ログ・ホライズン ~高笑いするおーるらうんだーな神祇官~   作:となりのせとろ

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第五十八話 大丈夫。

「俺が終わらせる」

 

 奏は背中を見せたまま強い言葉を口にした。その風貌も言葉に混じる強さも以前の彼の名残は残していても随分と変わっていた。

 

「兄さん?」

「なんだよ、実の兄の顔まで忘れたのか?悲しいなー、兄ちゃん悲しいぞ。まあ、あとでお仕置きでもなんでもされてやるからちょっと待ってろ。

 クイン、千菜と一緒にここを離れててくれるか、他の連中もできるだけ離れるようにな」

 

「そんな無謀だ!奏!いくらなんでも」

「大丈夫、()()()()()()()()()。むしろ人が多いと万が一があるんだよ、英雄ルグリウスの場合はな」

 

「ルグリウス…?」

「そ、あれはルグリウスが使ってた刀だろ?なら担い手はルグリウス以外にはありえないじゃないか。見えなくてもな。

 姉ちゃんに憑いてる神様の神気にあてられて半ば無理やりに限界してはいるが、幽霊系(アストラル系)相手なら(<陰陽師>)の得意分野だ。肉体もない刀に残った残留思念じゃ力も劣化してる。まぁ、さすがにこれだけ周囲に人がいればステータスがかなり上がっちゃいるがルグリウスから離れれば落ちる」

 

 奏が制するように上げていた左腕を下ろし黄金の結界を解いて千菜とクインの方を振り向く。少し見ないうちにまるで女のように肩より伸びた長い黒髪が揺れた。少しだが背も伸びているように見えた。本来<大災害>後のこの世界でここまで大きな身体の変化は起きない。それ相応の事を経験してきたのだろう、装備もほとんど一新されていてマナが溢れている。

 

「今結界を解いたら!」

「大丈夫だってば、クイン少し昔みたいに戻ったか?まあそっちの方がいいと思うけど。

 言っただろ、もう勝負はついてる」

 

 奏は刀に背を向けたまま二度目の言葉を口にする。

 

「…銀色の腕だ」

 

 千菜がポツリと呟いた。千菜の視線の先には何本かの白銀の腕が浮いているのが見えた。彫刻で削り出されたような肘から先しかない半透明の白銀の腕。その腕が刀の周囲のなにかをつかむようにしている。

 

「魂そのものをに触れる腕だ幽霊系(アストラル系)ならその効果は肉体のあるものより数段高い効果を発揮する、五本も揃えれば逃げるどころか動くことすらままならい拘束特化の腕」

 

 奏の新しい<口伝>なのだろう。その拘束力はさることながら、その腕に掴まれたことで姿を見ることが出来なかった存在が千菜たちにも見え始めてきている。本来の英雄ルグリウスの風貌がうっすらとしかし確かに視認できつつある。

 ならば奏の言い分もまっとうなものだろう。ルグリウスの『周囲にいる人間の数に比例してそのステータスを上昇させる』という特性を持つのならむやみやたらにステータスを上げてしまうレイドメンバーは邪魔でしかないだろう。

 

 クインは千菜に肩を貸しながらこの場から去るために立ち上がる。それに満足したように笑った奏は背を向ける。

 その笑顔だけでクインは十分だと思えた。体も心も随分と変わってしまったのだろう、それでもその笑顔はいつも見ていたものと変わらない。

 根底が変わっていないのなら、大丈夫。そう、思えた。

 

(奏は魂に触れる腕と口にした。

 魂に触れこちら側に引き寄せる、失ったものを必死につかみとろうとするように伸ばされる腕なのだろう。失いたくないものを離さないよう握り締めるために手に入れたその白銀の腕はとても綺麗だ。

 叶うなら、その願いに手が届きますように)

 

 ルグリウスの方へ向き直った奏は笑顔を消し敵を睨み据え刀を抜く。

 抜かれるのはヤマトの神格が一柱龍神アサハナの霊気と体の一部から作り上げられた<幻想級>(ファンタズマ)の神刀。うっすらと紅色の差すその刀身にこの場にいる者全ての目を惹きつけ奪う。紅の羽織を身にまといその刀で空を薙ぐその動作一つで澱んでいた場のマナが安定する。

