ログ・ホライズン ~高笑いするおーるらうんだーな神祇官~   作:となりのせとろ

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第十話 革命の風

 シロエとマリエールたちの会合より4日の準備期間を経て作戦は実行に移された。

 タイトなんて言葉が生ぬるいほどの過密なスケジュールのもとに作戦に参加した〈三日月同盟〉、〈記録の地平線〉のメンバーは全員が忙殺されてはそれぞれの叱咤激励にゾンビのように復活させられを繰り返し幾度とない死線を経験した。

 

 中心となってスケジュールを組み立てたマリエール、シロエ、ヘンリエッタはそれぞれその功績を擦り付けあっていたが奏や千菜らのまだ文句を言う気力と体力の残っているメンバーからしたら『お前らそんなことする暇あるなら少しでも量を減らしてくれ』と言いたいところだった。

 

 実際には、この三人も他のメンバーに負けずとも劣らずどころかかなりの量の仕事をこなしているのだがそういうのはわかっていても言ってしまうものなのだった。

 

 とにかく全員が少なからずの死線を経験したものの奇跡的にスケジュールは何の遅れもなくやり遂げられ作戦結構の朝を参加者全員が迎えた。

 

 

 

 その朝。午前7時といったところだろうか。

 アキバの街の3ヶ所に派手な登りを建てたこじんまりとした飲食店が開店した。

 アキバの街の住民は飲食店を出すなんておかしな店もあるもんだと奇異な目でそれを見つめていた。

 

 それもそのはず、今の料理には味がない。

 材料さえあればメニュー画面のワンタップでものの十秒でできてしまう。

 幸いにも栄養は摂取できるとわかっているから、今は市場に流れているのは値下げ合戦の末の安い味のない料理。

 

 それなのに、店のメニューを見る限り今の市場ではどれも割高と言っていいくらいの値段設定。

 なにより店売りというのは食べる人の顔が見えてしまう。本来だったら美味しいと顔を綻ばせているのを見たいのに料理は味のないふやけた煎餅の味、まるで道端の石ころを見るように、ましてや憎々しげに見られるのだから店売りが減るのも当たり前なのだ。

 

 そんな中での出店。

 妙な注目を浴びるのも当たり前である。

 

「うーん!いい朝だね~♪絶好の開店日和だ」

 

 背筋をぐーっと伸ばして背伸びをし店の前でそう言うのは黒髪の青年。普段は神祇官(カンナギ)らしく和装をする彼も今日ばかりは珍しくも暖色の軽食店らしい制服に身を包んでいる。

 三店舗ある〈軽食販売店クレセントムーン〉の一つの店長に収まっている。

 周囲では他の従業員であるメンバーが準備を済ませて続々と集まってくる。

 

「奏さん、商品の運び込み終わりました」

 

「おっけ。じゃあやるとしますか」

 

 最後の準備完了の報告を副店長の明日架から受けメンバーを全員を見渡す。

 

「みんな、急ピッチの準備お疲れ様。でもここからが本番だ。これからが二歩目だ。絶対これは売れる。というか売れないわけがない。気合い入れて全部売っぱらうぞー!!」

 

「「「「「おおーー!!」」」」」

 

 掛け声を上げて気合いを全員が入れ、それぞれの持ち場へとついていく。

 厨房の方からジュウジュウと肉の焼ける音が聞こえ始め香ばしい肉の匂いが周囲に漂い始める。

 

 その匂いに惹き付けられてか広場を遠巻きに見るアキバの住人たちが集まり始める。

 

「味のない寂しい料理にガッカリしてるそこのアナタ!そんなアナタに嬉しい朗報!

 

 肉汁タップリのカリカリチキン!

 甘辛なソースと肉、パリパリのレタスをあわせたクレセントバーガー!

 爽やかな薔薇の香りが薫るブラックローズティー!

 どれも絶品の旨さ!

 騙されたと思って買ってみて!早く買わないと売り切れちゃうかもよ!」

 

 大きな声を上げて奏が遠巻きに見つめる住民たちに呼び掛ける。

 何人かが押し合うようにして面白半分で買えよ買えよと話し合っている。

 

(あともうひと押しだ)

 

「クレセントバーガーとブラックローズティー、一つずつ貰えますか?」

 

 一人の女性が奏に話しかけてきた。記念すべき一人目のお客様だ。

 

「ご注文ありがとうございます。クレセントバーガーとブラックローズティーのご注文入りましたー!」

「それでは少々お待ちを」

 

 1分と経たないうちに飛燕が似合わないエプロンを着けてクレセントバーガーとブラックローズティーを運んできた。

 

