ログ・ホライズン ~高笑いするおーるらうんだーな神祇官~   作:となりのせとろ

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第四笑 祭りに響く高笑い
第二十八話 秋風に誘われて


「んなもんっやってられるかあー!」

 

 そんな声が頭上から聞こえてきた。

 

「シロエ、ついに我慢の限界がきたか…」

 

「ずいぶんと仕事がシロエ様には回ってきてるでしょうからね、そのうえこんな天気では気も滅入ってしまうでしょう」

 

「ですね」

 

 隣を並んで歩いていたヘンリエッタさんとそんなことを話ながら〈記録の地平線〉のギルドホームへと入る。

 

 今日の天気は一日雨。

 書類を持ってくるためには実に都合の悪い天気模様だ。

 傘を閉じながら玄関で声を上げたところでルンデルハウスと五十鈴ちゃんが階段から降りてくる。

 

「あ!奏さん、ヘンリエッタさんこんにちわ」

「おおー!ミスター奏!ミスヘンリエッタ!ようこそ!この僕ルンデルハウス=コードに会いに来てくれたのか?こんな天気なのに光栄だな!」

「ルディ、それ絶対違うと思うよ」

「なんと~!」 

 

 チョウシの町の防衛戦、〈ゴブリン王の帰還〉を根本にあるあの事件で大地人であるルンデルハウスは死んだ。

 

 その時は、シロエの機転により助かった。それはもうまさに奇跡のような試みだったが。

 

 その事件をなんとか切り抜けルンデルハウスは契約の通りに〈記録の地平線〉に加入した。

 それを追いかけるようにして五十鈴も〈三日月同盟〉から〈記録の地平線〉移籍した。

 

 元から、ミノリやトウヤと同じあの胸糞悪い〈ハーメルン〉からの救出された口なので、入りたいギルドができたのだったらそこに移籍したほうがいいのだ。

 まあ、〈三日月同盟〉(ウチ)と〈記録の地平線〉の関係が良かったゆえにほぼなんの障害もなくギルマス間で二つ返事みたいなもので移籍が決まったようなものなのだが。

 

「上手くやっていけてるようですわね」

 

「ええ、まあ心配するほどのことじゃあなかったですけどね」

 

 ヘンリエッタさんの柔らかい笑みを浮かべながら安心したように言葉を紡ぐ。不安はなかったけれど心配はしていたのだろう。

 娘を見守る母親みたいな心境だろうか、おっとこんなことを言ったらまた怒られる。妹を心配する姉の心境と言い換えておかなければ。

 

「奏?あとでお話があります」

「バレてる!?」

 

「やっぱり、後ろ暗いことを考えていたのですね。あまり年上を侮らない方がいいですわよ」

 

 しまった!嵌められた!

 

「今日はどうしたんですか?」

 

「シロエに〈円卓会議〉の書類を押し付け…じゃなかった、届けに来たんだ」

 

「誤解を招くような答え方をするんじゃありません。すべてシロエ様に目を通していただかなければならない書類しか持ってきていませんわよ」

 

 あらら、また怒られちった。

 そんなやりとりにクスクスと笑いながらも五十鈴ちゃんとルンデルハウスはシロエの執務室まで案内してくれた。

 

 途中で聞いたところによると今は師匠とミノリとトウヤの三人は買い出しに出掛けているとか、アカツキちゃんは屋上で洗濯物を干していて、直継は〈三日月同盟〉(ウチ)の連中とパーティーを組んで一緒に狩りに出掛けているらしい。二人はお留守番だったとか。ご苦労様だ。

 

「やい、シロエきちんと睡眠とってるか?飯食ってるか?歯磨いたか?」

 

「とってるよ。そしてとってるよ。そして虫歯ひとつありませんよ」

 

「〈冒険者〉は虫歯にはならないぞ、なに言ってんだよ、常識だろ?」

 

「言わせたのは奏だろ…」

 

 若干ウザい返しをするももう慣れたように言葉を返すシロエ。

 こんな風なお互いの顔を実際にあわせてするやりとりももう日常茶飯事になりつつある

 

