ログ・ホライズン ~高笑いするおーるらうんだーな神祇官~ 作:となりのせとろ
奏はこの世界が異世界になってしまったことで戦闘面で大きな一つの問題を抱えた。
奏の最も知名度の高い〈高笑い〉の二つ名とは別にある〈百鬼祓い〉という二つ名を冠することになった由縁となる戦略技術。
それまでにあった二つ名は〈高笑い〉を除きこれの影響で一新されたと言っていいほど周囲の奏への印象を変えたもの、この奏の代名詞といっても過言ではない技術の弱体化、彼にとってそれは自身のスタイルを検討し直す必要性も生まれる問題だった。
本来、
しかし、ここに二つの問題が生まれてしまった。
いつぞやにも話したことだが、〈エルダーテイル〉がゲームから現実に変わってしまったことで〈視野の狭小化〉〈観察対象の複雑化〉の二つだ。
特に一つ目は致命的だった。
人の視野は正中線を基準にして左右に80度から85度程度が限界。ゲームの頃のようなアバターを斜め上から見るような視点から一気に狭まった。
大災害直後、アサクサで活動しているときは良かった。
基本は千菜と組むだけだったし、慣れるためにソロで戦闘をこなすことの方が多かったから。
しかしアキバの街も〈円卓会議〉が立ち上がり生活に余裕が出てきた頃には〈三日月同盟〉、ミノリやトウヤらの低レベルの子達のレベリングなどを手伝ったり、シロエたちと自分達のレベル帯にあった敵と戦ううちに違和感を覚えてしまったのだ。
ゲームだった頃よりも確実に精度が落ちている。
仲間へのダメージ遮断呪文の最適投射の成功率が八割五分にまで落ちた、敵に与えることのできるダメージ率が自分が想定していたよりも低い。
それはゲームから実際に自らの身体を使ってモンスターと戦うことによる僅かな
奏は接近戦闘をしながらの補助だ。時には
こんな風にいうと語弊があるが、別に奏は後方支援がしたくないというわけではない。
元々が生粋の後方支援だったのだ。後方支援を馬鹿にするつもりは毛頭ない。
ただ、カナミのために編み出したこの戦い方を捨てるのが嫌だっただけだ。子供っぽいしょうもない理由だった。けど奏にとっては大事なことだった。
視野の狭さはしょうがない。頭の後ろに目玉をつけない限り広げようがないのだから。
観察対象の複雑化はもう慣れだ。とことん経験を積めばなんとかなる、はず。
そこで奏は更に手数を増やすことにした。
特技や魔法の階級を上げるのはこの異世界となったた今では難しい。レイドコンテンツに挑戦するのは今となってはリスキー過ぎるからだ。それに多用するものは既に秘伝もしくは奥伝に至っている。どうしたものか、奏勧誘はは考えた。
とりあえずは知識をつけることにした。
幸いにもにゃん太の発見したサブ職業のメニュー画面を使わない料理作成と同じように他のサブ職業でもメニュー画面を使わない作製法は通用することは立証されていた。
そこになにか突破口があるんじゃないかと奏はアキバの図書館に籠り様々なことを調べた。
クインに〈ハーメルン〉の身辺調査と一緒にゾーンの情報を依頼したのもその一環だった。
〈陰陽師〉特有の特技〈聖域結界〉の可能性も感じていたのも一端だ。
〈聖域結界〉を張るとき周囲のナニかを利用していることは気づいていた。
ただそのナニかがどういうものなのか理解出来ていなかったため扱いに難儀していたが、奇しくもその秘密は数ヶ月後、自分そっくりな貴族とその友人の魔法学者に教えられることになるのだが、今は割愛。
当時は、〈聖域結界〉を張ってそれを〈ハーメルン〉のゾーンとくっつけることで突入することに成功した。勿論チューニングがめちゃめちゃ大変だったが、元々が〈ハーメルン〉のゾーンはギルド会館の一部だったこともありなんとか成功した。
そこから奏はこの〈聖域結界〉が戦闘に応用できるんじゃないか?と考え出した。
ゾーンというのはいわば一つの要塞なのだ。ゾーンの設定は絶対。部外者の立ち入りを禁じていれば部外者はどんなことをしてもゾーンの権限を持つものの許可がない限り侵入不可能だ。
