「なあ忠夫。ちょっといいか?」
「痛てて。あ、ああ、なん…だ…」
話しかけて来た稟にタマモに齧られながら答える横島だが、その顔を見ると途端にすっと目が細くなりその手には何時の間にか藁人形と五寸釘、そして金槌が握られていた。
イケメンオーラの持ち主への攻撃本能であり、その殺気に稟の足もすくむ。
「た、忠夫?そ、その藁人形何処から?と言うか何をするつもりかな?」
「何、ちょっと
藁人形に釘を刺し、そして金槌を振り上げた所でフォーベシィが話し掛ける。
「すまない、忠夫君…と言ったかな。少し話を聞きたいんだけど良いかな?」
「不幸にな……ん、何すか?」
「その前に先ずは自己紹介が先だね。私の名はフォーベシイ、一応魔王をやらせてもらっているよ」
「そして俺はユーストマ。神王をやっている者(もん)だ」
「神王に…、魔王?」
感覚的にはついさっきまで過激派神魔族と戦っていた横島、魔王と神王と言われて警戒心が増すが敵意も殺気も感じないので素直に話を聞く事にする。
「俺は横島忠夫だ。だけどアンタ達は俺が知っている神族や魔族とはなんか違う気がするな」
「あ~、俺達が気になってんのも其処だ」
「随分と失礼な聞き方になるけどあえて言わせてもらうよ。……”君”は誰だい?」
「魔王様!そんな言い方…」
「楓、ちょっと待ってくれ」
「稟くん?」
フォーベシイの言い方に憤る楓だが、そこに稟が割って入る。
「その名前、さっきから気になっていたんだけど名字は浜菊じゃないのか?」
「いや、横島であってるぞ」
「ならお前は俺達の知っている忠夫じゃない…という事なのか」
『あ~もう、ややっこしいわね!』
突如聞こえて来た声に戸惑う稟達。
何処から聞こえて来たのかと探していると『ここよ、ここ』と横島の頭の上に居た狐、タマモが睨みながら答える。
「き、狐が喋ってる?」
『神王に魔王って言ったわよね。まず”この世界”の事を教えて。それからの方が話が早いわ』
「この世界?どう言う事だ、タマモ」
『はあ、ヨコシマってホント鈍いわね。此処、私達が居た世界じゃないわよ』
「へ?」
突然喋り始めた狐に驚く稟達、そして横島も此処が異世界だと言われて唖然とする。
『匂いが全然違うのよ。霊気の匂いが薄すぎるし、それに…《横島忠夫の名前に反応しないじゃない》」
「《そう言えばそうか。良くも悪くも有名人だからな、俺は》言われてみればそうだな」
横島とタマモはそれらしい会話をしつつ、ばれると面倒そうな所はテレパシーで念話をする。
「な、何で狐が喋ってんだ?」
「ああ、タマモは妖狐なんですよ。こっちではどうかは知らないけど俺達の世界じゃ妖怪は普通に居ますからね」
「つまり、お前さん達は本来この世界の住人じゃないって事なのか?」
『そういう事になるわね』
「でも稟ちゃんと楓ちゃんは忠夫君の事を知っている、そして忠夫君は稟ちゃん達の事を知らない。辻褄が合わないんじゃないかな?」
「その辺の所がどうもな。俺にはガキの頃、8年程前から先の記憶が無いんだよ。名前以外はすっぽりと抜け落ちたみたいに」
「おそらくあの事故が原因だろうな」
「あの事故?…ってなんだい稟ちゃん」
フォーベシイにそう聞かれて稟は答える、8年前に三世界平和宣言が行われていたその裏である魔族が起こした魔力爆弾事件。
その爆発があった場所には横島がいた痕跡があったのだが、魔族が起こした事件に人族が巻き込まれたとなるとせっかくの平和宣言に亀裂が生じる事を危惧した各種族の上層部は神王と魔王には報告せずに隠蔽したのである。