 

「今、解放してやるからな」

 

(英雄なんて呼ばれてたアンタが、信じていた人に裏切られて狂気に蝕まれて、屈辱以上のなんでもないだろう。

 …だから他人行儀に同情くらいはしてやるよ)

 

 実体なき身体を押さえつける無数の白銀の腕が言葉に反応するようにして一層として押さえ込む力を強め、それとともに双鞭には滴る血とは真逆の薄青く輝くエフェクトが灯ったことで終幕の意思を告げる。

 

 月の儚げな光が銀の刀身へと飲まれ煌きゆっくりと動き停止へと動いた光は一瞬の静へと至った後、軌跡へと変わった。

 二つの軌跡がルグリウスの動かぬ身体をひと呼吸のうちに斬った。

 ルグリウスの身体と空への境界からは未だに残る軌跡の光が漏れ出す。それは落魄の光。魂が旅立つ時だけに自然と漏らすことが許される美しくどこか悲しさを残す光の粒子。

 

 

(感謝する)

 

 落魄の光を霊体から文字通り削り出すルグリウスが言葉が紡がれた。もう白銀の手は拘束を解いている。ルグリウスの目には生前そうであったであろう英雄らしい強く意思のある光がたしかに宿っていたからだ。

 

「うちの姉が無礼なことをした」

(気にするな。いいように使われる方が悪いのだ。自分の死から学んだ教訓としては少し割に合わないが。

 さて、もう時間がない。もうすこし次代の英雄と話してみたかったが…、それも詮無きこと)

 

 (わたしは失敗した。今思えば、ストゥイナウがわたしを裏切ったのにも理由があったのかもしれん。わたしは巨人の手から大地人(民草)を守ることだけで皆を救っていた気になっていた、周りの人間をよく見ていなかった。顔を知る人間はいても、その個人がなにが好きでなにが嫌いか、簡単なことだというのにそれを知っている人間だって両の手で事足りるくらいしかいなかったかもしれん。

 英傑に酔っていた英雄の末路は等しく裏切りでの滅びだ。だから君は失敗するなよ、先人の失敗談から学んでくれ。これより先の未来に輝かしい栄光と何者にも奪うことのできない幸福があらんことを)

 

「あぁ、失敗なんかしねえよ。間違えても取り返しがつかなくなる前にひっぱり上げてくれる仲間が両手じゃたりないくらい俺にはいる。

 あんたと同じ轍を踏むようなバカはやらない」

 

 もうルグリウスの体には構成する魔力が残っていないのだろう、体がもうほとんど見えなくなってしまっているし感じる存在そのものが薄い。

 

 それでもルグリウスは最後には笑っていた。生前できなかった、英雄らしく豪胆な笑顔を見せて終わりを迎えることを選んだのだった。

 

 

「終わったぞ、決着つけようか、姉ちゃん」

 

 ルグリウスは消滅した。残るは乱入者である百恵だけだ。当の百恵はルグリウスの消滅になんの関心も興味もなかったらしくのんきにあくびを欠いていた。事の終わりに気がついた百恵はじめんに突き刺していた太刀を抜き肩に預け奏に視線を合わせた。緩んでいた雰囲気に一気に鋭さが宿る。

 

「それじゃあ、聞こうか。

 お前はなんのために闘おうとする?」

 

「仲間のため」

 

 奏は即答した。

 

 その答えに百恵は心底落胆したように舌打ちをうち、怒りを隠そうともせずに地面を蹴る。

 その何気ない動作ひとつで地面をえぐり、改めてその身体一つに<大規模戦闘級>(レイドランク)の力を内包する<神憑き>という百恵の<口伝>とその異常性に奏は畏怖を覚える。

 

「そうじゃない、そうじゃないんだってば!なんでわかんないかな!?それじゃダメなんだってば、カナミちゃんの時と何一つ変わっちゃいない!他人が一番で自分が一番にならない理由なんてものは妥協しか生まないんだ、中途半端な成果は自分だけじゃなくてその周囲の人間まで不幸にするってなんで気づけない!」

 

「最後まで聞けよ」

 

