリムラは手を撃ち、
「はぁ…」
と、タマモは肩を落しながら溜息を付き、
「なるほどな」
と、稟は状況を理解する。
自分の事は鈍感だが、他人の事には敏感らしい。
「え~と、ネリネちゃん?」
「は、はひっ!おはやうございましゅ!た、忠夫さま」
「た、忠夫さま?」
ポン
肩を叩かれた横島が振り向いてみると、
「お早う、忠夫ちゃん♪」
満面の笑みを浮かべたフォーベシイとネリネの母親セージが居た。
「お、お早う、おじさん…」
「やだなーー、そんな他人行儀な。さあ、遠慮なくパパとお呼び!」
「じゃあ、私はママで♪」
「……えええーーーー!?」
「…覚悟はしてたけどやっぱりこうなっちゃったかぁ」
楓は驚きの声を上げ、タマモは諦めの境地に居た。
「リンちゃん」
「シアちゃん、私…」
ネリネは申し訳なさそうな顔をしていたがシアはにこやかに笑いながら言った。
「それがリンちゃんの気持ちなら私から言う事は何も無いよ。私は応援するからね」
「ありがとう、シアちゃん」
笑顔で手を握り合う二人ではあったが……
(よしっ!!
ちょっと黒いシアであった。
楓とタマモは、
(ネリネちゃんが元気になったのは嬉しいです)
(ネリネは大切な友達だしダメって訳でもないわ)
(でも)
(でも)
《あの胸だけは敵よ(です)!》
二つの意味での巨大な敵の誕生を恐れていた。
ポン
そんな中、神王は稟の肩を叩きながら言った。
「いや~、お互いにいい後継者が出来たな、まー坊!」
「へ?」
「そうだね神ちゃん。お互いにいい老後が迎えられそうで何よりだよ」
「な、何じゃそりゃ?」
「おや?ひょっとして忠夫ちゃんはネリネちゃんじゃ不服なのかい」
「そ、そうなんですか忠夫さま?」
ネリネは瞳を潤ませながら横島を上目使いで見つめて来る。
「いや、そういう訳じゃなく」
「ちなみにネリネちゃんと結婚すれば魔王の座だけじゃなくこのネリネちゃんの豊満なバストも忠夫ちゃんの物だよ」
「い、いやですわ、お父様ったら…でも、忠夫さまなら」
「マ、マジッスかっ!?」
横島は憤ったが、
ポン
肩を叩かれ振り向いて見ると
「ちょっと向こうでO・HA・NA・SIしましょうか?」
「カ、カエデサン…」
「さあ、逝きましょう」
「いやーー!堪忍やーー!ただの出来心なんやーー!」
「いいから来なさい」
「稟ーー!助けんかーい!」
横島は病楓とタマモに引きずられながら稟に助けを求めるが、稟はそれに答えずただ胸で十字を切っていた。
\おーぼーえーてー/
(病)(;゚Д゚)(タ)==ズルズル
\ろーよー/
=|Д|=ギイィィィィ
\アー/
=|=ガッシャァーーンッ
病楓とタマモに引きずられた横島は芙蓉邸の扉の向こう側に消えて行った。
「さあ、急がないと遅刻だぞ」
「そ、そっスね……」
「忠夫さまは大丈夫なんですか?」
「大丈夫、忠夫なら多分死なない」
「た、多分って…」
その日、バーベナ学園は紅く染まったという。RRRの血の涙によって…
同時刻、GS世界の横島の部屋から回収された巨乳物のお宝は小隆…もとい、小竜姫やおキヌ達の手によって炎の中へと消えていったといふ。
《続く》
キャラ設定4
《横島忠夫(神魔人形体1)》
横島は物語の中での説明通りに三種族の因子を同時に持つ事で三界に唯一の存在、
外見のイメージとしては単行本36巻リポート6「マイ・フェア・レディ!!」で女性化した時の姿に翼を加えた感じで今回は魔力封じの宝具の力を一時的に弱めて姿だけを解放した。
この状態では中身は横島のままではあるが、口調だけは女性の物になってしまう。
精神も若干女性寄りになり、女性の体を利用しての覗きやセクハラなどはしようとしない。
ちなみにバストのサイズはネリネ並み。
神魔人形体での女性化にはきちんとした理由があり、決して“乱の趣味”だけが理由ではありません。
《ネリネ》
魔界の王、フォーベシィの一人娘であり魔界の姫。
生まれついての強力な魔力の為体が弱く、幼い頃よりほぼベットの中で過ごしていた。
自分のクローンであるリコリスとは実の姉妹同然に仲良くしていた。
自分の代わりに人界に行って帰って来た時に稟と遊んだ話を聞いていて、その後彼女との融合の際に稟への想いを知り彼女の代わりに稟を愛する事を決めた。
(ネリネ自身にも稟に対する淡い想いがあったのは確か)
自分より遥かに辛く、苦しい思いをしている横島がそれでも笑い、前に歩こうとしている姿を見て横島を強く想うようになる。
横島への呼び方は「横島さま」→「忠夫さま」(稟へは稟さまのまま)
《リコリス》
蘇生魔法の研究の為に生み出された人工生命体の二号体でネリネのクローン。
ネリネの代わりに人界に行った際、稟に出会い彼に恋をする。
nerineの名前の中にrinを見つけてネリネの事をリンと呼び、自分の寿命が尽きかけている時遂にネリネの体が限界を超え、自分との融合で彼女の命を救う決心をする。
完全に消えたわけではなく、残留思念の形で今もネリネと共に居る。
《フォーベシィ》
ネリネの父親で魔界の王。神界の王ユーストマとは子供の頃からの大心友。(誤字にあらず)何よりもネリネが大事でそっけない態度を取られただけでもこの世の終わりのように泣きじゃくる。ネリネの想いが横島に変わっても慌てる事無く横島を後継者として認める。
愛称は「まー坊」個人的には「フォっちゃん」
横島への呼び方は「忠夫ちゃん」
セージはまた今度
《次回予告》
君達に最新情報を公開しよう。
バーベナ名物のクラス対抗祭、我がクラスが行うのは喫茶店。
生半可な企画では勝利は掴めない。
だが心配は無い。何故ならば我々には天使が居るからだ。
そう、「天使」が…
だから二人共、逃げても無駄だ!
《NEXT・第九話「男と女の狭間」》に閲覧予約承認!
これが勝利の鍵だ!
【縞々】
(cv・小林清志)
(`・ω・)痛み、胸の奥に秘めて。