クラスメイトの銀一少年が転校してから数ヵ月後、今度は大樹の転勤で横島も転校する事になった。
『な、何でや…何でや!!』
転校する事を告げると夏子は泣きながら聞き返してきた。
『父ちゃんの仕事の都合やからな、仕方ないねん』
『銀ちゃんがおらんようなって、今度は横島かいな。そんなん嫌や!』
『夏子…』
夏子は横島の両腕を掴み、項垂れて泣きじゃくっていた。
『別に外国に行くわけやあらへんのやからまた何時か会えるて…』
『何時かって何時や!私は…私は、横島と…ずっと……一緒に…』
『夏子?』
『…も、もうええわーーいっ!横島なんか何処へでも行ってまえーー、嫌いやーー!うわああーーーん!』
そう言い夏子は泣きながら走り去って行った。
『嫌いか…何かものごっつ胸が痛い言葉やな』
胸に手をやりながらそう呟いた、閉ざされた記憶の底にあるその言葉に胸を痛めながら。
”忠夫なんか大っ嫌い!”
《誰なんやろな?あの子は》
一人残された横島の目から涙が一筋零れた。
第十三話「何時かもう一度茜雲を」
数ヶ月前、妙神山……
「うがあああーーーーーー!!」
猿神・聖天大聖老師や小竜姫の下で、魔力制御の修行をしていた横島は突然苦しみ出した。
『横島さん?横島さん、どうしたんですか!?』
『ヨコチマーー!!しっかりするでちゅ!!』
修行を見守っていた小竜姫とパピリオはすぐに苦しんでいる横島の元に駆け寄る。
『これはまさか……ヒャクメよ、すぐに横島を霊視するのじゃ!!』
『わ、分かったのね~~!!』
老師に言われたヒャクメはすぐさま横島の霊視を始める。
『こ、これは大変なのね~~、横島さんの体の中で魔族因子が暴走してるのね~~!』
『やはりそうか…小竜姫よ、横島の暴走を抑える為の魔力封じの結界を張るぞ。準備せい!!』
『は、はいっ!!』
それから数時間後、横島は加速空間の中に作られた結界の中で眠らされて、魔力暴走も結界の力によって少し落ち着いていた。
『どう言う事なんですか、魔族因子の暴走なんて?ルシオラさんから譲り受けた霊気構造は安定していた筈では…』
『安定はしておった。…じゃがおそらく文珠の並列同期の修行の為に高まった魔力が引き金になって、ルシオラの霊気構造に含まれていた魔族因子が暴走したのじゃろう。……まったく皮肉な事よな、ルシオラを復活させる為の修行が横島を苦しめる事になろうとはの』
現在妙神山には連絡を受けた仲間達が集まっていた。
「老師様、横島さんは…横島さんはどうなるんですか?」
「隠していてもしょうがないでしょ、はっきり言ってちょうだい。横島クンはこのままじゃ……魔族に…なっちゃうんでしょ…」
美神の言葉に仲間達は驚愕する。
「せ、先生が魔族になるとはどういう事でござるか?一体先生に何があったんでござるか!?」
「ヨコシマの過去に私達の知らない何かがあったというのは分かるわ。…いい加減教えて頂戴!!何があったの?ルシオラって誰!?」
シロとタマモの問いによって皆押し黙るが、美神がようやく重い口を開く。
「ルシオラ…それは横島クンの恋人…恋人だった女性(ひと)の名前よ」
「せ、せんせ…いの…」
「恋人?…」
「美神さん」
「こうなった以上、彼女達も本当の事を知っておくべきよ。責任は私が取るわ」
そうして美神は語り出す、魔神大戦の真実を。
千年前から続くアシュタロスとの因縁。
その先兵としてやってきたルシオラ、ベスパ、パピリオの三姉妹。
パピリオに攫われ、そのままスパイとして敵陣に潜り込む事になった横島。
そんな中で何時しか横島とルシオラの二人はお互いに引かれあう。
南極での闘いの後に訪れた穏やかでささやかな平穏な日々。
そして始まるさらなる激闘。
奪われた魂の結晶と消えかけた美神の魂、そして動きだすコスモプロセッサー。
ルシオラは横島を先に進ませる為に自らベスパとの闘いに赴く。
だが、彼女がベスパの攻撃を受ける直前に飛び込んで来た横島が盾となって霊気構造を破壊する妖毒が込められた魔力砲を受け、死の淵に立つ。
そんな横島に自らの霊気構造と共に命を捧げるルシオラ。
美神を救出させる為にルシオラは自分は大丈夫だと横島を送り出すが、それは横島を前へと進ませる為に吐いた嘘。
美神を救い、魂の結晶を取り戻す横島に告げられたルシオラの死。
アシュタロスは一つの選択を横島に突きつける。
『結晶を渡せばルシオラを蘇らせ新しい世界のアダムとイブにしてやろう』
突きつけられた残酷な二者択一だが横島は選ぶ、否…選ばざるを得なかった。
それが彼女の選択だったから。
「どうせ後悔するならお前を倒してからだ、アシュタロスーー!!」
結晶を破壊し、世界を救った横島。
ルシオラの命と自身の心を犠牲にして……