クインの報告書にも同じことが書かれていたから間違いはない。
〈聖域結界〉にはそういった設定操作のメニューはないが、設定はあるはず、そこを自由に感覚で弄れるように成れば、最高の防御になるはずだと。
結果としてはあまりうまくはいかなかった。
〈聖域結界〉を張るのに必要なナニかをきちんと理解出来ていなかったのが原因だと思う。
結界の範囲制御がとてつもなく難しいうえに、当たり前といえば当たり前だが結界の中から瞬時にオンオフを切り替えて攻撃魔法を撃ったり、特技を使ったり出来なかったからだ。他にも他にもetc…
起源となる力が解っているのと解っていないのでは性能にムラが出るのは至極当然といえた。
けれど先日のエルノ=コーウェンとの出逢いによりそれも解決した。
今まで実戦では使えないレベルだった、もう少しすればアキバの街でも僅かではあるが囁かれるようになる口伝の一つ
口伝〈聖域結界〉が幾つかの弱点を残しつつも実戦でも切り札として切れる口伝〈黄金領域〉へと昇華したのだった。
そしてこの副産物としてなのかどうかはわからないが以前よりも奏の眼は魂魄をはっきりと認識出来るようになっていた。
僅かであれば魂泊の流れを肌で感じることも出来るようになった。
今は気配をより鮮明に感じる程度で眼の代わりにはさすがにならないが、もっと熟練すれば「はっ、この気はカカロットかっ!?」みたいなことも出来るようになるかもしれない。
恐らくサブ職業〈陰陽師〉のお陰でもあるんだろう。
これで
奏の譲れないガキのようなプライドは守られたのだった。
◇◆◇◆
鳴り響く爆発音がところどころで響き、サファギンの数はここにきてやっと減り始めていた。はっきりいってもうMPの余裕も陰陽札のストックもない。
このタイミングでアキバの街からの応援が大型輸送船〈オキュペテー〉に乗って到着したことは有りがたかった。
今はサファギンに邪魔されて少しずつしか上陸できていないがじきにサファギンの殲滅は完了するだろう。
千菜と直継たち引率組との合同パーティーでサファギンたちを殲滅していたときだった。チョウシの町の方向から大きな爆発音が聞こえてきた。嫌な予感がした。それはもう直感でしかなかったが確信に近かった。
さっきまでいたミノリたちパーティーがいなくなっている。脳裏に過るのはルンデルハウス=コードのこと。
「兄さん、行って!!」
「わかったっ!!」
俺は急いで駆け出す。神経を集中させ魂泊の気配を探る。恐らく、誰かがやられた。ミノリかトウヤかセララか五十鈴かそれともルンデルハウスか、誰かはわからないが直感した。
チョウシの町の中央付近の大十字路、そこには予想通りの光景があった。横たわりピクリとも動かないルンデルハウスに、彼のもとに集まり顔をぐしゃぐしゃに歪め涙を流す五十鈴ちゃんにトウヤ、セララ。
ミノリはひとり目に涙を浮かべながらもこめかみにてを添えて誰かと念話をしているだろうことが伺えた。相手は、シロエだろう。
「ここにいるのはわたし、トウヤ。五十鈴さん。セララさん。そして蘇生しないルンデルハウスさん。「俺もいるぞっ」っ!! それと奏さん。場所はチョウシの町の中央付近、大十字路」
こういうときに、ミノリが最初に助けを乞うのがシロエだというのはなんとなくわかっていた。
ミノリがシロエに憧れ以上の感情を持っているのは簡単に察することができたから。
だけど、やっぱり俺にも頼って欲しかったねえ、どうも。
ミノリに額をくっつけんはがりに近づけ念話に無理矢理割り込む。
「シロエっどうしたらいい?」
『奏っ!?、MPのストックはどのくらいある?』
「六割強、〈竜玉の腕輪〉のMPストックは使い切った。〈真光〉も全部使った。MPポーションはあと一本だけ残ってる」
『〈朱雀〉を使って何分回復をし続けられる?』
「五分」
『わかった。ミノリ、セララに指示。蘇生呪文を詠唱。150秒待機。トウヤは周辺警戒。五十鈴さんはMP回復歌を。150秒後に今度はミノリが蘇生呪文。奏はMPポーションを飲んでミノリが蘇生呪文投射後、〈朱雀〉を使って僕が行くまで保たせて』