 季節は秋。

 木々は紅く染まり、気候も何をするにも程よい程度のそんな時季だ。

 〈大災害〉からもう五ヶ月の月日が経とうとしていた。

     

 

「天秤祭ですか」

 

「シロエ様が引きこもっているうちに準備は着々と進んでおりますわ」

 

「……僕も好き好んで引きこもってるわけじゃないんですけどね」

 

 事務処理能力に長けているシロエは〈円卓会議〉では「知恵の回る参謀タイプ」という位置付けにいる。

 それはもう〈茶会〉(ティーパーティー)の頃から変わらないシロエの役職のようなもの。

 

 そのせいでシロエには色々な仕事が回ってくる。

 〈円卓会議〉主催のクエストの作成やら、日々上がってくる発明品の報告書の整理やら、揚げ句の果てにはこの前なんてシロエをめぐってギルド対抗カレー対決が行われたりしたものだ。

 

 因みに、見事勝利を納めたのは〈西風の旅団〉。シロエは1日、ソウジロウのハーレムを管制させられたとか。

 シロエには同情の言葉を俺はかける他なかったし、そんなことにシロエの能力を使わせるな、アホかとソウジロウには千菜からお小言が送られた。

 

 話はそれてしまったが、シロエのこなす仕事は尋常ではないのだ。それに加えて自分の知的好奇心の向くものまでにそこ能力を向けているのだから手に終えなくなってしまっている。

 

「まったく…、忙しいのはわかるけどある程度の際限は設けろよ?

 そんなんだから、『シロエさんより、奏さんの方がよく知ってるかも…』なんて五十鈴ちゃんたちに言われるんだよ」

 

「僕そこまで言われてるのっ!?」

 

「嘘だ。

でもな、あながち現実味がない話じゃないぞ。俺よくここに来て年少組とは過ごしてるからな」

 

「……反省します」

 

「そんなシロエ様にはこれを」

 

 ヘンリエッタさんから差し出されたのは、会場パンフレットだった。

 そこにはびっしりとアキバの街のあちこちにある特設会場でのさまざまな展示やイベントが書き込まれている。

 服飾系や飲食系が多いが、装飾品や、鉄製品、木工製品などの家具も少なくない。

 

「反省をしているのでしたら形で示すべきではありませんか?」

「はい?」

 

〈記録の地平線〉(ギルド)のお仲間とお祭りで親交を深めるとか」

 

 その言葉に一瞬だけきょとんとするシロエだったがもっともな意見だと気づいたらしく「そうしてみます」と返事を返した。

 

「それに──」

 

 ヘンリエッタさんはうっすらと微笑を加えてほっそりとした指を立てて言う。

 

〈記録の地平線〉(ログ・ホライズン)も〈円卓会議〉代表ギルドのひとつ。身体を張って盛り上げてもらいますわよね」

 

「あー…………。善処します」

 

「約束ですよ?」

 

「アカツキちゃんもミノリちゃんも可愛いですからね。今から楽しみでたまりませんわぁ。いえ、ほんともう……。この妄想だけでご飯が3杯はいけますっ。

 パンがなければケーキを食べればいいのにとかの名言がありますが、パンがなければ可愛い女の子を愛でるだけでお腹は膨れますのよぉ~」

 

 お巡りさんこっちです!ここに度しがたい変態がいます!

 

 アカツキちゃんにもミノリンにも是非ともなんとかして生き残ってもらいたい。頬を押さえて身をくねらせるヘンリエッタさんにはそう思わせる程にドン引きさせられる思いだった。

 

「……あのぉ、ちなみにどんな手伝いを?」

 

「冬物衣料の即売会だろうなぁ、十中八九で」

 

「あぁ…、なるほど」

 

「俺は当日そこにはいれないから、ちゃんと守ってやれよ?」

 

「善処するよ……あれ、奏はいないの?」

 

 

「おう、その日は他所からのお客さんをアキバの街の案内をしようと思っててね」

 

 

 今から楽しみな話だ。久し振りに会うことになるが元気にしているだろうか

 

 

            ◆

 

 