不幸中の幸いと言うと弊害がありそうだが、この事によって『浜菊忠夫』は死亡ではなく行方不明という扱いであるので未だ戸籍自体は消されてはいない。
「なるほどね、漸く合点がいったよ。おそらくその魔力爆弾の爆発の影響で忠夫君は別の世界へと弾き飛ばされたと言う事だね」
「くそったれ!あの事件の裏でそんな事があったなんてな。今更知らなかったなんて言い訳にもならねえがすまなかった、忠夫殿」
「僕からも謝罪させてもらうよ、本当にすまなかった」
「いや、別に二人が悪いわけじゃないし、正直この世界の事も覚えてないから」
頭を下げる二人に横島は怒りを向ける事も無くそう言うと楓が消え入りそうな声で話しかけて来た。
「……タダくん」
「それって俺の事?」
「うん、子供の頃ずっとそう呼んでたんだけど…イヤかなぁ?」
「いや、何だか違和感は無いし別に構わないよ」
「私、タダくんに謝らなきゃいけない事が…」
「楓!」
「稟くん…」
稟には楓の気持ちが痛いほど分かるが昔の記憶が無いと言う今の横島には余計に混乱させるだけだと思い、謝るのを思いとどらませる。
「今はまだ駄目だ、分かるだろう」
「うん、そうだね」
ピンポーン、ピンポーン
「ん?お客が来た様だね」
「あっ、私が出ますね」
そこに来客を知らせる呼び鈴が鳴り、その相手が先程連絡しておいた桜だと解っている楓が出迎えに行く。
「か、楓ちゃん!忠夫くんが帰って来たって本当!?」
「ええ、本当ですけど…あっ、桜ちゃん」
その言葉を聞くと共に桜はリビングへと駆け込み、其処に横島の姿を見つけると涙を流しながら抱きついた。
「はぁ、はぁ、はぁ…た、ただ…お…くん、忠夫くーーんっ!」
「うわっ!」
「忠夫くん!忠夫くん!た、だだおぐ~~ん。よがっだ、ぶ、無事で良がったよ~~。ふええぇ~~~ん」
「え、え~と、誰かな君は?」
横島も楓と同様に桜にも言い寄る気持ちが起こらなかったらしく、胸に顔を埋めて泣きじゃくる彼女にデレデレしたりはしなかった。
「誰って、私だよ、桜、八重桜。忘れちゃったの?」
「どうもそうらしいんだ」
「えーっ!稟くん、それってどういう事?」
「桜ちゃん…だっけ。さっきも皆に言ったけど、8年前…だったか?俺はそれ以前の記憶って無いんだよ」
「そ、そんな…何で?」
「まあ、今はそれよりも」
疑問を口にする桜だが、フォーベシイはそれを遮る様に話をしだす。
「桜ちゃんも来たことだし、お互いの状況を理解する為にもまずは改めて自己紹介から始めよう。僕の名前はフォーベシイ、さっきも言ったけど魔王をやらせてもらっているよ」
「次は俺だな。俺の名はユーストマ、神王だ」
「私も改めましてリシアンサスです。長いからシアって呼んでくれていいよ。神界の姫だけど気にしないで気軽に友達付き合いしてくれると嬉しいっス」
「改めましてネリネです。私も魔界の姫ですが、友達として気軽にお付き合いして下さると嬉しいです」
「私はプリムラ、…人工生命体の三号体」
「プ、プリムラ!そんな事まで言わなくても」
「いや、言っておくべきだと思うよ」
「おじさん…でも」
「彼がただの友達であまり深い付き合いをしないというのなら隠すべきだけどそうじゃないんだろう?」
「それはそうですが」
それでも納得出来ずにいる稟だが、肝心の横島は人工生命体であるというプリムラの告白にも動じた様子は見せなかった。
「ふ~ん、でも見た目は普通と変わらない可愛い女の子だな」
「あっ……、あぅ」
そう言って横島はプリムラの頭を優しく撫で、プリムラは照れながらもその手を拒まなかった。
(出た、人外キラースキル。よし、後で焼こう!まずは頭から……みたいな?)
