私の名はタマモ、九尾の妖狐のタマモ。
前世の事は殆ど記憶には無い、覚えているのは突然人間達に怪異と呼ばれて、恐れられ、罵られ、滅ぼされ、そして暗く冷たい殺生石へと封印された事だけ。
轟く銃声、火薬の臭い、草木を踏みしめる追手の足音、今思い出してもぞっとする。
逃げている最中に捕縛結界に捕えられ、死を覚悟した時に見た男、それがヨコシマだった。
私を助けてくれたヨコシマとおキヌちゃんだったけど、その時はまだ感謝より人間達への憎しみの方が強かった為、二人に幻術をかけて逃げ出した。
今思えば馬鹿な事をしたものだ。
その後、美神の家に忍び込んで復讐しようとしたが美神達も結局ヨコシマが私を助けた事に気付いていた様で、人間にはこんな奴らも居るんだと思った。
それからしばらく一人で暮らしていたがきつねうどんのお揚げの味が忘れられなくてうどん屋で何度か食べた。
すると食い逃げだと言って美神達を呼んで来た、店の人は葉っぱを変えたあのお金でもいいと言ったのに、あの事は今でも納得がいかない。
まあ、おかげでヨコシマにまた会えたからいいとしよう。
ヨコシマの傍に居たシロという人狼族が先生と呼びながらヨコシマに懐いている姿を見ると何故か胸がムカムカした。
あの頃はまだ自分の気持ちに気付いていなかったからね。
美神の事務所でシロと一緒に暮らす様になって友達も増えた。
悪い感じじゃないけどやっぱりヨコシマの傍が一番居心地が良かった。
私が突然の高熱に苦しめられている時にシロは天狗の所まで薬を取りに行ってくれた。
結局、毛の生え換わりの時に体温調整がうまくいかなかっただけでシロが帰ってくる頃には落ち着いていたが正直嬉しかった、だから恋のライバルとして認めてやることにした。
まあ、ヨコシマも一緒に行ってくれた事の方が嬉しかったけどね。
そう、もうその頃には私はヨコシマに恋をしていた、九尾の長い歴史の中での初めての恋だった。
こんな穏やかな時間が何時までも続くと思っていた、続いてほしかった……。
ある日、妙神山でヨコシマが修行をしていたら突然苦しみだし、私は何が起きたのか理解出来ず、ただシロと一緒に泣いているだけだった。
魔族化、人で無くなる、そんな事はどうでもよかった、ヨコシマが居てくれるなら、あの温もりを失わずに済むのなら。
小竜姫達のおかげでヨコシマは助かったが代わりにヨコシマは大事なものを失った。
そして私とシロは初めて知った、ヨコシマの傷を、あの笑顔の裏にある深く決して癒える事のない傷跡を。
私達は泣いた、抱き合って泣きじゃくった。
ヨコシマはそんな深い傷を持ちながらも私達に笑顔を向けてくれた、あの温もりをくれた。
だから今度は私が…私達がヨコシマに笑顔を向けよう、温もりをあげよう、少しでも傷が癒える様に。
ヨコシマの傍に居る、傍で笑って居られる、それだけで良かった、それだけで幸せだった……
それなのに…………
―◇◆◇―
ヨコシマと一緒に夕食の買い出しに出ていた所を私達は神魔の過激派達に襲われていた。
逃げ回って行き着いた町はずれの森の中で私達に遠慮なしの魔力砲が雨の様に降って来る。
「タマモ、大丈夫か!」
「わ、私は大丈夫だけどヨコシマは?」
「俺は大丈夫だ、心配しないでお前は其処に居ろ!!」
ヨコシマはそう言いながら【護】の文珠で作った結界の中に居る私を過激派の連中から守ってくれている。
「くそったれ、いい加減しつこいぞ!そろそろ諦めたらどうだ!」
『諦めるのは貴様だ!』
まさか町中で襲われるとは思ってもみなかったが、遂に奴らも形振りを構わなくなって来たと言う訳らしい。
ルシオラから受け継いだ魔族因子が原因でヨコシマの体は魔族化を始め、今では神族、魔族、人族それぞれの因子を同時に持つ存在となってしまった。
その上に、デタントの象徴でもあるヨコシマを排除する為に反デタントを掲げる神魔の過激派が襲いかかって来た。
デタントを覆すために反デタント同士が手を組む、まったく悪い冗談だ。
ヨコシマが今封印している力を解放すれば押し返すのは簡単だが、それをしてしまえばそれこそハルマゲドンの火種になりかねない為、ヨコシマはそれをしようとはしない。
「危ない、ヨコシマ!!」
「来るなタマモ!!」
結界の中から飛び出そうとするとヨコシマは声を荒げて押し止める。
「でも、でもこのままじゃヨコシマが…」
『安心しろ、半魔だけじゃなくその狐も一緒に始末してやる』
『先ずは貴様からだ、半魔!!』
「やらせないよ、狐火!」
ヨコシマに攻撃が集中しそうになった時に私は思わず結界から飛び出して狐火を放ったが奴等には大した効果を与えられず、逆に怒らせただけだった。
『くっ、このクソ狐がーー!!』
その声が合図になったかのように全員の攻撃が私に襲いかかって来た。
「あ、ああ…」
「タマモーーー!!」
ヨコシマはそんな私を守るように抱きしめた。
『そのまま纏めて消えてしまえーー!!』
「ダメッ!ヨコシマ、私の事はいいから逃げてぇーー!!」
「そんな訳には行くか!くそ、一か八かだ。タマモ、しっかり俺に掴まっていろ!」
私達は爆発と同時に発動した【転】【移】の文珠の光に包まれた。
焼けつくような痛みと共にヨコシマの温もりの中で足元から地面の感触が消え、何処かに落ちて行くような感じがした。
《続く》
次回予告
それは何時もの日常の中で起こった。
思い出の空き地、彼が消えたあの場所に彼が…タダくんが帰って来た。
でも、傷だらけで子狐を大事そうに抱き締めた彼の記憶からは私達は消えていた。
《NEXT・第一話「辿り着いた故郷」》
思い出して!あの時を、思い出を、そして私達を。
(`・ω・)プロローグとなる四人の話はこれで終了、次回より本編開始です。