 〈記録の地平線〉(ログ・ホライズン)のギルドホームをあとにした俺とヘンリエッタさんは別れてヘンリエッタさんは〈ギルドホーム〉(ウチ)へ、俺は〈モルグ街の安楽椅子〉のギルドタワーへと向かった。

 

 〈モルグ街〉のギルドタワーは大きくない。〈記録の地平線〉(ログ・ホライズン)のビルと大差ないだろう。もしかしたらこちらの方が小さいかもしれないくらいだ。

その代わりに〈モルグ街〉の拠点は複数存在するのだ。

 

 ここは6つあるうちのひとつ。

 ヨーロッパの街並みを連想させるような白いレンガで作られた壁と階段に入口に飾られたなにの花かはわからないものが植えられている鉢植え。

 階段を登っていきモダン風な扉をノックするとガチャリとあちら側から「はーい、今出ますよー」と声が帰ってきて扉が開かれる。

 

「あー、こんにちわ奏さん。またサブマス()遊びに来たんですか?」

 

「いや、今日は別件だ。マイクロフトさんいる?」

 

「ギルマスなら私室にいつも通りいますよ。

 あと、用件が済んでからでいいのでサブマスのところにもよってあげて下さい、喜ぶと思いますから」

 

「ないない。アイツがそんな忠犬みたいなやつかよ」

「会いにいってあげて下さいね?」

 

「いや、だから…」

 

「〈三日月同盟〉の奏は毎朝妹の…「わかった。誠心誠意真心込めて会いに行こう」

 

 どこからあんな情報を仕入れてくるんだ、プライバシーもへったくれもないじゃないか。

 

 受付の子に恐喝紛いのことをされつつもフローリングの廊下を歩いて奥の部屋まで歩いていく。

 ノックを三回すると中から「どうぞー」と気の抜けた返事が帰ってきた。

 扉を開けると部屋中に散乱する大きなクッションの山に埋もれるようにしてうつ伏せに寝転がっているマイクロフトさんがいた。

 うーん、この人はこんな環境でどうやって仕事をしているんだろうか

 

「やあ、いらっしゃーい奏クン。待ちかねたよ。今日も元気そうだね、なにか良いことでも、あったのかー」

 

 断定した!この数秒で俺の今日あったことが全部見透かされたとでもいうのか!?

 まあ、確かに今日は夢にカナミが出てきたけどさ!

 

「人の心を読むなんて最低ですよ!」

 

「常時、人の心の中を見ているようなキミが言うなよー。

 僕たち悪い大人からしたら悪巧みがバレないようにするの大変なんだからなー」

 

「なにをぬけぬけと!」

 

 なんで俺が怒られにゃならんのか!?それに俺の眼はそんな便利機能じゃない。せいぜいサーモグラフィー常備してるくらいだ

 

「それより、お願いしてたもの出来上がってますか?」

 

「そうカッカするなよー、禿げるよ?」

 

「黙れ!猫畜生が!」

 

「また、怒ったー。にゃひひ、左から二番目の机の上に置いてあるよー

 

 言われるがままに散乱するクッションの山を踏み越えて壁際にいくつも並べてある机のうちのひとつの前に立つ。

 書類の山の中にポツリと四部の冊子が場違いな風に置かれていた。それのうちの一部を取ってパラパラと捲っていく。

 いい完成度だ。これはクインが作るような女子女子したのじゃなくて要点だけを正確に伝えるような万人受けする書き方で書かれている。

 

「家族向けにって言ってたからそういう風に作ったけど満足してもらえたかな?」

 

「いいですね。凄くいい。各々が好きそうなところが満遍なくまとめられてて」

 

「そりゃあ良かったー。大変だったんだよー、クインを使い走りさせたり召喚獣を使い走りさせたり」

 

 一歩たりとも自分で動いちゃいねぇ。

 

「〈円卓会議〉の権力使ってプレゼンまでさせたんだよおー」

 

「アンタなにしてくれちゃってんの!?」

 

 権力乱用にも程がある。そんなことしたのがバレた日には折檻という折檻は免れないだろう。頼んだ俺が。

 

