「楓!」
稟は家に帰るなり、玄関に鞄を放り投げてすぐさまリビングへと向かい、シア達もその後を追う。
「タダくん…、早く起きてよぉ」
リビングに入るとソファーに寝かされていた横島の傷は神王達の治癒魔法によって癒されていたが楓は横島の手を握りしめたまま片時も離れようとしなかった。
「おじさん、忠夫は…」
「おう、稟殿。何とか治せたがひでえ傷だったぜ。それに体中に付いてる古傷、特に背中の傷なんかはかなり強力な魔力砲を受けた跡だな」
(それはあの
そう言われ、今だ目を覚まさないままの横島の身体には神王が言う様に無数の傷が刻まれていた。
ちなみに着ていた服はボロボロであった為、稟は部屋から着替えさせようと体育用ジャージを持って来る。
「忠夫、一体お前に何があったんだ?」
「まー坊、そっちは子狐はどうだ?」
「うん、傷自体は完治してるよ神ちゃん。でも尾が九本もある狐なんて珍しいね」
「わー、可愛い」
「じゃあ、その子狐の事は任せてもいいかなネリネちゃん」
「はい、任せて下さいお父様」
攻撃を受けた為か、狐形態に戻っていたタマモは反対側のソファーで寝ており、シアやネリネ達はそんなタマモの頭を撫でていた。
「尾が九本……って、九尾の狐か!」
「い、いきなりどうしたんスか、稟くん?」
「どうしたも何も、九尾の狐といったら…」
「稟くん、大丈夫だよ。だってタダくんが大事そうに抱いて守っていた子なんだから悪い子じゃないよ」
「…そうだな、忠夫を信じるか」
九尾の狐という事でタマモを警戒しようとする稟であったが、楓のそんな一言で落ち着きを取り戻したようだ。
「稟様と楓ちゃんはずいぶんとこの方を信頼なさってるんですね」
「ああ、忠夫は友達というだけじゃない。俺達にとって大事な恩人なんだ」
そんな風に稟が昔を懐かしんでいると意識が覚醒して来たのか、横島がうっすらと目を開けて来た。
「うう、こ、ここは?」
「タダくん!」
「忠夫!」
「…知らない天井だ……」
「……何かお約束めいた事を言ったような気もするが、大丈夫か忠夫?」
「…誰だ、お前?」
「誰って、そうか、あれから8年経つから分からないのか。俺だよ、稟だ。土見稟だ」
「…悪い、やっぱり知らん」
「 !! そ、そんな……忠夫…。な、ならこの娘はどうだ?楓、芙蓉楓だ。まさか楓の事も忘れたって言うんじゃないだろうな?」
自分達の事を知らないという横島に稟は愕然とするが、ならばと今度は楓の事を思い出させようとする。
「おお、可愛いお嬢さん!僕は横……あれ?」
楓を見るなり何時もの様にナンパをしようとした横島だが、何かが彼を押し留めた。
(何だ?何か変だ。何故か何時もみたいに口説こうという気が起きないし何かが頭に引っ掛かる。誰だろうこの娘は?いや…誰だっけ?)
「タダくん…やっぱり…私の事、分らない?」
「うん、君は俺の事知ってるみたいだけど俺には…分らないんだ。ゴメンな」
「そう…ですか」
「ちょっと、あなた!」
横島のその答えに辛そうに俯く楓、そんな彼女の姿を見てシアは立ち上がって抗議する。
「シ、シアちゃん」
「カエ…楓ちゃんはねぇ、ずっとあなたの事を心配してたんだよ!さっきまでも怪我をしてたあなたの事を必死で!なのにそんな楓ちゃんの事が分らないなんて酷いじゃな…『僕、横島忠夫。いや~~、こんな綺麗なお嬢さんと知り合えるなんて今日は良い日だなぁ。お嬢さん、貴女のお名前は?』…いって、え、えええ~~?わ、私っスか?私の名前はリシアンサス。シ、シアと呼んでほしいっス」
怒ってはいたが、行き成り眼前に現われ手を握り締めて口説き始めた横島に戸惑いながらも素直に名前を告げるシアであった。
「は、早えぇ。おいまー坊、今のあいつの動き…見えたか?」
「いや、僕にも全然」
(そういえばそうでした。向こうでのタダくんはこんな感じでした)
ユーストマとフォーベシィの二人は瞬間移動した様にしか見えなかった横島に唖然とし、楓はやはりという感じで一人溜息を吐いていた。
「あ、あの~」
そんなシアの隣でタマモを抱き抱えていたネリネが呼びかけて来た。
横島同様に酷い怪我をしていたタマモだが、フォーベシィの治癒魔法によって完治していた。
「おお、ここにも美女がっ…て、タマモ!?」
「あ、この子なら大丈夫ですよ。酷い怪我でしたがもう治っています」
「そうか、ありがとう。大丈夫かタマモ、目を覚ませ」
横島はネリネからタマモを受け取るとすぐさま意識を覚醒させる為に霊気を送り込んだ。
「…キュ、キュゥ~ン」
「ふう、無事な様だな。良かった、タマモ」
「コン?コーーーンッ♪」
「何だ!今の力は?」
「魔力とは何か違う力だね」
目を覚ましたタマモは心配そうに覗き込んでいた横島に抱きついてじゃれ付く。
だが、神王達は横島から発せられた霊力に驚いていた。
この次元、三世界には霊力という概念は無いのだから当然であろう。
「元気になって良かったね、タマモちゃん」
「コンッ!」
体に残る魔力の匂いなどから目の前に居る女性達が自分の治療をしてくれたんだと分っているのだろうタマモは『ありがとう』と返事をする。
そして横島はそんなタマモをソファーに乗せるとくるりと振り返りネリネの手を掴む。
「タマモを助けてくれてありがとう綺麗なお嬢さん。あ、僕は横島忠夫。お嬢さんの名前を教えてくれますか?」
「え?あ、はい。私の名前はネリネです。宜しければリンとお呼び下さい」
「リン?う~ん、どっちかと言うとそのままネリネちゃんって呼びたいんだけどいい?」
「は、はい、かまいま…せんよ?」
歯を不自然にキラリと光らせてネリネを口説く横島。
ネリネはネリネで微笑みながらもその頬には一筋の汗が流れている。
ちなみにシアは『さっきは私の事を綺麗だって言ってくれたくせに』と剥れていたりする。
そして……
「いでえぇーーーーーっ!」
「グウゥ~~、コンコンコンッ!」(私の事ほっぽってナンパしてんじゃないわよ、この節操なし!)
と、自分の目の前で女性を口説く横島に飛び掛って噛み付いたり引っかいたりするタマモであった。
「変わったな、忠夫」
子供の頃とはあまりに変わっている横島に稟はただ、唖然とする他なかった。
《続く》
(`・ω・)SHUFFLE!世界では霊力という概念がありません。