シロエとの念話が切れる。急いで準備を済ませる。
〈魔法の鞄〉からMPポーションと真っ赤な文字を刻まれた札を一枚取り出す。
ポーションを一気に飲み干し、ミノリが蘇生呪文を投射したのち、札を上空に投げる。
札は一気に燃え上がり、炎が大きくなり球体になったところで弾ける、中から身の丈を大きく越える紅い美しい巨鳥が現れた。
「奏さんっお願いしますっ!!ルディをっ…ルディをっ助けでくださいっ…」
「わかってる…助力はしてやる…だから今は話しかけるな。これからやるのは俺も今までやったことない魔法だから…」
眉間にシワを寄せいつもとは比べ物にならないほどに怖い顔をした奏の重々しい言葉に五十鈴は黙らされる。
「力の根源たる我が命ずる南を司りし炎帝よ
還りし素は血へ血は骨肉へ留めよ我素なりえるもの喰らい従え
多きは望まぬ只留め癒し保つことを命ずる」
「重ねて力の根源たる我が命ずる南を司りし炎帝よ
場にありし魂を我を除き癒し整えよ代償はこの場におりしものには求めず我の持ちし宝玉より注がれし力を喰らえ
この命は我の素たるものが尽きし時解くものとする」
朱雀が俺の命を聞き届け甲高く鳴き炎を撒く。その炎は身を焼くような熱さも持たずただただ暖かくこの場にいる全員の身体に溶け込む。
朱雀が司る最高位の回復魔法をこの場にいる全員が受ける。
一つはルンデルハウスのこれ以上の落魄を抑え身体の傷を再生させる。
一つはこの場にいる全員の精神を回復し整える。一気にMPを朱雀にもっていかれ頭が朦朧とする。
だが下準備はできあがった。ここからが本番だ。
「ミノリ…ルンデルハウスが倒れてから…何分たった…」
「多分十分も経ってないはずです」
幸いにも戦闘のお陰で場に魂魄は充満している。〈黄金領域〉を張る分には問題ないだろう、が今からやることにはマイナスだ。
「〈魂呼びの祈り〉」
空気に溶け込もうとしているルンデルハウスの魂魄を〈黄金領域〉で閉じ込め集める。そこから〈魂呼びの祈り〉を媒介して大気に散っているルンデルハウスの魄を俺の眼で捕らえ戻していく。
特技や魔法の階級というのは本当は魔法の効果が上がっているのてはなくて本来の性能に近づいているのだと俺は考えている。
そのため蘇生呪文と俺の相性は誰よりも高い。なんたって器に戻すべき対象が見えているのだから。
だから本来の性能の更に上に今から望もうとしているのだ。
ぶっつけ本番、エターナルアイスでは《黄金領域》しか練習できなかった。魂魄のコントロールは無意識にしか今までしていなかったことを意識的にしなければならないのに。
宙に浮くルンデルハウスの魄だけを俺の〈魂呼びの祈り〉を基礎として作った魄の手で掴みルンデルハウスの肉体に戻していく。
朱雀の召喚により常時減っていくMPのせいで魄の手は淡く細い。集中しているのに意識は朦朧としている。
無数に絡まった何本もの糸を解き何個もの針の穴に通すような作業を無限に続けるようなことをして体感では永遠に感じられた。
「みんなっ!」
「やっと…来たか…おせぇんだよ。バカシロエ」
「ごめん、奏。〈朱雀〉はもう戻していいよ。ここからは僕の番だ」
朱雀を戻した瞬間身体の力が抜ける、倒れかけたところをトウヤが慌てて支えてくれた。
「ミノリ、トウヤを外して僕と奏をパーティーに誘って」
「はい」
「トウヤ、そんな顔してんじゃねえよ。もう俺の結界も解けてる。その時にゴブどもが来たら止めれるのはお前だけだぜ?」
「…おっす」
「五十鈴さんだっけ?そのまま〈瞑想のノクターン〉を詠唱続行。今から新しい魔法を使う。このことは他言無用だ」
シロエはそこからきつい口調で新人プレイヤーに話しかける。
「納得できないなら諦めるか、ここから去って」
全員が戸惑うことなくすぐに頷く。
「じゃあ、始めよう〈マナ・チャネリング〉」
もう雀の涙しかないなけなしのMPをシロエに渡し、シロエが全員のMPを統合し根元的な精神力へと還元する。