「大丈夫だって、〈アキバdays 〉を書いてるのはウチだよ?僕たちはそれぞれのお得情報が知れて嬉しい。お店側は目玉商品を売り込めて嬉しい。win-win の関係さー。百万部突破の雑誌を舐めちゃあいけないよ」

 

〈アキバdays 〉が刊行されたのは先週。こっちに取り込まれた人口は三万人。

 残りの九十七万人は大地人で補うことは出来るのだろうか?ヤマト全土にくばってまわればなんとか、──なるわけがない

 

 もういいや…。バレたらマイクロフトが勝手にやったことです。って言っとけばいいだろ。

 

「それじゃあ、俺はこのあとクインで遊ぶ予定が入ってるんでもういきますから。〈円卓〉にバレたときはそっちでなんとかしてください」

 

 

「ああ、そうそう…奏クン、()()()()()()()()がわかったよ」

 

 

 何気ない一言のような言葉に俺は衝撃を受けた。

 百恵ちゃんの行方がわかったよ、その一言をどれだけ待ちわびていたことか。

 どれだけのを人に頼りあらゆる手段を使ってあの人を探し続けていたことか。

 

「わかったのか!?姉ちゃんの居場所‼」

 

「正確には目撃証言があったんだ、僕がミナミに潜ませてる部下からね」

 

「ミナミか…」

 

「キミとしてはあまり足を運びたいところではないだろうね」

 

 今のミナミはこのアキバの街とは違う発展の仕方をした。

 ことの起こりは俺たちが〈円卓会議〉を発足させた頃にさかのぼる。

 アキバの街と同じように混乱と消沈と治安悪化が続き停滞を続けていた街を変えようとする動きがあったのだ。

 

 それはかつて俺が考えていた独裁という考え方

 

 否、これには語弊があるな、彼女(・・)はこう言って皆をまとめたそうだから『単一ギルドによる、ギルド間差別のない街』と

 

 今のミナミの街は〈Plant hwyaden 〉というギルドによって統治されている。

 

 執行部により運営される単体ギルド〈Plant hwyaden 〉はその中枢の実態ははっきりと掴めない。アキバの街の情報通であるシロエに聞いても、目の前にいるヤマトサーバー一の情報屋ギルドのギルドマスターに聞いても謎だらけの印象しか受けないのだ。

 そんなの明らかに情報遮断をしているき決まっているとしか思えない排他的で情報を漏らさない組織それが、

 

 〈Plant hwyaden 〉

 

 そしてミナミには、〈Plant hwyaden 〉には〈茶会〉(ティーパティー)の頃の仲間だったインティクスがいる。

 彼女は〈Plant hwyaden 〉の十席会議の第二席いうところのNo.2にあたる。

 

 アイツは、嫌いだ。なんでかとか理由とかはわからない。ただ、見ていると神経を逆撫でされるような、どうしようもないほどに相容れない気持ちが湧いてくる。

 

 俺はアイツに会いたくない。あの時(・・・)からずっとこの気持ちは変わらない

 

 けれど、姉ちゃんがミナミにいるのなら探しにいかなければならないかもしれない。千菜ともう一人の実の家族がいるのなら

 

 今からもう六ヶ月も前の〈大災害〉から音信不通で消息不明、念話すらも通じなかった姉がやっと見つかった。

 藁にもすがる思いで見つけた掴んだか細い光ではあるが可能性が低いからといって無視することなんて出来ないものだ。

 

「僕としては天秤祭が終わって、きちんと準備を済ませてから千ちゃんと一緒にミナミへ行くことをオススメするよ。こっちの方でももう少し調べておくからさ。

中途半端な情報を提供したなんて僕たちの名が廃るからねぇ」

 

「……そうします」

 

 〈Plant hwyaden 〉

 相手取ることになるとしたらインティクスとは絶対に会わなくちゃいけねえか…

 

 バタン!

 

 とそこに突然扉が勢いよく開かれた。

 

「奏、来ているのか!?」

 

 そこには、何故かイヌミミとブンブンと揺れるしっぽをつけたクインが立っていた。

 シリアスブレイカーも大概にしろ赤面探偵。

 

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