 奏は百恵の言葉になにも反論をぶつけることもなくそう返す。その手に持つ神刀を鞘に収め左手をかざして()()()()()()()()()()

 

世界(舞台)は嘘を許容する」

 

 奏から黄金の膜が世界を侵食するように広がっていく。その速度は速く百恵まで飲み込まんとする速度で展開していった。これは<黄金領域>ならば問題ない、結界に弾かれようとそれで敗北することは絶対にありえないからだ。

 だが百恵はそれに触れることはあってはならないと思った。なにか根拠があるわけではなく、直感で背後に跳ぼうとして、跳べなかった。誰かに背中を押されるような感触を感じその黄金の結界に触れて、飲み込まれた。

 

「なにを、したの?」

 

 自身の背中を押した存在についてのことではない。それは先ほどレグリウスを押さえつけていた白銀の腕と同じものだということにあたりがつくからだ。問題はそこではない。

 問題は、百恵が自身に憑かせていた神霊の存在を()()()()()()()()()()()()()()()()()()、この一点に他ならない。<神憑き>が百恵の意思に関係なく解けていることだ。

 

「俺の<口伝>はさ、心の象徴なんだよ。人の心なんていくつもの側面がある、俺の<口伝>もそれとおんなじ。

 <黄金領域>も俺の本来の<口伝>の一側面でしかなかった。俺の心の中にいる仲間ひとりひとりと共有したい世界を具現化する。それが俺の<口伝>」

 

「なるほど、自身にとって都合のいい世界を再現する<口伝>ってことね、八枝にとって都合のいい現実を相手に強要する。だから私の<口伝>も弾かれた」

 

「間違っちゃいない、でも勘違いしてる。

 確かに俺は前と変わらないよ。結局姉ちゃんみたいな完璧超人にはなれないだろうさ、精々完璧凡人がいいところだろう。俺にできることはあくまで周りの連中にもできること。俺は特別なんかじゃない」

 

 自分は姉のような特別な存在ではないのだろう。だからその身の丈に合わない願いに登ろうとして高みから突き落とされた。

 

「でもな、俺の中の仲間たち(特別)まで譲るつもりは毛頭ない」

 

 それでも、特別にはなれなくても、自分にとって特別なことは絶対にあるのだ。それまで諦めることはない。

 死という絶対の別れをその眼ではっきりと誰よりも確実に突きつけられ、最後は一人になってしまうということを誰よりも知っている青年の願い。

 それはただ仲間たちと共に笑い合う(理想)の世界を守ることだけ。

 

 

「この結界の名は<偽全死合>。結界の内側にいる者全て使用者本人であろうと例外なく魔法と特技の使用を不可能にする結界。俺にとって姉ちゃんは超えるべき存在だ。だからどんな手段を使ってでも勝つ執念の果ての世界。

 言っただろ?この結界(世界)は誰かと共有したい世界の再現なんだって」

 

 奏は堂々と宣言した。天秤祭の夜のような根拠のない宣言とは違うはっきりとした自信の上から断言される言葉。

 その言葉に満足気に百恵は笑った。やっと戻ったと他人のためにでなく、自身のために立ち上がれるようになれた、と。

 

「そうだね。もう殺人鬼(抜け殻)じゃあ戦えそうにないし、もとよりこの結界の中に入ってくることすら出来ないだろう。

 ボクの〈神憑き〉も本当に発動できない。八枝の本気が見れたことだしめっけものとするか。しょうがないか、わかった、私の負けでいい」

 

「嫌だ。誰が許すかくそ姉貴が。そんなもん都合が良すぎんだろ」

 

 けれど奏は許さない。

 

 わかっているからだ。

 なにを?

 姉の不器用な思惑をだ

 

「嘘つくなよ。最初からこうするつもりだったんだろ。バレバレなんだよこのブラコン姉が俺が姉ちゃんに勝とうと意思を見せたらそれで目的達成か?下手に戦ってまた自信をなくされるのは困るってか?舐めんなよ。

──俺はきちんと姉ちゃんに勝ちたいんだ。花を持たされてやるつもりなんてあるもんか」

 

 そんなもん店先にでも飾っとけ、俺が欲しいのはアンタが膝をついて俺がそれを見下ろす光景だけだ

 安っぽい挑発にしか聞こえない言葉だがそれを言ったときの奏の顔は笑ってはいなかった。目も口も油断など微塵も感じられないほどに険しく引き締まりただただ百恵を睨み据えている。

 

「ふふふっ、あっはははははっ!

