G×S!夕陽が紡ぐ世界   作:乱A

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(`・ω・)副題の中にある「君の名は」ですが、ツッコまれる前に言っておくとこの話の旧版は2010年6月15日にブログとTIMAMIにうpしました。
一応念の為。


第十一話「たった一つの物、君の名は…」

 

 

曇り空の下、一人の少女は其処にいた。

 

 

初めての恋が始まった場所、幸せな思い出が詰まった場所。

友達と一緒に遊んだ場所、彼が消えた場所。

 

 

アイツはお母さんを殺した。

 

     違う!タダくんはそんな事しない

 

アイツのせいでお母さんはいなくなった。

 

     違う!タダくんのせいじゃない

 

だからこれは天罰だ。

 

     違う!タダくんは罰を受けるような人じゃない

 

神様がもう会えない所に連れて行ってくれたんだ。

 

     嫌!そんなの嫌だ!タダくんに会いたいよ…

 

サヨナラ、タダオ……

 

     嫌ーーっ!さよならなんて嫌だーー!タダくん!タダくーーん!

 

 

魔力爆弾の暴発事故により忠夫が消えた空き地、それは皮肉にも忠夫と楓が初めて出会った場所でもあった。

 

少女は一人で思い出の木を見上げていた。

虚ろな目をして、だが心の中では涙を流しながら……

 

少女は一人であり、二人でもあった。

 

嘘を信じた楓と、嘘を信じなかった楓。

 

彼女もまた、人知れず苦しんでいた。

 

 

 

第十一話「たった一つの物、君の名は…」

 

 

シアも翌日からは何時もの様子に戻り、その後も数日間は何事も無く過ぎていった。

そんなある日、街中を歩いていると稟は誰かに呼び止められた。

 

「稟」

 

それは塀の上に座っているシアだった。

だが、その目は何時もより少しきつめで何処となく睨みつけてる様でもある。

 

「シア?……いや、違うな。……キミは誰だ?」

「やっぱり稟には解っちゃうんだ。嬉しい反面寂しくもあるな」

「はぐらかさないでくれ」

「そうね、あえて言うならもう一人のシア。…裏シアってところね」

「裏シア?」

 

裏シアと名のった少女は塀から降りると道の向こうを指さしながら言う。

 

「此処じゃ何だから別の場所で話さない?」

「そうだな…行こう」

 

 

 

稟と裏シアは噴水のある大きな公園へとやって来たが不思議な事にそこには誰一人としていなかった。

遊びまわる子供達も、ベンチでまどろむ老人達も誰一人。

 

「結構聞かれたくない話をするからね。人払いの結界を張っといたんだ」

「それで話って?」

「ねえ稟、此処を覚えている?此処で遊んだ事を」

「え?遊んだって…もしかしてシアと初めて会った時の事か。でも俺と遊んだのはシアで…」

「私なの!確かに稟と初めて会ったのはシアよ。でも…でも此処で稟と遊んだのは私なのよ」

 

裏シアは涙を流しながらそう叫んだ。

 

「私とシアは本当は双子として生まれてくる筈だった。でも生まれて来たのは一人だけ……表のシアと裏の私、二人は一つになって一人として生まれて来た…」

「裏と表?」

「それだけならよかった、今まで無かった事じゃないし何の問題も無かった……。問題なのは…シアが神族で、私が…魔族だった事…」

「ま、魔族…?」

「そうよ!シアは神族として生まれ、私は魔族として生まれて来た」

「それが何の問題なんだ?サイネリアさんは魔族なんだろ、だったら…」

「分かって無い…、稟は何も分かって無い!」

 

続きの言葉を言おうとした稟を裏シアは突き飛ばして叫ぶ。

 

「神界の王家の第一子に魔族が生まれると言う事がどういう事なのか。双子として生まれたのなら私を次女にする事で何とかなったのかもしれない。でも同じ体を共有すると言う事は私も長女、嫡子と言う事なのよ……魔族が神界の王家の嫡子だなんて認められる訳無いでしょ!!」

 

稟は答える事が出来なかった。否、答えるべき言葉が無かった。

 

「プールでの皆の反応を見たでしょ、皆が皆シアじゃ無いと言う。変だって……、私はただ私として普通に接しただけ、シアの真似じゃ無く私として行動したのよ。シアの姿だからと言われればそれまでだけど私が否定されたのは確かよ。稟に分かる?誰にも望まれない、誰にも愛されない私の気持ちが…私の存在なんか誰も望んでないのよっ!!」

 

     そんな事無い!!

