ログ・ホライズン ~高笑いするおーるらうんだーな神祇官~   作:となりのせとろ

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第十六話 エルノと奏

「うー。ミノリたち大丈夫かなー」

「人の心配をする前に自分の体調の心配をしてくださいね?奏さん」

 

「面目ないです。ハイ」

 

「美人さんにずっと付きっきりで介抱されてりゃ、そりゃあオチオチ眠れもしねぇよな。はっははは」

 

「いい年した大人が美人に緊張して眠れないとか、ワロス」

 

「ミチタカさん、クイン、マジうるさい……ダメだ反論するのもダリィ……」

 

 前方の馬からミチタカとクインのからかいの声が聞こえてくるが、今は言い返すだけの気力がない。

 

 馬車酔いだ。

 

 昔から、こういう乗り物酔いに関しては酷かった。車だろうが船であろうが乗り物であれば何でも酔って目的地に到着と同時に吐いていた。

 こっちの世界に来て馬やグリフォンに乗っても気持ち悪くなることがなかったから、てっきり〈冒険者〉の身体になったことで乗り物酔いにも耐性が強くなったと思っていたのだったが、そうではなかったらしい。

 あちらの世界でもそうらしいが、自分で乗り物を運転するときは酔わないのと同じ理屈らしい。

 

 じゃあなんで馬に乗らないんだよ。という話になるのだが、不覚にも馬を呼び出す為の召喚笛を紛失してしまったのだ。出発の時にいざ魔法の鞄(マジックバック)から笛を取り出そうとすると、どこにも見当たらなかった。

 多分ミノリとトウヤと一緒にクエストに行ったとき湖に落ちた時に失してしまったのだろう。

 帰りは帰還呪文で帰ったから気づいていなくてもおかしくない。

 

 そんなわけで馬車に乗ることになってしまった俺は十中八九酔ってしまったわけだ。

 一緒に馬車に乗っている三佐さんに介抱してもらってるわけなのだが。

 

 三佐さんと俺は結構仲がいい。昔、〈茶会〉(ティーパーティー)が解散して色んなギルドを転々として〈D.D.D.〉におじゃましてた時はよく一緒にパーティーを組んでいたし、食べ物の好みも結構合う。

 三佐さんは超のつくほどの甘党なのだ。コーヒーには砂糖をめちゃくちゃ入れまくるし。十個ぐらい入れてた気がする。

 同じ甘党の俺でも気圧されるクラスの甘党だった。ぶっちゃけた話コーヒーに砂糖をそんなに入れるくらいだったら別の飲み物飲んだ方がいいと思う。

 

「なにか失礼なことを言われた気がします」

 

「きっ気のせいですよ!」

 

「……まぁ、いいでしょう」

 

 俺の周りの人間は読心術を使える人間が多すぎる気がする。オチオチ語りもできやしない。

 

「三佐さん、三佐さん。お願い聞いてもらっていい?」

 

「何ですか?」

 

「〈月照らす人魚のララバイ〉歌ってもらえないかな?エターナルアイスまで寝ときたいわ」

 

「別に構いませんが。奏君の場合は催眠系の陰陽札を持ってらっしゃいますよね。それを使った方がすぐに眠れるのではないですか?」

 

「いや、腐っても一応〈魔道具〉だから、あんまりホイホイ使って体に悪影響とか出たら嫌だし」

 

「作成費がもったいないと」

 

「オッシャルトオリデスミササン」

 

 三佐さんは少し微笑むと、三佐さんの周りに水色の波紋のようなエフィクトが発生しだす。透き通った綺麗な歌声を聴いているうちに俺の意識は水のなかに潜っていくように暗闇へと沈んでいった。

 最後に見せた三佐さんの笑顔……超可愛かった。

 

 

           ◆

 

 

 一行が〈エターナルアイスの古宮廷〉へと到着したのはアキバの街から出発してから二時間ほどだった。宮廷への道のりも奏が馬車酔いして寝込む以外は取り立ててトラブルもなく平穏なものだった。