 言うじゃないかこの愚弟が。姉の気づかいを素直に受け取っておけばいいものを、いいよ。相手してあげる。ただし負けたからって泣かないでね愛する弟(クソガキ)が」

 

 

「姉ちゃんのそのありがた迷惑なお節介、俺が愉快に快活に高らかに高笑ってやるよ。

──そして感謝もしてやるよ、ありがとな」

 

 百恵のここにきてやっとみせた微笑以外の獰猛な笑みを浮かべた表情に奏も初めて笑みを返した。やっと本気で相手をする気になったか、と。対等に立ち会うことには成功した。あとは勝ってみせるだけだがそこからがまた難儀なものだ。

 

 奏が言葉を言い終えた次の瞬間には相対する二人は自分の愛刀を抜き放ち、二人が立っていた位置のちょうど中間で刀をぶつけていた。

 

 耳をつんざくような鋭い金属音が結界の中を飛び回る。

 そのまま1合、2合、3合、刀をぶつけ合うたびに目を覆いたくなるような赤と青の混じりあった火花が散り両者の踏む地面は踏み込みの深さにより強く削られる。

 そんな耳を覆いたくなるほどの金属音をまるで聴こえていないかのように二人はその場でつばぜり合いを始める。

 

 結界の外から二人の剣劇を眺めることしかできないアカツキたちレイドチーム

 その鬼気迫る迫力に誰もが呼吸を忘れてしまいそうになり気づくと瞬きもせずに剣閃に釘付けにされている。

 二人の目で追うことも難しい剣戟はまるで蛍火のような無数の残光だけを残して無数に増えては消えていく。その様は場違いにも美しいと感じてしまう

 

「激ヤバですわ…あれと互角に打ち合うなんて」

 

 リーゼの本音がポツリと漏れる。主であるクラスティが認めていた逸材であることは知っていた。しかし普段はヘラヘラとしニヤニヤとして自分をからかってくる存在だった。

 

 〈茶会〉(ティーパーティー)の頃の数多の噂は耳にしていたし、大災害以降もチョウシの町の防衛戦の参謀役を務め実力は本物だと理解していた。けれど、ここまで凄い存在だとは思わなかったのだ。

 

 そんな圧倒されるリーゼに支えられている千菜が言葉を返す。視線はまっすぐに自分の姉兄の戦いに向けたままで。

 

 

「いや、兄さんの方が()()()()()

 

 

 両者ともほんの僅かにも動くことなく拮抗したつばぜり合いが数秒あった後、

 

 先にその場から飛び退いたのは()()()()であった。

 

「剣術はこの十七年間どんな日だろうと稽古を欠かしたことは無かったんだよ。ったく…皮肉だろ?」

 

 諦めることのきっかけになったものが唯一の可能性だなんて、自虐的な言葉を吐きながらも笑いながら奏は言う。笑うのだ。剣戟の最中に掠められた刀傷から血を流しながらも、実の姉と斬り合いながらも、殺し合いながらも、笑うのだ。

 その笑顔は荒々しくギラギラとしていて楽しげだった。

 

 この結界は特技や魔法を封じ、その上狭い。

 どうしたとしても戦闘方法は近接戦闘になってしまう。そうなると勝敗をわける要因は絞られていく。

 

 百恵の装備は奏の装備と比べると一段見劣りしてしまうものだ。質が低いわけではなく勿論一流の部類に入る良い装備ではある。だが、奏が〈茶会〉(ティーパーティー)時代に仲間たちと集めた超一流の武具や新しい龍神の宝物庫に眠っていた神具にはどうしても劣ってしまっていた。

 

 本気になった奏の剣術は千菜に匹敵するほどの力を感じさせられてしまうほどに驚異的だった。ついていけないという程の力の差はないが自分の方が剣技においては劣っている。さっきの殺人鬼に浴びせた二撃を観察し、この何合かとつばぜり合いで百恵はそれに確信を感じた。

 

 

 圧倒的に百恵は自分の不利な状況を体感させられた。

 

 

 これが競うことに、勝つことに貪欲さを取り戻した奏倉八枝の本気。

 

 秋頃とはまるで一刀の重さが違う。一瞬でも気を抜けば一気に押し込まれてしまうだろう。けれど、だからどうした。

 

「あはははっ‼楽しいねぇ!八枝ェ‼

こんなビリビリと負けそうな勝負なんて初めてかもしれないっ!