 なんでコイツに持ってこさせたし…、心の中で悪態をついたのは奏の秘密だ。

 裏では緊張した面々の他のメンバーがいて年長組の飛燕が嫌々ながらも一番槍を買ってでたのは飛燕の秘密だ。

なんだかんだと口の悪く覇気のない飛燕であるがそれなりの年上としての自覚はないこともないのである。

 奏もそれはある程度察しはついていたが明日架に持ってこさせろよというのが本音である。

 目付きの悪い男より可愛い女の子がいると印象づける方が絶対にいいのだから。

 

 明日架としては飛燕がわざわざ自分から一番槍を買ってでたのが嬉しく譲ったのだろうがそれはご愛嬌とする他ない。

 

 一口。女性がクレセントバーガーを口につけた。

 周りでは野次馬根性丸出しのギャラリーがどうだどうだと見つめる。

 二口。三口。四口。

 女性は黙々とハンバーガーにかぶりつく。

 

 つーっと女性の頬を涙が流れた。

 

「美味しぃ…おいしぃよぉ~」

 

 ポロポロと涙を流してハンバーガーにかぶりつく。女性としての恥ずかしさなど感じなかった。

 そんなことよりも今はこの幸せを噛み締めたかった。

 

 そこから先はあっという間だった。

 それを見ていた住人たちは本当に味のある料理なのだと立て続けに俺にも、私にも、と〈クレセントムーン〉を求めた。

 その場にいた者たちの受けた衝撃は一時間と経たずにアキバの街を駆け抜けた。

 

〈軽食販売店クレセントムーン〉はアキバの街の最新の神話となった。

 

 

           ◆

 

「迫真の演技だったな。クイン。お前もう探偵じゃなくて女優にでもなった方がいいんじゃないか?」

 

「ばか言え。あんなの探偵の基本スキルだ。そして私は女優なんてなれない」

 

 

 今日の〈軽食販売店クレセントムーン〉の営業を終え、〈三日月同盟〉のギルドホームに帰ってきた俺たちは各々自由時間としていた。明日の準備もあるのだが、年長組以外は疲れ果ててダウンしてしまったのだ。

 死線と言ってもいいくらいの忙しさだったもんな。アキバの街のほとんどがお客として来たんじゃないかていうくらい来たしな。

 疲れるのも無理はない。かくいう俺も疲れた。

 

 今は美少女(笑)と雑談して宛にならない体力回復をはかっているところだ。

 

 そして、その美少女(笑)がなぜここにいるかというと、俺の店に来て最初に注文した女性。

 アレ、クインなのだ。

 

 ギャラリーに一歩踏ん切りをつかせるために一芝居をうたせてもらったのだ。

 お陰でたったの四時間でブラックローズティーを除いて全品完売。

 おまけにまだまだ潜在顧客数はいると見えるのだから伸びしろがある。人手が足りるかどうかはわからないが。

 

「わかった。キスシーンがダメとか言うんだろ?」

 

「あっあたりまえだっ!!。キスシーンなんかできるかっ!だけど奏、もっと重大なことがある」

 

「なに?まだあんの?さすがに手が繋げないとかはなしだぞ」

 

 そこまでいったら逆に尊敬するけどな。どんだけ貞操観念強いんだよ。

 

「さすがにそこまではないよ。赤面しっぱなしになるくらいだろう」

「わりとアウトなラインだな」

 

「不適な笑みしか練習したことないから自然な笑顔ができない…」

「コミュ障かっ!!」

 

 自然な笑顔がつくれないって…。

 そういえばコイツの女の子らしい笑顔とかあんまり見たことないよ。いつも小バカにする笑みか自信タップリの不適な笑みばっかりだ。

 

「クイン、一回笑ってみろ」

 

「こっ…こうか?」

 

 ニタァァ……、なんて効果音がつきそうな不自然すぎる笑顔を作らせるクイン。

 ヤベエ…これは正直ひくわ。不自然すぎてバカにされてるみたいだ。

 

「今、ひいたな…?」

 

「ひいてない。ひいてない。普通だって。大丈夫大丈夫。トテモ魅力的な笑顔。惚れちまうヨ」

 

「目を下に逸らしながら言われても説得力なさすぎるんだよ!!バレバレの優しさを見せるな!わかってるんだよ私だって!」

 

 こんな風に雑談をしていると疲れはてたマリエちゃんが書類机からベターと体を預けたままに顔だけこちらに向けてニコニコとし、

 

「仲いいなー。二人とも」

 

「「普通だ」」

 