 代表団は総勢十三人。

 あまり大勢で押し掛けるのも警戒心を与えるだろうということで入念に選抜されたメンバーだった。

 後で分かることだが、この人数は出席者の中でも最少だったらしい。どこの領主も普通はこの倍以上の数で押し掛けるようだ。

 とにもかくにも貴族と対等に話すというのであれば、〈円卓会議〉側の代表者も出席しなければならないとクラスティ。次にNo.2として生産系の代表者も出席した方がいいと十一回戦ものバカではないかというじゃんけん大会の末にミチタカが、No.3としては実務方面や情報関係の分析が出来る人材を選びたかった。

 白羽の矢がたったのは、アキバ一の情報屋ギルドのサブマスであるクインであったが、「私は探偵であって、政治的なやり取りには不安が残る。シロエ殿も一緒についてきてくれないかー?」と心にもないことを言ってシロエを道連れにしシロエをNo.3に自分はNo.4という形に誘導していた。後で奏が聞いてみたところ「だるい。シロエ殿なら何とかするだろう。あの奇策は悪役じみてて面白かったからもっと見て見たいし」と言っていた。あわよくば対決してみたいとか思っているのだろう。

 

 四人の代表が決まったことで自動的に従者となる人手も加わりクラスティには高山三佐ともう一人。

 ミチタカにはカーユという長髪の実務に長けた男性と料理人が二人。

 クインには情報収集に長けた人材を二人。

 シロエには、最初から「主君は私が守る」とのラブコールしていたアカツキ、自動的に(どこが自動的になのかサッパリだが)オブザーバーとしてヘンリエッタが参加してきたのはシロエとしては予想外だったようだ。そしてエルノ=コーウェン直々の指名で奏が雑務として参加することになったのだった。

 

「貴族の酒もこれはこれでうまいかな?」

 

 日も沈みきり、星の小さな光と東の空に昇る三日月があちらの世界と変わらず夜空を照らす中、溶けることのない氷に一部覆われたテラスに奏はワインの入ったグラスを片手に佇んでいた。

 シロエたちは今頃パーティーであろうが、奏はさすがにパーティーは勘弁してくれと出席は遠慮した。

 シロエも無理やり連れてきたことを悪く思っているのか(奏が馬車酔いしながら呻くようにミノリたちを心配する声を聞いていたし)あっさりと構わないと許可した。ミチタカが最後ら辺まで連れていこうとしていたがケツを割かし本気で蹴ったら諦めていった。

 

「お気に召さなかったかい?」

 

 振り向くと、奏をこの〈エターナルアイスの古宮廷〉へと呼び出した張本人、エルノ=コーウェンが出会ったときと同じ黒のロングコートを着て奏と同じように片手にワイングラスを持って立っていた。

 

「知り合いに腕のいい〈醸造師〉がいるもんでね。このぐらいの酒じゃ物足りないね」

 

「そうかい」

 

「そうだよ。で、本題に入ろうぜ。細かい探り合いは好きじゃないんだ。お前は貴族の中では話の通りそうな奴っぽいし仲良くしておきたいんだよ」

 

「エルノだ」

 

「は?」

 

「仲良くしてくれるんだろう?握手は〈冒険者〉の間では友好の印としてするもんじゃないのかい?仲良くするんだったら名前で呼んでくれた方がなんかしっくりくるだろ。親しい友人にはそう呼ばれているんだ」

 

「お前本当に大地人の貴族か?じゃあ俺も奏でかまわないよエルノ」

 

「わかった。じゃあ、早速奏の聞きたがってる本題に入ろう。

 君の見えているナニかについてだ」

 

「つっ!‼!」

 

「やっぱり見えているんだね。カマかけてみて正解だったよ」

 

「前言撤回だ…。お前いい性格してるよ。何処の回し者だ?」

 

 警戒のレベルが一気に跳ね上げ低い声でエルノを睨み付け尋ねる。

 貴族か?西の連中か?それとも最近感じてる視線の奴か?