「こうして世界は救われた、例え様も無い悲しみと苦しみを二人だけに押しつけて…」
涙を流しながら美神は語り終える。
美神だけではない、誰もが涙を流していた。
真実を知ったシロとタマモも抱き合って泣いていた。
「そ、そんな事があったのにヨコシマは私達にあんなに優しく…」
「馬鹿でござる…拙者達は先生のそんな傷にも気付かずに甘えてばかりで…」
「私は…私はたとえ横島さんが魔族になったとしてもかまいません!!私は横島さんの事をずっと…」
おキヌはそう言い、皆も頷くが…
『じゃが、このままでは横島と言う存在は消えてしまう。魔族因子が横島の人族因子を食い尽した瞬間全く別の魔族に生まれ変わる事になるじゃろう』
『そ、そんな…そんな事って……老師!!何とか、何とかならないんですか!?』
小竜姫の悲鳴にも似た問いかけは此処にいる全員の気持ちを代弁していた。
『…今、横島にしてやれる事は二つのみ。一つはこのまま人として死なせてやる事』
そんな老師の言葉にタマモが食ってかかる。
「死なせてやるってどういう事よ!?それの何処がヨコシマの為なのよ!?」
『今、死なせてやれば横島は人として転生の輪に入る事が出来る。そうすればいずれまた人として生まれ変わる事が出来るんじゃ』
「だったらもう一つの方法とは何なんだ?」
そう雪之丞は聞く。
『魔族因子の暴走を抑える為に対となる神族因子を横島に植え付ける事じゃ。そうすれば横島の意識は消える事はなくなる』
「ならそうすれば…」
『じゃがその代わりに横島は完全に人間ではなくなる。何しろ神、魔、人の因子を同時に持つ事になるのじゃからな』
老師の説明に皆は言葉を失った。
『どうするかは横島自身に決めさせるしかあるまい。儂等が勝手にどうこう出来る問題ではない』
「それしか…ないわね…」
そうして最終決断は横島に託された。
『…と言う訳じゃ。横島よ、辛いじゃろうがどちらかを選んでくれ。このままお主を魔族に変えさせる訳にはいかんのじゃ』
「……神族因子を植え付けた場合、ルシオラはどうなるんスか?」
『ヒャクメに霊視させたところ、ルシオラの魂はお主の魂と融合しかかっておるらしい。おそらくはそのまま固定されるじゃろう。その場合、ルシオラは今生での転生は不可能となりお主の死後、共に転生の輪に入る事になる』
「……分かった、やってくれ」
『良いんじゃな』
「ああ、俺は死ぬ訳にはいかない。ルシオラの為にも」
『ならばさっそく始めるぞ。小竜姫よ、お前の神族因子を横島に移すのじゃ』
『はい、横島さん、苦しいでしょうが少しの間我慢してください』
小竜姫は横島の胸に手を置くとゆっくりと自分の体から神族因子を送り込む。
すると、体の中で魔族因子と神族因子がせめぎ合い放電が起こる。
「うわあああーーーーー!!」
横島は悲鳴を上げ苦しみ出し、小竜姫の体にも放電の逆流が襲ってくる。
『くううっ!よ、横島さん…頑張ってください!!』
「うわああああ………
……あああああーーーーーー!!』
まず、横島の声が変わった。ルシオラと小竜姫の声が重なった様な感じに。
そして目の色が変わる、黒から真紅、そして蒼に。
身体つきも変わる、男の物から女性の物に。
さらには背中から二対四枚の薄緑色の翼が出て来た。
「よ、横島クン?ちょっと老師、これって一体…」
『やはり、この姿になったか…』
「この姿って…どう言う事なんですか?何故、横島さんが女性の姿に…」
ピートはそう問いかける。
『ルシオラの霊気構造の元となっておるのはアシュタロスの物、魔族因子もしかり。おそらく、横島の体内に送り込まれた少竜姫の神族因子が引き金になって奴の前神であるイシュタルの因子が引き出されたのじゃろう』
「じゃあ、今の横島は女神って事か!?」
『いや、あくまでも女神クラスの力を持っておるという事じゃ。それに横島の体の中には神・魔・人の因子が混在しておる。例えて言うなら「神魔人(しんまじん)」と呼ぶべき存在じゃ』
そう言っていると横島の体からは放電は収まっていて、神族因子を提供した小竜姫の体は子供の様に縮まっていた。
横島は荒い呼吸の中、変わってしまった自分の体を呆然と見つめていた。
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横島に制御される文珠の中心でシアの体は徐々に光に包まれていく。
《そう、あの後の私は自分でも思いだすのが嫌な位酷かった。何をするでもなくまるで抜け殻の様にただ日々を惰性で過ごしていた。皆の心配なんて気にもしないで》
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「…横島クンはまだあのまま?」