 

「シア?」

 

何処からか聞こえて来る声、それが裏シアの精神の中に居るシアだという事を稟は自然に理解した。

 

「…何がよ…お父さんだって、お母さんだって私の事守ってくれなかったじゃない!!」

 

     でも、私はあなたがいてくれてよかった。

     私だってずっと一人ぼっちだったもん!!

     外にも出れず、お友達だって作れなかった。

     でもあなたが、もう一人の私がいたから寂しくなかった!!

     何時だってお喋りして、笑いあって……

     全部…全部嘘だったの!?

 

「そんな訳無いじゃない!!私だってシアがいたから……でも、でも、もう嫌なの!!誰も私を見ていない、皆シアだけを見ている。もう…辛いのよ……」

 

そうして裏シアの気配は消えていく。

 

     待って、待ってよ。どうするの?何をするつもり?

 

「シアの傍には稟がいるんだもん。もう私はいらないよね、もう、わた…しは…」

 

     待ってよ!嫌だよ…待って……

 

「待ってーーーーっ!!」

 

裏シアの気配が消えると同時にシアの意識が体に戻って来た。

 

「シア……」

「う、うう、うええ~~ん。り、稟く~~ん。うわああ~~~~~んっ!!」

 

シアは稟の胸の中に飛び込んで泣きじゃくり、稟もそんなシアの肩を抱いてやることしか出来なかった。

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

それから稟は泣き続けるシアを家まで送ってやり、彼女を母親達に任せるとユーストマに話を聞く事にした。

 

「そうか、聞いちまったんだな稟殿。二人の事を」

「今更はぐらかす様なまねはやめて下さいよ」

「……情けねえ親だよな。自分の娘を護る事さえ……助けてやる事さえ出来なかったんだからよ」

「おじさんは神界の王なんでしょ、何とかならなかったんですか?」

「出来るもんならとっくの昔にやってらあ!!…す、すまねえ」

「いえ…俺の方こそおじさんの気持ちも考えずにすみません」

「なあ、稟殿。神界の王と言ったがな、神界の王だからこそなんだよ。王だからこそくだらねえしがらみがついて回るんだ。魔族のサイネリアとの結婚でさえかなりの無理をごり押ししたんだ。中にはシアを王家から放逐しろという意見すら出たほどだ、シアを守るためには裏シアの存在を無かった事にするしかなかったんだ。俺がシアを溺愛するのも二人分の愛情を込めているつもりなんだ。…まあ、言い訳にしかならねえけどな」

「方法は…本当に方法は何も無いんでしょうか?」

 

「無い事も無い」

 

そこに横島が話に割り込んできた。

 

「…忠夫」

「聞かれちまった事はしょうがねぇけどな。だがな忠夫殿、無い事も無いってのはどういう事なんでぇ」

「要するに二人が一人になっているから問題なんでしょう。つまり二人に分かれる事が出来れば問題も無くなる筈」

「理屈で言やあそう言う事だけどよ、どうやるんだ?分離させる方法なんて…」

「言ったでしょう、無い事も無いと」

「つまり言いかえれば方法はあると言う事なのか!」

 

稟はそう言うと横島に掴みかかる。

 

「ど、どうするんだ?教えてくれ忠夫!俺に出来る事なら何でもする!!」

「お、落ち着け稟!出来る事ならと言うより稟にしか出来ない」

「稟殿にしか?」

「そうですよ。考えても見ろ稟、何で「あの娘」はお前の前に出て来た?「あの娘」は自分の存在が認められていないと言ってたんだろ。なら、わざわざ出て来たって辛い思いをするだけだってのは分かってた筈だ。「あの娘」は稟、お前に助けを求めていたんじゃないのか?俺はそう思う」