「息ぴったりでそんなこと言ってもあまり説得力はありませんわ」

 

「おろ?ヘンリエッタさん集計終わったの?」

「どないやった?売り上げはっ!」

 

 

 こういうところは関西人の血だな。瞳を輝かせて尋ねるマリエちゃん。

 

「売り上げは金貨4万3776枚。来場者数は1159人、客単価はおおよそ金貨38枚です。用意したクレセントバーガー及びスーパークレセントバーガーは完売。その他のアイテムもブラックローズティーを除いて完売しまし」

 

「すごいねっ!えらいことやんねーっ!金貨4万枚いうたら、えーっと、うちらのギルドの月間予算の……」

 

「40倍」

 

「そう、40倍やん!!大儲けやんね。この調子でいけば目標金額まであっという間に達成やん!」

 

「いや、無理だからマリエちゃん。目標金額金貨500万枚だっちゅーに」

 

「そうですよ…マリ姉。だってそれじゃあ単純に計算して120日、3ヶ月もかかるじゃないですか」

 

 俺とシロエがマリエちゃんの言葉に口を挟む。というかシロエ、お前いたんだな。気づかなかったわ。

 

「いや、でもお客さんにいっぱいごめんなさいしたで?売ろうと思えば欲しい人はまだまだいるん。だからもっと仕入れてさ」

 

 マリエちゃんの言葉をシロエは片手を上げて遮り反論する。

 

「潜在顧客数はおそらく数万人を越えますよ。このアキバの街の住人ですら1万5000人以上のプレイヤーがいるし。でも問題はそこじゃないんです。〈三日月同盟〉のメンバーからくる、店舗数と用意できる商材の量なんです」

 

「そうなん?」

 

 いまいち理解ができてないんだろうな、困ったように首を少し傾げている。

 

「だいたい〈三日月同盟〉の規模の人手では、本日の来客者数とほぼ等しい1000人ちょっとが捌ける限界でしょうね」

 

 ヘンリエッタさんが困っているマリエちゃんに助け船を出してやる。

 その指摘に残念そうな表情で、そうなんか~と眉をしかめるが、すぐに気を取り直して切り返す。

 

「ほいじゃ、人増やすのはどう?いまならギルドメンバーも集められる思うんよ。なんてたってアキバの街の急成長株、奇跡の軽食クレセントムーンバーガー総本店やもん。なぁ?」

 

「それはあまり得策ではないと思うぞマリエール殿」

 

 今度はクインがマリエちゃんの発言に待ったをかける。なんかダメ出しされっぱなしでマリエちゃん可哀想になってきたな。

 

「今、メンバー募集なんてかけようものなら入ってくるのはスパイの連中ばかりだと思うぞ。この忙しい時期にそんな愚か者どもの相手なんてやってられんだろう。うちのギルメンを貸しても構わないが、まあ、あまり〈三日月同盟〉のメンバー以外ににホイホイと教えて良いものではないだろう。私の隣に座ってるバカがやったみたいにはな」

 

 そうかぁと溜め息をつくマリエちゃん。が、それよりも…

 

「誰がバカだ、誰が。お前俺の紹介がなかったらクレセントムーンの行列に並ぶことになってたんだぞ。感謝しろよ」

「しらんわ。アホ」

 

 べーと舌を出して小バカにしてくるクイン。このくそアマァ。思い出したように俺をバカにしてきやがって

 

「あはは…。それじゃあクインさんはこのまま手伝ってもらえるってことでいいのかな?」

 

「ああ。ギルマスから許可はもらっている。〈モルグ街の安楽椅子〉はこの作戦に全面的に協力すると思ってもらって構わんよ。シロエ殿」

 

「ありがとう。それじゃあ次のステップに移りましょう。マリ姉とヘンリエッタさんは交渉の準備に入ってもらっていいですか?」

 

「やっぱりアレ(・ ・)やるん?ウチあんまり数字のことは得意やないんやけど…」

 

 マリエちゃんが困り顔でシロエにそう尋ねる。

 

「大丈夫ですわ。私もバックアップにまわりますし。なによりこれに乗ってこない頭の中がお花畑な商人なんていませんわ」

「そうそう、勝手に勘違いしてあっちがお金出してくれるように仕向けるだけだから」

 

 これから相手取るのは三大生産系ギルド、〈海洋機構〉、〈ロデリック商会〉、〈第八商店街〉、どこも〈三日月同盟〉とは比べようもないほどの規模の人手を持った大手ギルドだ。

 

 そこから俺たちは、金貨450万枚をもらい受ける(・・・・・・)

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