 

「おおっと!?そんなに警戒心を全開にしないでくれよ。僕は何処の回し者でもないよ。カマをかけたのは悪かったよ謝るから」

 

 まさかここまでの反応をするとは予想外だったのかエルノは慌ててことを荒立てる気はないとアピールする。

 メガネ相手に警戒を緩めすぎたかと思っていた奏もエルノの必死な様子を見て話を続けることにする。

 

「どうして気づいた?そしてお前は何を知ってるんだ?」

 

「君と最初に会ったときさ。君の僕を観察する時の目がおかしかった。これでも貴族の端くれだからね。人のに観察するのもされるのも慣れてるんだよ。

 でも君の観察の仕方はまるで僕だけじゃなくて僕の周りの目に見えないナニかでも見ているような目だったからね。興味をひかれたよ。挙句の果てにはいきなり大地人の貴族相手に握手を求めるんだもの、面白いと思ったよ。

 僕はこの宮廷を管理するだけでそれ以外は何もないからね。結構暇なんだ。

 それで君と話してみたくなった。

 何を知ってるか?ていうのは正直答えにくいね。知っているかもしれないってだけで確証がない。

 キミの目にはどんな風に世界が見えているのかを聞いてみないとキミの目と関係があるかどうかは断言できない」

 

 

「そうか……わかった。話してやるよ。俺の目に見えているナニかのことを。いい加減俺もこれについてはハッキリとした正体を知りたかった。

 誰かに盗み聞きされるのもしゃくだし場所を変えるぞ」

 

 パチンと指を鳴らすと奏を中心に今ではメニューを操作せずとも使える程にこの世界で多用し続けてきた〈聖域結界〉が展開される。

 本当は指を鳴らさずとも展開できるが、気分の問題だ。

〈聖域結界〉は簡易的なゾーンを展開する。〈聖域結界〉の中の声は外に漏れることは万にひとつとない。ゾーンとゾーンを挟んでしまえばどんなことがあっても中と外は互いに絶対に干渉出来ない。〈ハーメルン〉を潰す前にクインに調べてもらって発見した利点だ。

 奏は文字どおり場所そのものを変えた。

 

「凄いな。〈冒険者〉はみんなこんなことが出来るのかい?」

 

「出来ねぇよ。一部の人間だけだ。そうそう簡単にやられてたまるかこんなの」

 

 実際に奏の知る数少ない〈陰陽師〉のサブ職を持ったプレイヤーでも〈聖域結界〉を使えたのはゲーム時代には一人しかいなかった。今はどうなっているかわからないが。

 

 盗み聞きの心配もなくなったことで、奏はテラスに備え付けられていた長机と雪の結晶とトナカイの装飾が施された椅子に足を組んで座ると反対側にエルノは座り聞く体勢をとった。

 奏は幼い頃からの秘密を淡々とそのまま話した。エルノもそれを黙って聞いていた。

 

「〈魂魄理論〉」

 

「?」

 

「一般的に言って人間や亜人間を動かす霊的な力を魂魄といって、魂魄は魂と魄の二種類が密接に関わったエネルギー体であるという考え方だ。

 

 魂は精神を駆動するエネルギー。人間の精神は魂の上に存在している魂が強いということは、心の力が強いことを表して魔法の威力もこれに依存するね。魂とは別称MPど呼ばれるものだね。

 

 魄は肉体を駆動するエネルギー。人間の身体の肉体的な強靭さは魄に大きな影響を受ける。魄が強い場合は肉体的な強さだけじゃなく肉体の持つ霊的な力も強くなるらしい。戦士なんかの武器攻撃職はこれを戦闘に利用していると考えられるね。HPが魔法使いよりも戦士の方が多いのはこれが理由だね」

 

「それが俺の見える力の正体だってか?」

 

「恐らくね。それに加えてその人のメンタルの動きがが魂を通して見えるんじゃないかな?

場の力ってのは大気中に落魄した根元的なエネルギーや魔法なんかを使用したときに大気に溶ける精神力なんかだろうね」

 

「ん?落魄ってのは何だ?」

 

「人が何らかの理由で死亡したときまず身体が動かなくなるね。この時点では精神は健在だ。でも限界を迎えてしまった肉体と精神は切り離され、外界の光を感じる肉体から流れるはずの情報が途絶えた精神の方は暗闇に捕らわれた状態になるわけだ。

 そして魂の拡散。魄は肉体の根元的なエネルギーだ。だからこの拡散は高レベルの身体を持つ存在ほど拡散には時間がかかる。その過程を落魄というらしい。

 〈冒険者〉の場合はそこから空気中に拡散した魂が〈大神殿〉に集結、魂の記憶を基に身体の再構築、がなされるわけだよ。大地人は死んじゃうけどね。」

 