「……確かにな。自分の存在を稟殿に明かしたって辛い思いをするってのは分かってた筈だからな」

「だったら俺はどうすればいい?俺は魔法なんかつかえないし、何の力も無いのに」

「お前がする事は「あの娘」を助ける事だ。今のままじゃ分離しようとしても失敗するのは目に見えている。「あの娘」を助ける事が出来るのはお前だけだ、「あの娘」を助けて来い稟。そうすれば後は俺が助けてやる」

「俺が裏シア……「あの娘」を……そうかっ!!」

 

ようやく稟は横島の言いまわしに気付いた様だ。

 

「そ、それとな、稟…」

「どうした忠夫?」

「…いくら中身が男だといってもいい加減、恥ずかしいんだがな」

 

何時の間にか横島の腕を掴んでいた筈の稟の手はその胸倉を掴んでいた。

 

「うわぁっ!!」

 

たゆんっ

 

 

-◇◆◇-

 

 

次の日の夕方、稟はシアをあの公園に呼び出していた。

 

「…稟くん、用事って何?」

「裏シア…いや、違う。あの娘を、シアの妹を助けるんだ」

「稟くん…でもどうやって?お父さんやお母さん達だってどうにも出来なかったんだよ。それにあの娘は心の中に閉じこもっちゃった…いくら呼んでも応えてくれないのに…」

 

稟はそんなシアの肩を優しく抱いて「彼女」に話しかける。

 

「稟くん?」

「聞こえてるんだろ、俺も色々と思い出してみた。あの日は丁度忠夫が消えた日だったんだ。だから詳しい思い出なんかは吹っ飛んでいた。でも完全に忘れた訳じゃない、確かに覚えていた。道端に不安そうに座っていたシア、手を繋ぎ話ながら歩いているとだんだんと笑顔になっていったシア、そしてこの公園でそれまでとは打って変わった様に笑いながらはしゃぎ回っていた『君』。そう、確かに君は此処にいた。シーソーに乗って、ブランコに乗って、滑り台じゃ降り損なって顔中砂だらけになったよな」

 

一つ、また一つと、稟が思い出を話しているとシアの目から涙が零れてくる。

 

「…り、稟…覚えて……覚えていてくれたんだ…」

「ああ、忘れていてゴメン。でも君だってシアとしか名のってくれなかったじゃないか」

「仕方ないじゃない、私には名前なんか無いんだから」

「そうだな、仕方なかったよな。ゴメン、『キキョウ』」

「…えっ?……キキョウ?」

「そう、君の名だ『キキョウ』。これは君の、君だけの名前だよ」

「私の…私だけの名前…」

「此処に居て良い証、存在して良い証、その為の名前、それが『キキョウ』。これで君は一人の女の子だ、だから此処に居てくれ」

 

そして稟はキキョウを優しく抱きしめる。

キキョウも稟の胸の中で零れ続ける涙を止めようともせずただその胸にしがみ付いていた。

 

「…稟、稟…稟、稟、稟ーーーーっ!!」

「何だ?キキョウ」

「ありがとう、ありがとう」

  

     稟くん…ありがとう。よかったね、キキョウちゃん。

 

 

 

何時の間にか夕陽も沈み、空には星が瞬き始めていた。

こうして、裏の存在でしかなかった彼女は、名前を得て一人の女の子になった。

望む事さえ忘れていたたった一つの名前、キキョウを得て。

 

《続く》

 

 

次回予告

 

キキョウという名前を得た一人の少女。

約束を守った稟に応え、横島もまた約束を守る。

一人の姉妹を二人に戻す為に。

 

《NEXT・第十一話「神魔分離」》

 

そして見せる、真の姿を

 

 




(`・ω・)原作とは違い、消える事を選んだのはシアではなくキキョウでした。
前話のアバンでも書いた様にネリネ(リコリス)とシアと出会ったその日に忠夫が消えた訳です。
後、強引ですが楓も二つの心の狭間で揺れていたと言う設定を付け加えました。

( ・ω・ )さて、次回と次々回はシアとキキョウの分離の話ですが横島の神魔人化の話でもあります。
横島の過去の話と平行して進みます。
お楽しみに。
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