「はい…いくら話しかけても応えてはくれません」
横島はあの日からずっと修行場の庭にある岩の上で空を見上げていた。
誰とも関わろうとせず太陽が沈み、夕焼けが消えるまで。
「わ、私達では…何も…グスッ…横島さんに何もしてあげられないんでしょうか?」
「もうすぐ横島クンのご両親が来る事になってるわ。あの人達に任せてみましょう、私達には無理でもきっと何とかしてくれるわ」
美神はおキヌの肩を抱きながらそう言ってなだめる。
それから暫くして百合子と大樹がやって来た。
「で、人様にこれだけ心配掛けさせてる家の馬鹿息子は何処だい?」
「お、お義母さん。横島さんにあまり酷い事は…」
「とにかく、案内してくれないかい」
さりげなく義母と呼んだおキヌをスルーして百合子は横島の居る所に案内させる。
「……あ、あれが忠夫なのか?」
庭で岩の上に座り、空を見上げている横島を見て大樹は呆然としている。
百合子はそんな横島の元へと歩いて行く。
「じゃあ、ちょっと行ってくるよ。ここは私に任せて二人にしておいておくれ」
「待ってくれ、俺も一緒に…ぐはあっ!!」
一緒に行こうとした大樹は百合子の裏拳で吹き飛んだ。
「却下。アンタが一緒だと娘に飛びかかりそうだからね」
「む、娘とのコミュニケーションが夢だったのに……ぐふっ」
大樹、終了。
百合子はゆっくりと歩いて行き、何も言わずに横島の横に腰を下ろした。
『……は…してた…』
横島はポツリポツリと話しだした。
「何をだい?」
『覚悟はしてた。分かってた事だった、でも…でも……感じられないの…今まで確かに私の中に居たルシオラが……感じられないの』
「どんな人だったんだい?」
『とても…いい娘だったよ。……笑顔が可愛くて、夕陽が好きで……い、命懸けで私を助けてくれたのに……見殺しにして…今度だって……結局たすけ……助けられなかった…私は何も……ルシオラに何もしてあげられなかった』
そう語りながらボロボロと涙を流す横島を百合子は自分の胸の中に抱きいれる。
「何もしてないって事はないだろ。今、お前は生きてるじゃないか。ルシオラが望んだのはお前が生きている事なんだろ、ならお前は生きなきゃ駄目なんだよ。お前がお前として生きていく事、それがルシオラにしてやれるたった一つの事なんじゃないのかい?」
『だ…けど、だけど…私はルシオラに…会いたかった…もう一度……会いたかったよ~~』
横島は百合子に抱きついて胸の中に顔を埋めて泣き、百合子もそんな横島を優しく抱きしめ頭を撫でてやる。
「泣きな、今は思いっきり泣きなさい。母親の胸っていうのはね、子供を育てる為、そして子供を泣かせてやる場所でもあるんだからね」
『うわあああ~~~~ん。うわあああ~~~~~ん』
ひとしきり泣いた後、横島は顔を上げるとバツの悪そうな笑顔を見せる。
「さあ、もう気はすんだろ。後は心配をかけた連中に謝る番だよ」
『う、うん』
そして二人は皆が集まっている広間に入って行った。
『み、皆…心配掛けてゴメンなさい…』
横島は泣き腫らした顔で、それでも精一杯の笑顔で皆に謝る。
「横島クン…」
「横島さん…」
「せ、せんぜえ~~…」
「ヨコシマ…」
事務所のメンバーはそんな横島の元に駆け寄る。
「まったく、心配掛けやがって」
「でも、横島さんが元気になって嬉しいんジャー!!」
「はい、僕も嬉しいです」
雪之丞やピート達も喜んでいる。
「冥子も~嬉しいの~」
「まったく、立ち直るのが遅いワケ」
「でも、横島さんなら立ち直ってくれると信じてました」
冥子にエミ、魔鈴も笑顔で見ている。
『ルシオラちゃんとは生まれ変わってから会えるでちゅ』
『そう言う事さ、会えない訳じゃないんだ』
パピリオとベスパも笑っている。
『そうよね、ルシオラとはまた会える。たとえ来世だとしても……』
横島は日が沈みかけ、夕陽に染まる空を見ながら約束をする。
『もう一度一緒に見よう、あの…茜雲を』
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光の中には二人分の影が見えて来た。
『もう少し、もう少しで』
徐々に弱まって行く光、そして完全に治まると其処には二人のシア…いや、シアとキキョウが向かい合って立っていた。
《続く》
次回予告
神魔分離は成功した。
一人は二人になり、互いに抱きしめ合う。
その光景を見ながら横島は涙を流し、そして思う。
無駄ではなかったと。
《NEXT・第十四話「彼氏達彼女達の事情」
逃がさん、お前だけは
(`・ω・)神魔人ですが三種族のハイブリッドはダイ大の竜魔人と被るんじゃないかというのは書いてから気付きましたが「まあいいや」と開き直りました。