「さっきから所々曖昧だな。誰かの受け売りか?」

 

「あぁ、この宮廷に居候しているヨレヨレローブの魔法学者から聞いた話なんだ。会いたかったら紹介するけど?彼ならもっと詳しく分かりやすく説明できると思うよ」

 

なんだその宛にならなそうなダメっぽい学者と内心この話信じていいのか不安になる奏

 

「いや、今日はいいや。また今度紹介してくれ。今はちょっと落ち着きたいし。一緒に酒でも飲もうぜ〈冒険者〉の酒も飲んでみたいだろ?」

 

「是非とも戴きたいね」

 

 後日、エルノに紹介されて会う宮廷に居候しているヨレヨレローブの魔法学者がミラルレイクの賢者リ=ガンだと自己紹介され奏は隣に立つエルノのケツを全力で蹴り飛ばすのだった。

 ミラルレイクの賢者、この世界の魔法学者の頂点である。

 

 

           ◆

 

 

「うまいなー。こんないい酒はなかなかお目にかかれないだろう」

 

「なぁ誘った俺が言うのもなんだけどさ。お前今やってるパーティーに参加しなくていいの?」

 

「いいのいいの。あんなパーティー行ったって可愛い子なんてレイシアぐらいだからそれに俺は本家の人間じゃなくて養子だしね。最初に言ったろ?僕はこの宮廷の管理をしている自由な貴族なんだって」

 

 エルノはコーウェン家の人間では正確にはない。

 勿論コーウェンの姓は名乗っているし戸籍上(この世界に戸籍があるかどうかはわからないが)はコーウェン家に名を連ねている。しかし元々のエルノはコーウェン家の分家の元に生まれた子供だった。だが、エルノがまだ三歳だった頃エルノの両親が治めていた領地で疫病がはやった。領地に住む半数近くの人間が突如にして激しい頭痛と吐き気、身体の一部が動かなくなる症状が発生したのだ。

 

 不幸にもエルノの両親も。

 

 

 しばらくして〈冒険者〉たちによって疫病の原因であったドラゴンゾンビは退治され、〈冒険者〉の持ち込んだ秘薬により領民の多くは助かった。エルノの両親は助かることはなかったが。

 最後まで薬は受け取らなかったそうだ。自分達よりも領民を優先して。

 領地は人がいてこその領地なのだと。人がいなければただの土地だと。

 

 幼少のエルノは理解できなかったが納得はした。両親はただ大好きなものを守ろうとして死んだのだと、無理やり納得した。

 

 セルジアット=コーウェンはエルノの両親の『エルノをよろしく頼む』という最後の願いを聞き入れ、自分の養子としてエルノをコーウェン家へと迎え入れた。

 勿論反発がなかったわけではないがセルジアット公は絶対にエルノを見捨てることはしなかった。年の離れた義理の姉レイネシアの母も優しくエルノを本当の弟のように可愛がった。

 けれど養子であるエルノにコーウェン家を継がせるわけにもいかず、エルノももっと自由に様々なことを経験したいと〈エターナルアイスの古宮廷〉の管理者として落ち着いた。

 ミラルレイクの賢者がオマケで付いてきたことは予想外だったが。

 

「別に今日のパーティーをサボったからって何か損するわけじゃあないしね。夜のパーティーでのドレスはあまり好きじゃあないんだよね足が見えないし。まあアレにはアレで良いところが有るけど鎖骨とか」

 

「ああ~わかるわ。鎖骨見えるのは良いけどどうしても足は見えないんだよな」

 

「それと比べて昼に着るドレスはなかなかいいよね。夜に着るドレスに比べてスカートの丈が短いからくるぶしとほんの少しだけ生足が見えるし」

 

「あのほんの少しだけ見えるのがいいよなチラッと」

 

「だよね~」

 

 その夜二人は生足がどうだスカートがどうだ、どのアングルがグッとくるかと酒を飲みながら暑く語り合った。

 翌朝、テラスにいくつも転がる酒瓶とテーブルに突っ伏す〈冒険者〉と管理人のアホ二人が使用人に発見された。

 二人の仲はこの一夜にして十数年連れ合った親友のレベルまでたっしていたのだった。

 

 

 

 

 

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