大きな水球のようになった全員のMPが混ざりあい美しく色とりどりに煌めく。不謹慎だが美しいと思う、再分配されるMPは全員の残り香を感じられた。もちろんルンデルハウスのものも。
「奏ミノリは蘇生呪文を、セララは連続ヒールっ。奏は二人の補助を」
「ここから先は時間との勝負」
シロエは続けざまに言葉を紡ぎつつ懐から〈黄泉返りの冥香〉を取り出す。
それは死んだ仲間や生物をゾンビとして蘇らせ、戦闘に用いる特殊なモンスターとしてかりそめの命を与える薬品である。その効果時間は僅か3分。後には逆らえない確実な死が訪れる。
だが、ルンデルハウスにたいしては大きな意味を持つ。魂と精神の接続が途切れてしまってる現状を無理矢理打壊する。
だがその先の確実な死がが問題なのだが……
「あ……」
うっすらと夢から覚めたようにおぼろげに瞳を開くルンデルハウス。
五十鈴はその手を握り、涙をぽろぽろとこぼす。ルンデルハウスが意識がはっきりとはないだろう。ただの肉体的な条件反射で眼を開いただけだろう。
「ルディ……?」
「ミス・五十鈴…。ああ、みんな。そうか……。僕は、どうやら…死んじゃったらしいね」
ルンデルハウスは小さく笑うと、まだ、力の戻っていない声で、周囲に言葉をかける。
「みんな、いやだなぁ。…そんな顔をするなよ。戦いの結果、命を落とすなんて当然だろう?」
「それでも僕は〈冒険者〉になりたかったんだ。ミス・五十鈴を責めるのはやめておくれよ?頼み込んだのは僕なんだからさ」
「いえ、わたしだって気が付いてましたっ。気が付いていて、放置してたんですっ。」
ミノリが叫ぶように声を漏らす。その言葉は後悔と苦しさがなによりも込められた懺悔のような言葉だった。今まで冷静に行動してきたミノリも、内面ではずいぶんと動揺していたのだ。
「はははっ。うん、、ミス・ミノリ。ありがとう。気にすることは「ふっざけんなっっあああ!!!!」
今まで目をつぶりルンデルハウスの言葉を聞いていた奏が今までに見たことのない、いや、ミノリとトウヤは見たことがある〈ハーメルン〉のアジトで見た奏の怒りの表情で怒鳴り付けた。
その場にいる全員が面食らい視線が奏に集まる。
「なにがありがとうだっ!なにが責めないでくれだっ!ふざけるのも大概にしろ。
戦いの結果命を落とすのが当然?はっ、んなもん誰に言われるまでもなく当たり前なんだよ、かっこつけてんじゃねえ。
お前はこいつらに洗いざらい全部話すべきだったんだよ。
それでも〈冒険者〉になりたかったぁ?お前みたいな甘ちゃんがなれる分けねぇだろうがっ!
お前とこの一週間以上一緒に過ごした仲間はそんなに信頼できなかったか?お前が〈大地人〉だと知って馬鹿にするやつらだったか?
〈冒険者〉の意味を履き違えるな!!仲良しごっこの友達同士の集まりが〈冒険者〉じゃねぇんだよっ!!」
「奏にぃっ!」
トウヤが悲痛な面持ちで言葉をかけてくる、けど、俺は止まらない。止めるつもりもない。
「ミノリにしろ五十鈴にしてもそうだ。お前ら何でこのバカを説得しなかった!?こいつが死んだら終わりだと気付いてなぜ説得しなかった。
優しくするだけが正しいわけじゃねぇんだよ。黙っていることが優しさだと履き違えるな。
人生ってのは理不尽で残酷で冷酷でバカらしいほどに悲劇的に劇的なんだよ。おとぎ話じゃない。ゲームじゃない。
ハッピーエンドで終わるとは限らないんだよ、そんな中で手を抜いて生きていけるわけねぇだろうがっ!!」
「じゃあ僕はどうしろっていうんだっ!!もうどうしようもないじゃないかっ!!」
「仲間に、未練を、後悔を、恨み言を吐けばいい。死んでもないのに生きることを諦めんな。そして最期に安心させるように微笑みかけて死ね。残されたやつに悲しみだけを残すな」
「そうか…そうすればいいのか…あぁ悔しいなぁ…。
僕はもっと生きたかった」
「でも、今じゃない。お前に死なれたら困る。
言っただろ俺との約束を忘れるな、お前を泣かすんだよ俺は。まだ俺は地獄まで行きたくないからな。死なれちゃ困る。
もっと強くなれ。でなきゃお前はただの道化だ。〈冒険者〉になるんだろ?