 だが、だからこそ、ここで負けるのは姉の面子に関わるねえっ‼」

 

 百恵も笑う。実の弟を殺しておきながら、もう一度殺そうと刀を向けて笑うのだ。

 

「来いよぉ!!、キチガイ姉貴ィ!

もっと楽しもうじゃねえかぁ!」

 

 百恵が刀を振りかぶり次に放ったのは太刀をフェイントにした蹴り上げだった。

 

 剣術で勝てない、そこは認めよう。

 でもそれは勝負とは関係ない、これは殺し合いだ。殺し合いにあるのは結果だけ。

 生きるか死ぬか、ただそれだけ。

 別に大した作戦を立てる必要もない。まるでそう言わんばかりの流れるような自然な動きだしだった。

 

 蹴り上げはすんでのところで奏の髪を掠めてかわされる。

 だが、そこから止まる半端は百恵にない。

 

 蹴り上げの勢いのままにそのままもう片方の足も弧を描くように蹴り上げる。今度の蹴りは奏の左手により捕まり防がれる。

 身体は両足を上げたことで宙に浮いている。そこを逃さん奏の刀が横凪ぎに振り抜かれるが、百恵は右手に持っていた刀を放し、両手を雪の溶けた地面についた反動をそのままいかして身体をはねあげる。チリっと左手の爪を掠める刀に臆することなく奏の頭上を舞い背後に両の手から着地する。

 刀を振り抜きすぐさま後ろを振り向くことのできない無防備な奏の背中を目掛けて身体を捻って蹴りを放った。蹴りは奏の後頭部に直撃し脳を揺らす。

 さらに追撃として宙に投げ出された両足を遊ばせることなく地面についた両手を交わらせた状態から解放する急速な回転を生んだ身体から二股に分かれた足はまるで竜巻に飲まれた丸太のように回転し一撃二激と食らわせてみせた。

 

 ここから生み出されるのは決定的な隙。揺らされた脳ではどんな達人だろうが人間の構造をしている以上は思考は停止せざるおえない。

 

 百恵は奏の背中の腰に刺さっているもう一本の刀を抜いて奏へと突き刺した。

 

 

「惜しかったな、姉ちゃん。その刀()()()()()。そして、やっと捕まえた」

 

 

 その黒刀はポッキリと根本から折れていた。

 

 今まで奏を支えてきた漆黒の刀は無惨にも見る影もなく折れていた。

 刃は奏に刺さることなく、鈍い痛みだけを与える程度にしかあたいせず、今度は百恵の決定的な百恵の隙だけが生まれることになった。

 百恵の黒刀を握る手はがっちりと奏によって押さえられた。

 

 その黒の刃は折れてもなお、主人の窮地をこれまでのように救った。

 

 今度の太刀はかわせない。

 そう示さんばかりにギリギリと百恵の白く細い腕を締め付ける奏の右手そして刀を持つ左手

 

 

「ああ、惜しかった。あとすこしでお前は私に勝てた」

 

 ニヤリと笑う百恵に言い知れぬ危機感を覚えた奏の行動は迅速を通り越し反射のそれと変わらなかった。百恵は虚勢で笑うようなことは絶対にしない。虚勢を張る必要なんてないほどに天才は高潔で強いから。

 そんな奏の反射からの一閃が百恵にあとほんの少しで届こうとしたとき、腕を押さえ込まれた百恵と押さえ込んだ奏を切り裂きくような痛烈な閃光と結界の中を覆い尽くさんばかりの大きな爆風が襲った。

 

 そして、黄金の結界は跡形もなく空へと溶けた。

 爆風で覆われた戦場のその先を見通せる者は一人としていない。

 

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