《続く》
キャラ設定1
《横島忠夫》
本作の主人公で美神除霊事務所所属のGS。
正式な免許は貰っているが今だ美神の丁稚扱い(涙)
魔神大戦の時にルシオラをかばって重傷を負うが彼女の霊的構造を受け継ぎ命を長らえる。
その後、魔族因子の暴走による魔族化で命の危険に晒されるが小竜姫の神族因子を注入する事により事なきを得る。
この魔族化により、神魔の反デタント勢力に狙われる事になる。
人と神魔、三種族の因子を同時に持つ事によりアシュタロスクラスの魔力を持つ神魔人(老師命名)となる。(外見上に大幅な変化あり)
過激派神魔族はこの事を知らされて無い為横島を半魔と呼ぶ。
普段は魔力封印の宝具により力を抑えている。
過激派神魔族の攻撃と文珠の作用により元々住んでいた平行世界に戻って来た。
《土見稟》
本編ゲームでは主人公で神にも悪魔にも凡人にもなれるという某Sロボットのような属性を持つ男。
両親が死んだ後、楓の父親に引き取られ芙蓉家で暮らす事になる。
子供の頃にシアとネリネ(?)に出会い彼女達の心を救った事で想いを寄せられる。
横島とは楓を通じて知り合い、一番の友達になる。
彼にとって楓は友達というより妹といった感じで恋愛感情はない。
横島への呼び方は「忠夫」
エンディングクレジットがあるとしたら、たぶん三番目。
《芙蓉楓》
横島と稟と桜の幼馴染。
横島とはある出来事がきっかけで出会い想いを寄せるようになる。
子供の頃に母親の死で心を閉ざしかけたが横島が自分に憎しみを向けさせた事で彼を憎むようになり、それが生きる気力になった。
後に父親と稟の会話から真実を知り横島の気持ちに応えるために笑うようになる。
何故か平行世界にいる横島の夢を見るようになり魔神大戦や、ルシオラとの悲恋の事を知っているが稟達には秘密にしている。
それ以降の事は夢を見なくなっていた為タマモの事は知らなかった。
横島への呼び方は「タダくん」
《八重桜》
横島と稟と楓の幼馴染。
初めて会った時から稟に想いを寄せている。
横島と楓の仲の変化は稟に聞いて知っている。
その為二人が元通りになるまでは稟に告白しない事にしていた。
本作では楓達と一緒にバーベナ学園に通っている。
親衛隊は「SSS」(桜、咲く、咲く)ps(シアの場合は「SSSⅡ」(ツヴァイ))
横島への呼び方は「忠夫くん」
《タマモ》
金毛白面・九尾の妖狐の転生体。
転生したての頃、政府に追い立てられ殺されそうになるが横島とおキヌの手で助けられる。
最初はその恨みから人間を憎んでいたが横島達と触れ合うことで徐々に仲間たちに溶け込んでいく。
特に横島にはよく懐き、その想いを恋心に変えていく。
買物の途中で過激派神魔族に襲われ横島と共にこの世界に転移してきた。
横島への呼び方は「ヨコシマ」
次回予告
失われた記憶を呼び戻す為にと向かった思い出の公園。
ごく普通に、当たり前の様に笑っていられたあの日々をもう一度、もう一度取り戻したい、あの日常を。
我侭かもしれないけれど、貴方の隣で笑っていたい。
《NEXT・第二話「あの日、夕暮れの公園で」》
そしてもう一度見たい、貴方のあの笑顔を。
(`・ω・)プリムラはあくまでも稟ラヴァーズです、横島ラヴァーズ入りはしません。
( ・ω・ )三話に分割しましたが、元々はこれで一話で当時は一万~二万文字は平気で書いてたんですよね、今とは違って。
TIMAMIに初投稿した際に理想郷で紹介され、閲覧数が一気に1万超えしたのはいい思い出。
ホントに驚いたよ。