ここはシロエがなんとかしてくれる。だから二度と同じ間違いをするんじゃねぇぞ。
シロエ、後は任せた」
「無茶苦茶にやってくれたね。でも僕が言いたかった以上のことを言ってくれた。
いいか、聞けっ」
シロエは一枚の字の乱れきった書類をとりだして、ルンデルハウスに突きつける。
「契約書、か」
「契約──
ひとつ。ルンデルハウス=コードはギルド
ひとつ。この契約は両者の合意と互いの尊敬によって結ばれるものであり、契約中、互いが得たものは、契約がたとえ失効したとしても保持される。
以上、本契約成立の証として、本書を2通作成し、両者は記名のうえ、それぞれ1通を保管する」
「〈冒険者〉──?」
「なるほど、な。恐れ入ったわ……裏技にも程がある…」
《黄金領域》と同じゲームの頃にはなかった新しい魔法。
ルンデルハウスは〈大地人〉だ。
3分後には確実な死が待ち構えている。〈大地人〉は復活できない。
ゆえにルンデルハウスは消滅する。
──ならば、答えはいたって単純明快。
「3分間の間に、ルンデルハウスを
「僕のサインは入れてある。あとはキミだけだ」
「これはリスクのある契約だ。キミはこの契約によってなんらかの変質を受ける。今とはまったく違う存在になってしまうだろう。そして恐らく君が思っているほどの栄誉は
「僕がなりたいのは……、“冒険者”だ。
困っている人を助けられれば、細かいことは気にしない。……僕は栄誉がほしいわけじゃない。
……それに彼との約束も守らないといけない。僕はこの名に誓ったのだから、僕はひとりの“冒険者”だ。」
契約書に刻まれるルンデルハウス=コードの名を全員が見守る震える指先は仲間の励ましで暖められ、魔法のインクはルンデルハウスの名前をかたどった。燃え上がった署名の輝きは黄金色の光となり、シロエの技はこの世界に承認されて新しいルールとなる。
その光は天高く上り一時の間光の柱がチョウシの町にそびえ立った。
◇◆◇◆
夜風が穏やかに吹く浜辺、ついさっきまで魔法や剣が振るわれていた場所とは思えないほどに静かで穏やかに時が進んでいる。
視界の先にはウチの優しいギルドマスターといつも愉快な友人が隣り合って座り何かを話している。
「ふふっ、どこに行ったかと思ったらこんなところでイチャイチャと、邪魔しちゃ悪いし別のところいくかぁ」
オキュペテーの増援到着により砂浜のサファギンたちは殲滅されチョウシの町は護りきられた。
たったこれだけの数で、しかもほとんどがレベル30もないような新人プレイヤーばかりの集団で増援が来るまで防衛をやり遂げたのだから大したものだ。
今頃、風呂に入って泥のように眠っているのが大半だろう。
ルンデルハウスが無事に復活できたことも確認でき今はもうミノリたちも安心して体を休めているだろう
そんな中で俺は疲れの抜けきれない体を引きずりながらチョウシの町を歩いていた。
火照った体を冷ますように、研ぎ澄ました神経を休めるように歩いていた。
「こんなに広い町だったんだな」
ルンデルハウスを救った十字路を通りすぎ町の小道にふらりと入ったりして適当に気分のままに足を進める。さっきまでの熱が冷めることでいままで見えていた町の風景もガラリと変わって見えた。
ふらりふらりと歩みを進めていると町に続く大河を渡るためのあの大橋へとたどり着いた、広いこの橋の端を海を眺めながら歩く
「また今度ゆっくりと来てみたいな。今度はクインとかエルノも連れてっ──
プツリと
言葉が途切れる。
無理もない。
俺の胸からは本来あるはずのないものが生えていたのだから
見たことのない刀が生えていた
──否、一度だけ見たことがある。
つい最近、というのもおこがましいほどの数時間前。
あの
ズブリ─刀が引き抜かれる。それと同時に身体が膝から崩れ落ちる。
「ゲホッ……」
胸が焼けるような熱さと激痛にに襲われるが身をよじることすらもできない。
そして次の瞬間、倒れた俺の身体に激しい衝撃が走り宙へと放り出される浮遊感に襲われた。
いっときの浮遊感におそわれた後身体全体が水面に叩きつけられる痛みが襲う。
そのまま身体は沈んでいく。暗い暗い夜の海へと。
落ちるときに一瞬だけ見えた黒の化物の外套の中の顔は
その暗い夜の海よりも深く濃く、
──